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岡村淳のオフレコ日記
     西暦2021年の日記  (最終更新日 : 2022/01/02)
7月の日記 総集編 ナマの顛末

7月の日記 総集編 ナマの顛末 (2021/07/01) 7月1日(木)の記 蔵書発掘
ブラジルにて


まだまだ先、と思っていたのが目前に迫る。
日本の友人が教鞭をとる神戸学院大学のゼミ相手に、拙作上映とオンラインのトークと質疑応答。
こちらの時間で明日午前1時45分スタート。

リクエストいただいた上映作品は『山川建夫 房総の追憶』。
ブラジルとは無縁の作品で、ブラジルからオンラインで何を語るべきか。

ざっとトークのあらましは書き出してみた。
どこか落ち着いたカフェでシェイアップしたいところだが、目を付けたカフェは2軒とも密な客入りで見合わせる。

さてオンライン中に現物を見せることもできるような資料、書籍類を探そう。
ほんの少しは蔵書の風通しを改善したので、なにより。

ううむ。
山川さんのお嬢さん、山川咲さんの著書『幸せをつくるシゴト』のありかがわからない。
これは東京の実家に置いたままかもしれない。
あるいは日本で誰かに貸したか?

もう一冊『小湊鉄道沿線の旅 出発進行!里山トロッコ列車』(かこさとし著、偕成社)はスムースに見つかる。
これはこの拙作をご覧いただいた日本のシンパの方にちょうだいした。
ルビ振りの絵本だが、「子どもにはもったいないほど」面白く勉強になる好著。

もう一冊はどこにあるか…
これは少し手こずった。
ヤッホー、あった!
『素掘りのトンネル マブ・二五穴』、LIXIL出版。
この本がまたあっぱれ。
日本では素掘りのトンネルが中越地方と房総半島に集中している。
そのひとつが拙作に登場するわけだ。
房総の素掘りトンネル研究者によると、彼の調べた素掘りトンネル群は東日本大震災でも全く被害がなかったという。

それにしてもこんな2冊がブラジルにあることにわれながら感じ入る。
ダンシャリしてたら、まず…

これは『小湊鉄道』の絵本のなかにもわかりやすく書かれているのだが、拙作の舞台の「房総のチベット」と呼ばれる山川さんのお宅の至近に「千葉セクション」という国際的な地質用語が決定される契機となった地層がある。
この地層は77万年前に地球の地磁気が最後に反転したことを示す証拠の由。
この理屈は、ウイルスやワクチン並みに僕には難しいのだが。
いずれにしろジュラ紀やカンブリア紀といった名前同様にわが日本のチバが「チバニアン」として国際的に認知されたのだ。
この決定は西暦2020年1月のこと。
こういうところで日本スゴイといいたい。

さあ明日に備えて早めに夕食をこさえよう。
お先にひとりいただき、メモを片手に横になる。


7月2日(金)の記 50周年を知る
ブラジルにて


深夜起床はなかなかつらい。
が、日本からの驚きのメッセージで覚醒。
関連資料を探してみる。

日本の畏友・番匠健一さんの神戸学院大学でのゼミで拙作の上映、そしてオンラインでのトークと質疑応答を仰せつかる。
こちら時間で午前1時45分スタート、5時終了。
311問題がテーマで『山川建夫 房総の追憶』を上映。
ブラジルとは無縁の作品の上映で、ブラジルからなにを学生たちに話すかというのは、そこそこの力量を要する。

冒頭のトークのあと、上映中はこちらで画面も音声も共有するのがむずかしいことがわかる。
となると、小腹が空いてきた。

スーパーの特売で買ってきたブラジル産カップヌードルでもいただくか。
想えば、昨年のゼミでは学生からブラジルで何を食べているのかという質問があり、こちらの食事情の話が盛り上がったっけ。

カップヌードルについて検索してみると…
おお、今年は販売50周年とな!
わが記憶でも中高生の頃ぐらいの発売だったかな、と思っていたので妙に感無量。

今はブラジルの通貨が安くなり、特売だと邦貨65円程度で買えた。
ブラジルのカップ麺からインスタントラーメン、ラーメンブームまで話を拡げるとヒトコマぐらいいってしまいそうなので、このネタはアドリブのマクラ程度にとどめておく。

今回は断線等のトラブルもなし。
番匠さんから鋭い言葉をいくつもいただく。
こちらは冬場なので、終了時間も真っ暗。
「夜勤明け」の思い。
イッパイやりたいところだが、今週は水曜に一日断食をした。
今日いっぱいアルコールは控えませう。


7月3日(土)の記 スマホ効果
ブラジルにて


ひと月ほど前に、スマホを替えた。
家人が使っていたものだが、使用容量が多いせいか問題が生じているとのことで、家人は新機種に買い替えた。
それが僕におさがり出回ってきた次第。

そもそもこれまで僕が使っていたのは僕にとって初めてのスマホ。
これはこちらの親類からのおさがり。
かなりの旧形式で、すでにメーカー正規のメンテは効かないと聞いていた。
それでも僕には、ちと小さすぎること以外、特に問題もなかったのだが。

今度のおさがりはひと回りは大きい。
前のにもあった万歩計の機能がグレードアップしている。
その日の歩数の他に週ごと月ごと、昨年との比較等々も表示されるようになった。
外回りの帰り、キリのいい数字に少し足りないと、回り道などをして数字を稼ぐようになった。
帰宅後に「キリ番」に「もう一歩」の数字だと、屋内でもスマホを持って歩数を稼いだり。

今日はトリュフチョコおじさんの黄色いテントの出店が確認できたので行ってみた。
https://www.instagram.com/p/CQ4YdvkDzjG/

周辺を歩いて他の買い物をしても1800歩強、ちと少なすぎ。
今日は朝からフェイジョアーダ作成、昼にアルコール解禁。

午後もうひと歩きしようかとも思うが、昨日の疲れを引きずってかアルコールの故か、やめておく。
新スマホゲット以降、最小の歩数となった。


7月4日(日)の記 Selassie...
ブラジルにて


未明に起きて、料理の下準備に張り切ってしまった。
その後また横になったので、午前中がしんどくなった。

それでも日曜の路上市があるので、出家。
さあ、今日のグラフィティ採集をどうするか。
もう14か月以上、機材のアクシデントがあった時以外は毎日スナップ撮りとインスタグラムへのアップを続けている。
まあ僕だけのこだわりだが、ただかったるいという理由で中断しづらい。

近場の「へそくり」一か所にまず立ち寄ってみるが、逆光できびしい。
僕にはまるで面白くないものを取り上げてクオリティを著しく落とすのも、不本意。
さあどうしよう。

うむ、この先にひとつステンシル(型紙)系の未採用のものがあった。
人物画で気になっていたが、平日はすぐ横の商店も開いていて「不審な」スナップ撮りをする気が引けていた。

撮るか。
https://www.instagram.com/p/CQ6W-uzDZbZ/
ゲバラのアイコンを彷彿させるような闘士風の人物像。
キリストっぽくもあるが、ヘルメット状のものを被っている。
Selassieと書かれている。
型紙使用のものだが、これはここ以外でお目にかかったことがない。

帰宅後、検索。
これは驚いた。
エチオピア最後の皇帝か。
日本語表記だと、ハイレ・セラシエ一世。

日本語のウィキにこんな記載があった。
「ハイレ・セラシエは1956年11月に戦後初めて日本を訪れた国家元首の国賓であり、満州国皇帝・溥儀以来の大がかりな祝宴を張って日本から歓迎された。」
日本の皇室とエチオピアの王族の関係は伝え聞いていたが。
日本の「親日」のムキはこういうことはご存じなのかな。

それはともかく、なぜエチオピアのラスつエンペラーの肖像がブラジルのストリートを飾るのか?
調べる。
これもサンパウロのグラフィティ採集を契機に、ジャマイカなどで盛んだったラスタファリという黒人運動の存在を知った。
このラスタファリでは、ハイレ・セラシエ一世を神の化身ととらえていたという。

くらくらするほどすごい情報が重なってくる。
なんという豊かさだ。


7月5日(月)の記 『あめつうしん』からの覚え書き
ブラジルにて


先週金曜の日本相手のオンラインのお仕事を終えて。
脱力から無気力状態となり、さらに落ち込んでいくかなと思っていた。
月曜というのは、ただでさえ重い。

ところがもとから低値安定が続いていたせいか、これ以上は落ちようもなくボチボチと地味な作業に着手できた。

今日は一日断食、炊事も免除で作業ははかどる。
さあ日本から船便で送ってもらった『あめつうしん』の続きを読もう。
『あめつうしん』は隔月発行のガリ版刷り!の手書きミニコミ誌。
西暦2021年第1号に冒頭から7ページ半にわたって寄稿させていただいた。

その号と前号、前々号をまとめて送ってもらった。
ひとつでも読み応えたっぷりなので、日照り続きのあとで慈雨を超えた豪雨がきたような、ぜいたくな状況だ。
読み返すのに度胸のいるような拙文の載った最新号からさかのぼって読んでいくことにした。
粒ぞろいの記事を読むにつけ、このヴォルテージのなかに「無能の人@ブラジル」の愚生の拙稿を加えていただき、あらためて汗顔の至り。

ようやく2020年最終号である第326号を読了。
覚え書きとして線引きした箇所のうち、2か所を書き出しておこう。

まずは冒頭記事「コロナとマスク・2 受動的マスク派英語学習者のネット渉猟メモランダム」武藤武さん著
毎号ながら、編集人の田上正子さんはよくもこうした書き手を見つけてくるものだと舌を巻く。

一人では生きていかれないこと、隣人とともに生きざるを得ないことが明白である以上、自分が他人に危害を加える者ではないと認識してもらうことは、素朴に必要なことだとぼくは納得している。(5ページから)

僕もこういう生き方をしているつもりなのだな、と気づかせてもらう。

もうひとつ、久保崎文江さん連載の「いつかどこかで」から。

「人生をスピード感を持って最短距離で」と望むのなら、生まれ落ちたら迷うことなく、あの世へと急げばよいではないか。(8ページから)

おお、これは深い。
人間とはなにか、生命とはなにかを考えるキーワードではなかろうか。
伝統宗教の経典の奥義に触れた思いだ。

これは蛇足だが、「読者発」のページに昨年11月25日付の拙文を載せていただいてあった。
田上さん宛ての私信だったが、リクエストをいただいて掲載されたもの。
僕自身はまさしく過去に見た夢のようにすっかり忘れていた。

「今後一、二週間がヤマ場」などとのたまわっていた男が、来年7月の東京の空にブルーインパルスだラッパだ人類のコロナ克服だなどとほざく祖国…。
競技場を埋め尽くすほどの棺桶を幻視する思いです。



7月6日(火)の記 東洋人街はいま
ブラジルにて


長期戦となった歯の不都合により、東洋人街の医療機関へ。
ついでにいろいろな買い物。

ガルボンブエノ街に新しいスーパーができていた。
中の広いこと。
酒類コーナーで安値のブラジル南部産のジンがある。
東洋人街で買わなくてもよさそうだが、安いし他でなかなか見ない銘柄。
買うか。

コリアン系食材スーパーに久しぶりに韓国製マッカリがあった。
さほどおいしくもないのだが、買う。
さらにチャイニーズ系の食材スーパーをハシゴ、いろいろ買う。

かなりの荷物で、このままメトロで帰りたいところ…
SNSで家人から追加の注文が入り、反転。
ついでにしばらく行けていなかったコリアン系ブラジル人のバリスタの営む小カフェへ。
通りに面したカウンターの椅子はふたつ。
立ち飲みしている非東洋系のおじさんが延々と自分の身辺雑談を若き女性バリスタに続けている。
彼女は時折り相槌を打ちながら、僕にエスプレッソをたてる。

人のふり見てわがふり直せ、こちらもそう長居は無用。
こちらが席を立とうとすると、まずおじさんが立った。
お勘定を頼むと「うちのサービスカードを持ってきましたか?」と聞く。
ハンコ10個で一杯サービスというやつ。
財布に入れたままにしてあるはずだ。
こっちのことを覚えていてくれた。
今日で3回目。

韓日伯、そしてコーヒーのことなどいろいろ話はあるが、次回としよう。
かといって歯医者の前後はカフェ飲み軽食にはふさわしくないしな…


7月7日(水)の記 水くみばや
ブラジルにて


家族の間でこの金曜日は祝日か否かという議論が昨日でた。
ブラジルのカレンダーに祝日表記がないが…
サンパウロ州限定の「護憲記念日」とわかる。

金土日の3連休か。
それに備えた食糧の備蓄をせねば。
そろそろ乏しくなったミネラルウオーターの汲み出しには今日、行っておくか。

自動車の交通状況をアプリで調べる。
汲み出しは、ちょいとした郊外散策気分にもなる。
近くのグラフィティ採集とスナップ撮り。
そして混み合っていなければ源泉付属の吹き抜けスペースのカフェに寄るのもささやかな楽しみ。

ここのところ、立ち寄ったカフェが「絵になれば」スマホ撮りしてフェイスブックに上げている。
「シリーズ」最初の「秘密の花園」は3ケタの「いいね!」をいただいてしまった。

ここのもあげてみるか。
https://www.facebook.com/photo?fbid=10224065244433894&set=a.3410845544903 ¬if_id=1625666661865842¬if_t=feedback_reaction_generic&ref=notif

これに思わぬ書き込みをいただき、いろいろな気付きをもらう。
パンデミック禍も、SNSのおかげで各地の友人知人とつながっていられるのがありがたし。


7月8日(木)の記 薔薇屋敷と疫病死
ブラジルにて


昨日の水汲みの帰り、カーラジオで「薔薇屋敷」での展示のことを知った。
「薔薇屋敷」はパウリスタ大通りに100年近く前に建てられた邸宅。
今日ではサンパウロ州政府が文化施設として運営している。
展示はCOVIDの犠牲者へのオマージュをイメージしたものという。

近くにある激安セール中の書店訪問と抱き合わせて、昼食後に行ってみる。
「薔薇屋敷」の方は開館時間だけをスマホで調べていた。
着いてみると、事前予約のみ、毎時10人限定の由。
次の時間帯でノーショウがあれば入館可という。
ラジオでそんなこと言ってたかな。

先に激安セールスの方を見て、それからまた戻ってみる。
事前予約限定とは知らずに諦めて帰る人が何組も。
僕はウエイティングのトップだったので待つことしばしで入れたが。
いずれにしろ、タダ。

35000人のコロナの犠牲者に…とある。
え、ブラジルの死者は50万人を超したんじゃあ?
見ると、昨年6月の日付となっている。
1年ちょっとで死者数は20倍以上に膨れ上がってしまった。

取り上げられているのはブラジルの著名人の死者で、その人にちなんだイメージと詩が描かれている。
その人の名前の横にQRコードがあり、それを参照されたしとのこと。

こういうのが苦手である。
日本のミュージアムにある有料の解説録音も不快だけど。
あまり乗れずにいったん見終えるが、最初から見直すにはまた階段を上って下りて、とめんどくさいのでやめる。

日本の311のあとにもそれがらみのいろいろな展示があったけど、コロナがらみもこうしていろいろ出てくるんだろうなあ。

後回しにした付属の書店をのぞく。
移民にまつわる気になる本があり、思い切る。

裏手にオープンスペースのカフェあり。
日比谷公園の松本楼を想い出す。
場所柄、客層からしても高そうだが。
これも思いきるか。
https://www.facebook.com/jun.okamura.733/posts/10224072736141182?comment_id=10224075310685544&reply_comment_id=10224078314200630 ¬if_id=1625856112629403¬if_t=feed_comment&ref=notif

最近、立ち寄ってみて、なんとか絵になるカフェの写真をフェイスブックに上げて、けっこう好評。
パンデミック以降、本を持ち歩いていないが今日は買ったばかりの本を並べてみる。
やはり僕には、カフェでは連れの人より本の方がいいな。


7月9日(金)の記 金曜日の菌活
ブラジルにて


いやはや「菌活」利用はむずかしい。
在日本の方に教えてもらった「魔法瓶」使用の大豆茹で方式、一度は失敗したがふたたびトライ。
思わぬ障害もあったがどうやら乗り越え、そこそこ柔らかくなった感じ。

思い切って納豆作成とするか。
冷凍してあった先回の成功の部類のを種菌として…
どうやらこれに問題があった感じ。

ヨーグルトメーカーで昨日から仕込んでいるが、納豆菌っぽい粘りが出てこない。
SNSでイタリアンパセリ使用の納豆づくりというのがあったのを思い出した。
急きょ在庫のあるイタリアンパセリも加えてみるが…

どうやらNG。
とりあえず冷蔵庫に寝かせるが、捨てるのはもったいなし、失敗納豆の敗戦処理にイヤハヤ。

夜はチキンカレーづくり。
一昨日、東洋人街のコリアンマーケットで買ったマッカリをキッチンドリンク。
おや、今度のはそう悪くない。
韓国製のペットボトル入りのもの。
先回のは期待外れのものだった。
これも発酵食品なだけに、当たりはずれがあるのかな。

日本へのお土産として好評のブラジル産紅茶。
こちらの自宅用に買っていただいたが、かつての感動がない。
うーむ。
紅茶も発酵食品なだけに、時期条件によって微妙なのだろう。
「手前味噌」だが、わが作品しかり、だろうな。


7月10日(土)の記 ラテックスの底力
ブラジルにて


僕の世代と文化の言い方だと「運動靴」か。
日常の外履きの靴。
日本で買った防水仕立てだというのを2足、替わりばんこに履いていた。
もう1足、ブラジルで買ったのが靴箱にあった。
つくりは屈強なのだが、靴紐の取付金具の位置に問題があるようで、きちんと足が固定できずあまり具合がよくない。
足の変調をきたしそうだが、モッタイナイので時折り履くことにしている。

数日使用して、そろそろローテンションかと思って。
昨日、手に取って底を見てギョッとする。
なにやら白いものがネットリと付着。
ううむ、チューインガムの噛みカスだろう。
これは洗い場のブラシでも除去はむずかしそうだ。

今日、また履いてみることにする。
植え込みのコンクリートの縁でこすってみたり、路上の小枝片でえぐってみたり。
靴底の溝にはまり込み、簡単には除去できないぞ。
うーむ、犬の糞よりましだと思ったが…

ここのところ、文庫版の『路上観察學入門』を読み返している。
わがグラフィティ巡礼を考えるうえで、おおきな気づきとなる。
このなかに路上観察学のキリスト:教祖とまでいわれている林丈二さんの「路上の正しい歩き方」が収録されている。

この稿の「街歩き用小道具セット」のなかに「底に溝のある靴」が挙げられている。
いわく「外国に行った時、毎日宿に帰ってから溝にはさまった小石を採集した。まったく不精な方法だが、これを小ビンに入れて並べると、ちゃんとそれぞれの土地の違いが表われているのでおもしろい。」
…さすがは教祖と言われるだけのことはある。

さて今日の買い物から戻ると、靴底のチューインガムらしきものもだいぶ除去できたようだ。
流し場で竹串を用いて残りを取ろう。

うーむ、マスクを着用すればよかった。
どうしても顔を近づけてしまうが、ガムのミントっぽいニオイがするではないか。
にしても恐るべきラテックスの粘着力。

チューインガムも大アマゾンのパラゴムノキのラテックスを使っているものと思いきや…
調べてみると、メキシコ原産のサポジラという樹の樹液のようだ。

想えばマスク着用生活になってから、チューインガムというのもご無沙汰しているな。
そもそもブラジルではガムは売られていても、日本のように噛んだ後に包む紙が伴なっていないのが普通かと。

グラフィティ採集を始めてからつい道の横に気を取られがちだが、もう少し路上も見つめるか。


7月11日(日)の記 ココより永遠に
ブラジルにて


日本語で言うとフードジャーナリストか。
スクラップ用に区分けしておいた新聞を少しチェック。

在日本のブラジル音楽研究家の友人のために分けておいた記事のうえにレシピ記事があった。
「セビチェのマニュアル」とある。
執筆者はフードジャーナリスト。
セビチェはペルーの国民料理とされるナマ魚使用のマリネ…か。
マリネについて調べると「漬け汁に浸す」とある。
このレシピも、僕がこれを参考にテキトーにやってみたのも汁に浸す、というのとは違いそう。

このレシピでは氷を使用とあるが、なにか違和感があり氷なしとする。
驚いたのがココナッツミルクを使用、とあること。
このあたりがブラジル的な創意かも。

今日は路上市の魚屋でアジを買ってある。
アラはナメロウにしようかどうするかと思っていたところ。
お、冷蔵庫に瓶入りのココナッツミルクがあった。
これは日本でもまだあまりなじみがない調味料だろう。

そもそもココナッツミルク味のセビチェというのの味の想像がつかない。
まあやってみる。
記事によると280グラムの白身魚にカップ半分のココナッツミルクか。

(いま気づいたのだが、これをスプーン半分と勘違いして投入していた…
それでも色見も味もココナッツミルクが効いていて、悪くはなかったけど。)

ちょうど在日本のペルーゆかりの友人とメールを交わしたところ。
ここのところ読んでいる本にペルーがらみのものが2冊あった。
ちなみにペルーの日本式一文字漢字表記は「秘」。


7月12日(月)の記 犬猫ファースト
ブラジルにて


近場でコメやトイレットペーパーなどの買い出し。
さあ今日のグラフィティ採集はどうするか。

新作に近場で出会える僥倖はめったにない。
いままでほとんどスルーしていた信号機に貼られたシール類もチェックするが、イマイチ、イマニ…

お。
あれでいってみるかな。
このコロナ禍に建設中または建設予定のマンション分譲が競争で行なわれている。
わがアパートの郵便類のなかにも、道を歩いていてもクルマで信号待ちをしていても、まさしくイヤというほどパンフレット類を配ってくる。
担当者の名前がパンフレットに書かれていて、これが配布者のマージンになるのだろう。
「夜の街」のポン引き並みにしつこいのもいる。

テキも手を凝らして、見学者には記念品プレゼント、ワインとチーズ、サンドイッチとビールのサービスありといった具合だ。
家人に興味のあるふりして記念品ゲットと軽食はどうだとすすめても、さすがに実行には移さない。

さて、今日、目についたのはそんな建設予定地のこれ。
https://www.instagram.com/p/CROqAQND8m9/
僕は自分で犬を飼ったり世話をした経験がない。
なので、これはマンション分譲見学者のイヌつなぎ場ぐらいに思っていた。
金属容器は水かエサでも置くのかな、と。

画面右の緑色のゴミ箱は犬の糞用で、下からそれを入れる透明袋まで取り出せるようになっているではないか。
ということは、ここは犬のオベンジョで、容器は便器か。
犬はちゃんと「公衆トイレ」を利用できるのだろうか?

この地域にも特にパンデミック以降、路上生活者が増えてきた。
いっぽう付近には公園も公衆トイレもない。
この人たちは路上で大小の用を足しているのだ。

おイヌさまのトイレより、公衆トイレがほしい…


7月13日(火)の記 ブラジルの古本屋
ブラジルにて


外仕事から帰宅した家人が、門番から小包を受け取ってきた。
おう、待ちかねていたのが届いたか。

リオ州にある古書店にネットで発注した本。
その包装を見て驚く。
こ、これは。
ヒエロニムス・ボスの絵ではないか?

開封するのがもったいないぐらい、まさしく作品として綺麗にパッキングされている。
この本を探すのにそこそこ手間だった。
これはそのままにしてもう一冊、探して買うかという無謀は抑えることにする。

思い切って、カッターでそろりそろりと開封。
本に罫線入りのノートを細長くカットした紙が挟み込んである。
「この本はリユーズ用の百科事典を利用して放送しています」とな。
カラー写真が豊富な百科事典の「神学」のページで放送したことがわかる。

僕の求めたのが神学者の著書なので、それに合わせたのだろう。
そうした気配り、センス、そして愛があふれている。

ブラジルの古本屋というと、ヴィジュアルにもカビ臭く埃っぽく、暗く雑然としていて経営者も同様、といったところが少なくない。

日本の古本屋もかつてはそれの日本版、といったところばかりだったけど。
近年はわれらが流浪堂さんのようなお洒落かつ、愛のあふれるそれぞれの個性が活きた古書店がぽつぽつと灯るようになった。

ブラジルの古書をネット買いするのはこれが初めて。
この本の在庫は何軒かにあった。
いずれも本の状態に対する書き込みが、日本よりはるかに細かく具体的かつ科学的だったのに驚いた。

一冊一冊の本を愛し、本を求めるひとりひとりを大切にする。
幸せな気持ちに包まれる。

さて、包装紙の絵を調べてみる。
ボスの追随者による『十字架を担うキリスト』か。
包装紙からだけでこんなに感激させてもらい、勉強させてもらった。


7月14日(水)の記 一青
ブラジルにて


日本で知り合った人から台湾音楽についてのオンラインライブトークのご案内をいただいた。
https://reasia.org/2021/07/05/reasia-nongkrong13/?fbclid=IwAR14XbJ-NHUpaiByST_wVdiLh4LMeRN_wDXaAEu--dzd7aynFGcXIS5-7Ig

こちらの時間だと、午前3時開始…
まあ、ここのところ祖国の惨状が気になって深夜に何度かスマホをチェックしているし。
台湾は何度か通っているので、音楽が不調法な僕にもささやかな思い出はある。
案内をしてくれた司会進行の泊昌史さんとメッセンジャーでやり取りして盛り上がり、思い切ってナマで聞いてみることにした。

主宰のReASIAというグループのテーマは「越境」とのことだが、まさしく越境感あふれるダイナミックなライブだった。

登場するのは歌手の一青窈さんとミュージシャンその他いくつかの肩書を持つ関俊行さん。
一青窈(ひとと よう)さんといえば。
彼女が主演する映画『珈琲時光』のDVDを日本で買って担いできていた。
「一青」という姓にただならぬものを感じて鑑賞時に調べていたが、石川県に分布する実在の苗字だという。
そういえば友人知人の難解苗字の代表格・印鑰(いんやく)さんのルーツも石川と聞いていた。

今回のライブでも彼女の代表曲『ハナミズキ』の詩について言及されていた。
メロディーに流されがちだが、詩そのものの意味を吟味してみると怖いくらいだ。

イベントは5時過ぎに終了。
そのあと、ネットで何曲か何度か一青さんの曲を聴いたので、それが脳内で再生産されながら床に就く。


7月15日(木)の記 グリンピースのナゾ
ブラジルにて


兄弟姉妹の皆さんに告白します。
…さてどれから告白しようか…

「グリーンピース」という言葉のことをまるで咀嚼していなかった。
そもそもこうして日本語カタカナ表記だと環境団体もマメの方も同じだが、英語のスペルが違うことを考えてもいなかった。

ちなみに団体の方はGreenpeace、豆の方はgreen pease。
マメはbeanのみにあらず、とは。
久しぶりに日本から担いできた英和辞典を開く。
エンドウ豆は、pea。

そもそもインゲン豆とエンドウ豆はどう違う?
ああ、自分の無知が情けない。
ちなみにこの違いも調べたが、アタマがくらくらしてきた。

さて。
日曜の路上市でナマのグリーンピースを買った。
常に缶詰の数倍の値段であることが、そもそも僕には理解できないのだが。

それでも買ったのは、グリーンピースご飯をつくるため。
日本の亡母が、彼女の母、つまり僕の祖母がわが屋に来る時の定番だった。

祖母は20世紀初めの生まれだろう。
調べてみたが、グリーンピースがいつ頃から日本でこの名で出回るようになったかよくわからない。
祖母や母が大日本帝国の敗戦前からこれを食べていたのかどうか…
たとえば豆ごはんといった呼び方で。

自分で家族に料理を作るようになってから、折に触れて亡母の「おふくろの味」を想い出す。
レシピそのものより、そのレシピの由来を聞いてみたかったものがいくつかある。

至らぬ自分を嘆くばかり。


7月16日(金)の記 コンサイスを磨く
ブラジルにて


パンデミックによるサンパウロでの自粛生活。
このウエブ日記は日付の翌日の朝のうちにアップするのが日課となっている。

昨日はグリーンピースご飯の話。
英語のpeaとbeanの違いを辞書でひきたくなった。
ただ英単語を翻訳するならオンラインでちょいの間だけど。

おや、辞書類を置いているはずのところに見当たらない。
他にありそうなところにも…ない。
さんざん探して、数か月前に搬入して奥に置いたパラグアイ産の本棚に平積みしてあるのを発見。
すぐには使わないもの扱いで、こんなところに置いたのだろう。
表紙がだいぶくたびれたデイリーコンサイス英和辞典。

学生時代にも使っていたのかな、と奥付を見る。
1986年11月発行か。
日本映像記録センターの職員を辞しようと決意したころだ。
それで辞書か。

お値段は3000円、だいぶフンパツしている。
おそらくブラジル移住を決めてから、思い切って新たにコンパクトかつ皮装のこれを買ったのだろう。
以降、英単語をひく機会はさほどなく、なかみの状態もそれを物語っている。
皮の表紙は特に背の上下がぼろぼろだ。

皮用クリームで磨くか。
…黒用のはカチカチになっていたが、だましだまし使ってみる。
うん、悪くないぞ。
ぼろぼろ部分はノリで補強してみる。

皮の魅力。
動物がかわいそうではないかという自分のなかの声も出てくる。
しかしこれは牛皮で、肉もおいしくいただいているはずだ。
皮のために殺しているわけではなく、肉だけ食らって皮を捨てるよりはいいだろう。

聖書も皮装のものをフンパツすればよかったな。
なかったかも。


7月17日(土)の記 名前を彫る
ブラジルにて


昼、家族で外食に。
開店時間の12時に予約しておいた。
さすがにがらがら。
この店は階下が吹き抜けになっていて、周囲に植物を配し、ゆったり感たっぷり。

ワインを注ぐウエイトレスの前腕に、タトゥーがみえた。
Antonioと読める。

「アントニオは君のカレシ?」
と聞いてみる。
「父親です。」
と意外な答え。
恋人か、あるいは息子かと思っていた。
「僕の洗礼名と同じだよ」
とオチがつく。

父子家庭だったのかしら?と家人。
それぞれのタトゥーには、はかりしれないドラマがありそうだ。

東京アルマゲドンの開催予定が近い。
もしオリンピックが開催され田として…
それをテレビで見る日本人は、ブラジルをはじめとする世界の選手たちの体を覆う見事なタトゥーにたまげることだろう。
学童たちへの教育効果たっぷりだ。


7月18日(日)の記 ヤーンボミング
ブラジルにて


「おつとめ」という言葉を調べてみる。
宗教用語としては仏教に限定か。

日曜朝、家族で外出した後にお気に入りのベーカリーでカフェをいただく。
この店はガラス張りで外の街路樹の緑が迫り、陽光が心地よい。
さて今日のグラフィティ採集、どうしようか。
帰宅後に路上市に行くつもりだが、あのあたりはひと通り開発し尽くしている。
そうそう新作も見落としもないし。

今日は窓際の席だったので、外を見やると…
街路樹の幹の上の方に布の装飾がある。
https://www.instagram.com/p/CReScDyDrZc/

ここから下がった日当たりの悪い道にはグラフィティとともに街路樹のこうした装飾が密にあることは知っていた。
このあたりまで装飾がおよんでいるとは。

数時間後、日本の知人が「Yarn bombingみたい」とコメントを書き込んでくれた。
はて、なんのことかと調べてみる。
ほう、日本語表記だと「ヤーンボミング」などとされ、カラフルな編み物などを用いたストリートアートのことだそうだ。
いやはや、また新たな世界が広がってしまうではないか。

僕のインスタグラムの「今日のグラフィティ」シリーズは広義のグラフィティとしてストリートアート類も含めている。
今日はこれにするか。

ただひとりしこしことスマホ撮りしていては、こうした言葉を知ることもなかっただろう。
SNSと持つべき友人知人がいるというありがたさ。

表紙を磨いたばかりのコンサイス英和辞典でyarnとbombingをひいてみる。
bombは動詞としては「爆撃する」しかないぞ。
ネット検索するか。

ずばり「糸爆弾」という語を日本語として用いている例もある。
出てきた写真は樹木を覆う粘菌やシロアリの蟻道のような糸オブジェ。
ちょっとクラクラしてきた…


7月19日(月)の記 富山妙子とドラゴンマン
ブラジルにて


選り分けておいた新聞記事を読み込んでみる。
見出しだけ読んで気になっていた中国での「ドラゴンマン」と呼ばれる化石人骨の発見記事。

なぜドラゴンマンなのか?
ううむ、形態ではなく黒竜江省での発見だからか。
計測の結果、約15万年前のものと判明したが、そもそも古井戸のなかに隠されていたという。

ブラジルの2紙に記事が出ていて、調べてみると日本にも外電の翻訳記事などがあったが、日本で流布しているものではかえってよくわからない。

ブラジル版の元記事はTHE NEW YORK TIMESで、6月26日付のO ESTADO DE S.PAULO紙にまずその翻訳記事が掲載された。
西暦1933年、現中国東北部の北東部のハルビンでの工事現場でこの人骨は発見された。
発見者は「当時、中国東北部を占領していた」日本の当局には渡さずに古井戸に隠した、と記事にある。
「満州国」建国は1932年で、ハルビンは満州国の主要都市だったが、ニューヨークタイムズはこの国名を出さずに日本の占領地域と記している。

ちなみに1920年代に発見された北京原人の化石も日本軍の手を逃れるための移送中に紛失している。
日本は中国の古生人類の研究阻害にも大きな貢献をしていたことを改めて知る。

さて、僕がコロナ禍まで日本で頻繁にお邪魔して交際させていただいていた画家の富山妙子さんは幼少時に家族とともに中国大陸に渡っている。
この1933年当時、富山さんはハルビンで暮らしていたのだ。
植民地支配のグロテスクな光景にこころをいためていた少女時代の富山さんは、ドラゴンマンが発見されたという橋の工事現場を見ていたかもしれない。

土本典昭監督の記録映画『はじけ鳳仙花 わが筑豊わが朝鮮』のなかで、富山さんが『筑豊のアンダーグラウンド』と名付ける油絵を描くシーンが登場する。
この絵をよく見ると、画面を有翼のドラゴンらしきものの化石が貫いていることがわかる。
富山さんが311のあとに描いた大作の空には、竜がキングギドラよろしく何頭も見え隠れしている。

ハルビンのドラゴンマンが、巫女富山妙子に憑依したか。


7月20日(火)の記 ブラジル日系社会の怪ニュース
ブラジルにて


午前中、東洋人街にある日系の医療機関へ。
診療の合間に日系二世のドトーラ(ポルトガル語でドクターの女性系)とよもやま話。
ドトーラいわく、
日本の土砂崩れもカンコクジンのせいなんですって?

先日の熱海での事故のことだろう。
カンコクジン系業者がでたらめな埋め立てをしたために起こったということらしい。
これは初耳だ。
僕には何とも言えないので、土建業者にはヤクザもいるみたいですからね、とポルトガル語交じりで応じておいた。
ニュースソースは?
NHKでやってた、とのこと。
ブラジルの日系人家庭ではNHKインターナショナルを視聴している家庭が少なくない。
うちはしてないけど。

ツイッターはじめSNSで日本からの諸々な虚々実々のニュースに接しているつもりだが、このニュースはまことに意外だった。
帰宅後さっそくいくつかのキーワードで検索してみるが、それらしいニュースはヒットしない。

はて?
ブラジル日系社会の特に旧世代では嫌韓意識が根強く根深く残っているようだ。
数年前、祖国で嫌韓の激しかったころには在ブラジルの日本人の運営するウエブサイトで「征韓論」まで飛び出していた。
僕はこうした現象を「祖国の劣化コピー」と称しているが…

このドトーラは日本にも留学しているインテリ層だ。
彼女の亡き父は日系社会では知られた人で、僕もお世話になったことがある。
親の代の嫌韓意識が引き継がれたのか…

としても、彼女がNHKで見たというニュースはなんなのだろうか?
彼女の脳内で編集されたフェイクニュースか?

ブラジル日系社会の勝ち負け事件に通じるものがありそうだ。
1945年、当地では8月14日。
日本のNHKの短波で玉音放送が流れた後も…
一部の日本人の所有するラジオでは、日本からの祖国戦勝のニュースが聞こえたそうだ。
ひょっとして、今日でもブラジル日系人向けのウラNHKが存在して、こうした捏造ニュースを提供しているのか?

東京オリンピック中止決定後も、ウラNHKは日本選手勝った勝った、またまた金メダル!
といったニュースを流し続けるかもしれない。


7月21日(水)の記 愈々本土決戦
ブラジルにて


先週、ふりかかってきた東京のFM局J-WAVEのナマ番組出演依頼。
いよいよ本番はこっち時間で明日の朝。

キライではない話だが、ブラジルの最新ニュースをいくつか選んで報告するという内容。
特にオリンピックの選手がらみのも盛り込まれたしとの要望。
…まるで興味もなければ知識もない…

ナマ放送に穴を開けるわけにもいかないから、いよいよダメな時のピンチヒッターも考えている。
三つの話題を紹介するのだが、事前に多めに候補を先方に送らなければならない。
その締切りがこちらの今日22時。

直近三日間のもので、とのこと。
昨日までに集めたのでは、まだ弱い。
わが家はポルトガル語の新聞2紙、邦字新聞1紙を定期購読している。
経済的に厳しく、ポ語の方をひとつにするよう家人に責められて1紙あきらめたものの、キャンセル方法がややこしく、家人もそのままにしている。
さらにこういう時に限っていちばん配達のルーズな日本語新聞が未着。

大衆紙ネタも欲しいところで、さる日曜以来、街の新聞スタンドでけばけばしい印刷のを買って合わせてチェックしている。
…なんとかブラジル人選手がらみのネタ候補も複数できそうだ。

夜のテレビニュースも流しながらぜんぶで5件のネタの概要、備考を書き出していく。
時間ぎりぎりに送信。
そもそも番組のテイストとヴォルテージがよくわからない。

素材案送信後、ようやく先方から「みほん」のファイルを送ってもらうが、なぜか音が聞こえず。
再送信してもらう…

再送信分2本を聞いて、それなりにやや安心。
…ああ、これが終わったら…、と待ち遠しい。
そもそも日本のオリンピック状況が気になって眠るに眠れないけど。


7月22日(木)の記 ナマの顛末
ブラジルにて


いよいよ当地時間午前8時10分頃からの放送予定。
東京の大手FM局の番組へのナマ出演。
午前7時30分に先方と打ち合わせ。
こちらの深夜に送られてきた進行台本を、朝イチでプリントアウト。

僕が5案送り、先方が3点選んだブラジルの最新ニュースを語るというもの。
進行台本によると、
・まず岡村が簡単に自己紹介
・ついでブラジルのコロナ状況を短く報告
そのあとで、
・ブラジルの女子オリンピック選手たち
・大アマゾンの先住民ヤノマモの絶品チョコ販売開始
・顔面タトゥーがブームの兆し
と報告する予定。
これで10分か。

打ち合わせでこちらの懸念事項を確認のうえ、まずは自己紹介とコロナ概略の説明を口にも出して練習。
ところが直前になって担当から、コロナの話は暗くなるのでカット、との指示。
5分ほど押して、本番。
失礼ながらどなたとも存じ上げない男性のDJが僕の自己紹介を省いて、いきなり「2016年のリオの夏のオリンピック」について尋ねてきた!

リオオリンピックは夏に行なわれたわけでない。
8月5日に開会式を行ったが、今と同様、冬である。
その訂正の余裕はない。
そもそもこの年、7月にこちらの義父が集中治療室入りしてこちらは非常事態、そして開会式の日に亡くなったのだ。
もちろんオリンピックどころではなかった。

僕は開会式の日にこちらの身内がなくなり、リオオリンピックは見逃していると伝えた。
DJさん、お悔やみもなんのフォローもなく「それではブラジルの女子選手の話題を」とうながしてきた。
だいぶはしょって話すと、ヤノマモは抜きに「最後に顔面タトゥーの話題を」とのこと。
いずれにも先方のコメントはなく、岡村の時間はおしまい。

そういった流れのなかでの、ああした僕のトークでした。
終了後さっそく日本のさまざまな友人知人から主にフェイスブックでメッセージをいただく。
この番組の影響力を思い知る。

そうとう根を詰めてネタを準備していただけに、脱力感。
もっともっと手を抜いてよかったのだな…


7月23日(金)の記 開会式のなみだ
ブラジルにて


オリンピック開会式前夜の祖国を代表するFM局でブラジルからオリンピックがらみの話をしておいて、開会式を見ないというのは自分のスタンダードでちょっと…

「こわいもの見たさ」という気もある。
コロナ禍のため開会式は90分に収めるというニュースもあったかと。
時差12時間。
サンパウロの午前7時台にスポーツ専門チャンネルをつける。

…まあ、式典のあれこれについて、僕のようなハンニチ認定がつぶやいてもつまらない。
ホームワークでわが家にいたわが子が、ゲームの音楽が流れたと興奮。
…そのあたりは僕には異次元の世界。
…『ウルトラQ』の音楽や荒井由実の曲でも流れればワタクチもコーフンしたかもしれないけど。

「あいうえお順」の各国入場。
「ブ」はだいぶ後だ。
裸足で入場の選手団を見て、真夏の昼でなくてよかったな、と思ったり。
夜の地表の温度はどれぐらいだろう?
おや、マスクなしで入場の国もあるではないか。

さあ、ブラジル。
え?
どこか別の小国か?
旗持ち二人と、あと…二人か。
ソシアルディスタンスを取ってか、「ブラジルらしい」混乱であとの選手たちの入場が遅れているのか?
…もう次の国が出てきている。

テレビのアナウンサーも解説者もどうした事態か解説がないようだ。
ブラジルは選手だけで300人以上のはずだ。
他所の国は100人単位で登場している。
…なんだか、目頭が熱くなってきた。

ツイッターでこの件について流れてくる。
大会主催者から「可能な限りの最少人数で」との指示で、ブラジルは旗持ちの男女各一名の他に「頼み込んで」あと二人を加えたという。

例のラジオ出演のためにこちらのオリンピック関連記事をそこそこ事前に読んでいた。
50万人越しのコロナ死者を出してしまい、いまも連日数万人レベルの新規感染者を出しているブラジルの選手たちは、日本で差別を受けることを心配しているという。

ブラジルのこと、ブラジル人のことを想って眼を熱くしたことが以前にあったかな…?

…90分どころか、4時間かかったではないか。
日本人のあいさつも長かったが、それどころではないバッハ会長の延々のあいさつ、途中でガマンしていたトイレに中座。

これも日本からのツイート。
バッハの挨拶:13分。
天皇のことば:13秒。

なにかブラジル選手団に通じるものを感じる。

4時間、見慣れないものをしてしまい、終日、心身のコンディションがよくない。


7月24日(土)の記 さよならニッポン
ブラジルにて


今日も行きがかり上、折に触れてテレビでオリンピック関連番組をつける。
さる木曜の自分の発言の都合、確認しておきたいこともある。

複数の局でオリンピックの番組が流れ、日本からのナマ中継もある。
ふと。
こんなに日本が世界から注目を集め、各国からのメディア関係者が訪日することは…
これが最後だろう。

今後、日本列島で確実に起こることは…
皇族の冠婚葬祭。
大地震、火山の噴火。
それに伴なう新たな原子力発電所の事故。
その時には日本や東アジアの特派員でカバーするのがせいぜいだろう。

いま訪れているメディア関係者にも、東京の殺人的酷暑は体感できたと思う。
しかし、その他のデタラメさ、コロナ伝染のブレイクと医療崩壊寸前のことはまだ実感がさして沸いていないことだろう。

華々しいメダル競争の報道のなか、アルマゲドンとはこのことかと思わせる暴風雨が直撃。
東京湾には未処理の屎尿が溢れ…

熱中症で倒れても、コロナウイルスによる発熱が始まっても段ボールに横たわっているしかないのか。
アメリカ合衆国関係者は、米軍機で脱出か。
昨年初めにはブラジルは武漢滞在のブラジル人たちを救出するためにブラジル空軍機を飛ばした。

誰がハラキリをするのか。
NO MORE TOKYO, NO MORE JAPAN...


7月25日(日)の記 家族の肖像
ブラジルにて


日本の生ラジオで話してしまった手前、責任を感じて、というのはオリンピック出場選手のタトゥーのこと。
ブラジルのスケボーやサッカーなどの選手たちのタトゥーは見事なものがある。
日本の小中学校の夏休みの宿題として、オリンピック中継を見た「感動」を書きましょう、というようなのがあると聞く。
下着から毛髪の色まで規制される日本の学童たちが選手たちのタトゥーを見た時のリアクションに、教師は、学校教育は、どう対処するのか?
そんな話をしてしまった。
「聴き手」のDJからはなんのリアクションもなかったけど。

東京オリンピックで訪日するガイジンたちのタトゥーに、銭湯や温泉施設はどう対応するのか?
といった問題提起が招致当初にはあったかと記憶する。
いまや非常事態続きでそれどころではなくなってしまったようだが。

さて、中継を見るに「意外と」タトゥーが目に入らない。
日本の誇るCG加工か?
よく見ていくと、競技や選手の所属国でだいぶ変わるようだ。

ブラジルの女子バレー選手は、割と少なかった。
対する大韓民国の女性選手のうなじにタトゥー発見。

今日の圧巻はブラジルの男子柔道で銅メダルとなったダニエル選手。
柔道着が乱れると、右胸に楷書で掘られた「家族」の文字が鮮やかに露出する。
バッハ会長には「華族」か?

なぜに彼は「家族」と胸に彫ったのか?
山田洋次監督の映画に感動したとか?


7月26日(月)の記 東京大虐殺
ブラジルにて


…酷暑とコロナ禍のわが故郷東京を想う。

関東ローム層の赤み。
縄文海進期の古東京湾。

そして、虐殺された人たちの無念。
江戸期のキリシタンたち。
幕末時の殺戮。

この100年だけでもすさまじい。
西暦1923年の関東大震災の死者・行方不明者は10万人を超えた。
その際、虐殺された朝鮮人の数は数百人から数千人におよぶとされる。
1945年3月10日の米軍による無差別爆撃では、数時間で10万人以上が死に追いやられた。

ヨーロッパや中国の古都でも虐殺の歴史はあることだろう。
いっぽう、寡聞にしてわがブラジルでは歴史に記憶されるべき都市での虐殺というのを知らない。

いま、わが故郷の町は悪政と医療崩壊により、病院で、療養ホテルで、自宅で、路上で無念の死者たちが続出しようとしているのに、手をこまねくばかりのようだ。
残念無念。

居住者の皆さんには行政が無策な以上、それぞれがサヴァイヴァル策を講じていただくしかないだろう。
日本政府の宣言する安心安全を信じて訪日したブラジル関係者の無事生還を祈る。


7月27日(火)の記 サンパウロちいさな旅
ブラジルにて


そろそろミネラルウオーターを汲みにいかねば。
明日は天気予報が雨のようで、今日午前中に行くか。
幹線道路を経由するので、アプリで交通状況を調べて。

道も、現場もさして混んでいない。
汲み終えた水を清算して車のトランクに置いて。
まずは付近を歩いて今日のグラフィティ探し。

これから戻ってのイップクが小さな楽しみ。
給水施設の敷地は柵で囲まれているので安心だ。
これまでは母屋付属のオープンカフェを利用していた。
ここだと、他に二組も客がいれば僕にとっては息苦しい。

敷地内にある、シチーボーイにはちと入りにくい売店をのぞいてみるか。
鉢植えが覆い、中が暗く古色蒼然。
…近づくと、おやじさんが声をかけてきた。
「スナック系はありますか?」
と聞くと、「串焼きポンデケージョ」があるという。
日本でも知る人ぞ知るようになったポンデケージョだが、串焼きとは聞いたことがない。
それを頼む。
飲み物はトウモロコシのジュースがあるというので、それでいく。

離れたところに椅子とテーブルもある。
そこでいただくことにする。
物乞いも物盗りもまずやってきそうもないので、安心。

天気もよく暖かく、昼寝もしたくなるぐらいだ。
串焼きポンデケージョは話のタネにはなりそうだ。

店同様、ちょっと近づきにくそうなオヤジさんも話してみると味わいあり。
店内には、これも経年のうかがえるカーニヴァルを描いたとみられる絵の額が飾られている。
聞くと、オヤジさんの亡母の作という。

次回は撮らせてもらうかな。
ああ、富山妙子さんもブラジルのカーニヴァルを描いていたな…


7月28日(水)の記 つめたい雨にうたれて
ブラジルにて


昨年、ブラジルに戻って以来。
祖国の諸々が気になって、夜中に何度もスマホを繰るような日々。

いまは夜中にオリンピック中継があり、次々と深刻なツイートが流れてきて、床から起きてしまった方が手っ取り早い。

そもそも先週の日本のFMラジオ出演に備えて先週日曜から新聞類のチェック作業をメインにして…
いらい、本らしい本が読めなくなってしまった。

今日は前夜以来、雨。
朝、薬局と銀行へ。
いったん帰宅して仕切り直し、傘も持ってふたたび買い物へ。
それでも傘は使わずに小雨の中を歩く。

ブラジルの巡礼宿のことを少し調べる。


7月29日(木)の記 ワクチン巡礼
ブラジルにて


日付が変わるタイミングで、サンパウロ州から第2回コロナワクチン接種日の知らせのメールが届いた。
今日が当日。
こうしたサービスをしてくるだけでも気が利いている。
「できるだけ初回と同じ場所で」とある。
それはこっちだってそうしたい。

僕が第一回を接種した近所の野営接種所はあったりなかったり。
午前中、現場に行ってみると設営の気配もない。

そもそも午前中は混み合うようだ。
午後イチでわが子が摂取したカトリック教会付属ホールに行ってみる。
あちゃー、僕が接種を受けたアストラゼネカ社のは扱っていない、どこにあるかの情報もないという。

スマホで近くの保健所の所在を調べる。
至近のところに行っていると…
アスロラゼネカはない、自分で情報を調べろと言われる。

うーむ。
もう一軒、ハシゴするか。
未知の領域へ。
まあこちとらグラフィティ探しという喜びがあるのだが、今日はだいぶはじめての道を歩いているものの、これというものがない。

住宅街にある、もう一つの道の保健所にたどり着く。
ここもアストラゼネカは、なし。
明日は入るかもしれない、明日は午前7時半からとのこと。

いやはや、歩いた。
久しぶりに1万歩を軽くオーバー。

帰宅後、ノートPCでサンパウロ州のウエブサイトを開く。
コロナワクチンのページに入って…
ありゃ、「最寄りの接種所」のリンクが機能しない。

まあ日本のデタラメぶりを伝え聞いているから、さしてハラもたたないけど。


7月30日(金)の記 朝歩く
ブラジルにて


冷え込みのぶり返すサンパウロ。
外出となると厚着をしたいが、注射時を考えて下は半袖にする。
午前8時台に出家。

まずは近所の野営接種場が今日は立つかもしれない薬局に行ってみる。
まだ設営の気配はなく、少なくとも第2回接種者対応はむずかしいと判断。
朝7時半から開くという昨日最後に寄った保健所まで歩いてみることにした。
ようやくたどり着くと…
28歳下限の第1回接種者のみだった。
アストラゼネカはいつ入荷するかわからないので、電話をしてね、とこの保健所の電話番号を書いた小紙片を渡される。

がっくりと帰宅。
まあそれなりのグラフィティの収穫がある。
今日も一日1万歩超えのウオーキングができたし。

それにしても、いつ2回目の接種ができるかわからないとなると…
来週に予定していた、遠方にお住まいの90代の方の訪問計画を再検討するべきかも。

午後になり、ホームワーク中のわが子が職場のスタッフからアストラゼネカのワクチンの在庫があった保健所の情報を聞く。
サンパウロ市内の地域によって違いがあるとは。
それをもとにまずネット検索。
該当の複数の保健所に電話をするが、アテンドなし。

さすがにこれから現場まで行ってみる気力はない。
明日は土曜日。
土曜でも営業する保健所情報を調べておく。
それぞれの施設のクチコミ情報を調べると「最悪」「営業時間がいいかげん」「電話に応じない」など多し…

それでも明日の朝、勝負してみるか。
ワクチンを逃していいことは、その日はアルコールをたしなめること。

今宵も冷える。
コーヒー豆に浸しておいたラム酒をコンデンスミルクとお湯でいただいてみる。
悪くない。
コーヒーに浸し過ぎたかも。


7月31日(土)の記 モーニングワクチン
ブラジルにて


今朝も冷え込む。
サンパウロの日の出は午前6時42分。

クチコミによるとアストラゼネカのワクチンがあるかもしれず、土曜も営業するはずのイピランガ地区の保健所は午前7時オープン、の予定。

この冷え込みと暗いうちの治安、開始時間が守られるかどうかの疑問から、わが家を日の出前ぐらいに出家とする。
メトロと歩きで1時間程度、所用の見込み。

メトロの青線緑線を乗り継いて、初めて降りる駅に。
あとはひたすら歩く。
うむ、グラフィティの掘り出しものが少なくない。

該当場所で尋ね、尋ねて…
アストラゼネカがあるという!
しかも待ち人はわずか。

屋根のあるバスケットボールのコートが接種会場。
まずはこちらのデータのチェックと問診。
注射は左腕のみとのこと。
こっちが左利きであること、第一回目は右でOKだったと言っても問答無用。
やむをえず。

バスケット向けの巨漢長身の男性が僕の前。
打ち子は二人の女性だが、この巨漢が巨漢ギャグをかましたようで、二人ともギャハハハと笑いこける。
あまり日本ではなさそうな光景。

なにせ冷え込み、スタッフはひと通り女性だが肌のタトゥーをうかがうべくもなく。
「血も出ませんね」とあっけなく終了、おさえの脱脂綿もなく。

それでも事前に「種も仕掛けもない」ことの説明、第一回接種の野戦テントよりかなり丁寧だった。
接種後、コートに並べられた机据え付けの学童用の椅子にしばらく座って大事を取る。

努力と奔走の甲斐あり。
3日連続で日に10000歩以上、ワクチン騒動で歩く。

今日は帰ったら安静にしていよう。





 


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