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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2005年12月号

2005年12月号 (2005/12/07) 短歌「老壮の友」誌上競詠結果発表


 十月末日〆切りの誌上競詠が全七十六首集まりました。選者の小野寺郁子、小笠原富枝、多田邦治、水本すみ子の四選者の結果、次のように選出されました。皆様の御投稿、御協力有難うございました。


第一位

自爆テロつづくニュースに今日もまた遠くなりゆく平和の文字は
【原君子】

評:
 世界のどこかで今も続いている自爆テロ事件。その惨状は眼を掩うばかり。万人が平和を希んでいるというのに、そのような作者の切々とした思いの盛られた歌。四選者が推した作品。


第二位

花吹雪ともども浴びて行きし日の昭和は遠く呼ぶに友亡し
【梅崎嘉明】

評:
 情景描写の美しい韻律、花吹雪に呼び起こされる往時。懐旧の友はもう居ない。しみじみとした情感がある。(推)小笠原、水本、多田。


第三位

イッペーの散りたるあとの裸木に長き莢実が風にさゆるる
【上岡寿美子】

評:
 爛漫と咲き誇っていた花のあとの裸木にすでに実りの莢が揺れている生きいきとした活性感が良い。(推)小野寺、水本、多田。


佳作

白と紅さるすべり咲く遊歩道枝をやすめる人と親しむ
【信太千恵子】

新築のこの家に住みて三十五年古びたりしも吾には御殿
【湯朝夏子】

夕暮に木立の中を歩みつつ過ぎにし日々の思い新たに
【中島昌枝】

塀添いに伸びゆく椰子の幼な木は風に揺れおり友招くがに
【井本司都子】

暖かくなりてサビアのさえずりものどかに聞こゆ朝に夕べに
【富樫苓子】


俳句 (選者=栢野桂山)


種袋振れば咲く花見えてくる
ひたすらに願ひとどけと春の月
【宇佐見テル子】

評:
 花の種を蒔く前に土まびれの手で種袋を振ってみる。すると花の色や形、花言葉などが眼前に浮んできて、その花好きな人の姿、その人の気質さまざまの花の咲く庭が想像されて、一読楽しくなる句。


涙して「ハルとナツ」見て春惜しむ
緋衣草赤ばかり着て育ちし娘
【寺尾芳子】

評:
 ハルとナツと云うNHKのドラマを見て、誰もが「自分等の新移民時代の苦労とそっくり」と言う人が多かったと聞く。そういう過去を偲びつつ「今はやはり地震もテロも無いブラジルが住み良い」と思いつつ、この国の豊かな春を惜しむ移民。


ブラジルの国歌覚えず黄イペー好き
忍び寄る独りの寂しさ夕月夜
【稲垣八重子】

評:
 野に咲く花が好きだが、その中でも色鮮やかな感じのこの国の国花であるイペーが大好き、それなのにブラジルに永年住んでいて、国歌であるイノ・ナショナルは覚えられず唄えないという老移民。


作地割一言申すはいつも妻
川入れて帯状に割る作地かな
【佐藤孝子】

評:
 農年の始まるコロノ等に、新旧のコーヒー園や余作地を公平に案配したり、又アレンダに出す雑作地を割当てるのが「作地割」で、日本には無い季題。そういう時に亭主を押しのけまかり出て、監督に自分勝手な注文をつける女房。


町中にまで灰の降る甘蔗刈
シュラスコの待つ大詰の甘蔗刈
【菅原岩山】

評:
 精糖工場まで待つ大耕地では多勢の人夫が甘蔗刈りをしていて、まるで戦場のよう。その甘蔗刈も一、二日で終る大詰に入り、耕主は牛を何頭もつぶし、大シュラスコの用意をしている。何も彼も大掛りなブラジルの甘蔗刈の風景。


夫逝きて蜂鳥の水とぎれがち
種蒔機使ひし父の肩を揉む
【杉本良江】

行きかへり鳥居をくぐり春の雨
春の泥胸につけ来し小鳥かな
【川端マツエ】

春昼や我が師の画布は春のいろ
神楽舞大蛇はとぐろを解き結び
【花土淳子】

春の蘭咲くを待たずに旅に出る
帰宅まで散るなと祈る枝だれ蘭
【林田てる女】

ともすれば落込む気分老の風邪
つくづくとふるさと遠し春の夢
【前橋光子】

春宵や園燈高く黄に点る
暖かしゆずりし席へ手をとりて
【伊津野朝民】

姫霧草今日の祝賀の濃むらさき
産卵を終えてすげなく蝶翔てり
【伊津野静】

黄イペーの散り行く夕べ訃報受く
通勤のバス停イペの花明り
【菅山松江】

春の闇箱で鳴いてる捨て仔犬
紅イペーに麻州の思ひ出つむぐ老
【梅林千代】

子も孫も帰省にぎやか子供の日
海暮れてだんだん春の闇濃ゆし
【杉本てる子】

紫蘇もめばくれないに濃き風匂ふ
花景色一幅の絵に桜ホーム
【彭鄭美智】

狐火や墓地となりたる埋め立て地
狐火や奴隷の末裔住む部落
【西沢てい子】

冬ぬくし紅梅小つぶの花咲かせ
桃畑つづくながめの露天風呂
【星井文子】

夏時間生活リズム狂いがち
涙さそう移民のドラマ夜の秋
【矢島みどり】

遠蛙大工の夜なべによく似たり
山笑ふ邦人名付けしスザノ富士
【野村康】

夕風にジャカランダ散る道散歩
古郷ははや秋景色草紅葉
【杉本鶴代】

病む老の心満たせし春の蘭
昔話聞いてくれる子春の夜
【黒木ふく】

春愁や勿忘草の種絶えて
アマリリス深紅は春の女王めく
【本広為子】

菜の花や明日は耕車を入れる畑
春の風邪婆が癒れば嫁が引き
【岡本朝子】

異状颱風百万人の羅災者も
野球試合中止やむえず春の雨
【三上治子】

レース編み贈る楽しみ老の春
袈裟脱いで僧も祝賀の盆踊
【名越つぎ代】

モトとばしシャツ脹らます春の風
犠牲者の二千の燈篭流れ行く
【中川操】

畑の隅草に押されて葱坊主
きゅうりもみ四五枚紫蘇の葉欲しき
【矢萩秀子】

樹海伐りし見返りに植うくぬぎなど
街並木紅白咲きの牛蹄花
【大岩和男】

葉桜の中二三枚返り咲く
花の畑隅に一列葱坊主
【近岡忠子】

御先祖に供へて初の蕨飯
若緑歩調軽やか髪染めて
【風間慧一郎】

年一度背広にネクタイ敬老会
筍とワラビ出揃ふ朝市場
【小野浮雲生】

風吹いてイヤイヤをして葱坊主
同郷のお国自慢や芋雑炊
【伊藤桂花】

胼の掌の老斑境遇相似たり
朝映の紅さす庭の寒雀
【佐藤美恵子】

蒲公英やふわりふわりと風の旅
蝦蟇蛙何んの用事か座り込み
【上坊寺青雲】

七人づつ渡る吊橋春の川
春愁の鏡の中の天邪鬼
【猪野ミツエ】

待ち侘びし春来る前の風寒し
川岸のプリマベーラの絡み咲き
【井出香哉】

着ぶくれて早々来たる体操会
終戦日玉音放送ラジオより
【軽部孝子】

水平線より今生れ春の月
暮遅し靴みがきの子にすがるる
【小林洋子】

大いなる靴跡つけて種を蒔く
乳牛を囲ふ刻なり牧遅日
【纐纈喜月】

蒔き急ぐタツーの甲に盛りし種
久に訪ふ父母の墓遠がすみ
【下境とみ子】

桃の花尋ねてスザノモジの里
種蒔いて静かな雨を聞く夜かな
【井垣節】

朝日さす蜂鳥の背の青光
飛び立つは花より小さき蜂雀
【中原レメ】

桃の花咲きしあの里今何処
大輪のアマリリス咲き春匂ふ
【矢野恵美子】

賑やかな娘三人桃の花
日本より持参の種を鉢に蒔く
【遠藤皖子】

蜂鳥にちょっと距離おき声掛けて
閑人の老どちペンチで暮遅し
【吉崎貞子】

桃の花ほのかに匂ふ姑の部屋
春の月おぼろに浮ぶビル高し
【庄司よし子】

晩夏なお燃ゆるスイナン写す湖
踏み入りて花野のコース南伯へ
【中川千江子】

山の手を歩けば春思新らたなり
真夜中に目覚めて窓の月おぼろ
【山田富子】

カジューの雨貧村なれど我が故郷
耕して父の残せし地守る
【寺部すみ江】

蟻の列タンポポ避けて一直線
朧月キロンボ温泉池の上
【成戸浪居】

カーテンを吹きあげて入る朝の東風
咳き込んで言葉とならず悲しけれ
【内田千代女】

かたくなにやせ地を守りて耕せる
春愁やわが身ひとつを持て余し
【竹内もと子】

枯茨そこだけ避けてけもの道
ベランダに干草匂ふ良き日和
【畠山てるえ】

うららかに足るを知る身の気楽さよ
母の日や曾孫等芝生かけ廻り
【近岡忠子】

あらわなる肌焦がすかに夏の服
ウインドをのぞく娘等街は初夏
【松崎きそ子】

沖縄のドラマで名を売るゴーヤかな
月見豆オーロラと云う新品種
【湯田南山子】

塹壕の如きサイロに秋の雨
日語の師母の形見の硯洗ふ
【中井秋葉】

日本へ近づく飛機に更衣
娘の選ぶ少し派手なる墓参服
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


カレンダーの「晩鐘」古りぬ幾許の年金受けて来し部屋に酔う
【フェラース 米沢幹夫】

弱き目にとぼとぼ登る坂の道背を押しくるる影なき妻が
【サンパウロ 岡本利一】

くっきりと白く浮上るくちなしの冬をふふめる宵闇がきて
【スザノ福栄会 青柳房治】

何ごとも動作の鈍き吾のことをおっとり型と褒めくれし友は
【スザノ福栄会 原君子】

高脂肪気にはなれどもううまいもの食べたし今日は子の誕生日
【スザノ福栄会 青柳ます】

吾に靴を穿かせているを見る老女(ひと)が幸せですねとほほえみて言う
【スザノ福栄会 黒木フク】

酒飲みて八岐の大蛇猛りたち広島神楽眞に迫りぬ
【セントロ桜会 野村康】

遠慮なき何時も身近な友一人前ぶれもなく忽然と逝きぬ
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

プーケット印度をおそいし大津波この世と思えず息つめて見る
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

遠く住む吾子ら孫らが集い来て祝いてくれり我が米寿の日
【ミランドポリス 湯朝夏子】

春たつる湖畔を歩む足音に波紋残して稚魚の素速し
【グァイーラ 金子三郎】

雨上り地面かたまり打つ球は見事にゲート通過してゆく
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

ピニェイロスの橋渡る時溝臭き悪臭漂よう汚染のはげし
【サンパウロ 竹山三郎】

TVに見るローマ法王の大葬儀我日系人異国の地より冥福祈る
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

命の限り生きて来たその心根は子等に生きて我は誇りに余生を送る
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

「新体道」養気健康体操す全身活性に満ちるを感ず
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

夢に見し母の嫌いな雨嵐慰めも云えず目覚めの淋しき
【ピエダーデ 中易照子】

思わざる寒さのつづく日々なれど季節たがわず咲く花もあり
葡萄にもあまたの品種あることをテレビに見つつ子らといる夜
【セントロ桜会 重道千代子】

草むらに時々光るは蛍火か夏も間近の夕ぐれの道
オートバイ超スピードで前をゆく若者の無法あやぶみて見る
【セントロ桜会 上田幸音】

あじさいの色づきし大き花球を夫の眺める位置にかざりぬ
寒き日の続きて街路に木を集め隣の人ら焚火しており
【セントロ桜会 富樫苓子】

捨てられし子猫か路地に母(おや)を呼ぶ声もかすれて悲しきまでに
【セントロ桜会 渡辺光】

夕焼けに染まる厨の窓の辺に味噌汁に浮かすネギきざみおり
寒くともまた暑くとも独り住めば何も言わずに空を見ている
【セントロ桜会 井本司都子】

道の辺の十字架に供えられたるいろとりどりの紙の花束
鉛筆を削ることなどまれにしてたまに削れば芯が折れたり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

新しく手すりを付けて呉れし子の心あたたかし今日も幸せ
季節はずれの寒さが又もどり来て風邪も再びあと戻りする
【セントロ桜会 板谷幸子】

威勢よき杵の音に誘われ近づけば搗きたての餅売れており
パビリオン竜宮城の再現され浦島と乙姫との花の楽園
【セントロ桜会 鳥越歌子】

残り花庭のつつじも草花も散りて淋しく夏は終りぬ
【サンパウロ 中島昌枝】

温泉郷リオケンチに三十年ぶり想像はるか観光地と化し
【セントロ桜会 大志田良子】

砂浜で凧あげる子の足元に波の寄せ来て白く砕ける
クワレズマ咲き初めし山霧深く花の色さえ定かならずも
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

にこにこと釣れしドラードさげて来し孫の得意な笑顔うれしき
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

街路樹のコーヒーの木に白き花あまき香りに思い出の湧く
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

人気(ひとけ)なき畑のはずれの竹林に犬を連れきて竹の子を採る
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

婿と嫁店手伝いに来し事を友はロテリヤに当りしと言う
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

亡き姑の殊に愛でいし釣鐘草ようやく芽が出こころ安らぐ
つれづれに窓辺に寄れば山間にちらほら見ゆる山百合の花
五月晴孫は元気で鯉のぼりのごと勉強済めば畑かけまわる
【タピライ 杉浦勝女】

集いくる孫の友の顔と名を一年経ちてようやく覚ゆ
また今日も雨かと仰ぐ朝空を何処へ行くやら番いの山鳩
星空に心ひかれて仰ぎつつ還らぬ亡夫に憶いめぐらす
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

止まるも移り行きしもそれぞれにアリアンサ人の誇胸に秘め
八百の会員数えし青年団深く関わりし想い出深し
散り行きし懐しの友垣幾星霜鬼籍に入りし数の多かり
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


好き嫌いありて余生と云う言葉
諍いて仲よく暮らし共白髪
八十の手習いと云い絵に挑む
油絵のペルー移民と交流す
選挙権無くも政治の批判して
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

亡き夫の小言も今は懐かしく
何も彼もパソコン時代手紙まで
人生に財も無ければ敵もなく
子や孫は巣立ちて家の広いこと
一年の悲喜のメモせし暦果て
【セントロ桜会 矢野恵美子】

両岸に鰐見て遡航すパンタナール
棒術の組打つ若者風唸る
墓参る声なき姉の声聞きて
刺青の肌あらわにし若者等
忠義なる安宅の弁慶勧進帳
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

瞑想を乱す一瞬の夜の風
鮮やかに沛雨が洗い呉れし街
虫なけば一人の夜更けに偲ぶもの
語り手も聞き手もなくて鍋料理
自分史つづる気なれど手につかず
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

今の子は叱ればすぐに口答え
良民は手も足も出ず悪の渦
驚きは大道芸の稼ぎ高
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

大宇宙の動き即ち神の意志
総領事は豚の丸焼き始めて見
ことごとく神の意志なる大自然
纒りて少人数の底力
血と涙のコロニヤ歴史綴られて
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


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