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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2005年8月号

2005年8月号 (2005/08/04) 俳句 (選者=栢野桂山)


寒雀取り残されし如一羽
老夫の手引く老妻や園小春
【岡本朝子】

評:
雀はいつも人家近くに居て、もっとも親しい小鳥で、寒い季節になると凍てぶくれして、軒下に日射しを待っている。いつもは二、三羽連れ立っていることが多いが、これは一羽で取り残されたように居るので余計にいじらしい。


逆立ちのはやり髪形冬休
舟底を磨る砂音や冬凪げる
【畠山てるえ】

評:
 両側にマンゲの茂った内海の浅瀬で、マンゲの根や岩に附着した牡蠣などを採っていると、潮の引いた冬凪の日など、舟底を磨る砂音が聞える。カナネイアの海を小舟で遊んだ楽しかった日の写生であろう。


ムクインの熱とる呪文老ニグラ
想いニキビ想われニキビマリア月
【猪野ミツエ】

評:
 肉眼では見えない小さい糠ダニで、乾季の牧や果樹の葉などに群棲し、触れると人肌に喰い入り血を吸う。これをはじめて経験する新移民などは熱を出したりする。そんなのをニグラの老女の占師が呪文を唱えて治療した。文明人が宇宙旅行を夢見る時代と対照的である。


七転び八起き叶はず日向ぼこ
地面より着物剥ぐごと落葉掻く
【風間慧一郎】

評:
 七転び八起は人生で成功失敗の激しいこと。大方の移民は身にしみてこれを経験したのであるが、この句では何度も失敗して八起は叶はなかったと、己れの人生をふり返りながら日向ぼこを楽しみ世を達観した人。


枯果てし牧に鮮やか黄イッペー
懐手して世の中を達観す
【上坊寺青雲】

評:
 前の七転びの句とよく似ている。これは日向ぼこではなく懐手して、やれ日本祭だ、移民百周年だとか、世の人々が騒いで居るのを、人事のように見て、これも世の中を達観したかのように、悠々と懐手している人。


半生を見て暮したる山眠る
古オーバボルサに小銭落花生
【下境とみ子】

宵闇の帰途おくれじと田舎道
語り次ぐ老の集ひや秋うらら
【荘司恵美子】

ペルシャ猫廊下に秋陽浴び居たり
秋晴や健康体操活発に
【軽部孝子】

秋うらら悠々散歩の白寿翁
泡立草釣れる予感に径急ぐ
【纐纈喜月】

煉瓦焼くパライバ盆地の山眠る
短日やばたばたしすぎ目まいする
【井垣節】

静かなる湖水を抱き山眠る
短日や長居の客にいらいらと
【矢野恵美子】

湯ざめしてワインを一杯床につく
陽光にあざやかに咲く秋のバラ
【山田とみ子】

短日か一食抜きの老の日々
冬菜引く老のたのしみ狭庭にも
【吉崎貞子】

果てもなく草の穂の道暮早し
湯ざめしてつづくおしゃべり女部屋
【中原レメ】

潮風をまともに受けて山眠る
荘の門かたく閉され山眠る
【庄司よし子】

緑濃き一雨ごとの冬菜畑
ウルブ見て病む牛探す犬放つ
【宇佐見テル子】

盆踊りも一味違ふ異国調
窓に干す干芋母の味がする
【三上治子】

次の芽に夢を託して菊枯るる
菊枯れて次の命の芽吹き待つ
【矢島みどり】

パラナ路や一望千里麦の秋
めぐりくる終戦記念日木の葉舞ふ
【熊谷とめ】

喜寿を越へ願ふは傘寿神の旗
日伯交流に一役シュラスコ会
【小野浮雲生】

シュラスコや異人等よろこぶ握り飯
荒畑に古電柱立ち山眠る
【矢萩秀子】

海興の日語校跡秋の風
一本の挺で掘り上げマンジョカ
【大岩和男】

水郷に眠る先駆者お茶の花
移り来て夢追ひつづけ移住祭
【中川操】

土煙上げ草種の収穫機
枝豆や自家製火酒も上出来に
【菅原岩山】

五指のある靴下はかす手かじかんで
裘着て貫禄の新会長
【寺尾芳子】

蕗の薹焼き立ての味ほろ苦し
頂いて干柿旨き冬の句座
【本広為子】

新居披露シュラスコをして孫も見せ
ソーラン節唄ふ四世冬ぬくし
【野村康】

霜害に耐えて農作続け来し
柿祭り子に支えられ杖ついて
【黒木ふく】

霜ふんで畑にかよいし頃恋し
愛人の日なんて知らずに年重ね
【杉本鶴代】

日溜りの古き大沼浮寝鳥
南風に押されて散歩杖だより
【菅山松江】

畑寒く帰りて美味き根深汁
古厨の鍋ことことと根深汁
【杉本てる子】

強く育てと祖母よりの鯉のぼり
兎小屋パパの大工にママの助手
【梅林千代】

難聴の話ちぐはぐ幟見る
積年の努力の光り文化の日
【前橋光子】

山茶花の淡き香こぼれ砂利の上
山茶花や今宵の星に開くべし
【佐藤美恵子】

パイナ吹く園に残れる耕主邸
おにぎりのサービスのあるシュラスコ店
【西沢てい子】

骨折れの傘さして老冬の雨
頬杖の秋思の女窓にあり
【伊津野朝民】

ムクインの巣に触りしが祟り目に
夜食とるむっつり職人気質かな
【伊津野静】

ゴヤス野の起伏湧き出て秋の雲
一族の健康母の日の至福
【名越つぎ代】

ブラジルに生れて蜻蛉釣り知らず
秋蝶の見落す程に色淡く
【佐藤孝子】

物忘れつのりて米寿坂の秋
身に入むや母の柩にすがる子等
【内田千代女】

大夕立テレビ途切れて口惜しや
雷様にテレビ消されて見そこなふ
【三上治子】

夕日赤く未だ舞ひ残るウルブの輪
輪になって焚火を背なに尼熱し
【伊藤桂花】

要らぬものさっぱり捨てて冬支度
いにしえの色とも思ふ秋の草
【竹内もと子】

蔦菊のモーテルの塀彩りて
みどりなす黒髪いつか木の葉髪
【香山和栄】

秋風やヨチヨチ歩きの力杖
つく杖にやんわりとして草の露
【稲垣八重子】

牛を見ぬ大枯牧の給水塔
小さき椅子大きな椅子や日向ぼこ
【中井秋葉】

移民祭夢と過ぎにし八十年
母の日や曾孫等芝生かけ廻る
【近岡忠子】

革命戦砦跡なる秋の草
延々と牧の境界竹の春
【木村都由子】

戦なき平和な国の労働祭
宵闇に月の出を待ち一人住む
【遠藤皖子】

行く秋や八十路の足を労りて
秋茄子の艶頬に当て撫でもして
【寺部すみ江】

枯菊のひこばえ再び花もちぬ
菊枯れて鉢ごと塵に出されたり
【花土淳子】

雨風に歩道の椰子葉ゆれやまず
耳すます秋を伝える虫の声
【井出香哉】

裾に花深くかくして香る蘭
秋夕焼白鷺を染め大湖染め
【小橋矢介夫】

美しく老いて暮さん初冬の夜
アンツリオ軒下に置き老たのし
【上辻南竜】

踏んばってよいしょと声かけ大根引く
禿鷹の塒に戻る尾根遠く
【阿久津孝雄】

寒風にマフラーきりりと体操会
頑張ろと励み合ふ友母の日に
【彭鄭美智】

名も知らぬ町のほとりのイペローザ
弱々しき日の降る枯野馬車駆けて
【成戸浪居】

地下に城きずき春待つ葉切蟻
結びたる尾を振り炭馬通りけり
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


夜半覚めて耳朶にとどむる杳き日のネガを濡らして降る雨の音
【フェラース 米沢幹夫】

昨日までなかりし花の華やかに咲きいる朝は一入(ひとしお)うれし
【ミランドポリス 湯朝夏子】

荒ぶ世の平和祈りて教会の鐘鳴りひびくわが町の朝
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

ヘリコプターで助けられし人々を見てわが好運沁みて思うも
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

病む足を曳きても行かん歌会に友との逢いを楽しみとして
【スザノ福栄会 青柳房治】

冬晴れの空の碧さよビルの上に富士をかたどる浮雲ひとつ
【スザノ福栄会 青柳ます】

故里に佐賀空港の成りたれば新幹線の便はまどろし
【スザノ福栄会 原君子】

即席の「ソッパ」味噌汁を手に取りておみおつけの素と馴染めずにおり
【セントロ桜会 野村康】

低くながき汽笛もどかし踏み切りへ近づく貨車を待てる車列に
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

曾孫の誕生祝いのビデオ見て可愛い仕草に抱く日待たるる
【スザノ福栄会 黒木ふく】

米寿の夫今年は綱を引かずして若者たちに声援おくる
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

帰り来て暗き厨に灯ともせば籠の小鳥は首を動かす
軽がると駈け足をせし日を思う道行く人らに追い越されつつ
【セントロ桜会 井本司都子】

老いし身もまだ役に立つと電話にて友と語りぬ今日の終りに
わが里の四万十川の清流をテレビで見れば思い出つのる
【セントロ桜会 上田幸音】

五、六頭の牛に道をばさえきられしばし止まる車の列は
きびしかる暑さなれども空は澄み秋たけなわに枯葉散りしく
【セントロ桜会 富樫苓子】

遠く住むうからと電話の声聞けど互いに逢うは幾年ぶりか
たそがれて街の夜景の深まりて仰げば一つ星のまたたく
【セントロ桜会 鳥越歌子】

生きてゆくかよわき老後の道阻む視聴二患に日々を苦しむ
【サンパウロ 岡本利一】

縄文の人もこの月に憩いしや今宵を妻と賞でるひととき
【グァイーラ 金子三郎】

大学を終える孫あり今新た坊主頭に照れる姿よ
【ピエダーデ 中易照子】

豊かなる乳房ゆさゆさゆるがせて速歩にわれを追いこしゆけり
【サンパウロ 竹山三郎】

百才の我の姿をつくづくと鏡に見るはわれのよろこび
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

老小不定約束違え先逝きぬ我が胸に深き空莫残し
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

雲流れ若芽萌え出る木々の間を縫いて遥かに海原の見ゆ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

亡き夫の記せし古き電話帳捨て去りがたく今日も手に取る
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

悪しき事も思い出となる古き友笑って話せる時も来るもの
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

移民の夢果たし百年の歩みをば今記録して子孫に伝えん
ブラジルは資源多き国なれど教育に投資乏しき国ぞ
嬉しき声毎朝体操して歩けよと夫の励ます国際電話
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

信ずるもの胸に残りて気の活性能力復活眠りより醒む
全身を活性化して体操す健康日毎に取戻しいる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

手入れなき庭の草花回り来る季節に花のつぼみ付けいる
タピライは寒さ厳しくこの季節真冬の如き温度となりぬ
嫁ぎ来て共に開拓に励みあい語りし夫は今すでに亡し
移り来て七十三年この頃は遠き過ぎし日しきりに思わる
【タピライ 杉浦勝女】

人住める家とも見えぬ軒先の傾くところに揺るるコスモス
心弾むこともなきまま今日を暮れ眼下の県道灯の海となる
誕生日など気付かずに越え来たりいま年老いて子等に祝わる
住む町の緑の芽吹きまぶしくて残りイッペーの花びらが舞う
なやみごと喜びごとも話す友あるゲート場の一日楽しい
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

ブラジルで育ちし吾の日本語はコロニヤ語なり笑わば笑え
日本語の字引片手にいくつもの短歌詠み居り心の儘に
川柳と俳句の違い聞かれしに季の入るのが俳句ならんと
二兎追うもの一兎をも得ずと諭されし三兎も追って何かを得んや
今日も又短歌と俳句川柳をそれぞれ書き分けほっと一息
硬き石座われば不思議頭冷え次から次へと歌湧き出でて
思いがけず夜半の嵐に無残にも青きマンガの踏み場なき迄に
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


食べ物の好き嫌いあり箸の先
遠慮は損りようと云うて厚がまし
下手な唄うたうも芽出度き祝いとて
大都市は沙漠にも似て頼りなし
長挨拶乾杯ビールの泡消える
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

子育てもぢいばあちゃんに助けられ
離婚してむなしさ迫まるつくづくと
男女仲自然法則叶ふもの
螳螂の骨まで愛し雄を食ふ
ポルノ本貶して陰で読んでおり
【サントス伯寿会 三上治子】

長命の薬と椰子の水飲める
世渡りの上手も下手も運不運
沢山の洗濯持って孫帰宅
悪友は時々来ては人誹謗
勝てば官軍負けは賊軍今の世も
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

親と子も利害からめば壁が出来
年故に心淋しくたそがれる
晩秋のたそがれに似て侘しかり
成る様になると笑ひて老二人
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

雑踏の中に友人見つけもし
星まつり人に押されつ歩きける
人込みに揉まれ七夕見て廻り
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

酒飲んで乱れず事業を盛り立てし
噂だけ聞き桜見に行かざりし
寒き日の鏡に愁ひ顔粧ふ
鳥の如後濁さず世渡りたし
美貌なるクレオパトラ胡麻使いしと
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

半円に座して講義を桜樹下
国士舘桜見もして体操会
生誕のお写真飾りボーロ切り
移住地の意志引き継ぎて運平忌
九十年迎えし平野植民地
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

我が句会卆寿の媼達者にて
暖く胸に沁むよな友の文
しあわせの夢明日も咲く勝名乗り
闘志湧く新手加わる句の集ひ
【セントロ桜会 矢野恵美子】


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