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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年1月号

2006年1月号 (2006/01/17) 俳句 (選者=栢野桂山)


桑の実の甘し童の日に還る
ゴルフ場売り損ねたるこの夏野
【寺尾芳子】

評:
 蚕の桑の木の実で小さな苺のような紫黒色で甘酸っぱく、どこか野趣があるような味。子供が頬を紫色にして喜んで喰べているのは微笑ましく、自分もそれに慣って口に入れてみると、遠い童の頃に還ったような気分になるという。


水音と泳ぐ宝石庭涼し
もう誰か夫に供華してフィナードス
【杉本良江】

評:
 一家の大黒柱と頼む夫を失い、フィナードスの日に墓参してみると誰かが早々と来て花を供えている。知人がついで参りの花束かも知れないが、自分の末知の夫の友人かも知れないと、少し小説的な推理もはたらいて興味深い句だと思うこともできる。


ひたすらに願ひとどけと春月に
蟇鳴けば喜雨が間近と百姓等
【宇佐見テル子】

評:
 秋の月は清爽なのが愛でられ、春の月はおぼろ気なのが賞せられる。その春雨に向ってひたすら願うのは何であろうか?移民妻であれば、新移民として早く地主になれるようにと祈り、現在なら遠くの地で勉学に励む男の子、嫁に行った娘の無事であれと祈るのであろう。


五指こぼる砂如月の浜に佇ち
迎春花少しさみしき黄と思ふ
【佐藤美恵子】

評:
 迎春花は黄梅のこと。早春葉に先立って黄色の花をつける。紅梅に対して黄梅と言っても梅ではなく、中国原産のジャスミンの仲間。作者はブラジルでは珍しい黄梅の黄色の花を見て、少し寂しいと思った。この花がブラジルに家族を置いて日本に住む作者の気持を誘い出したのであろう。


布袋様の腹の春塵拭いてやる
小さな舟に手製カランカ鮫を挿す
【佐藤孝子】

評:
 カランカは人間と獣の合の子のような彫刻で、水難除け魔よけに、主としてサンフランシスコ河の舟の舳先に付ける。鮫は竹すのこを渦巻形に立てまわし、魚がこれに沿って網に入る装置で、河では何処でも、海ではセルジッペなどのが有名。それが手製カランカを付けた小さな舟であるというのが面白い。


旅に発つ牧夫忘れぬハンモック
鎧剥がれ火に焼かれたるカスクード
【上坊寺青雲】

枯茨そこだけ避けて獣道
ベランダに干菜の匂ふ良き日和
【畠山てるえ】

夫知らぬ曾孫手伝ふ墓洗ふ
花明り墓地を包みてお盆暮る
【梅林千代】

老ひて尚自立の心種を蒔く
たんぽぽの綿毛の泳ぐ野の微風
【前橋光子】

晩春のひと日パラナの独り旅
晩春の日射きびしき草むしり
【杉本てる子】

岩山に群落あまたアマリリス
ボリビアのガス管通る春の山
【西沢てい子】

改修す会館胡蝶蘭活けて
眠気消ゆ香りの高き句座の百合
【杉本鶴代】

待ちかねた九州場所を耳できく
早々とホームにクリスマス・ツリー
【三上治子】

夕ぼたるお西で修すななにち忌
宿り木の茂るにまかせ栗の花
【本広為子】

炎天に喪服の人の列長き
移住して祖となりし夫の墓参る
【黒木フク】

文化の日心の糧にホ句学ぶ
雷の怖き妹抱き共に泣く
【野村康】

狐火や落馬の事故の野のクルス
狐火や流血を見し係争地
【菅原岩山】

日語の師の母の形見の硯洗ふ
塹壕の如きサイロに秋の雨
【中井秋葉】

棉畑の芽を踏みにじり逃げし鹿
短日の今日も歩きて飯美味し
【下境とみ子】

飛び下りてあどけなきかな守宮の子
動物の日や宿命の馬に鞭
【伊津野静】

春水の大いなる壜抱きゆく
暖かし譲りし席へ手をとりて
【伊津野朝民】

仕合せを誘ふて北のカジユの雨
父の夢母の夢見て明易し
【竹内もと子】

野のスミレ可憐に咲いて春来る
花の都蝶飛び交いて春ふかし
【井出香哉】

移民等の夢叶ひたる花珈琲
青蛙蓮葉に玉子のごと座り
【寺部すみ江】

雲海を潜りて飛機はロスに着く
玻璃を這う守宮の五指のピタとして
【花土淳子】

思い立つ日帰り旅行日脚伸ぶ
窓繰ればまぶしきまでに朝焼けて
【近岡忠子】

足るを知る一人暮しの老の春
小雨中千の灯篭流れ行く
【矢萩秀子】

大旱大アマゾンも水細り
煙突の影ながながと日脚伸ぶ
【大岩和男】

数千の異なる蘭に蜂一つ
和を願い流す灯篭夜の色に
【小野浮雲生】

野鼡の厨辺走る大旱
ジャトバの実振れば聞こゆる山の音
【風間慧一郎】

朝焼や今日の仕事の予定変へ
又雨か無風状態朝焼けて
【伊藤桂花】

盆踊リベイラ河畔彩りて
灯篭の流れ儚し闇を行く
【中川操】

想出を独りあたため夏に入る
老の春一と日一と日をいとおしむ
【上辻南竜】

爽やかに風のかほりて心はずむ
咲きそろうバラに一句を思案して
【山田富子】

初夏の朝部屋一ぱいに風を入れ
新樹風見知らぬ人と憩いけり
【吉崎貞子】

手をつなぐ盲人夫婦に風薫る
家族皆健在ですと墓参る
【矢野恵美子】

軽装の若者増えて街は初夏
蟇出でて客驚かす出湯の宿
【遠藤皖子】

カーテンを替へてたのしき初夏来たる
山荘の新樹が我のいこいの場
【庄司よし子】

ユーカリの風頬にある墓洗う
瞑想す心身一如新樹風
【軽部孝子】

風薫る生れ故郷に似たる里
酒好きの彼を偲びて墓参る
【纐纈喜月】

丘の上の大王椰子や風かほる
雨上り子を背に蟇の高歩き
【井垣節】

猫の恋犬にじゃまされくやしげに
モジアナに移民運びし汽車古りて
【山田勝視】

花時計と撮り行きずりの春惜しむ
亡夫好みし紫スミレの返り花
【林田てる女】

釣堀の曾孫に教はる竿加減
木肌みな貌に喰はれし木の芽立つ
【猪野ミツエ】

カジューの雨都の匂ひつけ戻る
爽やかに卆寿往年のバスガール
【香山和栄】

食める牛憩える牛と牧長閑
郷土会記念植樹す村長閑
【名越つぎ代】

咳く度に涙が流れ老佗びし
雑炊を涙ですすり敗戦日
【内田千代女】

暑を払ふ夏大根の辛みかな
孫の数頭に入れてマンガ買ふ
【岡本朝子】

老ク連節目の受賞や菊かほる
温泉街娘と歩く椰子並木
【今田安枝】

子育てに忙しアズロンベンテビー
子雀の寄りくる独りの園ベンチ
【中川千江子】

瀬戸の海めく浦々の鰆舟
飯あとの浮世話に蝿生る
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


ひつじ雲湧ける彼方に「青い鳥」いたかも知れぬああ少年期
【フェラース 米沢幹夫】

手を取りて歩む渚の海風にとけて甘ゆる女孫の黒髪
【サンパウロ 岡本利一】

少女期に憧れ読みしアニメ本作者亡きあともその名遺れり
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

妻を呼び子らをも呼びて共に観る稀に咲きたる南天の花
【グァイーラ 金子三郎】

遠き日の苦労を偲びて恵まれし今の生活に感謝あるのみ
【ミランドポリス 湯朝夏子】

これしきの麻痺と思いて町に来し春のセーター求めんとして
【スザノ福栄会 青柳房治】

父の墓参すませ来し息子が花あまた供えありしと涙ぐみて言う
【スザノ福栄会 黒木ふく】

世界中いづれの国もこの年は記録破りの天候異変
【スザノ福栄会 原君子】

郵便受け朝夕のぞけど来ぬ「椰子樹」配達夫らのスト続きいて
【スザノ福栄会 青柳ます】

万博の森にマンモス牙上げて参加者吾に向い来るがに
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

邦人の行き交う町を老ク連へ実家を訪ねる思いに杖曳く
【セントロ桜会 野村康】

街行けば土間掃き流すサボン水河を汚染す源と見る
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

盛り上るほどに咲きたる紫陽花もひと夜の嵐に見る姿(かげ)もなし
【スザノ福栄会 渡辺光】

久々に今日は朝から晴れわたり小鳥の声もさわやかに聞く
又一人友の訃報をたんたんと告ぐる電話の妹の声
【セントロ桜会 板谷幸子】

柄の長き傘を杖とし街行けばなれぬ歩行にとまどいており
古き椅子にかけて憩えどぎいぎいときしむ音して安らかならず
【セントロ桜会 上田幸音】

久々に空晴れわたり恋人らデートしおらむ今日は日曜日
朝毎にめでつつ通る道の辺の露草の花つゆに光りて
【セントロ桜会 富樫苓子】

リベーラ川に二千余の灯篭浮かされて流れの早さにわれは戸惑う
「ハルとナツ」ドラマと言えど姉妹のこころ思えば涙にじみ来
【セントロ桜会 大志田良子】

窓繰れば鉢の朝顔微風(かぜ)を受く話かけつつ水をかけやる
夜露など受けたきものを閉じこめて花の命をいとしみており
【セントロ桜会 鳥越歌子】

いつしかに時は過ぎつつさびれたる庭に咲き出でし紫の花
【セントロ桜会 重道千代子】

心臓にリンゴがよいと聞きたれば一日に一回リンゴを洗う
紫にかすみて咲けるジャカランダ散りしく花は道をおおいて
【セントロ桜会 上岡寿美子】

鮮やかなくれないの花ペツニアの鉢頂きてサーラ華やぐ
年末の人ら行き交う街ゆけばナタールの曲聞えくるなり
【セントロ桜会 井本司都子】

文明の利器を作る人智あれど自然の前には無力にひとし
外は雨ニュースは災害うちつづく暗き思いを明るくかえたし
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

新しいカレンダー見て連休の多い年だ喜んでいる
【サンパウロ 竹山三郎】

百才の我に成し得る仕事無く新聞、テレビ見てボケの予防とす
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

百日紅の二番芽を摘む去年にまさる花をつけよと語りかけつつ
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

イタペチの柿を土産にくれし吟友川中島の稽古励みて
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

遠く住む一人の妹も早や卆寿電話で互いの健康気づかう
【中央老壮会(イタニャエン) 稲垣八重子】

能の舞唄う声をば夢に聞く何故か残りて耳を離れぬ
【ピエダーデ 中易照子】

牧草植え柵廻らせて牛を飼う牧をぬぐるは老い吾のつとめ
【ツッパン寿会 上村秀雄】

しまい居し椰子樹ひもとき亡き母の詠みし短歌をなつかしく読む
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

朝毎に出合う一人の日系人「ボアソルテ」とにっこり笑う
一人居も十年過ぎて馴れしかど夕ぐれどきの淋しさはあり
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

音もなく露雨の降る朝の町鳩も寒げに羽たためいる
柿見れば遠い故郷偲ばれる妹ともぎし赤い実の色
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

母丹誠の漬物や酒味わいて我も長生きし重宝されたし
何げなき夫の言葉に反省す老いて睦まじくありたし我は
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

拭えどもぬぐえども目に口に入る吹き出す汗よゲートボール試合
老いこまず若々しくと願えども何時しか齢は米寿となりて
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

秋晴れのパンタナールを道遠く駝鳥の番が悠々と行く
カミゾンの山々の峯空に浮き麓の煙西へ棚引く
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

映像に見る夜の空の祭典は色とりどりの鮮やかさにて
故里を恋いつつも夫は口にせずただ黙々と耕やし逝けり
【タピライ 杉浦勝女】


川柳


趣味の友批評し合ひて気も合ひて
信頼の出来る友との良き出合ひ
手術室に入ったる記憶麻痺覚め
今更に無芸無能を省り見る
塗り直し画き直しては絵に向ふ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


家もなし親なき子等に救ひの手
夢見よし今日一日を張り切って
満ち足りしこの幸をいつまでも
良き友得現在未来と進みたや
あすなきと今日の一日を大事にす
【サンパウロ玉芙蓉会 白藤原曠聖】

インジオやアイヌにもある新人類
老なげく種族の心なくしたと
老ひらくの恋娘等に祝われて
老むきの身体運動やはらかに
盲ひ人世の親切に感謝する
【サントス伯寿会 三上治子】

クリスマス神の真実疑はずに
神様がだしに使われクリスマス
物売りも物買いも居てのどかなり
若き頃の夢が覚めれば今の我れ
代議士は次の選挙を心がけ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

身をたてて名を上げ余生送りたし
旅の人万里去りしを懐かしみ
悲しみも喜びも過ぎ去って行く
何事も神にまかせて進むのみ
人の世は苦難越えれは幸も来る
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

老移民百周年まで生きなんと
話上手交際上手の徳備え
世の中を甘く見るなと父の言
痩せ男肥満女と気が合いて
四十度の暑さに耐えて句を案ず
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

弱音など吐けぬ師走の風に立ち
商魂は逞ましジングルベルに乗せ
師走風不況乗り越え春待てる
苦労から努力で移民の百年史
夢さめて金の成る木は己が汗
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

年暮れてそぞろ懐かし逝きし人
身の縮む思いばかりの新ニュース
趣味の友集ふ愉快な年忘れ
年重ねる毎に楽しき人生よ
今も尚夢の両親ほほえみて
【セントロ桜会 矢野恵美子】





「鼓動」

夜 深く 静かな時が流れていく
私は一人
胸の鼓動を聞いている
ある時は高鳴り
ある時はひっそりと
七十四年間
休むことなく鳴ってきた
文句も言わずに働いてきた
昼も夜も黙って動悸を打ってきた
でも何時か
ああ疲れたと
仕事を放棄する日が来るだろう
私は感動と恐れをもって
胸に手を当て鼓動を聞く

【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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