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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年7月号

2006年7月号 (2006/07/14) 俳句 (選者=栢野桂山)


珈琲葉代用節句の柏餅
三日月の句碑に献花や今日虚子忌
【名越つぎ代】

評:
 節句は季節の折目である日。端午とか七夕などの式日を祝うこと。その日柏餅を作りたいが、この国には柏が無いので、思い付いたのがコーヒーの葉を代用した柏餅で柴餅とも言う。これを食べるとき焼くと葉の良い香りがして楽しい。


駝鳥六羽耕地の蛇を喰ひ尽す
若き日の想出秘めし皮手袋
【上坊寺青雲】

評:
 近年、駝鳥の肉が高価だとその飼育が流行している。この耕地でもその手始めに五、六羽から飼育をはじめたところ、これまでに放牧した牛馬が蛇に咬まれる被害があったのに、蛇を好物の駝鳥が退治したらしく居なくなった。


手に掬ひ苔の香仄か岩清水
朝顔に今日の元気をもらひけり
【竹内もと子】

評:
 早朝仕事に出るため靴をはき庭に出ると、幾輪もの色鮮やかな朝顔が、朝の挨拶をするように風に揺れているので、それに元気を貰って今日もまた一日楽しく頑張るぞ、という思いが強くなる。季題と一心同体とはこんな句。


徒花(むだばな)のなき茄子の花かぞえみる
十二人もれなく育つ子茄子の花
【寺部すみ江】

評:
 「親の意見と茄子の花は千に一つも無駄がない」と言うが、花のあと必ず実の付くのが茄子。暮しのよいこの国にはよく一ダースの子福者が居たりして、茄子の花を見ると何となく、前述の言葉通りのような気がしてくる。

一幅の絵にしたき景冬の朝
在りし日の父母と語りて日向ぼこ
【藤井梢】

評:
 父母が亡くなってから久しい。自分が今父母の歳になって、在りし日の両親と同じように、日向ぼこを楽しむようになった。そしてきびしかった父、やさしかった母のことなどが思い出される。「父さん勉強を励ましてくれて有難う。母さん毎日学校の弁当を作っていただいて有難う」と生きている時と同じように話しかけてみる。


細りゆくもの干柿と吾が思念
干鱈食ひ故国の海の舌ざわり
【風間慧一郎】

評:
 年歳を重ねていくうちに、若い頃心にかけていた目標や理想が段々先細りしてくる。それは軒に吊ってある柿が日々に縮んでゆくのとよく似ているので、自分でもおかしくなるという。俳句にこういう理屈めいたことを述べるのは感心できないが、この句には理屈めいたという嫌味が感じられず、それがかくし味となって面白い。


羽子をつく如ひらひらと散る木の実
微風にもそよぐコスモス性強き
【木村都由子】

ピラセーマの魚群かき分け監視艇
ピラセーマに魚道つけるダム工事
【菅原岩山】

柿熟れて梢に日毎小鳥来る
クレーン車の電線工事秋高し
【中井秋葉】

新涼やヨチヨチ歩きの孫笑顔
秋暑しおへそのピアスまぶしくて
【内田千代女】

移民着く我が一生を決めし駅
風鈴と二階に住んで卆寿越す
【稲垣八重子】

主の復活祝し笑顔でアブラッソ
母の日や嫁も娘も良き母に
【矢島みどり】

ちりぢりの雲足早に春の雷
春惜しむ夢の切れはし燃え残る
【前橋光子】

冬夜明けミナスのみ空茜色
甘蔗畑かすんで見える地平線
【井出香哉】

箱庭に飛び廻りゐる冬の蝶
冬野菜虫に食われず青々と
【山田富子】

春光や自転車で来る児の歌に
春先を懐にして登校児
【伊藤桂花】

濃く淡く雲流れ行く秋の空
聳え立つ仏像白き雲の峰
【矢萩秀子】

包む皮脱ぎ筍の伸び行けり
家鴨飼ひ池の浮草根絶す
【小野浮雲生】

母の日や輝くばかり妻の笑み
宇宙士に似たる着ぶくれを振り返り
【星野耕太】

容姿など気にせぬ齢着ぶくれて
鯉の稚魚見ゆる池の面冬の蝶
【纐纈喜月】

短日や一人遊びを覚えし子
すぐ出来る料理ばかりや日短か
【畠山てるえ】

健康体操終り帰宅は着ぶくれて
母の日や手合せ瞑想墓の前
【軽部孝子】

着ぶくれて老人ホームの庭手入
ホーム長赤い帽子で運動会
【中原レメ】

着ぶくれてポケットの数にさまよふ手
日を受けて石の暖みに冬の蝶
【吉崎貞子】

母の日や母の歳より長く生き
冬薔薇小さきテラスも華やぎて
【遠藤皖子】

着ぶくれて押しくら饅頭街のバス
着ぶくれて孫愛らしきダルマさん
【矢野恵美子】

遠き母の肩叩きたし母の日に
帰伯して母国語達者孫の夏
【彭鄭美智】

老ひて尚鍬捨てきれず冬菜畑
母の日やつくづく仕合せ子沢山
【宇佐見テル子】

メーデーに里帰りして大統領
猩々花クリーム色の変り種
【西沢てい子】

打ち返す白波永久に冬の海
音もなく来て秋の蚊の血ぶくれて
【近岡忠子】

水郷は茶のゆかりの地霧深し
秋日和固定自転車こぐ廊下
【中川操】

長病の空虚な笑みや秋の蚊帳
木の実赤し出稼ぐ決意変りなく
【猪野ミツエ】

抽んでし椰子不揃ひの家並中
サングラス帽子のつばの裏真赤
【伊津野朝民】

あれこれと寝るまで用事ある湯ざめ
露寒やつながれて鳴く山羊の貌
【伊津野静】

ブラジルにリベーラ富士あり移民あり
非日系も茶の湯たしなむ秋深し
【大岩和男】

初猟は鶏舎のガンバや武者ぶるい
母作る寿司やおこわや母の日も
【野村康】

足癒えて歩む幸せ草紅葉
ころびては走る仔犬や草紅葉
【寺尾芳子】

バス停の牡丹咲きして紅イペー
畑荒らすカピバーラのボス狩る思案
【本広為子】

風邪予防注射に街角巻きし列
街路の落葉巻風浚えゆく
【杉本鶴代】

竹春や祭に使ふ竹下見
灯を消してよりの淋しさ夜半の秋
【佐藤孝子】

父無しの子のやさしさよ花あやめ
釣り好きの気長気短か花慈姑(くわい)
【佐藤美恵子】

目大きく体小さき目刺かな
妹思ひの兄逝きてより月哀し
【大坂恵美子】

秋の空悠々宣伝飛行船
朝顔や今朝旅立てる人に咲く
【林田てる女】

厨辺で餅を欲り鳴いて寒雀
年金の列に順待ち日短か
【菅山松江】

犬の餌をこわごわ拾ふ寒雀
浅漬の大根歯切れよく美味く
【杉本てる子】

曾孫と居て心温くぬく日向ぼこ
赤大根の甘酢漬孫みな好きで
【梅林千代】

わっと孫来て雑炊をする事に
冬の夜々長し寒しと目覚めがち
【岡本朝子】

甘蔗馬車下す車列の二十台
パイナ飛び種族保存の種はこぶ
【阿久津孝雄】

孫十人混血五人移民の日
背に見ゆる老女の気品ちゃんちゃんこ
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


嘗てコーヒー稔りし丘に夕陽照り白き穂草が風にはなやぐ
【フェラース 米沢幹夫】

朝光のわずかに射せる庭の面に桜葉散りて秋深みゆく
【グァイーラ 金子三郎】

暑き日も我慢で過す長ズボン黒ずむ脛の傷をかばいて
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

強豪の集う五輪の金メタルいくとせ練磨の成果なるらん
【サンパウロ 岡本利一】

さわやかな朝風に乗り蜂すずめ窓辺の甘水そっとのみおり
【セントロ桜会 上田幸音】

生かされている老いの身をしみじみと思いながらに冬日浴びおり
【スザノ福栄会 青柳房治】

街中を帰る車より仰ぎ見る夕べの雲は陽に輝やけり
【セントロ桜会 井本司都子】

散策の道にて詠みし歌一首今日一日の喜びとする
【スザノ福栄会 原君子】

落葉掃く翁の肩にはらはらと風もなき朝黄葉降りつぐ
【セントロ桜会 鳥越歌子】

数少ない服を並べて天候も考えており明日は大会
【スザノ福栄会 野村康】

天候ゆえ衛星放送乱れたり遠く近くに雷鳴とどろく
【セントロ桜会 板谷幸子】

久びさに満天の星を眺めつつ寝台車にてパラナ路の旅
【スザノ福栄会 青柳ます】

アルファセの入りし袋を引きずりて歩む幼なは大人の顔して
【セントロ桜会 藤田あや子】

庭に出て手入れの出来る身となりて四ツ葉のクローバの枯れ失せしを知る
【スザノ福栄会 黒木ふく】

若くして移住なしたる父母はヂアデーマの墓地に共に冥れる
公園の石のベンチに楽しげに何語りいむ若人群れて
【セントロ桜会 上岡寿美子】

朝々のさえずり聞かぬ日が続く今日も一度は雨にあうべし
【セントロ桜会 重道千代子】

朝五時の起床の時計にはね起きて先づ窓開けて天候如何にと
【セントロ桜会 大志田良子】

遠い日に手紙を祖母に書きたりし嵯峨野の文字の難しかりき
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

ふるさとの見馴れし森の点々と赤を散らして冬を待ちおり
【セントロ桜会 渡辺光】

原始林拓きて移民ら着実に根をおろしたりパラナの赤土
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

アベニーダにジョギングをする人ありて排気ガス吸うも気にならぬらし
暖かき日射となりし庭に出で心おちつき手の爪を切る
【セントロ桜会 富樫苓子】

桜花散り敷く野辺に思うかな墓地飛び逝きし英霊あまた
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

右手には城塞の如き門のあり未知なる運河に思いをはせる
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

金婚の日を偲びては彼の日こそ我が生涯の最良の日と思う
【ミランドポリス 湯朝夏子】

夫婦旅パラナ河辺の春の虹森のそよ風頬にうけつつ
【サンパウロ 佐藤喜八朗】

我が命何時までのものかは知らねども残る余生は天に委せて
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

柿祭り色々並ぶ市場など思い出楽しむ毛糸編みつつ
【ピエダーデ寿会 中易照子】

庭せまく屋根につき出で花つけしイビスコの赤や黄色の大輪
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

複雑な思いに娘と墓参る今日十年の亡夫の命日
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

なすなくてテレビを消して読みふけるソファーに射し夕茜色
【サンパウロ 竹山三郎】

建設の槌音高きカランジルかつての恐い面影もなく
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

二度とないわが人生ぞ残り少なき今日の一日を大切に生きむ
人家なく竹薮のみが残りいる昔の名残り植民地のあと
【ツッパン寿会 上村秀雄】

母なる国に来たりて三日目烏(からす)の声を懐しみ聞く
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

八十路過ぎ思いは残る妻の上成るように成ると妻は笑うも
【ナザレー老壮会 波多野憲三郎】

ゲートボール済みて帰りの車より見上げる空に星のまたたく
雨降りに雨具を付けて練習す若人達は元気あふれて
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

二枚扇、優雅な衣装金の袴舞台に立てばこよなく楽し
弾みつつ心はすでに踊りいる今日剣詩舞の発表会にて
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

淋しさを胸に抱きしめ山路行く散りたるスイナン色鮮やかに
中庭を杖をつきつつ木瓜の花を見やれば蟻が寄りて担ぎおり
父の日の今日はお休み親子してキャッチボールに汗流しおり
【タピライ 杉浦勝女】

飽食のいまの世代に伝うべし開拓時代の移民の苦闘を
バラ園の紅の大輪きわやかに咲きてあたりに芳香ただよう
健やかな余生願いて体操やウオーキングにわが励む日々
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

黒雲が東へ流れ此の午後は雨になるのか雷鳴響きて
雷鳴が響き渡りて沛然と雨降る中を家路へ急ぐ
一杯の温きコーヒーが糸口で豊富な話題が次から次へと
チエテ河十二メートルアナコンダ体くねらせ泳ぎ行く見ゆ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


ボケ防止薬どこかに置き忘れ
カラオケの卆寿媼の声涼し
テレビ見てヤケに目につく高齢者
ひとり言犬に聞かせて夕支度
ドラマ観て泣き笑いして日を送る
【セントロ桜会 矢野恵美子】

貧しくも借金までして見栄はらず
朗らかにナツメロ唄い若返る
死ぬることすっかり忘れて生き抜かん
修身を守り通して移民妻
赤鳥居眼下一望東洋街
【イタニャエン 稲垣八重子】

金使う覚悟で家族と柿祭
ふる里の面影消える大工事
運動会来たら会へたと友笑ふ
万人に祝さる運動会日和
鯔煮付け刺身も食べて風邪癒し
【サントス伯寿会 三上治子】

自分史をつづる推敲尚続け
坂登る亀の如きの我れにして
年を取り趣味に生き甲斐見つけもし
離別とは情愛なきにあらずして
ピアノ弾きつつわびしさに耐ゆる如
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

長唄公演元禄花見で終幕す
鶴亀舞ふ長唄囃子来伯す
蹴球の応援鉢巻日章旗
春向きのマネキン着替早々と
地球温暖時期を違えず果樹実る
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

隙間風心の隙を見逃さず
目に見えぬ心の絆結び合い
日伯の試合論戦など出来ず
不況風止めて賑わう蹴球戦
幸せの絶頂に居て見えぬ足
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

暴動は政治の歪みかなげかわし
戦時下の緊迫感を思ひ出す
コッパ戦テレビの前を釘付けに
何事ぞヘリコプターは低く飛び
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

蒙古斑しかとあるてふインジオの児
髪黒く顎張りインジオは亜細亜系
日本人にどこか似て居るインジヨ達
人類史火を司さどり急進歩
人類史文字得し民が先に立ち
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

ユーロ手に出発間際に目が醒めて
勝ち負けも円売り夜にげ百年史
百年祭脱耕夜逃げも帳消しか
嘘々実々自分史書いて移民逝き
踏み倒し借金忘れた叙勲席
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

晩節を潔く一つの趣味に生き
外国にあがる感激日章旗
難聴の鼓膜に和太鼓刺激せる
狆の乳呑ませ仔猫を育ており
不慮と云ふ言葉をしかと噛みしめる
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


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