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熟年クラブ連合会
     エッセイ  (最終更新日 : 2019/02/15)
2013年12月号

2013年12月号 (2013/12/13) 五十数年ぶりの百人一首

サンパウロ中央老壮会 永田美知子
 サンパウロ熟年クラブ本部で毎月第一と第三月曜日に百人一首のカルタ会があります。
 いつも七、八人の常連がいて、田中保子さんが色々お世話をして下さり、皆持ち寄りのご馳走でカフェをし、毎回、冗談を言ったり、ニュースを交換したりしながら、楽しくカルタを取って、娘時代に戻ったような気分になり満足して帰途に着きます。
 七、八人の常連の中、男性は中山保巳さん一人のみで、口うるさい女たちに囲まれて、ちょっとお気の毒のようですが、毎回、欠かさずに出席します。時たま鳥取県人会のカルタ会の橋浦さんがお見えになり、ベテランの風格で女性群を圧倒されます。
 熟年クラブにはどなたが寄贈したのか分かりませんが(戸塚マリさんです)厚さ五ミリ位の朴の木で作った取り札があり、その木札に墨書した立派なカルタがあります。私たちは最初はその木札を赤毛せんを敷いたメーザ(テーブル)にバラバラに並べて自由に取り合います。
 後で源平に別れて五十枚ずつ並べ、赤組、白組、三人対三人、時には四人対四人になって競争します。相手側のを先に取ると、一枚札をあげ、取られた時にはお返しを貰うという具合で先に取り札がなくなった方が勝ちとなります。同時に手をついた時はジャンケンをして決めたり、熱が入ってくると、キャアキャア言って賑やかで面白いものです。
 みんな七十代、八十代のお婆ちゃん連中ですが、カルタを取り始めると、娘時代に戻ってしまいます。特に読み手が「天の風…」と言いますと、みんなの手が一斉に「ハーイ」と集中します。下の句は「乙女の姿しばしとどめむ」というので、みんなの一番人気のある札だからです。しかしいつも黒一点の中山さんに取られてしまいます。中山さんの得意中の得意札だからです。
 「君がため春の野に出て若菜摘む…」なども人気のある札で、下の句は「わが衣でに雪は降りつつ」なんですが、時々間違えて「わが衣では露にぬれつつ」を取ってお手つきをしてしまう事もあります。微妙に似た歌があるのです。
 私たちが愛好している小倉百人一首とは、奈良、平安時代の歌人の歌を一首ずつ集めたもので、藤原定家が京都の小倉山の山荘で選んだのでこの名があると伝えられています。
 第一首目は天智天皇の歌で
 「秋の田の刈り穂の稲のとまをあらみ わが衣では露にぬれつつ」
でありあと中学、高校の教科書に載っている歌では、
 「あし曳の山鳥の尾のしだりをの 長々し夜をひとりかも寝む」柿本人麻呂
 「春過ぎて夏きにけらし白妙の 衣ほすてふ天のかぐ山」 持統天皇
 「人はいざ心も知らずふる里は花 ぞむかしの香に匂ひける」紀貫之
 「天の原ふりさけみれは春日なる 三笠の山に出し月かも」安部仲麻呂
 「田子の浦に打ち出でて見れば白妙の 富士のたかねに雪は降りつつ」山部赤人
 「巡り合ひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かな」紫式部
 「花の色は移りにけりないたづらに 我が身世にふるながめせしまに」小野小町
 「忍ぶれど色に出にけりわが恋は 物や思うと人の問ふまで」平兼盛
 「夜をこめて鶏の空音ははかるとも 世にあふさかの闇はゆるさじ」清少納言
 などなど思い浮かぶままに並べてみましたが、ご存知の歌が幾つかあるのではないでしょうか。
 私は小学校五、六年頃、お正月が近づくと、父が夕食後、百人一首を出して、読み札で坊主めくりをしながら段々慣れ親しんできたように思い出します。
 太平洋戦争が激しくなると、それも出来なくなり、私が女学校一年の夏に終戦となってから、私の故郷は栃木の田舎町でしたので、一度だけ空襲されましたが、割合平和な日々を送ることが出来ました。
 終戦後、アメリカ軍が進駐して来て、学制改革が行われ、小学校六年、中学校三年、高校が三年という制度になりました。旧制女学校に入学した私たちはその後、新制の中学、高校と六年間通う事になります。
 戦時中は川原を開墾し、大豆やさつま芋等を作ったりし、勉強はあまりできませんでしたが、私の家は農家でしたので、余り苦労もせずに過ごせました。
 私たちは学校の放課後、机を並べて百人一首を取り始めました。文学好きな仲間たちが集まって夕方まで遊んでいた事もあります。
 我が家ではお正月ともなると、愛好者を招待して、カルタ会をよくしました。また、町の愛好者の家に招かれて、父と二人でよくカルタ会に出かけました。
 普通、百枚の札を一人二十五枚ずつ受け持ち、二人一組になって、四人で競い合うわけです。
 畳の上に札を並べ、相手方の札とにらみ合って、どこに、何の札があるか、頭に入れます。特に自分の好きな札はどこにあるか、いち早く頭の中に入れておきます。真剣勝負の構えです。
 運動の苦手な私もこんな時には一生懸命歌を覚え、百枚の歌をほとんど覚えて、父とも五分五分に対決できるようになりました。母はいつも読み役でした。
 こんな楽しい娘時代を送っていたのですが、ブラジルに農業移民として渡伯して来ました。百人一首はお茶箱に入れて持って来たのですが、アリアンサにいた時代は一度も開く事はありませんでした。体調を崩し、農業をやめて、グァルーリョス市に移転してからも余り百人一首を知る人もなく、渡伯以来、五十数年、手に取る事もなく過ごしていました。
 今年の初め頃、熟連の百人一首の会に入れて頂き、ようやくカルタ会に参加するようになりました。初めは中々歌を思い出せず、戸惑っていましたが、最近、ようやく昔取った杵柄(きねづか)で思い起こし、面白く取れるようになって来ました。
 新しい友達もでき、老人の呆け防止にもなり、楽しい気分になれて、有意義な老後の生活を送ることが出来、大変嬉しく思っております。

※かるたは読み札と取り札とに別れており、読み 札の方は短歌の三十一文字が一首ずつ書かれ、 作者の絵が色刷りされています。紫式部や小野 小町など、女性歌人は十二単衣(ひとえ)を着、 髪を長く垂らした平安朝の美人が画かれてあ
 り、西行法師のようなお坊さんは坊主頭にけさ 衣の僧侶の姿が書かれてあり、他の男性は平安 貴族や節の絵が画かれています。そしてそれぞ れに名前が記されています。
 取り札の方は短歌五・七・五・七・七の下の句 七・七の文字だけ平仮名で書かれています。


与古田さんと朝顔

サンパウロ中央老壮会 遠藤タケシ
 この頃、毎朝外に出て「今日は何個の朝顔が咲いているのかな?」と見るのが楽しみの一つのとなっています。四メートルも高く上って咲く花は特に美しいです。種を蒔き、一番最初に咲いた時より、花は少し小さくなったようですが、あの濃い紫色はブラジルの花の色とは違います。やはり日本の色です。もう、何世になるかは知りません。ただ、現地化したのか、一年中咲くようになりました。
 『種』は何年か前に熟連へ行った時、前シニア・ボランティアの与古田徳造さんが「この種を蒔きつける人はいないか?」と言うので私が貰ってきたのです。
 今、与古田先生が病気を乗り越え、元気になられたというので、なおさら思い出の花となっております。
 『花』は私はどんな花でも大好きです。何も高級な花でなくても自分の手で種か接木から育てると、私の愛情が分かるのか、よく育ってくれます。
 うちには日本、ペルー、チリ、アルゼンチンやブラジル東北伯、パラー州などから持って帰ってきたものがあります。毎朝十三、四種類の花が咲くので、蝶やベージャフローの鳥などが来ます。どうしてここに花があるのを知る事ができるのか不思議です。
 やはり、趣味は大切ですね。特に安くて楽しいものが一番だと思います。
 最後になりますが、どうか与古田先生、一日も早く全快して、ブラジルにいた時のようにバリバリの男になって下さい! 遠くブラジルから大勢の会員が心より願っています。ありがとう!チャオ。


シネマ放談(23)

サンパウロ名画クラブ 津山恭助
◇鬼平の魅力
 実を言うと私は時代劇の熱心なフアンではないのだが、「鬼平犯科帳」だけは例外でコレクションにつとめ一二〇本ほど集めた。
 このシリーズ、ほとんどがテレビ放映で映画になったのはごく少ない。原作は池波正太郎のベストセラー短編小説集で全部で一三〇本ほどがテレビ化(フジテレビ)されている。内容は火付盗賊改方長官・鬼平こと長谷川平蔵の捕物控なのだが、元盗賊である密偵たちの活躍がみもので、彦十(江戸家猫八)、小房の粂八(蟹江敬三)、おまさ(梶芽衣子)、五郎蔵(綿引勝彦)等いずれも適役で緊張感を盛り上げる。主人公の鬼平に扮する中村吉右衛門は原作者の池波が生前「正に天の配剤だ」と激賞したほどのはまり役と言えよう。
 平蔵が剣の達人で数知れぬ修羅場をくぐってきたスーパーマンに設定されているのは当然だが、それでももはやこれまで、という危機にも直面させられる。同門の剣友で盗賊改メの仕事を手伝うのが大好きな岸井左馬之介(江守徹)の思いがけぬ助太刀に一命を取りとめる「兇剣」、援軍を求めに行った使者が暴れ馬に蹴られて通知が遅れた「血闘」、狂気じみた剣の使い手の殺人鬼と対面する「本門寺暮雪」では何と柴犬の機転で救われている。「兇賊」では執拗であくどい網切りの甚五郎(大杉漣)の襲撃にあう。
 ここで私の選んだいくつかの作品を挙げてみよう。好みから言うと私は手に汗にぎる活劇調よりむしろ人情話が絡んだしっとりとしたものに惹かれてしまうのだ。肺を病み余命いくばくもない大工の万三(高橋長英)を目こぼしして小づかいを与えて恋人のお元(一色彩子)とともに江戸を立ちのかせる「深川・千鳥橋」、宿場女郎から育てて貰った過去を持つ密偵の伊佐次(三浦浩一)が娼婦のおよね(池波志乃)に心を寄せる「猫じゃらしの女」、敵持ちの元武士・萩原宗順(宍戸錠)が町医者として市民のために尽くす「のっそり医者」、平蔵が助けて老武士・市口瀬兵衛(中村又五郎)の仇討ちの本懐を遂げさせる「寒月六本堀」、心ならずも悪の道に入ったお百(光本幸子)が少女時代に平蔵から受けた恩を忘れずに、わが子文蔵(沖田浩之)の悪事の計画をたれ込んで自殺する「密告」、恩のある元親分のおかみさんと娘のために力をしぼる痔疾持ちの泥亀の七蔵(名古屋章)の罪を見逃してやる「泥亀(すっぽん)」等々が強く印象に残っている。
 特筆すべきはこのシリーズの巻末にギターのテーマ曲にのって写し出されていく江戸の風物絵巻でこれが凝っていて楽しい。まず梅の花の点景、続いて満開の桜の花の中、堀川を舟が進む。土手の手前の川を屋形舟が流れ、遠くを駕籠が横切って行く。あじさいに雨が注ぐ。横なぐりの雨の中、下町にかかった橋の上を番傘をさして急ぎ行き交う男女の姿。舞台が代わり寺の境内の茶屋風景。川端の夕涼みに花火が上がり見上げている娘の手には団扇。神社内の廻廊の人の往復、赤く染まった見事な紅葉。夜更けの町に粉雪が舞い、屋台の蕎麦を啜っている客。何とも余韻の残る印象的なフィナーレである。
 なお、池波正太郎には「鬼平犯科帳」のほかにも「仕掛人、藤枝梅安」「剣客商売」の評判シリーズがあり、多くのフアンを魅了してきている。


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