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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年4月号

2006年4月号 (2006/04/08) 俳句 (選者=栢野桂山)


露寒し別れの言葉言ひ忘れ
大雷雨あとのにわかに秋めいて
【川端マツエ】

評:
 晩秋になるとこの南国でも、草木が露を結ぶ時、それが霜になるのではと思える寒さを覚えることが時折にある。久しぶりに来訪した者の親しかった友人を、牧戸まで見送った。その時に話し足りなかったことをもっと語りたいと思っていたのに、露寒のためについ言い忘れた。


転がりて泣かぬ跣足の子に小銭
お先にと人よける野路露寒し
【畠山てるえ】

評:
 跣足にしてもらうと喜んで走り出し、よく転がり脛をすりむいたりするが、この子は父親に似たのか気丈で容易には泣かない。孫に甘い祖母がそれを見て小銭を与えた。その情景が明るくありありと読者に伝わる。


鍬を持つ手に舞扇草芝居
茗荷の子出陣の如出揃ひぬ
【猪野ミツエ】

評:
 茗荷は根本に花茎を出すので採って、刺身のつまにまた汁に入れたりする。肥土に植えた茗荷は競い合って浅紫の芽を出すが、それを兵隊の出陣する時の勢いのようだと言って、写生の冴えがある。


花茣蓙に昔のままごと懐かしき
チリー富士雪をかぶりてそそり立つ
【矢島みどり】

評:
 レジストロ辺りで織った花模様の鮮やかな茣蓙が庭の隅に敷いてある。それを見て自分も幼ない頃、その上でタンポポの花など刻んで遊んだことを懐かしく思い出した。ほのかな情と景のある句。


下萌に卆寿を越へる力得し
木の葉髪我慢で生きし移民妻
【稲垣八重子】

評:
 移民妻はこの句の通り、何人もの子を育てつつ、男と同様に畑仕事をこなし、その合間に炊事、洗濯、裁縫をしながら子の勉強まで見てきたのが大部分であろう。移民妻の木の葉髪はこの我慢のせいであろうし、この我慢があったので今日のコロニアの繁栄があるので、木の葉髪は移民妻の勲章と言える。

「紀子さま」のご懐妊祝ぐ国の春
花椰子や胎児の如き莟解く
【本広為子】

評:
 椰子の花の莟は大きく壷状で、これを胎児の如くと見た。その大きな莟が時期がきて割れて、赤ん坊を生むように苞を解いた――と詠んだ。椰子の莟を「胎児」と視たのは一つの発見で、これによって新鮮味のある写生句となった。

供養する者絶えし墓草の花
百輌の鉱石列車草の花
【名越つぎ代】

香水の形見の小瓶封のまま
躓いてあと吃り鳴き羽抜鶏
【菅原岩山】

NHKの伊予万才を観てお屠蘇
啓蟄や卆寿夫婦の句集世に
【香山和栄】

筍や保存法聞き貰ひ来し
履物を泥にとられて跣足の娘
【吉崎貞子】

逃げし牛探しあぐねて草いきれ
天井が落ちると思ふ猫の恋
【井垣節】

少女達夏の海岸闊歩して
海岸の夏草に棲むカラムージョ
【今田安枝】

所作にぶくなりし老妻冬支度
竹の子の皮までむいで配らるる
【中井秋葉】

大旱に蟻の行列整然と
元日の過ぎ森閑と呟一つ
【藤井梢】

夏霞我を追ひ越す松葉杖
夏シャツの袖まくり彼立ち上がる
【伊津野朝民】

飲み頃のウオッカ瓶のマラクジャ酒
ネクタイとハンカチ対の臙脂色
【伊津野静】

野育ちの今も野が好き花マモン
春節のドラゴン踊り園遊会
【彭鄭美智】

人待ってひそと開きて水中花
雨あがり遠き鶏舎の燈涼し
【花土淳子】

白波の打ち寄せて夏鴎飛ぶ
蚊遣火の煙なつかしとて夕餉
【井出香哉】

雪景色飛機の窓より撮りにけり
風に揺る数珠玉画く橋の人
【竹内もと子】

逆立ちて敵を見下す喧嘩蜘蛛
新米に胡麻塩ほかほか握り飯
【伊藤桂花】

牧場となりしお茶畑野路の秋
トルネーラ開けて湯の出る残暑とは
【近岡忠子】

丁寧な女医の触診萩咲いて
星飛ぶと日語で追ふて老移民
【風間慧一郎】

山脈のかすみのなかの夕サビア
爽やかや日本語話せる孫三世
【中川操】

人災の相次ぐリオのカルナバル
屋根に草生えし鶏舎や山の秋
【小野浮雲生】

老ひて尚さら物忘れ日短か
羅の黒透き通る白き肌
【内田千代女】

忘年会明日出稼ぎに行く人も
蕾のまま散るも運命や白椿
【林田てる女】

平凡な暮し倖せ去年今年
子と孫と曾孫と私初写真
【前橋光子】

冷々と夕月照らす出水跡
秋出水転居の目当無きままに
【岡本朝子】

牧盛夏別に息づく牛の瘤
初電話律儀なところ親に似て
【佐藤孝子】

朝夕べしずかに秋の音を聞く
遠近にパイナクワレズマ花盛り
【星井文子】

梅の香のただよう梅酒にちよと酔ふて
茅の輪潜り開運の札いただきぬ
【木村都由子】

二世等が中堅の村夏芝居
亡き母の枝豆の味想い出す
【上坊寺青雲】

ピキー酒麻州自慢を日本まで
ベラニコに我関せずと老移民
【成戸浪居】

若人の介助ホームの初笑
灯の下で守宮がぢっと虫を待つ
【三上治子】

炎天と雨の被害や野菜畑
日本の豪雪被害のニュース聞く
【黒木ふく】

田舎家や虫の啼く音に包まれて
寺を守り変りなく咲くパイネイラ
【杉本鶴代】

あたたかき廚に遊ぶ蟻の昼
天才や春の雀を白く描き
【佐藤美恵子】

己れまだ生きてゐたかと昼寝覚
パラナグア港を焦して秋夕焼
【岡田愛子】

国の秋翳る〃ふじもり〃出馬論
吾の和語コロニア語なるみみず鳴く
【野村康】

庭隅の色とりどりの鳳仙花
ぱらぱらと降雹まざり初嵐
【杉本てる子】

盛装の母入学につきそえる
明日入学鞄はなさず寝る曾孫
【菅山松江】

ユニホームきりりと曾孫入学す
椰子落葉道ふさぎたる初嵐
【梅林千代】

火取虫群れては落る出湯の宿
朝起は老の余徳や露涼し
【矢野恵美子】

踏んで行く青じゅうたんの露涼し
泳ぐより跣足裸の海たのし
【宇佐見テル子】

新涼や家族に床上げ祝われて
蘭育て余生優雅な日々となる
【西沢てい子】

竹の子のパステス食べる子指立てて
草むらを行く釣竿と夏帽子
【杉本良江】

風薫る生れ故郷に似たる里
酒好きの彼を偲びて墓参る
【纐纈喜月】

夏帽子乱れし茶髪隠したる
盆栽の松枯らしたる夏わびし
【山田富子】

独学のカンテラに翔ぶ火取虫
開拓の村の学生みな跣足
【阿久津孝雄】

災害と汚職続きの年暮るる
井戸深き若水汲んで帰省孫
【笹谷蘭峯】

陶土盗り巣作り励む竈鳥
日々恙なき倖せに夏布団
【中川千江子】

羅にて乙女の鼓動見ゆるかに
涼しさに娘の声聞きたく電話する
【寺尾芳子】

団欒の集ひに筍飯を炊く
草原に見ゆ夏帽は写生の子
【中原レメ】

老ひて尚晩学励む火取虫
夏帽子被り若やぐ老どちら
【遠藤皖子】

棒術は白衣裸足で猛稽古
第九シンフォニー合唱夏の夜
【軽部孝子】

筍の三日見ぬ間に吾が背越す
競ひ飛びして体あたり火取虫
【庄司よし子】

菊枕して移り香の髪を梳く
産卵の蛾に花開く月見草
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


同県人ときく親しさか寄付帳にいくばくの額書かされにけり
【フェラース 米沢幹夫】

明日のみを恃み励みし若き日よさだめ哀しく妻は逝きたり
【サンパウロ 岡本利一】

休日の静かな朝のひと時を花手入れして泥靴洗う
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

今日もまた東きりんの晩酌にNHKの相撲に見入る
【グァイーラ 金子三郎】

涙もて神戸の埠頭に別れたる京都の妹も媼になりぬ
【ミランドポリス 湯朝夏子】

釣人等は釣りし魚を惜しげなくとび交う鳥に投げあたえいる
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

お互いの痛みなぐさむる姉上との文の交換今もしきりに
【ピエダーデ 中易照子】

幾年か過ぎし異国の高原に父母と故郷を偲びいる秋
【サンパウロ 佐藤喜八朗】

ブラジルに七十七度目の元旦を親子そろいて雑煮を頂く
しとしとと降る長雨のつづく日は淋しくなりぬ年の始めに
【セントロ桜会 上岡寿美子】

眞夜さめて美しき月の冴えざえと心あらたに双手を合わす
大正に生れ昭和は命がけ平成に老いて気負うことなし
【セントロ桜会 上田幸音】

黙々と人らは回転ドアに入る何かに急かされているが如くに
新らしき暦をかけて早や十日あわただしく過ぐ日々の移りは
【セントロ桜会 井本司都子】

年明けて日々は忽ち過ぎてゆく追わるる雑事をくりかえしつつ
緑濃き街路に黄の蝶かがやきて風に吹かれて泳ぐがごとし
【セントロ桜会 富樫苓子】

朝霧のパラチ海岸のウォーキング裸足によせる心地よき波
朝六時潮の香ただようイタペチの水なまぬるく季を感ずる
【セントロ桜会 大志田良子】

新年を祝う花火は空高く歓声上げつつ若人の群
孫息子の流すCDより朗々と尺八ひびき亡夫顕ちくる
【セントロ桜会 鳥越歌子】

元旦の午前零時にいっせいに花火を上げてこの年を祝ぐ
五十年ぶりの同船者会懐しき人々さがせどすでに鬼籍に入りしと聞く
【セントロ桜会 板谷幸子】

下女下婢の言葉もあれど日々をお手伝いさんに守られており
曇り空に拡がる紫のジャカランダ増して色濃く鮮やかに見ゆ
【セントロ桜会 藤田あや子】

月下美人咲きて衰えゆくまでの一つの生を短か夜に見つ
一寸に足らぬかまきり早緑の斧ふりあげて我を威嚇す
【スザノ福栄会 青柳房治】

初生りの桑の実みつけ赤サビア吾もの顔にひねもす去らず
詣でたる墓所は雪に隠れいしとう北陸の妹の新年の便り
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

ウォーキング怠けて過ぎし幾日か今朝は重たき足を引きずる
六ヶ国の大問題を手古ずらす北鮮ありて会議進まず
【スザノ福栄会 原君子】

アセアスの敬老会の引き出もの心こもれる紅白の餅
金箔入りのお茶に福博の歌友らは詠進歌の入選祝いくれたり
【スザノ福栄会 青柳ます】

カセットとビデオ買いきし末の子は使い方教え元気でという
目覚むれば痛む足腰押さえつつ鈍き動作の一日初まる
【スザノ福栄会 黒木ふく】

ビルの角きらめき昇る初日の出傘寿の旅路祝ぎ暮るるかに
法被きて餅つきし人ら声そろえ「ゆけゆけ同胞」共に歌えり
【セントロ桜会 野村康】

年末の反古より出し子供らの古い日記に往時思えり
東京のメトロに乗れば学生と通勤人の若き息吹きに
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

ジェネラル閣下より百才の記念品戴きて感激ひとしお百才われは
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

孫嫁ぐ日共に祝える嬉しさは八十五才我の身にあまる幸
【ピエダーデ 中易照子】

戦時中教える人も習う身も声ひそめ暗きランプにて日語を
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

寒き夜ひとり夕餉のすきやきにうどんを入れて心温もる
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

セアレンセ鉢巻きをして寿し握る味がおちたと友は嘆かう
【サンパウロ 竹山三郎】

小さな鉢の木瓜(ぼけ)の木に六つもの花咲きサーラのメーザにかざる
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

半世紀以前に聞きし原始林今はビル建つ近代都市に
【ツッパン寿会 上村秀雄】

それぞれに苦労ありしが移民妻顔には出さずいつも笑顔で
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

花の香のする町並を観光のボンデは人乗せ手を振りてゆく
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

年毎に寒さきびしく身に沁みてふと思い出す着ぶくれし母
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

暮れなずむ空に流れる尺八の音の高低に哀愁こもる
【タピライ 杉浦勝女】

幹太き赤菊の鉢枯れてゆく中に小菊の葉の出揃いて
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】


川柳


赤飯を老妻体調良しと炊く
凶報の後に吉報次ぎつぎに
諺に自から助く者助く
大相撲外国勢が上位にて
久々に日本人力士優勝す
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

深海の不思議を写すハイビジョン
喫煙者同士が心通はせる
恍惚の人には見えず足早に
食欲は旺盛にして病気持ち
マスクして顔をかくしてカルナバル
【サントス伯寿会 三上治子】

暑いとて猫と一緒にのびており
いたづら子煮干し結べり猫の尾に
突然に孫の悲鳴に犬黙り
扇風機かけっぱなしで耐ふ暑さ
蚊の鳴く音苦になり夜毎眠られず
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

老いて尚書道俳句に励む日々
朝日浴び深呼吸する健康法
服を選ぶ余裕を持ちて良きセンス
曾孫生れ初体面に訪問す
不順なる天候なれど柿あまし
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

秋闌ける湯治の宿に友と来し
常夜灯湯治の宿は早や明けて
人溢れ仕合せあふれダリヤ祭
啄木鳥の木を穿つ音朝早く
打ち楽器に浮かれて踊るカルナバル
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

井戸端はなくて相撲に花が咲き
川柳や俳句に余生の夢かけて
惚けそめし友見て明日は吾が身かと
誕生日齢の数ほど皺が増え
雨降れど心晴ればれ過す吾れ
【セントロ桜会 矢野恵美子】

風呂鏡女の過去を写し出す
風呂鏡拭いて女の過去を消す
日系の唯一の証蒙古斑
世を覗く最合眼鏡の老夫婦
鍵しかと女心を覗かせず
【サンパウロ中央老壮会 丸丁呂】

商売の目はし利き過ぎ坐礁せる
自己主張過剰で人に厭やがられ
ゆっくりと構えたつもでそそつかし
核廃止称えて試験せる矛盾
又しても泣き落されてお人好し
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

温情に触るるは老の命綱
一期一会今日も球友有難う
亡妻に生かされ居しを悟る今
健康でコロリと逝けば悔はなし
有がたく朝餉に向ひ合掌す
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

大声で語れぬ人生裏話
妻の名が六十年でプツリ切れ
信念と頑固で人格積み重ね
頑張りし試合逆転負けとなり
浅学非才越えて句作の灯り見え
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】


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