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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2005年7月号

2005年7月号 (2005/07/07) 俳句 (選者=栢野桂山)


住み着いてこの貫禄の竃猫
歓喜樹やブラジル称ふ老ニグロ
【伊津野静】

評:
 ペルシア系などにはかなり巨きな猫が居り、長らく棲み着いていると、家の主のように堂々たる貫禄を見せ、火を落した竃より出て来てもその威厳を崩さない。


大きくて一つの富有食べ切れず
われと同じ台湾生まれの梅熟るる
【彭鄭美智】

評:
 台湾梅はボツカツの孫さんによって広められるが、生命力が強く植えて四年目から成りはじめるが、小粒で果肉が薄く、梅の原種であろうか。この梅はわれと同じ台湾生れであると親しみ、梅漬を好んで食べる美智さん。


故里の娘に迎えられ春炬燵
故里の行く手行く手の水仙花
【遠藤皖子】

評:
 何かの理由で別れわかれになって、日本で暮していた娘と何十年ぶりかに訪日して逢い、積る話しは尽きなかった。今年の日本は春になっても雪が積って炬燵は放せなく、艶な雰囲気のある布団での母娘の会話の楽しさは、春炬燵のほかほかした暖かみと共に地球の裏まで伝わって来る。


薄雲のかかる今宵の十三夜
奴隷の日あるブラジルの今昔
【玉井邦子】

評:
 ブラジルは幾多の紆余曲折の末、一八八八年五月十三日に摂政イザベル皇女によって、奴隷解放令が実施され、黒人が鉄鎖から解かれ自由の身となった。昔のこの国の農産業は、悲惨な運命に泣いた奴隷によって支えられ発展したが、さて現在の黒人層の生活は如何に?と、問い掛ける作者。


ふるさとを巡り八十路の母の秋
ポルチナリの壁画ある寺秋高し
【名越つぎ代】

評:
 カンジド・ポルチナリ(一九〇三~一九六二)はサンパウロ生れで、ブラジルを代表する画伯、ニューヨークの国連本部に「戦争と平和」と題する壁画を描き、その他方々の聖堂に壁画を残し世界に名を知られた。作者はそのうちの寺院の壁画を見て感動して外に出た。その時の空気は澄み、秋空は晴れ渡って高々と見えた。


明日はもう湯ざめす貰ひ風呂は嫌
湯ざめしてもぐる布団のつめたさよ
【下境とみ子】

牛肥ゆる牧場にこもる草いきれ
雷雲にためらひてゐる暇乞ひ
【畠山てるえ】

初孫を持つうれしさよマリア月
切干や貧しき頃のなつかしく
【森田静恵】

流行に老はむえんや冬支度
恙身に至上の幸と温め酒
【庄司よし子】

雪に住む父の得意な兎汁
冬めくや向きかえてやる花の位置
【吉崎貞子】

祈ること余りに多しマリア月
秋鯖と酒一本を提げて訪ふ
【中原レメ】

秋の雨風もわびしく泣きそうに
温め酒して詩情あり宵の卓
【山田富子】

子沢山お八つはいつもさつまいも
髪洗ふたび抜毛して侘びしさよ
【矢野恵美子】

六月は火を焚く祭り多い月
温め酒のんでぬくぬく床に入る
【井垣節】

ノルチスタパイナ集めて冬支度
部屋に入りカーテン引けば冬めきて
【宇佐見テル子】

甘き香の切干売うれメルカード
温め酒炊き込み御飯喜ばれ
【軽部孝子】

竿少し届かぬ柿に未練あり
いつの間に寝落ちしことや夜の秋
【中井秋葉】

雨季上りシルコの巨象町巡る
朝日かずらやさしき色に句座なごむ
【寺尾芳子】

狂ひ咲く桃二三輪枝先に
お早ようと声かけ朝顔数へけり
【近岡忠子】

柿喰へば子規の句脳裏すぐる宵
逃足の命惜しめる放屁虫
【伊藤桂花】

老の身にさびしき冬のすぎて春
秋めくや歩け歩けの健康法
【熊谷とめ】

冬枯の庭木宿り木芽を吹ける
茶畑の牧場と化して開拓史
【小野浮雲生】

ざわざわと風さわぎ立つ秋夕べ
老ひてより肥えて衣類の合はぬ秋
【矢萩秀子】

小じんまりとリベイラ富士も冬めける
パイネイラ桜と見たて旧移民
【大岩和男】

焼香す噴く汗涙の友の葬
人生は流浪の旅路つばくらめ
【中川操】

米寿の坂何んなく越して日向ぼこ
白足袋の動ききびしき男舞
【風間慧一郎】

命ある限り励まんホ句の秋
風鈴の鳴りていそいそ夕支度
【稲垣八重子】

秋灯に汚れてをりし眼鏡ふく
朝露にぬれて布靴ちじみけり
【内田千代女】

亡き友の形見の辞書に紙魚少し
目高掬ふ母の手縫の鞄ぬれ
【佐藤孝子】

胡麻味噌を造りし母の想出も
胡麻擂りし鉢亡き母の形見とて
【上坊寺青雲】

御仏の凛凛しくおわす花御堂
月晧晧出水汚れの街不気味
【岡本朝子】

水色のみ空明るき花野かな
春暁やうるめる星によき目覚め
【佐藤美恵子】

胸はって尻とへそ出る夏の服
曾孫抱き子育て時代夢の春
【小坪悦子】

耕車群国道修理日の盛り
帰省して鍬とる子等に草いきれ
【小坪広使】

娘等発ちし淋しき墾の夕月夜
銀色にとんで行く鳥虹の下
【山上とし子】

ささくれて捨てし団扇の達磨の目
梅林の蓑虫白く花鎧ひ
【香山和栄】

秋天に飛機地は絶へ間なき車音
夜の雨夏惜しむ如やはらかに
【伊津野朝民】

主婦の座を嫁にゆずりぬ秋茄子
温泉プールに人魚めく影月の雨
【木村都由子】

浪の音目がけ渚を子亀かけ
子育ても一段落の夏夕べ
【中川千江子】

露の世の人生なやみごと絶えず
部屋涼し病夫励ましリハビリを
【岡田愛子】

舌鳴らし曾孫を抱いて兎見せ
体温より低目がよろし温め酒
【纐纈喜月】

松の実をバラバラおとす秋の風
楽しんで家族総出の運動会
【三上治子】

貝がらの浜に陽あたり夏の午後
砂浜に寝そべって見る秋の空
【井出香哉】

病む夫の看取り暇なし秋惜しむ
長らえて余生安けく残る菊
【前橋光子】

木登りの早さ見せたりけらつつき
道草の少女等楽し花野行く
【畠山てるえ】

森の主のジャトバを穿つけらつつき
抑揚のなき鳴声も螻蛄の芸
【菅原岩山】

風乾き二日で切干出来上る
せんだんの実の色づきて枝垂れたり
【花土淳子】

逃ぐる鹿椰子壁に頭を突っこみて
姉妹都市のよしみも四つ柿祭
【猪野ミツエ】

天高しこんなよい日の歩こう会
山粧ふしづかに里の彩となり
【竹内もと子】

いささかのポパンサおろし冬支度
ボテコの灯ちらとよぎりし霧女
【小橋矢介夫】

友情の絆確かに秋晴るる
恙なく過ぎ行く老に秋日和
【寺部すみ江】

ナフタリン臭きセーター冬めける
じじばばの宝探しや運動会
【杉本鶴代】

村一の長寿媼も運動会
解禁のサケの刺身やママイの日
【寺尾芳子】

運動会赤勝て白勝て父母の声
冬支度寝床に電気アンカ入れ
【黒木フク】

母の日や旅券の写真は丸髷で
老連のミニカラオケや五月花
【野村康】

弁当は赤飯コロッケ運動会
手古摺る夫の釣りたる大パクー
【本広為子】

起きしぶり心地良きかな今朝の冬
子育ての頃思ひ出す鯉のぼり
【岡本朝子】

冬暖し地球温暖化のせいか
虫の音に晩学の辞書又繰りて
【上辻南竜】

秋晴や塵焼く煙天に触れ
薬掘る頭上の鳥の鳴き止まず
【成戸浪居】

マリア月出来ちゃった婚もめでたけれ
寒波来し犬温くそうなチョッキ着て
【矢島みどり】

冬の海人なき浜に鳩群れて
冬きびし生き別れとも出稼ぎは
【川端マツエ】

五人目にさずかる男の子マリア月
ふるさとの匂ひ暖炉を焚くけむり
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


虫葬の列みておりぬごきぶりの骸を運ぶ黒蟻むれて
【フェラース 米沢幹夫】

ひと度は開花終えたる朝顔の再び芽吹き花をつけたり
【セントロ桜会 渡辺光】

四歳の曾孫は宿題の(A)の字をいく度も書きて笑顔をむける
年よりも若いと言われ気をよくし雑事に励めば疲れ増しくる
【セントロ桜会 上田幸音】

帰路いそぐ車の音も静まりて灰色の町に街灯ともる
娘の家に育ちしミカン見かけより味よしと言い互いに食めり
【セントロ桜会 重道千代子】

母の日のプレゼントに添えしカルトンにおぼえし日本字を書きくれし孫
男の孫の書きくれし日本字のカルトンを手に繰り返し読む
【セントロ桜会 井本司都子】

血圧と体重が気になれど医師は「ターボン」と笑顔見せたり
朝より小ぬか雨降るこの夕べ秋の気配のそぞろ身に沁む
【セントロ桜会 上岡寿美子】

妹より神社の桜が満開と、啼いてるだらうウグイスたちも
フェーラにて買い求めたるどくだみは思い出させるあの痛みをば
【セントロ桜会 板谷幸子】

川べりに芒に似たる穂波ゆれ日本の秋を偲びておりぬ
塀ごしにアラマンダの花黄に咲ける青葉の繁る木々のはざまに
【セントロ桜会 富樫苓子】

八階のベランダの糖水を小鳥らはすばやく見つけ競い呑みおり
夫逝きて十年の月日夢のごとくお墓詣りも足遠くなりぬ
【セントロ桜会 鳥越歌子】

四十名の命を乗せて高原電車靄に包まれ山脈を登る
亡き友と後姿のよく似たるあわや手を背に、はっと気付きぬ
【セントロ桜会 大志田良子】

当然の事なり年を重ぬればやがては消ゆる命なりせば
【サンパウロ 大塚清

団体のまとめて送る支援金わずかなれども思い託せり
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

濁流の中に残されしバスの屋根に助けをもともる人等の映像
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

亡き夫の丹精のつつじ淡緑の高き柵の辺に鮮やかに咲く
【ミランドポリス 湯朝夏子】

複式の呼吸のリズム繰り返し練功体操四肢やわらげる
【セントロ桜会 野村康】

九十二の誕生日済ませ三人の娘に守られ姉は逝きたり
【スザノ福栄会 黒木フク】

いま一度歌友と会えると楽しみに無料のバスに揺られつつゆく
【スザノ福栄会 青柳房治】

湖表に空が映りてうす青し今日の遠出の胸を弾ます
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

実らざりし息子の恋には触れずしてその娘の母と趣味の歌詠む
【スザノ福栄会 青柳ます】

空白の多くなりゆく日記帳今日より食事の献立も書く
【スザノ福栄会 原君子】

米寿過ぎたれど足の達者な夫なれば聖市通いをいといもせずに
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

海越えて移りし他郷に糟糠の逝かせてならぬ妻を喪う
【サンパウロ 岡本利一】

恋人を連れて来たりし息の笑顔吾が青春が重なり浮かぶ
【グァイーラ 金子三郎】

好きな色の夏帽子買い遥かなる浜辺を思いその日を待てり
【ピエダーデ 中易照子】

無害なる天然ガスの使用にてクバトン精油所の汚染和らぐ
【サンパウロ 竹山三郎】

我が寿命いつ果てるとも知らねども生き甲斐とせん残る余生を
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

餌を撒けば多くの小鳩集まりて羽広げ遊ぶ仕草愛らし
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

高齢の寝たきり老父は祈るのみ頼る娘の只恙なきを
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

美しく生きたしと希う老いの身の悲喜交々にこの年も暮れぬ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

霧のごと消えゆく移民の人びとに吾もいつかはと思いつつさびし
【栃木県老人部 星井文子】

黄イッペーゲートコートの片すみに初めて咲きしをカメラに納める
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

毎朝のぼけない音頭老どちは歌い踊りて心身健康
眼の前に胸元露わ乙女居て衆人環視の的となりいる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

県人会五十周年の祝宴に同郷の人らと話題盡きざる
朝毎にベンテビー来て駐車場の大樹で囀ずりポンくずもらう
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

葬儀済み家に落着き仏前に掌を合わせれば溢れくるもの
夫逝きて気付かずにいし裏庭のスイナンは色もあざやかに咲く
【タピライ 杉浦勝女】

躓ずきし膝を庇いて老い吾は心急げど歩み進まず
気にかかりし事の一つをなし終えて仰げば雲なき空に飛行機
陽のおよぶブロック塀を渡りゆく猫が立ち止り我を見詰る
【グアァラニー桜クラブ 内田千代女】

毎日曜何名かの友訪ね来て年金生活退屈もせず
日曜日肉焼く習慣の隣人等ビンニョ飲みて大騒する
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


浄瑠璃のビデオを観たり夜更けまで
唐手道習ふ会館夜長の灯
交替の領事ご夫妻帰国さる
不撓なる人をつくれと神の声
恋人の日のシュラスコ屋満員で
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

波の音山の声聞き瞑想す
修身はなくも揺るぎのない心
外に出て自然に触れる喜びを
鶴千年亀万年をあやかろう
すず蛇をこわごわ試食せし句会
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

全世界愛と平和を希えども
礼拝に集う眷族引き連れて
我が友等讃美歌真摯に熱唱す
趣味多く多弁が少し辛辣に
仕事ずき刻がたつのも忘れがち
【サンパウロ玉芙蓉会 吉田擴聖】

結束す韓国人の力見せ
先達がありて彼等もこれだけに
無邪気にて大人をまねてはやす子等
良き事も悪しきもありて世の進歩
【サントス伯寿会 三上治子】

人生の終りを悟り信仰に
にぎやかな顔ぶれ揃ふ老人会
年老いて食欲一つになりにけり
恋などは歯牙にもかけぬ年となり
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

セルラール使い度い時電池切れ
旅一と日牛の焼肉頬張りて
茶飲み会何を釣ろうか恋釣ろか
バス降りるさし伸ばされし掌の温み
老ク連友皆やさし旅楽し
【セントロ桜会 矢野恵美子】

百周年泰山鳴動何が出る
腹立ちも平気な顔は年の功
連添いを褒めて老人喜々として
喜びは探し当てたる尋ね人
大勢を向ふに廻しまくしたて
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

同年と思えず髪の豊かさに
清貧に甘んじ襟度失わず
自己本位通して批判免れず
しやれとばし笑ってばかり過ごせぬ世
先頭に立てず後押し出来もせず
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


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