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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年6月号

2006年6月号 (2006/06/08) 俳句 (選者=栢野桂山)


眼指しの澄む手話の娘よ駅の秋
此の引きはドラードなりと構へたり
【畠山てるえ】

評:
 母に対してか、友人に向ってかであろうか、聴覚障害の娘が手話で話しかけている。秋口のメトロ駅の内のこの娘の眼指しは雑踏に少しもよごれないように澄んでいるのが眼にとまった。手話法――聴覚障害教育の一方法で、相手に指で言葉を伝える方法。


釣り上げしドラード銀鱗目に眩し
秋茄子の色を楽しむ濃紫
【矢野恵美子】

評:
 秋茄子は名残り茄子とも云い、夏もののように大きくはないが、実がひきしまって濃紫で美しい。そして「嫁に食わすな」と意地の悪い姑が惜しむほど美味い。俳人は味を楽しむばかりでなく、その彩を見て句に作り楽しむ。


人はみな幸せそうや水中花
さりげなく差出す佳き香ハンカチフ
【竹内もと子】

評:
 さりげなく羞しそうに差出した良い香りのある新しいハンカチフ。それは良人に対してか父親であるのか、この句の場合述べなくてもよく、観賞する者に選ばせたらよい。俳句は七分だけ述べて三分は観賞者にまかせる方が味わいが深くなる詩だと思う。


ドラードの燻し金めく鱗かな
名ばかりのパイネイラ通りとなりし町
【西沢てい子】

評:
 ルア・パイネイラのある町に住み慣れて久しい。昔は盛んに花を咲かせて秋を豊かにした町のパイネイラの巨木は、寿命が尽きたのかもう見ることがなくなった。後継ぎに植えた若木は、繁華になった街を往来する車の排気のため育たない。そういう町を愛して住む作者の溜息のような句。


花冷えの背より足より忌を修す
汀子選聴くやうぐひす声高に
【佐藤美恵子】

評:
 又花の雨の虚子忌となりしかな年尾があるように、俳壇に偉大な足跡を残した虚子は、昭和三十四年四月八日、八十四歳で亡くなった。その日の虚子忌は花冷えで、稲畑汀子選の声を聞いている時、すぐ近くで鶯が鳴いた。日本で働いている作者が、虚子忌句会に参加し花冷えの様子や鶯の声を詠んだ美しい俳句を、ブラジルの仲間に伝えてくれた。


柿々と思ふ存分頂きぬ
秋の朝日差し一面わが部屋に
【山田富子】

子等の声高に蜻蛉空高く
さわやかな風に吹かれて朝散歩
【杉本てる子】

茹でミイリョバターを塗る子塩ふる子
さわやかな白衣や孫は薬剤師
【梅林千代】

雷の思ひ出母と吊りし蚊帳
夕焼や吾が童謡を孫が継ぐ
【内田千代女】

継ぎ袋一千買ふて百姓す
広々とパンパ草原風涼し
【上坊寺青雲】

萩を詠む客に落花を掃かで置く
間部の赤半田の青や秋画展
【香山和栄】

深く澄み陽のうららかに秋の空
ダイヤ婚祝はれ秋の空高し
【矢島みどり】

饐飯が一転甘酒とはなりし
鋏鳥苔むす庭が憩ひの場
【伊津野静】

携帯と声爽やかに語り居り
日本地図に似し秋の雲たそがるる
【伊津野朝民】

うそ寒やとつぜんに夫世を去りて
冷やかや年老いて妻残されて
【酒屋登喜子】

平凡な暮し倖せ去年今年
子と孫と曾孫に私初写真
【前橋光子】

巻頭句かちとりたりと四月馬鹿
ささげ摘み十二でコジンニャ父母助け
【野村康】

星月夜ポンテス大佐宇宙飛ぶ
串刺しの月見団子も珍らしき
【本広為子】

魚買って釣りしと見せん四月馬鹿
足腰病み背低くなりうそ寒し
【黒木ふく】

早掘りの木藷の値段つり上げて
日語校の生徒ら嬉々と潅仏会
【寺尾芳子】

降って照る気紛れ天気秋の日々
土人の日土人部落も近代化
【杉本鶴代】

パソコンの手を止め夜長の闇覗く
青首の太きを願ひ大根蒔く
【星野耕太】

秋夕暮動くともなく雲移り
剣術で健康促進秋の朝
【軽部孝子】

パラナ産なる日本梨王者なり
巣立鳥孫いつしかに適齢期
【彭鄭美智】

行く秋のしよぼしよぼ降りのまま暮れて
行く秋の声の届かぬ老となり
【成戸浪居】

籐椅子に浄土の旅を一と休み
涼風や弾み心の杖かるく
【稲垣八重子】

犬吠えて来客を知る秋山家
落雷や何時ものあの山ゆるがせて
【伊藤桂花】

明け暮れの秋めく風のさわやかに
初秋の朝々道のり四千歩
【小野浮雲生】

朝寒し幼稚園児等制服で
夢ならぬ宇宙旅行や銀河濃し
【近岡忠子】

蜜びんに蜂鳥来るをじっと待つ
朝寒や七時登校の孫元気
【矢萩秀子】

語り部の逝きて異国の流れ星
食べて寝て大事にされて老の秋
【風間慧一郎】

押し車男渧沱の汗を拭き
亡き友と黙し別れし炎天下
【中川操】

老ひたれど昔の杵柄年の暮
見舞ひたる皆なの涙の敬老日
【大岩和男】

味見掛日本に負けぬ富有柿
月明り差す椰子壁の墾家かな
【阿久津孝雄】

三つ目の要用済みし秋の暮
ドラード釣異人仲間も刺身好き
【纐纈喜月】

渋抜きを覚えしニグロ柿盗む
駅広場柿の安値に人の列
【中原レメ】

大根蒔き元の二人で山住ひ
夕やけ雲見えぬたそがれ淋しとも
【宇佐見テル子】

秋茄子の席の佃煮寺の膳
カップ抱く旧知の笑顔柿まつり
【杉本良江】

平凡に一と日終りし秋夕焼
世界中呼名はカキと親しめり
【吉崎貞子】

通学の一里の道や桑熟るる
寝返りを夫に気にしつ夜長宿
【下境とみ子】

度々の目覚めし床の夜長かな
夫逝きて十七年忌柿の秋
【遠藤皖子】

手刈りして高低のある刈田かな
お供へに来て居る小鳥芝生墓地
【佐藤孝子】

濃く淡く朝顔咲いて良い天気
純白の数えて七花胡蝶蘭
【中川千江子】

農協を盛上ぐ農婦女性の日
いっせいに生ピンポン玉めく菌
【木村都由子】

打ち寄せる大波かわし浜木綿咲く
秋の雨私は一人俳句詠む
【井出香哉】

菜の花に飛び交ふ蝶の白ばかり
十二人もれなく育つ子茄子の花
【寺部すみ江】

まあ私の制服着てる案山子さん
小鳥来る元気お出しと言ふように
【猪野ミツエ】

遺児三人抱へし涙に秋日濃し
虚子祀る目鏡補聴器杖ついて
【名越つぎ代】

うなり声上げ分蜂の通り過ぐ
おぼろ月口に出てくる童唄
【三上治子】

妹思ひの兄逝きてより月哀し
目大きく体小さき目刺かな
【大坂恵美子】

放れ馬追ふ牧夫等に露しとど
老いて尚する事数多暮れ早し
【岡本朝子】

地球儀の日本小さく秋灯下
移民船小町も昔着ぶくれて
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


疎まれて在ると思えばそれもよし吾は老醜さらして生きる
【フェラース 米沢幹夫】

血の滲む練磨いくとせ晴ればれと金の荒川トリノを滑る
【サンパウロ 岡本利一】

裏庭の低き石段ふみ外す老いゆく兆し避けがたくして
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

カラオケを歌いはじめてタバコやめ恋人もできて息は晴れやか
【グァイーラ 金子三郎】

孫幾人集えばわが家は祭りのごと笑うもあれば泣く児もありて
老友が集えば同じ昔ばなし若き苦労も笑いの中に
【セントロ桜会 上田幸音】

歌を詠むよろこび分かちし兄逝きて今年は早やも五年となりぬ
パイネーラ濃き桃色に咲き盛る今年は花季の長きと思う
【セントロ桜会 富樫苓子】

その昔習いし小手鞠手にとりて思いうかべるひと巻きひと針
朝顔の咲きいる時の間紫紺色の花美わしと飽かずながめる
【セントロ桜会 大志田良子】

わが家の二階の窓より新築の家建つさまを朝夕に見る
ひと日でも長く保てと蘭の鉢置きかえてみる朝に夕べに
【セントロ桜会 重道千代子】

みどり萌ゆる街路樹のあわい点々と色あざやかにクワレズマ咲く
神戸よりサントス港へ五十余日「ラプラタ丸」は無事に着きたり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

故郷を出でて久しき吾なれど帰れば「ただいま」「お帰り」と言う
たった一度の人生ならば一日たりとも無駄には出来ぬと思うこの頃
【セントロ桜会 板谷幸子】

カーニバル終りて青空秋めきて柿の初ものを朝市に買う
朝市に野菜は山と積まれいて初秋を迎え食欲をそそる
【セントロ桜会 鳥越歌子】

午後二時に初まるコーラスの練習はみんなの声がひとつとなりて
クワレズマの花季もおわりに近づきて色あせし花を車窓に見つつ
【セントロ桜会 井本司都子】

黍畑を覆いし靄に風吹きて紗を剥ぐ如く遠ざかりゆく
【セントロ桜会 藤田あや子】

靖国を政争の具とするは悲し護国の鬼とし身を捧げしに
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

妹より京都の菓子を贈り来ぬ開くに惜しき美しき包装
【ミランドポリス 湯朝夏子】

ひとときを溯りいし遊覧船次第に見えきしダムの威容
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

アマゾンの川面に映る春霞に疲れを癒し夫婦旅かな
【サンパウロ 佐藤喜八朗】

年変り希望あらたに入れ代えて新年迎う百一才の我は
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

敬老会の案内頂く楽しさを亡夫に語れば涙湧きくる
ありがたやままにならない足腰をエレベーターにて運ばれる幸
【ピエダーデ 中易照子】

年老いて医師と親しむ事多く今日も夫と共に行くなり
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

娘からの電話の余韻に満たされつつ食事をつくる朝のひととき
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

開戦と知りて帰国し戦線に命捧げし同胞思う
【サンパウロ 竹山三郎】

たくましく道路の割れ目に一輪の花が咲きたりいのち輝やく
【ツッパン寿会 上村秀雄】

どこまでも遠くつづきいる笹原に先人の苦労沁みて思わる
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

雨晴れて眞昼の空はブラジル晴れ梨の小枝で小鳥さえずる
【タピライ 杉浦勝女】

昨夜煎りしゴマの香りがこもりいて未まだも匂う朝の厨に
アチバイアの花と苺のお祭りの菊人形あり楽しき一日
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

逝きし子の生きてしあれば何歳と指を折りつつ線香上げる
海岸線事故の現場はこのあたりか息子の霊よ安かれと祈る
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

ボニートと名付けし仔犬尻尾振り成犬となりし今も寄りくる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

初期移民の苦闘を描く「ハルとナツ」ポ語訳あらば孫に見せたし
樹々若葉匂う下辺に遠きわが故国に在ます老母想わる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

初じめての敬老会に招かれて己のが意識の若さを思う
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

思いきり手足伸ばしてさわやかな今朝の目覚めは赤子のごとし
【スザノ福栄会 青柳ます】

鉢植を庭にうつせし山茶花の秋さきがけて蕾ふくらむ
【スザノ福栄会 原君子】

声合わせ「北国の春」を賑やかに歌いつつゆく老人の旅
【スザノ福栄会 青柳房治】

戦時中は産めよ増やせと戦後には産児制限と日本の記憶
【スザノ福栄会 黒木フク】

習いいし御詠歌も舞も背戸わたる風のごとくに忘れ去りたり
【セントロ桜会 野村康】

長雨に外出ひかえいし老い夫も今日の天気に笑顔見せたり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

名も知らぬ薄紅色の花が咲く公園のベンチにしばし憩いて
雨の日も風の吹く日も変らずに毎日の散歩欠かす事なく
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


故郷は海の彼方と思ふのみ
母の日は教会に行き子の家へ
海を出て砂丘に足の跡つけて
笠戸丸百周年は目の前に
安らかに過ぎたる日々の夢を見る
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

習慣となりし言葉で日々祈る
ロテリアを買ってしばしの夢育て
孤独には馴れて癖つく一人言
本を手に日向ぼっこり居眠りし
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

一杯の酒で世間が広くなり
歴史とて歪められたる裏も有り
実情が三十年過て世に知られ
移住地に残る竹やぶパイネーラ
真相と世間の噂に大きな差
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

成し遂げてする事もなしおとろえて
九十三歳元気あれども認知症
希望持つペンを持つ手は衰えず
難聴は疎外されても仕方なし
痰つまり咳き込み激し風邪ばやり
【サントス伯寿会 三上治子】

国家大計小泉首相の事思ふ
余生尚支えて呉るる恋心
明日知れぬ今日の命を大切に
死ぬるまで頑張り通すと高笑い
ゲートボール九十八歳の生き甲斐に
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

蘭展のカトレアに酔ひ人に酔ひ
中国の上海観光のストーブ車
インド旅行楽しかりしと友語る
飛行船宣伝文句もあざやかに
異人僧仏教法話を日本語で
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

雨地獄子地獄などと罰当り
人工雨蛙も鳴かず虹立たず
百姓の雨欲しき声聞かぬ空
愚かなる脳みそかくす破れ帽子
上流の罪悪臭う汚染河
【サンパウロ中央老壮会 丸丁呂】

毛筆を趣味とす百才翁達者
カラオケに声はずませて若返り
丸刈りにして脳味噌を冷やさんと
晩節を潔く一つの趣味に生き
出る釘は強く打たねば引かかる
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

清掃の甲斐あり海辺清らかに
海浜で思いはるかな故国のこと
水平線遠き彼方にある故郷
海に来て憩える幸を噛みしめる
好天に警報意外に波高し
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】


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