6月5日(水)の記 朗読劇『蛍火』 (2024/06/06)
朗読劇『蛍火』 ブラジルにて
さあ、急ぎの原稿もどうやら担当に査収いただけたようだ。 さっそく先回の訪日がらみの残務に取り掛かる。
広島訪問の際に知己を得た久保田修司さん作・演出の朗読劇『蛍火』をYouTubeで鑑賞。 フライヤには山田洋次監督や吉永小百合さんの言葉も寄せられている。 100人を超える広島市民がプロ・アマの垣根を超えて手弁当で集っての上演の由。 https://www.youtube.com/watch?v=5C7Qdcg71VY
舞台の右側に声優たちが座り、左側に楽器グループが位置する。 中央にはスクリーンが吊るされて、ここにイメージ画が投影される。 時折り舞台上で俳優陣のパフォーマンスも展開される。
物語は、現在の広島のある家族が、家族写真にある故人の想い出から被爆体験をさかのぼっていく。 丹念なリサーチの賜物だろう、ディテールの語りのリアリティに引き込まれ、1時間41分の長尺も飽きることがなかった。
たとえばこんなセリフは何度かプレイバックをして書き留めた。 「私が笑うと喜ぶ人がおるんじゃ」。 なるほど、これは演劇や劇映画、アニメや活字、マンガよりこの方法がぴったりだと感じ入る。
主人公である、被爆によりひどい火傷を負って全身にガラス片も浴びたという女性を始め、被爆の恨みはひたすらアメリカに向けられている。 いっぽう東京大空襲で数時間で10万人あまりの死者を出し、沖縄が陥落しても終戦に踏み切らなかった天皇や軍部の存在はスルーされている。 大火傷を負った少女を撮影したというアメリカ人、そしてその少女がのちに被爆体験の語り部としてアメリカを訪問するというエピソードが盛り込まれるが、第二次大戦後の朝鮮戦争やベトナム戦争に触れられることはない。
エンディングはアメイジンググレイスが演奏されるが、なんとこのメロディーに合わせて峠三吉の原爆詩集の「ちちをかえせ」が歌われるのだ。 これには特に違和感が残った。
記録文学者の上野英信は広島で被爆して長年、原爆症で苦しむことになる。 彼はアメリカ人への殺意を正直に書いているが、いっぽうで生涯にわたって反天皇制の思いを貫き、書き続けてきた。
多くの広島市民が参加となると、後者の思いは削除せざるを得ないのだろうか。 昨今の富山妙子の展示から彼女が訴え続けた反天皇・反安倍政権・朝鮮人従軍慰安婦問題のメッセージが削除されているのと同様に。
アメイジンググレイスについて検索してみると、これはプロテスタント教会の讃美歌であり、アメリカの「第二の国家」とされている由。
それを知る前に「ちちをかえせ」にはどんな曲がふさわしいかを考えてみた。 『君が代』のメロディがあうのではないか。
(後日譚:広島の久保田修司さんに忌憚のない感想をメールでお伝えしたところ、これから続編の執筆に入ると教えていただいた。期待したい。)
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