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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2005年11月号

2005年11月号 (2005/11/12) 俳句 (選者=栢野桂山)


悔いもなく米寿を生きて春を待つ
悴める手に息かけて手紙書く
【内田千代女】

評:
 これまで悔もなく生きてきた。家人や囲りの人に思いやりのある気配りをしてきたので、その誇りをもって、尚白寿まで生きてその春を待とうという。これは人間の生き方としては申し分ないもの。八十八歳の作者が待っている春に倖せあれ。


サカキてふ名の木を挿して樹木の日
春の宵ネグリジェ薄緑なる
【寺尾芳子】

評:
 サカキは、木と神を合せて榊と書く。日本では神社の境内に植えられ、初夏に白い花を付ける。この枝をとって幣を結び神前に供える。この国ではサカキはは珍しいので、どこからか貰ってきて樹木の日に挿した。


美しき約束一つ寒き春
明るさをつなぐ花園チューリップ
【山田富子】

評:
 チューリップが人形の兵隊さんのように紅、黄、紫と列になって咲いている。それが足元にも少し向うにも、遠くの池の辺にも咲いていて、その華やかな一面の明るさが、つながっているようである。チューリップの花言葉は無邪気。チューリップの花には侏儒(コビト)が棲むと思ふ。松本たかしの句がある。


春寒し黄泉路の旅に母置いて
永らえて吾娘の死に会ふ春寒し
【稲垣八重子】

評:
 先日、ニッケイ新聞の「ぷらっさ」に作者の「春寒し我が娘逝く」という文章が載った。「泣いても泣いても還らぬ我が娘よ、私の九十二歳の誕生日を皆で祝ってくれることになっていたのに」というくだりを読んで涙したが、その哀しみを句にした   のがこれ。長生きすることはお目出度いが、愛する人親しい人と死別することになるのが人生である。


海の日やカブラル着きて五百年
洗濯物の泡立ち悪く春浅し
【木村都由子】

評:
 一四九二年十月十二日はアメリカ大陸が発見され、それを記念する海の日。続いて一五〇三年、ペードロ・A・カブラルによってブラジル大陸が発見され、その標柱がバイアのポルト・セグーロに建立されている。その後両国は奴隷を導入して産業に貢献したが、それによって原住民インジオや、アフリカの黒人は悲惨な目に会った。その制度が解放され、それに代る労働力としてヨーロッパ移民や日本移民が導入された。カブラルがブラジルに着いて五百年経った今、こういう歴史を振り返ってみた作者。


昏れて行く夕囀の物さびし
チコチコの巣ごもりの藪尾が見えて
【矢萩秀子】

盆踊白寿の老も輪に入りて
辰年の同輩逝ける春がすみ
【小野浮雲生】

イペランジャの老人ホーム春日和
春立ちて桜ホームの若やげる
【大岩和男】

懐旧談に花を咲かせて瓢骨忌
狐火の消えたる雨後の暗き沼
【伊藤桂花】

花の香の春の序曲を告げくるる
ポンチョ着て母の遺品は暖かし
【中川操】

春雷やゲートボールの尖り声
赤ちゃんを抱かせて貰ふ暖かし
【風間慧一郎】

人種差別なく児等行進独立祭
林中おぼろに灯る一軒家
【近岡忠子】

新しき鉄の木と替え牧手入
道草し親の後追ふ仔馬かな
【井垣節】

寒き春はね返しプリマベーラ咲く
座す暇のなかりし庭に白椿
【軽部孝子】

水温み飼亀目ざめ動きそむ
春寒や衿袖なしの乙女達
【杉本良江】

白椿乙女心の純白に
白椿音なく落花庭石に
【中原レメ】

春寒し老の不精を許されよ
ぼんさいの椿咲かせて翁の庭
【吉崎貞子】

牧手入逃げくせつきし馬と牛
子馬売る孫ら涙で見送りぬ
【庄司よし子】

浚渫船遊びに似たり水温む
鞭鳴らし寄る牛追ふて牧手入
【纐纈喜月】

水温むミランダ河に魚群れて
野に出でて杖をたよりに春惜しむ
【遠藤皖子】

水温む鼻唄も出て厨妻
母馬の仔馬見守る目のやさし
【矢野恵美子】

夫婦して山荘泊り壁炉焚く
素直には抜けぬ二股大根かな
【菅原岩山】

秋の日の釣瓶落しを小走りに
妻に和す哀しき童謡老の秋
【中井秋葉】

夜逃げして今大地主山笑ふ
新藁をトンと叩きて尻揃え
【猪野ミツエ】

新藁のくらの向ふに夕餉の灯
車輪漕ぐ研師繁昌路地うらら
【香山和栄】

桜咲く登山電車を降り立てば
青梅が店頭に顔出す頃に
【彭鄭美智】

虹色の皮うすうすと桜餅
春雨や花や木の音楽しくて
【川端マツエ】

緋鯉すいすいと泳げる水温む
牧広しはぐれて仔馬しょんぼりと
【宇佐見テル子】

底冷えに縫目揃わぬミシン踏む
開墾の明日への力兎汁
【中川千枝子】

ムクインを耳にぎっしり仔犬哭く
山鳩の声淋しげに山眠る
【上坊寺青雲】

桜花押し送り来し里の友
パカパカと馬のひづめに散る桜
【下境とみ子】

門前の園は我が庭百千鳥
生み月も尚耕してくれし馬
【伊津野静】

バスうららつつましく座す一乙女
雲低くマンガ若葉の色重し
【伊津野朝民】

皿洗ふ今朝温かき蛇口水
孕馬かけて出産いつのこと
【阿久津孝雄】

高原の緑目醒めてカジューの雨
花の香を含みゐし風春の夜
【花土淳子】

長寿して山程うれし敬老会
不細工なふしくれし指鶴を折る
【三上治子】

春の野に四つ葉クローバ見つけたり
耕馬追ふ男装凛々しき乙女かな
【矢島みどり】

ひそやかに咲き満ち蒿麦の花やさし
移民の日七十年の異国住み
【寺部すみ江】

春眠や親にたてつく子と見えず
ひるむ心に鞭打ち看とる春隣
【佐藤孝子】

今も尚老の小箱に桜貝
風船持つおどけピエロに子等従いて
【梅林千代】

服と靴揃ひの乙女草若葉
春めくやほのかに匂ふ並木の芽
【菅山松江】

砂に散る花びらのごと桜貝
子の手よりはなれし風船雲の中
【杉本てる子】

台風で家失ないし姪案ず
春憂ふ永びく足痛再検査
【黒木ふく】

柿たわわエスクリソンのバスの外
待ちわびし春来る前の風寒し
【井出香哉】

君子蘭八重も一重も揃ひ咲く
手入よき耕馬の毛並風光る
【本広為子】

イペ祭り餅搗役は副会長
黄水仙花器一ぱいに短歌会
【杉本鶴代】

冬ごもり機織る母を偲びつつ
毬咲きの紅イッペーを仰ぎ見る
【今田安枝】

春風に似合ふ白髪と人の言ふ
健康とはありがたきかな味噌を搗く
【岡本朝子】

渡伯せし父母に謝す日や春の星
ホ句きざむ桜貝揺れペンダント
【野村康】

想出を独りあたため夏に入る
いとしめる一ト日一ト日や老の春
【上辻南竜】

一と巡り二タ巡りサルビアの園
葉桜に外燈蒼く点りけり
【佐藤美恵子】

ポチと呼ぶ犬の名親し村の春
寒暖にとまどふばかり春深し
【畠山てるえ】

アンデスの風を鎮めて鷹巣立つ
上陸す日の如埠頭春しぐれ
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


過ぎし日を想えとごとく山鳩の遠啼くきこゆこのメランコリー
【フェラース 米沢幹夫】

一花揺れ百花千花と揺れゆれて桜吹雪のカルモを賞ずる
【サンパウロ 岡本利一】

眞夏日の暑さのがれて次ぎつぎと庭木の葉かげに小鳥ら憩う
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

おめでとうと息の誕生日に挨拶をすればはにかむ如くに笑まう
【ミランドポリス 湯朝夏子】

われ勝ちに駈け出す子らの足元に跡みしだかれて草しおれゆく
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

暫らくを途絶えておりし教会の鐘の響きに夢路さそわる
【グァイーラ 金子三郎】

今朝ははや微笑みかわす夫なくて黄泉の国への旅路を思う
海山を越えて遥かな空の果母の傍へと貴方は逝きし
【ピエダーデ 中易照子】

黄色より赤に葉を染めさくら木はやがて来るべき冬を告けいる
枝もたわわに実をつけしぐみは数々の小鳥を集め賑わいており
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

流氷のうねり楽しむ知床や氷上歩き海にも入りて
舞台賑やか仔獅子転がり勇敢に親獅子勇み頭振りおり
九十五才初日を拝む先輩よ今日も恙なき事を祈りて
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

地震も津波も無きブラジルを世界の楽園と感謝して住む
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

小鼠が夜更もの喰むを聞きながら長き交きあいのあとを辿りつ
【スザノ福栄会 青柳房治】

訪日にブラジル土産の花梅はコーヒーよりも珍らしがらる
【スザノ福栄会 原君子】

わが帰り待ちいし夫か七月の暦の数字は墨で塗られて
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

七十路の夫を八十路かと問う人にわれは咄嗟に卆寿と答う
【スザノ福栄会 青柳ます】

研修は半年伸びしと息の便り嬉しくもありさみしくもあり
【スザノ福栄会 黒木フク】

毎朝を犬も綱引く老人も暖かそうな流行りもの着て
【セントロ桜会 野村康】

イペー祭り老人ホーム早春の温くき日差しに桜も咲きて
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

朝焼けの映える舗道を友と行く速歩の歩み古き付きあい
【サンパウロ 竹山三郎】

夫逝きて一人暮しのアパートも子等に守られ十年過ぎる
平穏にいつのまにやら八十路越え老いの歩みを一歩一歩と
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

祭壇に進む神父の衣服にはステンドグラスの彩りの映ゆ
【セントロ桜会 渡辺光】

里芋の大葉に溜る朝露は吹きくる風にころころ転ぶ
紙飛行機わが折る傍で幼な児はつぶらな瞳で身じろぎもせず
【セントロ桜会 上田幸音】

旅行せし娘の電話カナダより無事に着きしといつもの声で
気忙しく切り分けてゆくカリフラワーを沸り立つ湯につぎつぎ落す
【セントロ桜会 井本司都子】

窓に見るリラの花の満開に心うきうき庭に降り立つ
娘の家に川のせせらぎ聞きながら遠きあの頃思い出しいる
【セントロ桜会 板谷幸子】

ウオーキングの足を伸ばしてサガコートへカンポのめぐり桜満開
庭のつつじ色とりどりに咲き満ちて日毎わが眼を潤しくるる
【セントロ桜会 鳥越歌子】

久しぶりの友の電話に晴ればれと溜りいし家事のはかどりてゆく
散りてもなお淡き紫保ちいる藤の花殻惜しみつつ掃く
【セントロ桜会 富樫苓子】

何度でも繰り返しおり日本の天気情報NHKは
イタイプーの滝に向いて頭からしぶきを浴びて佇ちつづけたり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

残り花のつつじは一夜の雨に散り庭もさびしくなりにけるかな
【サンパウロ 中島昌枝】

朝毎に広場に集まる鳩夫婦か親子か仲睦まじく
ブラジルに移り過ぎにし半世紀住めば都とひとりし思う
【セントロ桜会 大志田良子】

誕生日に招かれてゆくこの夕べ久しぶりなる友に合うべく
【セントロ桜会 重道千代子】

茘枝の実眞赤に熟れて通り行く人の心を捉えおるらし
母国語も学ぶコチヤ校三人共仲良く孫は肩並べ行く
【セントロ桜会 彭鄭美智】

十六夜の光が包む村の家眠りおるらし安らかなさま
雨蛙雨の兆しを予知するかしきりに鳴きてかしましきかな
【タピライ 杉浦勝女】

訪ねくるたびに親しさ加わりて愛しき孫の妻となる人
孫達がすいすいと行く石道を足許たしかめつつ吾は行く
思いつくままに作りし我流の料理意外に孫に喜ばれ
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

全伯に散りぢりになりし友垣も名を挙げしあり消え行くもあり
若き日に農に明け暮れしアリアンサの想い出今も胸に鮮やか
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


嫌な事忘れたふりをしてとぼけ
腕も脚も頭もさっぱり役立たず
ヤイオイと呼び合ふ友は今はなし
腫れものの様にされてるへそ曲り
味覚さえ孫子と別の世界に居
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

相客は早や高鼾羨やまし
小旅行雨憎みても詮もなく
ピクニック孫等の楽しみ雨うばふ
重ね着に頬かむりしてテレビ観る
寒い夜は布団被ってテレビ見て
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

旅に出て人とのふれ合い温かく
大自然に従ふ事ぞ永久の道
年代の差で見解の相違あり
真面目さと真実吐露し票を寄せ
控え目で豪語もせずに人格者
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

老ひらくの恋倖せに若がえり
捨てるよりましと古物市に出し
みやげもの日本の品の溢れいる
必要な人に掘り出し物安し
潤いの生活は金で購ぬ
【サントス伯寿会 三上治子】

読みづらき抽象文字や書道展
一望に山も木も見ずパンタナール
棒術や胴着をしかと身につけて
還暦を迎えて祝ふ終戦子
戦争を知らぬ人生六十年
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

予後の身に酒腹に沁む一と滴
何も彼も忘れて静か世に生きむ
一歩づつ踏みしめ齢確めつ
鳥帰る日を待ち侘びつ一人住む
犬だけに聞かせる如く独り言
【セントロ桜会 矢野恵美子】

霧深く遠き思い出うっすらと
洋間にも書道の掛軸よく似あい
バラの花香がただよえば人恋いし
女医とても流行を追うスタイルで
信号を待って渡れば無事なれど
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】


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