移民百年祭 Site map 移民史 翻訳
岡村淳のオフレコ日記
     西暦2022年の日記  (最終更新日 : 2023/01/01)
9月の日記 総集編 棄民と国葬

9月の日記 総集編 棄民と国葬 (2022/09/02) 9月1日(木)の記 記憶の反転
ブラジルにて


先月、久しぶりに会った「青年」。
彼は複雑なバックボーンがあるのだが、親子三代の付き合いになる。
こっちの移民歴も長くなるわけだ。

彼が一時、居住していたところがわが家からかつかつの徒歩圏にある、はず。
僕も30年以上前に訪ねたきりだ。
古い住所録からそこの住所がわかり、どうなっているか再訪してみようと思っていた。

僕の記憶では…、
今も時折り見かけるような庭のある昔ながらの一軒家の平屋の建築で、高台にあり…
背後がイミグランテス街道側。

今日、買い物でその方面を歩くことになったので、足を延ばしてみることにした。
なんと。
該当する地番に平屋の建物は今もあったが、イミグランテス街道側が正面ではないか。

写真を送って彼に確認してもらおうと思うが、おそらくここだろう。

僕の記憶では地形的に180度の反転をしていた。
なにが生じたのだろう。


9月2日(金)の記 敷島の…
ブラジルにて


今後の作業を進めるために、パソコンのキャパを空ける要あり。
整理が不十分だった『郷愁は夢のなかで』のデータをいじることにした。

初版完成は西暦1998年。
僕の記念すべき長編初自主制作作品だ。

重い。
データ量もさることながら。
堂々155分。

これも、確信犯としてほんらいの僕ならカットする映像・音声を使用していることに気づく。

われながら、よくぞこんな作品を…
この作品をYouTubeで公開する予定は今のところ、なし。

制作責任者として、見る人、見せる環境を選ばせていただきます。


9月3日(土)の記 冬の初七日
ブラジルにて


知人の初七日のミサを、ひと駅先のカトリック教会のチャペルで昼12時から行なうという。
故人の娘と孫とは面識があるが、故人そのものと会ったことがあるかは覚えていない。
故人は名前からすると日本人一世のようだが、珍しい名前だ。

先週の葬儀は墓地付属の施設で行ない、それには妻子が参加した。
ブラジルの葬儀事情は日本とはだいぶ勝手が異なるが、ここでは簡略に記しておく。
葬儀には生長の家のしかるべき人が来て、宗教的な仕切りをしたらしい。
孫はエスピリタ:心霊主義者だという。

初七日をカトリック式でするのはどうした経緯かは不明。
列席する側には勝手もわかり、アクセスもよくて便利であることは確か。
オンライン中継もあるという。

ミサにナマで列席。
通常のミサのなかで、故人の名前が読み上げられる次第。
初七日の故人だけで10人以上の名前が読み上げられたのではないか。

合同結婚式というのがふたたび祖国のマスコミで取り上げられるようになったが…
合同初七日ミサの方は、特定の故人に特化せず、他の故人そして遺族たちとも想いをも共有するかたちで、いいなと思う。


9月4日(日)の記 海のゴキ
ブラジルにて


今晩は家族のひとりが外食の予定。
さて、のこりの家族になにをつくるか。
路上市で中サイズのエビを半キロほど買って、串焼きにすることにした。

粗塩をこすって。
頭は味噌汁に。

ちょうどフェイスブックにこんなのが流れてきた。
(以下閲覧注意)
https://www.facebook.com/japaoparapensar/photos/a.653732364732110/5047829131989056/
写真から見当もつく方も少なくないだろう。
いわく、エビは海のゴキブリとも呼ぶべき存在である。
エビの食性は、海中のゴミ。
陸におけるゴキブリと重なる。

なるほど、形態もさることながら、生態学的位置も重なるのか。

僕はこういう話が好きだが、家族の女子勢にひどいヒンシュクを買いそうで、とりあえず控えておく。

エビ料理を巡る競争率が高い時に格好の話題かもしれない。

こちらは冬場ということもあろうが…
パンデミック以降、ゴキブリは来宅しただろうか。


9月5日(月)の記 パルミット
ブラジルにて


ポルトガル語のスペルは、palmito。
いろいろな日本語表記がありそうだが、パルミットとしておく。

ひと言でいうと「ヤシの若芽」かな。
グルメ大国と思われがちな日本のその方面の御仁でも知らない人が少なくない、こちらの珍味美味。
日本にあるもので例えると、タケノコと白アスパラをかけ合わせたような感じ。
お値段は、安くはない。

これについてのウンチクは長くなるので省略。

さてわが家から片道2000歩強のところにオープンした大型スーパー。
ここの特売品のなかにパルミット入りのギョウザがあったので買ってみた。

これがわるくない。
タケノコに似たシャキシャキ感がよろしい。
家族の評判もまずまず。

して、今日は「まかない夫」として泊り当番なので、オカズの一品にこれを持参。
先方はパルミットは日本にあるんでしょうかと何度も尋ねるが、お味については言及なし。
どうもこういう時には誘導尋問・テレビ屋臭くて「味はどうですか」と聞けない気弱なわたくし。


9月6日(火)の記 勿忘草通りで
ブラジルにて


今日は盛りだくさんだ。
まかない出張先で、昼はカレー南蛮そばをつくってみる。
今日も相手からの味へのコメントはなし。
自己評価は、及第点。

午後、ミネラルウオーターを汲みに行き。
源泉近くでグラフィティの採集も行なっておく。

今晩は友人宅で気の置けない面々が集うことになった。
おかまいなく、といってもおかまいされそうで、手ぶらというわけにもいかない。
さて、なにを持っていこう。

ブラジル産ムッツァレイラチーズのタルトとするか。
店に電話で予約しておく。

いやはや、盛り上がった。
会話は、日本語。
話題も料理も盛りだくさん過ぎて、ちと消化不良かも。


9月7日(水)の記 インデペンデント
ブラジルにて


二日酔いだが、生きているのがつらいほどではない。
そもそも寒いので、床から起き上がりにくい。
して、空は雨模様。
今日は祭日だし。
毎日、祭日状態だけど。

今日はブラジルの独立記念日。
しかも独立200周年という節目だ。
首都ブラジリアはじめ各地で記念行事が開かれる。

いっぽう10月の大統領選挙を巡って、荒れそうなデモも予定されている。

以下は、在サンパウロ総領事館からのお触れ。
●明日9月7日(水)はブラジル独立記念日にあたり、以下の場所でデモが予定されています。現時点では、いずれのデモ活動も参加人数は判明しておりませんが、大統領選挙を控え大規模となることが見込まれるほか、デモ隊が移動したりすることで道路封鎖や交通渋滞が発生する可能性もあります。
●軍警察では、不測の事態に備えて警備を強化するとしていますが、デモが暴徒化し危険な状況となる恐れもありますので、下記エリアへの不要不急の外出は避け、デモが行われている場所には近づかず、巻き込まれることのないよう十分にご注意ください。


僕もニュースカメラマンでもなし、少し前の日本国なら年金受給を受ける年齢でパンデミック下ではこうしたところは避けるようにしている。
めったにつけないテレビで少しニュースを見る。
各地の行事が映し出されるが、マスク着用者を探すのはウオーリーを探す並みの難度。

午後から家族の用事で運転手。
17日上映予定の素材の準備もすすめておく。

ちなみに今日は断食。
断食と書いた後で想い出すのもナニだが…

独立200年を記念してかつての宗主国ポルトガルからブラジル帝国初代皇帝ドンペドロ一世のフォルマリン漬けの心臓がブラジリアに貸し出されている。
文化の相違を実感。


9月8日(木)の記 江川正幸さん
ブラジルにて


在秋田の自然写真家・江川正幸さんが亡くなったとのフェイスブックの知らせ。
息を呑む。
まさか、の思い。
少し前に入院されたとの知らせには接していたが。
先月もご本人とメッセージを交わしていた。

体調がよくないが、撮影と漢方で対処している、とあった。
体の不調に撮影で対処するとは、と妙に感心したものだ。

これまで秋田での拙作上映会の度に江川さんに裏方で支えていただき、お世話になっていた。
白神山地の撮影を始め、たいへんなキャリアの持ち主だ。
僕も不器用だが、それに輪をかけた不器用な人だった。

江川さんの撮影にまつわるエピソードを聞いたり読んだりするにつけ、お供してそれを動画で撮影させてもらいたい思いに駆られた。
しかしそもそも僕はブラジルが本拠地。
さらに何日もの野営と行軍となると、江川さんに付いていけるかどうか。
しかも野生生物の撮影となると、よこしまな僕の同伴は支障をきたす恐れがある。
僕などがしゃしゃり出なくても、日本のあちこちからオファーがあることだろう…

けっきょく僕の上映会のトークを江川さんに動画で撮影していただくことはあっても、僕が江川さんを撮ることはなかった。
そもそも上映の前後はいつもばたばたで、江川さんの運転で送迎してもらう時ぐらいしかサシで話せる時がなかった…

・・・
江川さんが僕がらみのことで、気に留めていてくれたことを反芻。
あ、お祈りを忘れてはいけないな。


9月9日(金)の記 あやとり
ブラジルにて


見事にスポーツ中継を見る習慣がない。
唯一の例外が、ワールドカップのブラジル戦かな。
瞬時の事態で試合の流れがまるで逆転してしまうダイナミズムが面白い。

こういう事態を「あや」というのだろうか。
あや:綾・文・彩。
スマホでググってみるが、僕にすとんと落ちる簡略な解説がない。
亡父はよくカンシャクを起こしていた。
そのキレる理由に「アヤがついた(から)」と言っていた。
この「アヤ」はヤクザの隠語から来ているのかもしれない。
あや、さまざまである。

さて。
昨日、写真家の江川正幸さんの訃報に接して。
悶々とした。
そして、西暦2016年に撮影した計3時間ほどの動画素材を引っ張り出してきた。
この年の9月のお彼岸の連休の時期に伊豆大島富士見観音堂で行なわれた一連のイベントの記録である。
江上さんと知人は、この観音堂の堂守となったガウショこと伊藤修さんのことを、面識はないものの応援してくれていた。

そのご厚意にささやかでも報いたいという思い。
そしてこの観音堂を建立した藤川真弘師の命日が9月20日。
それまでに間に合うかどうか。

YouTubeにとりあえず限定公開でアップしようと考えている。
来週のオンラインイベント、反・日本の国葬の計画、友人の当地訪問などが重なっているのだが…

まずは素材のデータの取込み、そしてチェックを開始した。
江川さんのことがなかったら、まず少なくとも今は手掛けていなかったことだろう。
バルド:中有にいる江川さんを想う。


9月10日(土)の記 フェイジョアーダ日和
ブラジルにて


外向けのブラジル料理の代表格:フェイジョアーダを家族向けに今日もつくるか。
フェイジョアーダ用の黒豆の在庫をまわす要もあり。

昨日のうちに材料を買い、夜から準備に入っていた。
今日は朝から、水にひと晩ひたした黒豆と塩抜きした塩漬け肉を煮始める。

煮ている間に懸念の映像編集作業を少しでも進めようというハラである。
ところがどっこい、煮始めてからももあれやこれやと台所で作業があり、編集どころではなくなってしまった。

昼と完成が近づくと、フェイジョアーダにつきもののバチーダ(サトウキビの蒸留酒カシャッサとライムのカクテル・カイピリーニャとほぼ同義)を…
まー、これがよくお似合いで。

昼夜ともフェイジョアーダ。
映像編集は…、ほとんどすすまず。


9月11日(日)の記 彫刻の森
ブラジルにて


寒いし、空はどんよりとしているし…
さあどうしよう。

ブラジル彫刻ミュージアムでの企画展の最終日となってしまった。
「ちょうこく」と入力するとワードが「蝶国」と変換してくるほどワタクチは彫刻とは縁遠いのか…

ブラジルに帰化したポーランド系ユダヤ人、FRANS KRAJCBERGの「自然の建築家」展。
ラジオでの宣伝を聞く度に行ってみようかなと思いつつ、行きそびれ続けていた。
思い切る。

いやはや、行ってよかった。
地下鉄のみの使用だとだいぶ歩くのだが、おかげで面白いグラフィティにも出会えた。
さらに吸い込まれてしまいそうな書店で、絶妙な本に出会えた。

展示も…見ておいてよかった。
最終日の日曜ながら、訪問者は控えめ。

焼かれて炭化のすすんだ樹木などを組み合わせたり、彩色や加工をしたり。
なるほど、こうした表現がありうるのだな。
アートと天然を考える。
拙作『焼肉と観音』に通じる世界だ。
https://www.youtube.com/watch?v=0ntMkZYq23A
この拙作の主人公の伊藤修さんはいろいろな顔を持つが、彫刻家でもある。

この余韻を大切に、アートのハシゴは控えめにしておく。


9月12日(月)の記 ドナ・クイーンに接近
ブラジルにて


なにやらイレギュラーな用件が次々と。
明日からは異国より来ている友人と一泊旅行に出ることになりそうだ。
段取りが複雑で、落ち着かない。

午後から家族の送迎で運転。
今日のグラフィティ採集をどうするか…

帰路に目星をつけた地域の路上にクルマをとめる。
少し歩くが、クルマをかっぱらわれたり傷つけられたりするのが心配。
なにせレストランの車番に車を託して、自動車をかっぱらわれた体験を有す身である。
思い切って歩けず、ほんの歩留まりの写真は撮っておくが…

さらにわが家に近づいたところで見かけているシャッターの絵を狙ってみるか。
美容院らしいところで、まだ5時前だが今日は月曜のせいか「好都合に」シャッターが下りていた。

https://www.instagram.com/p/CibONATLGYm/
ほう、近くで見ると予想以上にカッコイイ。
店の名はドナ・クイーンか。
イギリスのクイーンがニュースをにぎわしているし、タイムリー。

ちなみにこのあたりは、この美容院のシャッターの開いているような時間帯からこれほどカッコよくはみえない方々が路上で客待ちの営業をしているところ。
この美容院の顧客も、おそらく…


9月13日(火)の記 CARLOS ADÃOの教え
ブラジルにて


サンパウロの国内線の空港に朝の便で友人がやってくる。
空港との道路事情はややこしいので、通常は空港からタクシー等でこちらに来てもらっている。
今日は予定が押していて、そうもいかない。

いやはや恐るべし朝の道路事情。
さらなる恐るべしは空港の駐車場。
空車スペースを求めて迷路を彷徨。
地下四階の老人用スペースにようやく空きがあった。

けっこうな時間がかかってしまった。
走る走る到着口にたどり着くと、便は遅延とな。
駐車場料金は1時間単位でボッタくられるのだが。

客人の希望する訪問先に昼過ぎまで滞在。
曇天のもと、近郊のエコロジーロッジを目指す。
さて今日のグラフィティ採集をどうするか。

都市部を離れると、そっち方面はまことに心細くなる。
いわゆるピシャソン:落書きはあるのだが、こういうのには記録映像作家として食指が動かない…

これ以上、現地に近づけば近づくほど厳しそうだ。
宿からは、ブラジルで一般的なWAZEというナビのアプリを使わずにグーグルマップを使用のこと、と連絡があった。
ところがグーグルマップは運転用にはまことに使い勝手が悪い。
慣れない道だと、事故さえ起こしかねないではないか。

さて街道の脇に「CARLOS ADÃO」という記載が目についた。
人名だが、選挙か?
人名の店かなにかの宣伝か?

僕なりのカンで、なんだかよくわからないが歩留まりのスナップ撮りをしておく。
https://www.instagram.com/p/Cidy-KOLKNL/

いやはやよかった。
まもなく脇道に入り、もうグラフィティどこじゃない世界への突入となった。

宿の人にカルロス・アドンというのは何者か尋ねてみる。
知らないという。

スマホで検索してびっくり。
ブラジル中に相当数の署名をしてまわっている御仁らしい。
僕のインスタグラムをフォローしているグラフィテイロからも、彼はサンパウロのピシャソン:落書きの草分けだと教えてもらう。

グラフィティやピシャソンを地理的な分布でとらえると、洞窟壁画や縄文文化を考えるうえでのヒントにもなる。
地方でぽこっとみかける作品は、その地元の人の作品ではなく、都市部からのパッセンジャーのものであることが多いようだ。

さあこれからは森に親しもう。
日本で銅像計画まであるという森は御免被るけど。


9月14日(水)の記 聖ロックの町
ブラジルにて


今回、一泊したところはSão Roque という町。
日本語表記はまちまちになるが、サンロケとしておこう。

日本語だと聖ロック、聖ロクスなどとされるカトリックの聖人に由来する。
聖ロックは13世紀末のフランスに生まれ、ペストの治療に活躍したことから、流行病の守護聖人でもあるという。

この度のコロナ騒動で聖ロックに願をかけたという話を聞いた覚えがないのだが、たまたま僕の耳に入っていないのだろう。

ロックというと手塚治虫の初期の作品『ロック冒険記』を想い出すが、作品そのものについては覚えていない。

サンロケはワイナリーがいくつもあるところとしても知られている。
安かろう悪かろうのワインばかりという感があるが、今回は地元産の「のめる」ワインに出会った。

あとで値段を知ってびっくり。
僕が通常、スーパーなどで求めるワインと値段比でホテル価格は3倍、直営店価格で2倍。
ふだん、いかに安いワインしか飲んでいないかということでもあろうが、それでも最低価格のものの2倍ぐらいはフンパツしている。

今年のサンパウロは冷え込みが続き、まだまだワインのいただける時期。
直営店でそこそこ散財してしまった。
さあ箱入りで購入したとっておきのワイン、誰に贈るかな。


9月15日(木)の記 ピメンタ入りで
ブラジルにて


以前から気になっていたレストランへ。
事前にお店のウエブ情報をチェックしておいた。

店に入るとメニューはテーブルに表示してあるQRコードからアクセスしてくれと言われる。
が、僕のスマホからではアクセスが悪い。

ウエイターが現物のメニューを持ってくる。
飲み物のメニューも頼むと…
分厚いワインのメニュー。
ざっと値段を見ると、昨日ワイナリーで僕には高いと思ったワインよりゼロがひとつ多い。
ふたつ多いのもあるゾ。

ウエブサイトで、ピメンタ入りのカイピリーニャがあるというのを見ていた。
カイピリーニャはブラジルを代表するカクテル。
ピメンタはトウガラシやコショウのこと。

ウエイターに聞くとない、と言う。
ウエブサイトで見たけど、と言うと調理場に聞きにいった。
はい、できます、とのこと。
どのフルーツにしますかと聞かれるので、なにがピメンタに合うのかを聞いてみる。
パインとライムのミックスをすすめられる。
それでいってみる。

ベースのアルコールはカシャッサ:サトウキビの蒸留酒の普及版を指定。
さて、出てきたのは!
なんと粒の黒コショウがスプーンひとさじぐらい投入されていた。

これには驚いた。
てっきりトウガラシ系かと思っていた。

さて、黒コショウの粒もそのまま飲みこんだのでは味わいも何もない。
思い切って噛んでみると…
少ししてから効いてくる。
ひー。
決して悪くはないが。

粉にしたコショウはブラディメリーなどに自分でも投入していたが…

帰宅後、コショウのカクテル使用について調べてみる。
ポルトガル語での検索ではトウガラシ系か粉にしたコショウばかり。

ひょっとして、店でおちょくられたか?
日本語で調べてみると…
お、あった。
が、黒コショウの粒をスピリッツや塩水に長時間、漬けたものの使用のようだ。

これは、自分で試してみるか。
トメアスー移住地でちょうだいした粒コショウの在庫がまだあるはずだ。
ウオッカに漬けるか、ジンに漬けるか。


9月16日(金)の記 彼岸の悲願
ブラジルにて


そろそろ祖国は秋のお彼岸に入る。
9月20日は拙作『アマゾンの読経』の主人公にして伊豆大島富士見観音堂開祖の藤川真弘師のお命日。

無住となっていた観音堂の堂守を引き受けた横浜の伊藤修さんも、そろそろそれに合わせて入島する予定とのこと。
この伊藤さんの活動を応援してくれていた在秋田の写真家・江川正幸さんが今月8日に亡くなられた。
その江川さんらの想いを受けて、僕も富士見観音がらみで撮影したものの未編集未発表の素材を編集してYouTubeにあげることを思い立った。

9月20日に間に合わせたい。
ところが異国からの友の訪問があり。
こちらの友人から会ってほしい人がいるとの連絡があり。
さらにこちらの身内の付き添い泊りがイレギュラーに入り…

9月20日までに一部を間に合わせるにとどめるか。
それすらも間に合うかどうか。
といった塩梅で今日は買い物散策、炊事以外は編集作業…

といきたいところだが、明日は東京での拙作上映があり、僕はオンラインでトークと質疑応答を行なうのだ。
夕方ぐらいからそのモードに切り替え始める。
ちょっとアタマがこんがらがりそうだ。

いやはや、重なる時はいろいろと重なりますな。

そうそう、日本の「国葬」に対する独自の行動も計画中。
これはまず彼岸の悲願に目鼻を付けてからとさせていただこう。


9月17日(土)の記 影のあるシスター
ブラジルにて


明日は日曜だが午前中から「ますらお派出夫」として泊りに出ることになった。
なんとか一部だけでも20日に間に合わせたい動画の編集作業を進めておく。

午後から買い物とウオーキング、グラフィティ採集の外出に出る。
さあどの方向にするか。
まさしく総合的な判断…

わが家から西方のスーパーの方角へ。
オルガニック栽培のブロッコリとレタスの特売品を購入。
さてさてグラフィティは…

先日、招かれた徒歩圏ぎりぎりの友人宅にうかがう際、近くに思わぬ小径を見つけていた。
あの時は街灯の灯る黄昏時だった。
今日の午後の光では、どんなだろう。

グラフィティにおあつらえ向きのナイスな小径だ。
西日に照らされているこれがいい。
https://www.instagram.com/p/CioPGLiL6jV/

手前の女性はカトリックの修道女だろうか。
そして背後の影は…
映画『エクソシスト』に登場する悪魔バズズをほうふつさせる。

シスターを悪魔が背後から狙っているのか、あるいはシスター自身の邪な影なのか。
味わい深い作品だ。

場所といい、絵柄といい、思わぬ掘り出しものに出会えた時の喜び。


9月18日(日)の記 バガブンドのジャポネ―ス
ブラジルにて


今日は昼前から「ますらお派出夫」のおつとめ。
出先のありものとわが屋から持参したもので昼、夜とお炊事。

午後、ウオーキングとグラフィティ採集に出る。
このあたりは倉庫類が多く、近年は中の上クラスの高層住宅が続々と建てられている。
いっぽうその隙間にファヴェーラ:スラムが築かれている。
しかしこのあたりのはリオの随所やサンパウロの南部のようなヴィジュアルにダイナミックにわかりやすいものではない。
たとえば鉄道の廃線のあとにシロアリの蟻道のように構築されているのだ。

今日の日中は太陽も顔を出し、汗ばむような陽気となった。
フェヴェーラと境をなすあたりにそこそこの人数が湧き出している。
日向ぼっこをしながらだべったり缶ビールをあおったり、少年たちはタマを蹴ったり走り回ったり。

小学生高学年ぐらいの少年が僕を見て歌う。
ラップのノリといったところ。

♪ジャポネ―ス、バガブンド…
ニホンジンのバカボンドが、といったところ。
相棒と笑いあっていて、こちらはマスク着用だがニヤリとして歩き去る。

たしかにバガボンドである。
スラム暮らしの少年からもバガボンド呼ばわりされるとは、相当なものだ。


9月19日(月)の記 ネズミモチのうたがきこえる
ブラジルにて


明日中になんとかアップしたい動画の編集作業があるのだが…
在サンパウロの邦人の友から、彼の知り合いがぜひ僕に会いたいという。

自分の貯金をぜひオカムラサンにつかってもらいたい。
そんな話かもしれない。
思い切って都合をつけるが、予想通りそんな話ではなかった。

その友人宅に思わぬ知人がやってきて思わぬ話も出てきて、それなりに盛り上がってしまったが。
近くに生えているネズミモチの実をピンガ(蒸留酒)に漬けたという秘蔵酒をいただく。
これがアルコール感がなく、ちびちびすするのによくて。

その瓶を見ると、先週僕がアルコールに漬けてみた黒コショウによく似た実がごっそり沈んでいる。
黒コショウよりひと回り粒が大きい感じで、色といいシワシワといい印象はネズミの糞。
ネズミの糞の形状は球形ではないのだが。

ずばりネズミモチという名前もそこから来ているらしい、という酒のうえの話。
・・・ネズミウンチならわかるが。
クソがモチに化けるのか?

帰宅後に検索。
その名の由来は果実がネズミの糞に似て、姿や葉がモチノキに似ているからだという。
ちょっとアバウトな合成名すぎるのでは…

ネズミモチそのものは本来こちらにはなく、どうやら日本人移民が持ち込んだらしい。
分布は日本では関東以西とあり、僕が名前以外にはなじんでいなかったのもそのせいかもしれない。

ネズミの糞には建て直し前の実家でだいぶ親しんだけど。

だいぶ飲ませていただいてしまったが、ふしぎと酔っ払った感がない。
ありがたや、すっかり長居をしてしまったが、帰宅後も作業ができるぞ。


9月20日(火)の記 アマゾンの読経がきこえる
ブラジルにて


いよいよ9月20日当日。
二日酔いにならないという触れ込みの昨日のネズミモチ酒も、なにか薬用効果を発したようでいつものダルさがない感じ。

朝から粛粛と『伊豆大島霊異記』の編集作業。
午後から日毎の糧の買いもの。

アパートに帰宅したところで国勢調査への協力を頼まれる。
日本相手の追い込み仕事中で、いまはそれどころではないと言うが…
世話にもなった顔役の頼み、10分足らずということで引き受ける。
・・・後味の悪い思いをすることになるが、これはまたいずれ。

今日明日と二日間の断食をすることにした。
夕食準備御免となったので、ひたすら編集。

『その後の「アマゾンの読経」 伊豆大島霊異記/西暦2016年 第一巻・かけ橋のお掃除』をブラジル時間9月20日のうちにYouTubeに限定公開でアップ。

まずは主な関係者にリンクを伝える。

今年は伊豆大島富士見観音開祖の藤川真弘師の三十七回忌にあたる。
拙作を見てこの観音堂のことを知った世間師・伊藤修さんが無住となっていた観音堂の堂守を引き受けることになった。

横浜で仕事をする伊藤さんは台風騒動のなか、今年も有志と伊豆大島に渡って法要をされたはずだ。


9月21日(水)の記 LEPTTO
ブラジルにて


断食二日目。
初日より楽な感じ。

昨夜までの『伊豆大島霊異記』アップ作業で疲れた。
だがさっそく関係各位への連絡で、なかなか気が休まらない。
しかも経済的見返りはないという罰ゲーム状態。

午後、買い物とウオーキング、グラフィティ採集…
今日はあまり遠出をする気になれない。
いっぽう近場はひと通り刈り尽くしているので、グラフィティ探しが難儀。

昨日に引き続きステッカー類でもなにかないかな…
お。
なんだこれは。
雨傘を持つトトロを彷彿させる。
https://www.instagram.com/p/Cix7ZghPXfq/
こちらはおそらくネズミで、頭と胴体が分かれている。
LEPTTOと書かれているが、作者の名前か。
こうしたステッカーの作者はタトーの彫師でもあることがしばしばだが、これもその口か。

検索してみるが…
インスタグラムにもヒットなし。
あ。
ひょっとして。
あれはなんといったっけ。
キーワードで検索。
日本語でレプトスピラ症。
ポルトガル語でLeptospirose。

主にネズミが媒介するヒトの感染症だ。
ブラジルは流行国の筆頭。
日本でも1970全台前半までは年間50人ほどの死者を出し、現在でも沖縄などで発生しているという。

レプトスピラ菌はネズミやイヌなどの尿から排泄される。
大雨・洪水のあとなどが要注意とのこと。

ネズミと雨を描いたこのステッカーは感染症の啓発でもあった。
作者はタダ者ではないな。

人類はコロナにとどまらないあらたな感染症多発の時代を迎えているとの警告がある。
そして台風などの大雨と温暖化の進む祖国日本。
レプトスピラ症が新たに流行を迎える可能性が十分ある。

ところで祖国のデング熱はどうなったか?
2019年夏のあれは、なんだったのか?

あの時、東京での発生の直前に当時の安倍首相を乗せた特別機がデング熱流行国のブラジルから日本に戻ってきたと記憶する。
いかにもの土産物を持ち帰った可能性も、なきにしもあらず。


9月22日(木)の記 今日の聖リタ
ブラジルにて


なんとか気を取り直して『伊豆大島霊異記』第二巻の編集作業に着手。

今日はカトリックの聖人・聖リタの日本式にいう月命日。
記念のミサのある教会で午後3時のミサにあずかる。

ここの神父さんの説教は僕にも聞き取りやすいのだが…
恥ずかしながら具体的なことは記憶になくて。
今日も紅いバラをもらってくる。

アマゾンのマナウスにあった『紅いバラ』という強烈なカラオケを想い出す。
そのカラオケの女将の名は、ずばりローザ。
彼女と縁のあった日本のテレビマンの名前が思い出せない。
ま、この話はここではこの辺で。

帰りに天然発酵のパンを売る店に寄る。
Bulkaという菓子パン風のものを試しに買ってみる。
どこの言葉かと思って聞くと、ポーランドだそうだ。


9月23日(金)の記 聖ピオとフリーダ
ブラジルにて


今日はカトリックの聖人・イタリアのピオ神父の祥月命日。
サンパウロ市内でもいくつか記念ミサがある。
これも不思議な縁で知った、セントロ:ダウンタウンにある古い教会の午前10時からのミサに思い切って行ってみることにした。

開始10分前ですでに聖堂内は座れる余地なし。
コロナ対策が気になっていたので、入り口付近に立って参加することは喚起上、むしろ好都合。

なおも人々が集まってきて、新約聖書の世界のような混乱も。
15分ほど遅れて始まったミサは、なんとラテン語だった。

ミサ終了後に、聖像行列があるという。
今日は東洋人街での買い物もあり、わが家での追い込み作業もあるのだが…

そもそもこの一帯はスマホの取り出しもはばかれる危険地帯。
行列の前後には警察も同伴するので、近くのグラフィティ相把握のいい機会だ。

行列のルートを先回りして…
おお。フリーダ・カーロの肖像のグラフィティ!

これとこれからやってくる聖像をワンショットで収められるだろうか?
狙う。
・・・
パーフェクトとはいかないが、まあ及第点かも。
https://www.instagram.com/p/Ci3qBV7rz-K/

そのあとの行列にも同行して、思わぬところに。
これは立教大学ラテンアメリカ研究所の諸姉に報告しよう。

ひょっとして、フリーダと聖ピオの接点はあったのだろうか?
帰宅後にざっと検索してみるが、不明。
この世での生存期間は重なっているが。


9月24日(土)の記 コラージュ川柳
ブラジルにて


本日付の当地の邦字紙『ブラジル日報』を開いて、ぎょっとした。
堂々ページ全面を2枚使って故・安倍晋三をたたえる記事が展開されている。

全8ページのうちの2ページである。
とりあえず見出しぐらいしか目を通す気がしない。

現在、手がけている『伊豆大島霊異記』第二巻の目鼻がつき次第、9月27日限定公開の作品の作業に入る予定であわただしいのだが…

1-2か月前になるか、ツイッターで「コラージュ川柳」というものの存在を知った。
https://twitter.com/collage575
「新聞紙の言葉を切りとってつくる川柳」である。
なんとも奇想天外なできあがりに惹かれた。

脳トレにも格好ではなかろうか。
まずはこういうものを面白がれるセンスが必要だろうが…

ブラジルで唯一となった邦字日刊紙『ブラジル日報』の紙面でこれをやってみようと思い立った。
ある程度の量を切り抜いて、2作ほど腹案もあった。

A4の白紙を二つに切り、ストックの切抜きをノリで貼ってスマホで撮影。
まずは一句、ツイッターに投稿してみる。
https://twitter.com/junbrasil/status/1574047461894754309

そもそも当地の邦字紙には俳句や川柳の投稿欄の分量も多い。
これもほとんど目を通すこともないのだが。

こちらの日系社会も、こうしたコラージュ川柳的なものをを面白がれるようだとだいぶ違うのだろうけど。


9月25日(日)の記 ラザロとイヌ
ブラジルにて


ラザロという名前の知人は意外と思い当たらない。
すぐに思い出すのは、パラナ州の土地なき農民たちの入植地のラザロさん。
拙著で紹介した、農家の居間にずどんとサルガドの写真を飾っていた人である。
佐々木治夫神父はこのラザロさんのことを友人と呼んでいた。
ずばり篤農家のイメージを僕は抱いた。

今日のカトリック教会のミサの福音朗読は「金持ちとラザロ」のたとえ話。
新約聖書には、イエスの友人で死後にイエスが蘇らせるラザロという人物が登場するが、そのラザロとは別人らしい。

「金持ちとラザロ」のたとえでは贅沢づくしの生活を送る「金持ち」は名前もなく、その金持ちの家の前で横たわっている貧しい人はラザロという名前で語られるのが面白い。

そのラザロは体中ができものだらけで、イヌがやってきてはそのできものをなめたという。

僕は干支こそイヌだが、イヌを飼ったことも親しくしたこともない。
身近な医療関係者にイヌというのはヒトの傷口をなめたりするのかと尋ねてみるが、わからないという。

自分の傷口に昆虫類がたかってくるのは僕も経験している。
ミネラル分などを摂取しようとするのだろう。

イヌの場合はどうだろうか。

ざっと検索してみると…
そもそもイヌが自分の傷をなめることはよく知られているようだ。
ズーファーマコロジーと呼ぶそうだ。
イヌの唾液には抗菌作用もあるので理に適っているという。
集団の場合は自分でなめられない傷を仲間がなめることもある由。

して、イヌがヒトの傷もなめるのか。
親しい関係の場合はあるようだが、その理由はよくわからないという。
そのヒトを親しい仲間だと判断していることは確かなようだ。

以上から考えると、路上のラザロのできものをなめたイヌは野良犬だろうが、ラザロは野良犬に親しまれて仲間と受け止められていたのだろう。

さて、このラザロと金持ちの死後の話をイエスは語る。
よく知られる話だが、興味のある方は「ルカによる福音書」第16章をご参照ください。
「金持ちとラザロ」で検索してもすぐ出てきます。

ラザロは路上に暮らす貧しい病人でもイエスに名前で呼ばれ、野良犬にも親しまれる存在、と気づく。

・・・日本語で検索すると、このエピソードについての解釈・説教が相当数出てくる。
上部のものをいくつか読んでみるが、イヌがラザロのできものをなめていたことに突っ込んだものは見当たらず。


9月26日(月)の記 雨の歩道橋
ブラジルにて


雨だ。
街も地面もからからだったし。
サンパウロの貯水池は渇水気味のようだし。

日本時間の9月27日に合わせて拙作「富山妙子 自作を語る『桜花幻影』」を期間限定でオンライン公開する手はずをととのえて、まず事前に関係者にリンクを伝えておく。

午後、家族の用事で運転手役。
燃料をどこのポストで入れるか。

さて今日のグラフィティをどうするか。
雨降りがばかにならなくなってきたが、こちとら野球帽ひとつである。
帰路に車をとめて、こころあたりをまわる。

これにするか。
https://www.instagram.com/p/Ci_yEpeNDsr/
雨の歩道橋。

日本は27日に突入。
YouTubeにあげた『桜花幻影』にもアクセスが続き、さっそくリアクションも入ってきた。

で、やるのか、国葬。


9月27日(火)の記 棄民と国葬
ブラジルにて


昨日、日付の変わる前に「富山妙子 自作を語る『桜花幻影』」を9月27日期間限定としてYouTubeで公開設定にした。
https://www.youtube.com/watch?v=Ejtrpcdsd84

こちらの日付が変わり、ツイッターをはじめSNSで次々と情報が入ってくる。
拙作へのアクセスも続くが、特にトラブルもなくなにより。

改めて自分を富山妙子さんにチューニングする格好の機会となった。

さて、今後はどうするか。

まずは中断していた『伊豆大島霊異記』シリーズの編集を再開しないと。
9月中にどこまでできるか。

先日、気づいたことがある。
『伊豆大島霊異記』は伊豆大島にある富士見観音堂にまつわる記録だ。
この観音堂の開祖は藤川真弘師、俗名藤川辰雄。
日本海外移住家族会(海家連)事務局長時代に中南米の日系人を現地に訪ね、その悲惨な状況に驚き、それを日本で訴え続けた。
当時、移民を創出した祖国のメディアは、ほんの一握りの成功者のサクセスストーリーを伝えるばかりだったという。

政府と移住推進機関に忌み嫌われた藤川さんは、現地で無縁仏となった同胞があまりに多いことに心を痛める。
高野山で得度をして、私財を投じて建立したのがこの観音堂だ。

藤川さんは山口の人…
山口といえば。

藤川さんは自民党代議士の田中龍夫の秘書だった人だ。
田中龍夫は田中義一の息子である。
田中龍夫は韓国ロビー、中南米ロビーとして知られ、藤川さんを海家連の事務局長として、ともに中南米を回っている。

岸信介と田中龍夫の関係を調べてみよう。
岸の名前は敗戦後のブラジル日本人移民史にもたびたび登場し、岸自身が複数回、ブラジルを訪ねている。

藤川さんは西暦1986年9月20日、ブラジル・アマゾナス州の浸水林で失踪を遂げるが、無縁仏の供養に命を捧げた入水と見られている。

日本国の棄民と無縁仏に生涯、そして一命を捧げた藤川さんの埋もれた足跡と情念を浮かび上がらせることが、僕なりのこの国葬へのアンチテーゼになりうるかもしれない。


9月28日(水)の記 不正の富
ブラジルにて

不正の富で友達を作りなさい。
そうすれば、富がなくなったとき、あなたがたがたは永遠の住まいに迎え入れてもらえる。
「ルカによる福音書」第16章


紙のモノがおいそれと捨てられない性分で困っている。
日本では「典礼のしおり」などと呼ばれるが、こちらのカトリック教会でも日曜のミサではその日のミサの概要を刷ったものをくれることが多い。
日曜は何回かミサがあるせいか、これはミサ終了後、回収のために立っているスタッフに渡すのが一般的のようだ。
しかしこれには最後のページにその日の聖書朗読についての解説が新聞の社説のように然るべき分量で書かれている。
これをミサ中に読みこなすのは不可能で、この刷りものは持ち帰って読んだ方がいいのではないか。

という思いから持ち帰り、メトロのなかででも読もうかとポシェットなどに入れておくがたまってしまうことがしばしば。

今日、目についたのは9月18日付のもの。
この日のテーマが冒頭に掲げたイエスの言葉で「『不正な管理人』のたとえ」と呼ばれている。
解釈がむずかしいので、興味のある方はご自身で検索されたい。

サラッと読むと…、
それなら何度も葬儀を行ない、われわれ日本国民・市民の血税を大英帝国の女王の国葬以上の金額をかけることにまでなったあの人物の生前の諸々が、イエスのことばに沿っているようにすら思えてしまうではないか。

そもそも旧統一教会も日本の担当省庁ではキリスト教系に分類されているという。
僕の学生時代にも統一教会の人たちは「聖書に関心ありませんか?」と聖書でこっちを釣ろうとしていた。
それだけ聖書がオイシイえさだとわかっていたのだろう。

このあたりでイエスとキリスト教にはつまずきがちで、敬遠忌避されてしまうというもの。
先日のラザロのこともそうだったが、この箇所もウエブ上で解釈を調べると上位に出てくるものはプロテスタント系の教団や牧師によるものばかりで、カトリック系のものがすぐには見当たらない。
プロテスタントも玉石混交だが。

いずれにしろイエスの言葉は意味の取りにくいものが少なくなく、カルトなどに都合よく解釈されてしまいがちなので要注意。
よき指導者、よき解釈書がないとまさしく邪道外道に迷い込んでしまう。

僕なりに、日本語でよく原点を読み込んでみる。
「不正な管理人」は主人から借りのある人たちを呼んで、それぞれに証文をごまかすように勧める。
しかしそのごまかした分で自分が金銭物品名声などの得をしようとしたとは書かれていない。
国民市民の血税を用いて自分の身内友人支持者たちでおいしい思いをして、さらに売国まではかった国賊とは峻別しなければならない。

いわばイエスのすすめたありかたは義賊のすすめ、といったところか。
ほんらいこの世の富はすべて神に属するというのがキリスト教の考え方だと思う。
この世で富を持つ人から借りを持つ人たちに、自らの権限で不正を勧めてそれを軽減させる。
そうした私利私欲ではない義賊的な行為が、結果として友達をつくることになり、いざ自分が困ったときに助けてもらえるということか。

かつて満州や朝鮮を大日本帝国が属国・植民地にしていた頃、ほんらいの住民である中国人や朝鮮人によくしていた人は日本の敗戦が決定的となり、さんざんおいしい思いをしてきた支配者層と軍幹部がわれ先にと逃亡した後に現地人からかくまい助けてもらったというエピソードを想い出す。

自分でよくわからないイエスの言葉を、他人の解釈をうのみにせずに原典を読み込むことで少しは理解が深まった/つまずきを回避できたかもしれない。

ちなみに日本の国葬の被葬者の自宅のある場所は「富ヶ谷」。
年間2億円の国費がその警備のために使われているという。


9月29日(木)の記 商業主義捨て
ブラジルにて


まもなく終わってしまう、気にかけていたアート展がいくつかある。
今日にでも、とも思ったが…

富士見観音開祖の藤川さんの祥月である今月中に『伊豆大島霊異記』全四巻の編集をいったん目鼻をつけたい。
アート巡礼は明日、あるいは明後日にするか…
週末からまたお泊りの用事が出てきたし。

このばたばたですっかり遅くなってしまった。
先回の飯田橋Wild Pitch上映会に参加され、刺激的なコメントをくれた共同通信の佐々木央さんの連載記事「岐路から未来へ」とその単行本について、ようやく画像込みでフェイスブックに上げる。

佐々木さんが訪日中の僕の大阪と東京の上映会に参加して取材、記事が日本全国各紙に配信されたのが西暦2014年。
単行本となったのはその翌年だ。

久しぶりに読み直して、背筋を正さねばと思う。
わがことが描かれているものの、ベテラン記者の腕前に舌を巻く。
限られた字数のなかで…
海水を天日で乾燥させて凝縮したような、うまみとにがりを感じる思い。
新聞記事といえば大半が読み捨てだろうが、こうした書籍にも収まるマスターピースもある。
見出しに「商業主義捨て対象に迫る」とある。

まさしく商業主義は捨ててしまったが、かといって生きていくにもなにをするにもカネがかかる。
なにかボロい話は…
そういうのは例によって利用されるだけがオチ。

先日もこちらの友人を介して、僕に会いたいという日本の映像ギョーカイジンがいた。
なにか日本の役所からしかるべき予算の取れる仕事があるらしい。
もちろん僕がそんなのに関わるべくもない。

ひょっとして、ぜひオカムラサンに使ってほしい、とアッと驚く金額のカンパの申し出ではないか?
会ってみると…
話からして先方は僕に会いたいと言ってきたものの、いまや簡単に無料で見れる僕の動画、無料で読める僕の書きものをなにかしらチェックしたというそぶりもない。
話が盛り上がるべくもない。

商業主義捨て、諸行無常。
それにしてもただいま佳境に入りつつある『伊豆大島霊異記』はその最たるもののひとつ。

家族に申し訳なし。


9月30日(水)の記 つごもりアート巡礼
ブラジルにて


寒いし、雨だし、やることいっぱい…
行かない理由はいくらでもあるが…

ホームワーク組の家族との昼食後、思い切って行く。
まもなく終了のアート展のハシゴ。
それぞれいろいろな発見あり。

どころか、知らずにいたら恥ずかしくもあるマスターピースの存在も知る。
IMSのブラジル近代映像展。
19世紀から20世紀初めまでの映像回顧。

どうしてこの時代の写真はこんなに味があるのか。
そして、
太陽の下、新しいものは何ひとつない。
というコヘレトの言葉を痛感。





 


前のページへ / 上へ / 次のページへ

岡村淳 :  
E-mail: Click here
© Copyright 2024 岡村淳. All rights reserved.