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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年2月号

2006年2月号 (2006/02/10) 俳句 (選者=栢野桂山)


畳に手突くも久しや夏暖簾
一寸寄って食べて行こうか夏暖簾
【伊津野静】

評:
 招待されて日本間の多い畳か、名のある日本料理店の畳か、その懐かしい藺草の匂いのする畳に手を突いたり挨拶するのは何十年ぶりであろうか。そして這入ってきた入口の涼しい模様の麻の暖簾も懐かしい。久しぶりに日本情緒に触れた老移民の心情がありありと伝わる句。


流燈会先駆者上下せし河に
補聴器をつければ囀りとびこめり
【大岩和男】

評:
 十一月二日のフィナードの日に、リベイラ河の水難者供養の燈篭流しはよく知られている。流れ行く燈篭にこの河を道として、小舟で上下した開拓先亡者の苦労を思い、その冥福を祈った。


泉岳寺詣での過去も十二月
夏涼しアルバムに見る若き過去
【黒木ふく】

評:
 四十七士と浅野長矩を祀ってある泉岳寺には今も線香が絶えないという。作者は義   士の討入りのあった遠い日の十二月に、この寺にお参りしたことを思い出した。十二月と言えば、その年の押し詰まった感が深く、色々と多忙なのに、こんな遠い昔のことを思い出すのは、余程印象が強かったのであろう。


豆喰べてまめに暮そう今年また
舌鼓歴史煮込んだフェジョアーダ
【彭鄭美智】

評:
 主人が喰べずに捨てた豚の尻尾、鼻、口、脚の先などを奴隷の下婢が黒フェジョンと煮込んだフェジョアーダは、ブラジルを代表する料理となっているが、その裏面には奴隷の悲惨な歴史が秘められている。それを「歴史煮込んだ」と簡明に述べた。俳句会では時折、冬の季語として出題されたようだが、まだ季題として認められていない。シュラスコ、ケントンなどがあるのだから、舌鼓を打つほど美味なブラジル料理を季語に加えてもよいのではないか。


春風や両手拡げて竿のシャツ
沼の面に影なす枝も芽吹きたる
【中井秋葉】

評:
 白い男のシャツが、両手を拡げたように竿に干されている。壮烈な蹴球戦を終えた汗のシャツか、萌え出る雑草と戦った埃まみれのを洗ったシャツか、それを「両手拡げて」という適確な写生によって、春風の中の活々とした男の景が想像される。


付文の日本語読めぬ娘暮鐘草
出稼ぎをこっそり戻り牧手入
【佐藤孝子】

大相撲地球の裏より見て楽し
寒い夏地球温暖化と言ふも
【上辻竜南】

親子二代通学の道忘年会
連れ出して曾孫に聞かす蝉の声
【近岡忠子】

うららかや池の家鴨のひな連れて
散るもあり蕾もありて花イペー
【矢萩秀子】

点滴を見上げて日脚伸ぶ一と日
山脈を包む朝霧虹立てて
【中川操】

逃げきれぬ寄附攻勢も年の暮
瞑りて聖歌聴き入るクリスマス
【風間慧一郎】

外つ国に習い異なる年用意
爺と婆顔を並べて年用意
【伊藤信重】

朝の雨上るよりこのむし暑さ
蝉の声聞かず異常な年の暮
【小野浮雲生】

クリスマス恩赦三日の仮釈放
降誕劇孫神妙に天使役
【西沢てい子】

咳く度に涙が流れ老佗びし
雑炊を涙で食べし敗戦日
【内田千代女】

老二人言葉少なに冬至粥
下士官に日系女性社会鍋
【纐纈喜月】

チュンチュンと餌を乞ふ軒の寒雀
髪伸ばし春支度終へ逝きし娘よ
【稲垣八重子】

冬のバラ日ざし頂きうなずける
なかなかになじまぬ入歯年は行く
【伊津野朝民】

汗くさき髪と言はれて気がかりな
若がへるはでな前掛愛人の日
【下境とみ子】

幼な子が泳がせ瓶の目高の子
ウインドーの羅のぞく厚着して
【畠山てるえ】

浴衣着て心若やぐ旅の宿
寺奉仕の十年束の間年は行く
【岡本朝子】

万緑に気力満ちたる山峨々と
崩れ塀のぞくやスイナン紅を差す
【多和田明】

猫の恋犬にじゃまされうらめしげ
モジアナに移民を運んだ汽車古りて
【山田勝視】

行きずりに花時計と撮り春惜しむ
亡夫好みし紫スミレ返り咲く
【林田てる女】

秋桜夕暮れ空に溶け込んで
豊作に家々希望膨らませ
【鈴木昭司】

境内にイッペ満開移民寺
今は亡き両親しのび報恩講
【山田勝視】

団欒の藁葺の家椰子の月
何事ぞ牛啼き止まぬ月の牧
【寺田結城】

フランスで越冬三度と娘のメール
古里の卆寿の姉に編むセーター
【名越つぎ代】

一人来て海をながめる晩夏かな
雲の峰山に重なり山の影
【川端マツエ】

想ひ出をうからと語る年賀状
賀状出す喜こぶ伯母をまなうらに
【前橋光子】

ペタル踏む子等はつらつと夏めける
川面赤々と流るる大夕焼
【杉本てる子】

年末や年金アッと言う間に消
就職と言へクリスマスのアルバイト
【菅山松江】

生きて居る證しの手作り年賀状
夕焼に染まり足早神父さま
【梅林千代】

紫陽花の清楚な笑顔皇女さま
大夕立くちなしの煤払いたる
【本広為子】

暮れ早しポ語の宿題まだ済まず
靴下にサンタ待つ子の願ひかな
【杉本鶴代】

命綱に工夫ビル塗る師走かな
リベイラのカノアにギター夏の月
【野村康】

初夏なるに寒波戻りて篭りがち
墓洗ふ子沢山なりし供花あまた
【黒木ふく】

マンジューバ初荷のバラッカ繁昌す
豚鶏にバナナ喰はせて生産地
【阿久津孝雄】

蜘蛛の巣を払ひへそくり探し出す
洗ひ水流るる先の花あやめ
【寺尾芳子】

木の芽吹く五代目となる孫生れ
餌を蒔く庭に小雀下りて待て
【寺部すみ江】

ふんわりと優しさもらふ春の蘭
網戸入れ風の自在の心地よく
【竹内もと子】

父母の齢幾年も越え墓参る
爽やかなミサ後の集ひ嬉しけれ
【矢島みどり】

カジューの雨都の匂ひつけ戻る
爽やかに卆寿往年のバスガール
【香山和栄】

春の雨私は一人俳句詠む
枝高く小鳥さえずる雨あがる
【井出香哉】

春の雨滝の白糸めくわびし
和服着てお点前五人春楽し
【山田富子】

移住してここに幸ありバナナ熟る
虹立つと児童に知らす拡声器
【杉本良江】

夕虹や蛸焼売れる列をなし
バナナ畑移民時代の思はれて
【外山三沙生】

下手なポ語どうにか通じ汗拭ふ
年の内俄か庭師となりにけり
【小滝貴代美】

蘭の香に酔ふて出づれば師走街
タコ焼きに師走の街の賑わいて
【遠藤皖子】

柿茶飲み友と見廻るバナナ園
郷愁の味の弁当マンジューバ
【軽部孝子】

年の瀬に願ふは遠き子等の無事
銀色の食欲そそるマンジューバ
【矢野恵美子】

牧青み千頭の牛放し飼ふ
コリンチアノ勝って祝いの揚花火
【中原レメ】

又来てねと言ふは恥づかしバナナで
バナナだと言っても誰もふり向かず
【下境とみ子】

玉の汗拭きふき鍬を引きし頃
草いきれ鬼があと追ふかくれんぼ
【宇佐見テル子】

丘の上大王椰子や風かほる
雨上り子を背に蟇の高歩き
【井垣節】

懐かしむ農に家事にと母の汗
倖せは時に忙しく年忘
【吉崎貞子】

虹の橋ロマンの色と見とれ居り
芸なしは唯笑ふのみ年忘
【庄司よし子】

大人びて帰省の孫の太い声
油浮く黄色い蛇酒五年もの
【上坊寺青雲】

雨一と日しずかに落花促せり
夕ざくら想ひははるかなる家族
【佐藤美恵子】

夜なべの灯サザンクロスが覗き込む
拓魂の碑に先ず供ふ新ピンガ
【湯田南山子】

子雀の寄りくる独りの園ベンチ
子育てに忙しアズロンベンテビー
【中川千江子】

眠る葉に夜通し咲いて庭の合歓
丹念な飼育に応へ寒玉子
【山上とし子】

庭の木に神の灯点滅する聖樹
月見豆故郷の話はずむなり
【須賀吐句志】

記念碑に聖書の一語藤の雨
春雷に揺るげるミサの灯をかばふ
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


豊かなる晩年と思えど杖を曳く老の散策つづく何時まで
【フェラース 米沢幹夫】

つき刺さる寒の三日月さす窓にわが来し方をたぐる寂しく
【サンパウロ 岡本利一】

買い過ぎし野菜の袋おもたくて右や左に持ちかえ歩む
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

ただ一人残りし義姉も去年逝きていよいよ遠しわがふる里は
窓開くれば木々の緑のさやかなり年の瀬も知らで小鳥さえずる
【セントロ桜会 上田幸音】

夏なれど朝と夕べは冷ゆる日々重ね着をしてひっそりとおり
うす靄の残れる校舎の屋根上に白き鳩二羽われを見ており
【セントロ桜会 井本司都子】

弦月のおぼろに白き水芭蕉露を置きたる姿寂しき
【セントロ桜会 渡辺光】

久々に訪う娘に見せむ黄の色にようやく咲きたるコッポデレイテ
【セントロ桜会 重道千代子】

雨の日は冬の寒さに陽の照れば夏の暑さに蝉鳴き初むる
四、五日の降りつぐ雨に鉢植の歯朶はみどりの色増してゆく
【セントロ桜会 富樫苓子】

骨粗鬆症は完治せぬとは知りつつもハリ灸を続けて腰痛うすらぐ
一人住む難聴の兄は九十二才会えば仲よく補聴器を手に
【セントロ桜会 大志田良子】

椰子の葉の間をつばめは飛び交いて輪をえがきつつ群を増しゆく
うそ寒き夕べとなりぬ十二月天候異変がつづくこの頃
【セントロ桜会 上岡寿美子】

イタクアの希望の家はひっそりと九十三名の身障者を守るという
年一度希望の家のカラオケ大会われも参加せり一助なればと
【セントロ桜会 鳥越歌子】

古里の生家を継ぎし兄よりの便りは庭の柿熟れ初むという
【グァイーラ 金子三郎】

夫逝きて早や八年余過ぎ去りぬやがてお側にと遺影に語る
【ミランドポリス 湯朝夏子】

いまだ見ぬバーラボニータの運河とダム尋ねんとして友と旅せり
【オンリンニョス長寿会 古山孝子】

死ぬ事を思いしことも多々ありし吾が若き日の苦しみの日々
【サンパウロ 竹山三郎】

釘埋めて植えし紫陽花赤く咲く雨に守られ実現叶う
【ピエダーデ 中易 照子】

年賀状筆跡見事に書く友二人湯田南山氏と上原久司氏
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

卆寿の坂を踏み出しにつつ思うかないま十年を若返りたかりしと
【中央老壮会(イタニャエン) 稲垣八重子】

独特の呼吸瞑想「気」が活性化す自然の流れ疲労回復
剣術の稽古通して自己深め心身鍛錬夫をも敬まい
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

雨あがり茂りしすももの葉かげより白き羽根もつ虫のいで立つ
白き羽根すきとおりいて美しくしばし見とれて時忘れいし
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

来年は又来年はと働けど先の望みなく一家で出稼ぎに
【ツッパン寿会 上村秀雄】

眠られぬまま古き椰子樹を読みふけり何時しか夜も深まりて居り
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

何事もみんな話せる友ありて今日のひと日の幸せ思う
ベランダに小さな鉢の五月花四方にさがり今咲き盛り
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

いつからかイッペーの花好きになりまだ咲かぬかと開花待たるる
沖遠く船の灯りのまたたいてあれは町かと老婦は指さす
鳩群れてポン屑拾うそのそばに乞食すわって爪をかみおり
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

わが歌の活字となりて載りいるを嬉しく読みて暖かき午後
母親似の器用な孫あり絵を書きては眼細める我に見せに来るなり
思いがけぬ師の訪れに我が心嬉しさ満ちて短歌のことを
健やかに湯舟に憩うこの夜を移住せし事をさいわいと思う
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

受話器より聞ゆる明るき孫の声吾もつられて弾みて答う
我の身を気遣う子等が近くにてこれが最高の倖せと思う
雲一つなき秋晴れのゲート大会日語もポ語も混じる声援
一列に並びて試合開始まつ朝陽まぶしきゲートボール場
米寿の祝に上着送りくれし娘の心に涙あふれる
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

ミランダ富士高きにあらずも諸々の郷愁吾を誘うが如し
懐かしのジャミック村の外はずれなる小野田農場に句座を設けて
思わざるNHKの取材班小野田少尉も喜び隠さず
市場にて安き里芋買占めて重きも関わず持ち帰り居り
世の移りに付いては行けぬ吾が想い時代後れと吾を諭しぬ
吾が言い分相手に解らぬもどかしさこくりと唾呑み又言い続ける
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


華やかに飾る舞台の花に酔ひ
名誉会長寛ふ詩吟の年忘れ
東洋街とび入りもして踊りの輪
刀術で体鍛えし年暮るる
淋巴線に効く菌食ぶ健康法
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

修身の尊さ守って来た気骨
修身を捨てし日本にある波紋
逃げ道があってあげたる快気焔
降雨過多日照続けば又も愚痴
道照らしくるる灯もあり趣味に生く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

いらだちの見ゆる人等や年の暮
大晦日白服目立つ花火会
大臣等身を守る為ゆとりなし
雨は降る橋下族は濡れねども
短気者いつも信号無視をして
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

無さそうに見えても借財あるらしく
四十度三日続きて耐えがたし
雲流る空の彼方見句を案ず
移民史に大きく残る笠戸丸
野菜食にコレステロール引き下げし
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

鳥鳴いて独り住いの夜の寒き
俄か雨に会ひて買ひ物大みそか
十字架のなやみにひたすら祈るのみ
子育ての苦労甲斐あり恵まれて
夜に入りて賛美歌流る東洋街
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

元日の乾杯日本酒威儀正し
災害にボランティアのブラジル人
紙細工の写真飾りに幸を込め
セー広場揃ひのシャツ着清掃す
揃いシャツセー広場を掃き清め
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

見はなされ最後にすがる占師
何んの因果奇病を持って生れ来し
子の奇病救いたしとて嘆願す
浄財を受けて親子で渡米せし
又も聞く古典落語に大笑いし
【サントス伯寿会 三上治子】

思う色出せず絵筆に舌打ちす
物を言ふ目覚まし時計孫にやる
事勿れ主義では人に舐められる
帰依をして信仰心の扉開け
もう一人の君が心の奥にあり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


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