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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年5月号

2006年5月号 (2006/05/15) 俳句 (選者=栢野桂山)


朝曇ふくみ鳴きして番鳩
コカコーラ瓶に浮き足水中花
【猪野ミツエ】

評:
 夏の盛りの朝空は、靄がかかって曇ることが多い。それを「旱の朝雲」という。そういう時、軒端近くに来た夫婦鳩の鳴き方は、晴れた日よりくぐもってはっきりしない。そこに小さいが一つの作者の発見があり、それが「朝雲」というむつかしい季語の句を新鮮なものにした。


余生にも燃ゆるもの欲し去年今年
麻のれんくぐればそこにドラマあり
【竹内もと子】

評:
 麻暖簾はこの国では余り使われないから、これは名のある料亭の日本座敷の涼しい模様の麻のれんであろう。それをくぐると、これまでに苦労して名のある料亭に仕上げた女将の生涯や、そこに働く女給が居て、それぞれ人生の苦楽をくぐり抜けてきた人生ドラマがあったのではないかと、それを詠んで夏のれんの句として面白い。


天と地と一色にして大夕焼
下痢止に”現の証拠”と母の言
【伊藤桂花】

評:
 原野に自生しているげんのしょうこは、漢方薬で、この葉を煎じて飲むと下痢止に妙薬で「現の証拠」と呼ばれ、日本から種を取りよせて蒔くと、野草だけによく育つ。行方健作著「ブラジルの薬草」にも取り上げられて、その効果を保証している。


渋滲む夫婦茶碗に新茶くむ
書き止めておかねば忘れ秋のホ句
【寺部すみ江】

評:
 夫婦茶碗を大切にして、手に馴染んでくるとおのずと茶渋が滲みでてくる。日本から帰伯した人から頂いた新茶の味を舌にしていると、夫婦の苦楽を共にした年月が偲ばれるのである。


まだ誰も触れては居らずねむり草
濯ぎ女に占領されて牧清水
【佐藤孝子】

評:
 夜は葉をとじるのでねむり草とも含羞草(おじぎ草)とも言い、ブラジル原産の野草である。今朝通りがかりにこれを見ると、誰も手を触れなかったらしく、葉をひらいて淡い紅の小さな花を咲かせている。この可憐な野草によせる作者の情が読者によく伝わる句。


トレモロの楽奏で居るけらつつき
三回目には食傷の大甘藷
【阿久津孝雄】

評:
 弦楽器、打楽器などのふるえるような音律をトレモロと言う。啄木鳥が木の幹を叩く遠くの音律がそれに似ている――というハイカラ句で、老壮の友俳壇には珍らしい。


健康で米寿越え聞く除夜の鐘
炎天や靴にすいつくアスファルト
【内田千代女】

青光る漁りたて鰹浜に買う
干小豆パチパチはじけ秋の晴
【木村都由子】

灯ることなきぼんぼりや庭の秋
秋暑し額の魚の飛び出そう
【伊津野朝民】

白に黒小柄にのっぽ入学児
逆縁の後の彼岸も過ぎにけり
【伊津野静】

秋彼岸墓石に未だ陽の強し
新涼や国歌の口笛吹くオーム
【花土淳子】

日向ぼこ大地の果にひとりぼち
落椿満足したかに地に還り
【稲垣八重子】

ポン抱いて頭に荷物跣足の娘
熱きポン食べ食べ帰る跣足の子
【井垣節】

目の光る触角長き火取虫
露涼し老に手頃な鍬研ぎて
【纐纈喜月】

念腹直弟子久美子逝き凍星に
無縁仏となりし移民の魂祀る
【林田てる女】

コスモスのゆれてかすかな風を知る
日語学び孫の言葉の優しかり
【矢島みどり】

菊愛でし母に因みて吾子「菊江」
けらこだま移民村なる通学路
【杉本良江】

咲き満ちて喜びさそう菊百花
菊日和朝の窓開け深呼吸
【山田富子】

体より嘴長きツカーノよ
稲光ひかりしあとのまくらやみ
【中原レメ】

アレルイアズットラ街道まっしぐら
思ひ出や亡夫と拾ひし丹波栗
【遠藤皖子】

啄木鳥に戦争の本読み返す
花見事人満員のダリヤ祭
【軽部孝子】

過疎の村造林ふえてけらこだま
植林に潤ふ村のけらこだま
【畠山てるえ】

朝露と夜露をふんで畑仕事
奥地より豊作告げるよき便り
【宇佐見テル子】

露の身や余生ひたすら夢少し
白菊の匂やかにして本願寺
【吉崎貞子】

剪定終へ淋しくなりし庭の秋
茶摘篭今なお大事にしまい居り
【小野浮雲生】

豊の秋大地の恵みしみじみと
天高く白一線の飛行雲
【近岡忠子】

詣で来し線香売居て泉岳寺
夢に聞くサンタクロースの鹿の鈴
【大岩和男】

芋虫共に太りて無農薬の畑
カルナバルと言ふも邦人街静か
【矢萩秀子】

人心解せぬ捨子や秋の風
秋風やまことを話す友が減り
【中川操】

逝きし友とへだたり遠く天の川
年過ぎて尚忘れ得ぬ息子の死
【井出香哉】

祖父の夢託され明日の大試験
欠水病村に一人のニグロ医者
【菅原岩山】

顕彰碑句碑歌碑拝す夏木立
カルナバルも働く夫に嫁不満
【名越つぎ代】

コメディーに笑ふも孤独うそ寒し
星月夜天文書手に星さがす
【梅林千代】

うそ寒きあしたの陽ざし背に散歩
春場所の横綱凛々しき四股を踏む
【菅山松江】

早起きの苦にあらざりし大相撲
只一人歩く野の道星月夜
【杉本てる子】

木の実食む栗鼡に会ひたる散歩径
女王めく冠派手なけらが来て
【本広為子】

親切な眼科医なりし女性の日
秋彼岸お位牌寺へ出稼ぎに
【寺尾芳子】

女性の日曾孫二歳の誕生日
秋を病む思ひ出多き終の家
【黒木ふく】

ポンポンダリア赤黄白と競ひ咲く
紫蘇の葉を摘みて一日匂へる掌
【杉本鶴代】

入れ墨は日本の文字裸人
指黒くなる栗飯の栗を剥く
【中井秋葉】

お螻蛄鳴く盗難恐れゐる村に
防犯に強き家欲し男郎花
【野村康】

秋晴れや白雲悠々去来して
清澄な山気身に沁む秋深む
【岡本朝子】

北極熊の動物園とは珍らしき
白熊の達者な泳ぎぶりを見て
【三上治子】

カレンダー替えて友呼び新茶淹む
朝涼し小鳥チュンチュンリズミカル
【彭鄭美智】

萩の花命の限り咲き果てて
健康が取柄朗らか日焼妻
【香山和栄】

針穴に春光透いて老眼鏡
春の夜の孤独を癒す缶ビール
【前橋光子】

ピポッカの屋台子供に取り巻かれ
広々とパンパ草原風涼し
【上坊寺青雲】

花菖蒲見ゆる高さに伯父の墓
美女柳釣堀に人あふれしめ
【佐藤美恵子】

うそ寒やとつぜ老夫世を去りて
冷やかや老ひて妻のこされて
【酒屋登喜子】

狂ひ咲くバラ庭土に埋もりて
【北川智慧子】

大正に生れて米寿大根汁
坐ること忘れて移民障子の間
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


花言葉「私はあなたにふさわしい」名札を立てて白バラ咲かす
【フェラース 米沢幹夫】

世界より強豪集いし五輪にて小柄な荒川必死の乱舞
【サンパウロ 岡本利一】

市役所の許可證胸に検査官デンゲ退治と花鉢のぞく
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

涼風にゆらぎかなづる風鈴の音色なつかし故里の夏
【グァイーラ 金子三郎】

雨の降る日々にしあれど思わざる桔梗咲きたり紫色に
久々に訪いきし子らを見送ると尾灯消えゆくまでを佇ちいし
【セントロ桜会 重道千代子】

良き事も悪しきも越えて七十三年老いのたのしみカラオケ唄う
メトロ中幼な子を抱き荷物持つ母の姿に昔を思う
【セントロ桜会 鳥越歌子】

亡夫植えて四十年経し柿の木の朽ちかけたれど青き実つける
【セントロ桜会 藤田あや子】

集いたる若き人らの中にいてしみじみと聞くナタールの歌
朝々を曇りのつづく日々にして小鳥の声もあまり聞えず
【セントロ桜会 井本司都子】

ゆるやかに煙たなびく山裾に夕餉の支度か人影の見ゆ
庭隅の古き木椅子は足弱の我がかければギーギー音のする
【セントロ桜会 上田幸音】

ウバツーバの海に遊びて思い出づ波をくぐりし幼なき吾子らを
緑濃き街路に黄の蝶かがやきて風に吹かれて泳ぐがごとし
【セントロ桜会 富樫苓子】

咲き盛る淡いピンクの百日紅雨にうたれて早や散りはじむ
恙なくこの一年も無事に過ぎ支えてくれし家族に感謝
【セントロ桜会 板谷幸子】

三台のバスに分乗ふるさと巡り平野、上塚、移民の父しのぶ
牛の群夕日も落ちてねぐらへ帰るバスもスピード聖市に向う
【セントロ桜会 大志田良子】

街角に数本並びさるすべり白きが咲きて風にさゆらぐ
照りつける夏の光に彩を増すクワレズマの花紫の濃く
【セントロ桜会 上岡寿美子】

かりそめの昼寝にうつらうつらと遠き幼な日の出来事を見ぬ
【ミランドポリス 湯朝夏子】

足弱を慣らさんと一人杖ひきてソルベッテ楽しみに町角を巡る
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

桟橋より遊覧船にのりうつり数多の客におどろき見いる
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

株増えて整えきれず蘭の鉢嫁はせっせと優しき気くばり
【ピエダーデ 中易照子】

高原にひとり夕日の中に佇ち思うは恋人紅葉のふるさと
【サンパウロ 佐藤喜八朗】

同年輩の友皆他界し語る友無くさびしきめぐり百才の我は
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

晝の間は珈琲園に働きて夜更けて学びし日語いっしんに
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

アパートの入口に咲くぼたんバラ一枝折りて一輪差しに
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

耳鳴りとともに過せる半世紀頭痛は遂にいまだ知らざり
【サンパウロ 竹山三郎】

故郷の知事を迎えし寄せ書に今亡き友の太き筆跡
【スザノ福栄会 青柳房治】

年賀状出して返信待ちいしが妹の訃報に涙溢れ来
【スザノ福栄会 黒木ふく】

心臓の健康講座始まりしとテレビ見ている子が吾を呼ぶ
【スザノ福栄会 原君子】

すこやかに歳をとりたし若きらと体操教室で自転車を漕ぐ
【スザノ福栄会 青柳ます】

週末には来て診てくるる婿ありて老いゆく身にはやすらぎ深し
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

ブラウスの胸にとめたるリリヤーンのトンボは勝虫吾のマスコット
【スザノ福栄会 野村康】

山腹に白く咲きたるアンジッコが風に散り行く秋の夕暮
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

帰国せし友繁昌の食堂よ見上げ歩く懐かしみつつ
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

子の厚意二泊三日の北海道の旅かけ足なれど心はずみて
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

我もまた移民の子としてこの大地耕やし続けて悔なく老いし
【ツッパン寿会 上村秀雄】

川岸のプリマベーラの並び咲く温泉の町の春は待たれる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

カレンダーにそれぞれの予定書きつけて二世代住む我が家の暮し
旅に出ること億劫となりたるに万博に是非行けと子らは言う
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

しとしとと降りし秋雨も止みたれば今朝の青空雲一つなし
母逝きて五十数年経つれども優しき笑顔なお眼裏に
【グァラニー桜会 内田千代女】

道の辺の轍にたまりし水に集い小鳥がたのしげに啼きつつ遊ぶ
農作の玉葱山と積みたれど値段安くて百姓泣かせ
【タピライ 杉浦勝女】

白雲が悠々南へ流れ行く明日は天気か涼風吹きて
人の混む自由市場に今日も又筍等を買いあさりおり
蒟蒻や豆腐等売るこのバンカ日本人客の絶間なくして
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


幾たびも溜息ついてねむれぬ夜
老いし身の欲気もなくて口達者
三欲の食い気ばかりが残りけり
疑問符はどれにもつけて未解決
派手な服気になる歳と成りし今
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

どの力士横綱たおすか楽しみに
大相撲十日目座布団みだれとび
胸をはり世の荒波に向かう吾子
人馴れて深山から来る小猿どち
ポケット猿人怖じもせで餌ねだる
【サントス伯寿会 三上治子】

世の不況治安悪化の火をあぶり
老いし身を忘れ幸せ流す汗
無病息災現代医学に信を置き
楯突けぬ事を知ってる老いの足
優劣が判り作戦立て直す
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

前向きの姿勢の人を先達に
欲捨てたその口裏で出たる欲
選者より強い批評を受け止める
老妻の永の苦労に後光さす
以心伝心その人物に惚れこめば
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

読みすすむ次代に伝えたい歴史
百六歳健やかにして芸能祭
誕生日菊の鉢など贈られて
棒術で鍛え健康守り通す
九十七翁元気溌剌酉年会
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

教会に飾る紫陽花復活日
風鈴の音色に心なごみたる
茶柱が立てば当分縁起よし
人の世は不義理重ねて立ちゆかず
白鳥の飛びたち空に消えて行き
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

悪行の垢のつまりし爪を切る
仮面まだ脱がす末期の水を飲む
笊に水汲んで一生終りたる
掘り下げて行けば汚水につき当る
惜しみつつ溜めたる水が蒸発す
【サンパウロ中央老壮会 丸丁呂】

不眠症訴え昼寝をほしいまま
環境の評価汚染の河と山
欲捨てて今は食い気と哄笑す
干鱈を食って宗旨の事云わず
認知症二度食べる気か卓につき
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

俳友の新入り手強し闘志湧く
日本語も忘れし老兵里帰り
食べた後気が付く賞味期限切れ
お色気を俳句川柳にたっぷりと
友の文恋文の如と読み返す
【セントロ桜会 矢野恵美子】


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