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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年3月号

2006年3月号 (2006/03/10) 俳句 (選者=栢野桂山)


卆寿への道に気配り年新た
初御空リベーラ富士に襟正す
【風間慧一郎】

評:
 元日や一糸の天子不二の山内藤鳴雪とあるように、古来、日本人は国の象徴としてきた。又、「初比叡」「初筑波」とか、地方によって土地の名山を親しみ崇めたが、レジストロ地方の移民はリベーラ富士を初富士としてみな襟を正した。初リベーラ富士では語呂がよくないので初御空の富士としたのも良い。


四世代揃ふ幸せ初写真
初すずめ物言ひたげな眼差しに
【菅原松江】

評:
 初鶏、初鴉などの季語があり、初雀は初鶏と同じように、元日の朝その声を聞いたり、軽快な動作を見ると、元日の瑞気に触れた気分になる。雀は野鳥の中では最も親しめる小鳥で、快い声で鳴くばかりでなく、何か人語を語りたいような眼指で、人を怖れず寄ってくるので可愛い。


ジングルベルに曲が変りてダンス急
赤道祭の女王入植胡椒村
【猪野ミツエ】

評:
 赤道を通過する時、移民船では赤道祭を催すが、その折、竜宮城の乙姫様に選ばれた美女は正に移民船の女王である。その美女が意外にも文化水準の進んだサンパウロでなく、遥かアマゾン河流域の胡椒村に入植するという。華やかな美女と僻地である村との取り合わせた技巧の冴えがある句。


遠雷や惜別の日のにはかにも
仏壇に師の笑顔あり花の句も
【彭鄭美智】

評:
 遥かな故郷より親しかった友が来伯して、楽しい会話の日々を過したのであろうか。その友が何かの都合で予定より早く離伯することになり、惜別の日が来た。友を囲んでお別れの会の最中、遠くで時ならぬ雷が鳴った。それは俄かに迫った惜別の時を急き立てるようにも、それを慰めるようにも聞こえた。


栗拾ひ益田農場での句会
栗育てグローブの様な大きな掌
【三上治子】

評:
 これは前句にある通り、毎年慈善栗拾いを催して、その収益を援護協会などに寄進する益田農場主のことで、まるでグローブのような大きな武骨な掌をしていたと言い、篤農家の一面をはっきり浮び上らせている。ただ上の五が「農場主」だったので、これでは無季の句になるので、「栗育て」と評者が添削した。


波引いて砂が吸ひこむ足のうら
生涯にありし浮沈や走馬燈
【井垣節】

囲のゆれを獰猛な蜘蛛楽しめる
蟻の性欲しきと思ふ子や孫に
【伊藤桂花】

山脈を包み朝霧虹立てて
月今宵急げる雲にかくさるる
【中川操】

半裸の娘氷なめなめ街を行く
毒蜘蛛の毛蟹にも似て踏ん張れる
【大岩和男】

抱き上げて幼児に撞かす除夜の鐘
炎天下木の葉かついで蟻の列
【近岡忠子】

ビール一箱冷やし元旦客を待つ
別れ住む吾子の賀状に写真添へ
【小野浮雲生】

カーテンを替へて一人のお正月
目の前にすうっと蜘蛛の下り来て
【矢萩秀子】

百人一首母の手書の歌かるた
入選句の賞受け弾む年の暮
【本広為子】

おふくろの待つ門灯があたたかい
除夜競争トップもビリも走りこむ
【中原レメ】

除夜花火何処から来しかこの人出
結束の堅き沖縄除夜花火
【西沢てい子】

娘の家に遠慮無用の寝正月
幟立つ移民の神社初詣
【纐纈喜月】

春灯下夫絶筆の日記読む
夫好きな唄口ずさみ墓洗ふ
【内田千代女】

花野今工業地帯モジ街道
捨団扇絵は軽快な阿波踊り
【伊津野静】

シャツ邪魔と脱ぎ炎天の屋根修理
年ゆくも人逝くも雲悠々と
【伊津野朝民】

移民像指す山脈も棚霞
ふるさとはおぼろ因幡へ塩の道
【香山和栄】

一世の吾のこだわり松飾
アパートの電飾のハート鼓動打つ
【花土淳子】

今年又ささやかな倖願ふのみ
四世代の我が家にぎやかお正月
【矢島みどり】

移民苦闘の話のはづむ忘年会
八十五年の生涯謝して落葉掻く
【林田てる女】

達筆の米寿の賀状祖国より
学友と今も続けて賀状書く
【前橋光子】

賀状来て友の健在知る始末
掃始に使ふ箒を新らしく
【阿久津孝雄】

鍬だこの手にクリームや寒燈下
子育ての思ひ出数々枯むぐら
【稲垣八重子】

喜怒哀楽の幾星霜や移民祭
食める牛憩える牛と牧長閑
【名越つぎ代】

新箒心あらたに掃始
元朝の空に一礼二拍手す
【吉崎貞子】

美しき手描き賀状の友遠し
紅白戦テレビに見ては寝正月
【矢野恵美子】

新年は開運祈願健康に
セー広場の揃ひのシャツの掃始
【軽部孝子】

初髪をセットして街闊歩して
子宝のありてナタール楽しけれ
【山田富子】

夜明しの麻雀疲れ寝正月
ふるさとの押葉を添えし賀状かな
【杉本良江】

お年玉孫より受ける身となりて
出しもせで来る年賀状待てる老
【庄司よし子】

稲妻の山越へて今海はるか
若水をかけて花にも植木にも
【三上治子】

切れし尾の跳ねるを残し青蜥蜴
群牛を統べる角笛牧霞む
【菅原岩山】

老ひて尚良き友のあり賀状来る
子等帰りあたり静かに寝正月
【宇佐見テル子】

白寿迎ふ母に挨拶お正月
住み古りし吾家を包む除夜花火
【杉本鶴代】

年酒酌む金盃菊の紋浮かべ
”銀の雨”てふシャパドンで年迎へ
【寺尾芳子】

皇室の弥栄念じ四方拝
初日の出七色に燃ゆビルビルに
【野村康】

過ぎて行く良き事禍事去年今年
どんな佳句出るか楽しむ初句会
【杉本てる子】

御降や童話のビデオ孫と見て
一羽来て二羽来てまき餌に初雀
【梅林千代】

一瞬のみ空を焦がす除夜花火
仏前に亡夫の好物餅焼いて
【遠藤皖子】

去年よりの遺品整理や今年また
五十代の亡夫の日記読始む
【佐藤孝子】

長い脚ずり落ちそうなハンモック
夜は黄金の滝となる壁ビル飾り
【木村都由子】

我と妻捏ねて小さき鏡餅
万歩計ゼロより進め初詣
【中井秋葉】

新年に新孫を得て佳き年ぞ
新年や気分新らたに我が道を
【上坊寺青雲】

雲白く流れて止まず夏の空
夏の雨木の影うつす水たまり
【井出香哉】

山茶花や日表日裏まっ盛り
風花の吸ひ込まれゆく大地あり
【佐藤美恵子】

初旅や孫の新車の乗り心地
初旅の一千キロも苦にならず
【作者不明】

星くずに輝く水面ピラセーマ
湯沸しの早やふつふつと日々酷暑
【畠山てるえ】

麻のれんくぐればそこにドラマあり
やりくりも又楽しかり年用意
【竹内もと子】

家の揉めさけ嫁一人夜濯に
百姓の百種作りの柿ゴヤバ
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


香ばしきコーヒーの匂い漂わす吾が散策の道辺のバール
【フェラース 米沢幹夫】

醜さも生臭きことも濾過されて頭髪は白さ増すばかりにて
【スザノ福栄会 青柳房治】

マイアミに今着きたると娘の電話海も空も真っ青と言う
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

十畳は優にあるらん菩提樹の陰に憩えり遠き旅路を
【スザノ福栄会 原君子】

一本の指がもたらした大きミスみずほ証券の師走のニュース
【スザノ福栄会 青柳ます】

庭の芝生除きて植えたる松葉ぼたん日毎数える三色の花
【スザノ福栄会 黒木ふく】

手に取りしポ語の雑誌に三十キロやせし女性の写真に見入る
【セントロ桜会 野村康】

夜の更けを作歌に励む窓外の穏しき虫の音吾を包めり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

母のとし父の齢も越え生きぬきびしき他郷の風に耐えつつ
【サンパウロ 岡本利一】

仕事場のわれを呼び出す電話ベル間違えましたとプツリ切れる
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

庭打てば春の匂いのかすかなり芽吹き初めたる球根ありて
とどろきて地球の断層落つる滝春の光を虹となしつつ
【セントロ桜会 渡辺光】

雨降れば寒さともなう日々となるブラジルの春はなじめがたしも
空き土地に夫の植えたる桑の木に熟れし黒き実雨に光れり
【セントロ桜会 富樫苓子】

春寒く木々の緑は色増せど風邪いえぬまま今日も又雨
春くれば小川の土手で手いっぱいに土筆を摘みしあの頃懐し
【セントロ桜会 板谷幸子】

冷えこみもここ数日は遠ざかり秋を乗り越え希望の春が
十九の春ただひたすらに国のためモンペ鉢巻き銃後の守りに
【セントロ桜会 大志田良子】

街路樹にシビピルーナが連らなりて大学都市に吹く春の風
紫にかすみて咲けるジャカランダ散りしく花は道をおおいて
【セントロ桜会 上岡寿美子】

春雨に伸びし柔草うまからん首伸ばし喰む白き牛群れ
たっぷりと降りたる雨に応えるかジャカランダの花房大きく咲きぬ
【サンパウロ 藤田あや子】

わが土佐の競馬で知られし「春うらら」最下位なれど走りつづけたり
春浅く梢でさえずる鳥の声今朝は遠出の細道歩む
【セントロ桜会 上田幸音】

訪れし春告ぐるがに夜の明けをベンテビーの声しきりに聞こゆ
早春の朝日輝やく庭に立ち芽吹く季節を身に感じおり
【セントロ桜会 井本司都子】

春というに寒さ戻りて小雨降りジャカランダ花とまどいており
季節感うすき南国の春きたるさびれし街路樹新緑萌え出ず
【セントロ桜会 鳥越歌子】

入口に子雀の来て餌欲りぬ会館の一部を使用せし日よ
冬遠雷昼寝の夢も寒かりき一面の霧に西陽も消ゆる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

健やかに生きるをわれらの幸となし幾許の銭を乞食にわたす
【グァイーラ 金子三郎】

移民の記事読みつつ思う吾もまた七十余年をブラジルに経し
【ミランドポリス 湯朝夏子】

鶴よりは小さく白き水鳥の桟橋近くをとび交いており
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

映画見てひとり涙をにじませり若き頃には笑いすごしき
【サンパウロ 竹山三郎】

続く雨に大きく開らく紫陽花の鮮やかな彩に魅せられており
【ピエダーデ 中易照子】

予期もせぬ百才の歳も無事に過ぎ百一歳の誕生日息子等に祝さる
我ながら長命に不思議感じつつ地域社会よりの祝福に感謝
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

桜木の蕾かたきと思いしが早やも二分咲き三分咲きとなる
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

冬休み子孫が来ると電話あり日数かぞえて老いは待ち佗ぶ
【ツッパン寿会 上村秀雄】

心地よく身に沁みゆきぬ上坊寺様の詠みし歌はも我も二世にて
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

曾孫の絵派手な服着せ禿頭の背高のっぽの元気ぢいさん
【ピエダーデ 中易照子】

ポンを焼き牛乳沸かして一日が初まる今日も無事にと祈る
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

よもぎ草生い茂りたる監獄の塀に落書する人のあり
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

豊なる国にあれども義務教育施こさざれば先きの思わる
長生きをしたものだねとつぶやきて母は満開の蘭を賞でいる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

つかまんと手を伸べたれど空蝉は風に誘われ舞い上りゆきし
【タピライ 杉浦勝女】 *空蝉:蝉の脱けがらの事

旅行くを楽しみたりしこの身はも気力湧かざる体力となりし
友と行く此の山道に柿の樹は黄に染みし葉をしきりに散らす
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

修身を習わぬ世代の人生観此の相違をば如何に処すべき
迫り来る三人のトロンバに思わずも吾が太き杖役にたちたり
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


正常の血圧となる野菜食
執着を激しくすれば悪魔呼ぶ
夢にまで見て作詞をし曲も編み
心より滲み出た句に心うち
至誠天に通じて事が成り立ちぬ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

子育てはもう沢山と制限し
健康で仲良く夫婦子沢山
良い子持ちぜいたく云って呆けている
日本で良き職を得て居付く子等
糖尿の親を残して出稼ぎに
【サントス伯寿会 三上治子】

ダイエット三日坊主で肥り過ぎ
エネルギー無き食べ物で肥り気味
明日からダイエットとて大食す
ダイエット掛け声ばかり意気込めど
食欲を抑えきれない弱き意志
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

受付の愛想よろしき老ク連
感謝する面倒見呉る子供等に
人の世の義理人情の中に生き
盆栽の松を枯らせし悔いのこし
何も彼も主の意志なると従わむ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

花愛ずる高原にある蓮の池
肌良くす昆布茶飲みて友の会
百周年に向かって励もう移民祭
此の国を美しくすてふ講演会
柿茶飲み健康法を語り合ふ
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

大いなるゴヤバを買ひて旅楽し
詩の道に付かず離れず今八十路
卒寿なる友は達者な佳句を詠む
さまざまな花の名覚え記す旅
句友皆八十路なれども若々し
【セントロ桜会 矢野恵美子】

雨に濡れ陽に焼け百姓馬鹿になる
末成りの拗ねて胡瓜のひん曲がる
愚かなる頭をかくす椰子帽子
水蝕の表土を掴む必死の根
雨を欲る作物の声聞かぬ空
【サンパウロ 丸丁呂】

まだまだと移民根性捨てきれず
無芸とは云へど一つの趣味に生き
子育てを鍬一丁で支え来し
本読まぬ頭は回転鈍くなる
晴れたれど心の曇り取れなくて
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

移り来し我等の祝い百年祭
正当な理由引き込めてる平和
情熱を燃した男の夢のあと
人の世の喜怒哀楽も詩となる
後悔と反省知れば世は平和
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】





「木立朝顔」

あ、つぼみがついた
今日はつぼみがふくらんだ
あ、ひらいた、咲いた
日本から移り来て五年
季節を忘れず
必ず花をつけてくれる
木立朝顔
高齢の私たち夫婦に
力をくれる花
木立朝顔

【ナザーレ老壮会 波多野敬子】


「残暑の海」

雨はいつも逃げ足早く
サットきてサット逃ぐる
暑さ逃れに人々は
涼を求め海へ海へと集い寄る
ピチピチとはち切れそうな
肉体美を晒す乙女たち
日曜日の海辺の砂原は
人の集いで埋づまる
カルナバルも近き浜ボテコ
早も大衆の群とサンバ調の
音楽で大賑わい
誰もみな浮かれ腰で楽しそう
ブラジルに七十年も住み慣れて
腰一つ振らぬ我等老移民
婆ちゃん今日はちょっと浮かれ
楽に合わせて腰を振る
照れくさそうに手をとって
サンバの調に合わせ行く
さあさあ大変、子や孫が
面白がって大喝采

【中央老壮会(イタニャエン在) 稲垣八重子】


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