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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年8月号

2006年8月号 (2006/08/15) 俳句 (選者=栢野桂山)


芍薬の咲き盛る庭恩師訪ふ
雉子の啼く声に目覚めし山の宿
【吉田しのぶ】

評:
 ミナスで雉子を飼っていたのを見たし、食用に飼育している雉子を見たが、野鳥であるこの鳥の声は聞いた事はない。雉子は桃太郎の鬼征伐の昔話以来、日本の子供に親しまれている美しい鳥である。作者は最近訪日して、山の宿でこの雉子のケッケーンという鋭い声に目覚めたのが、日本での印象として一番記憶に残ったのであろう。


岩がありガス出し掘抜き深井涸る
雑炊が好きで素直で祖母育ち
【猪野ミツエ】

評:
 この子の母は職を持っているので、まだ健在な祖母の手で育った。祖母育ちは甘えん坊になりがちだが、この子はちがって素直でよく言うことを聞き、雑炊まで祖母の好みと同じであるというのは微笑ましい。


スイナンや一人遊びの砂に文字
湯気の立つもの食卓へ初しぐれ
【伊津野静】

評:
 スイナンはブラジル原産で、鳥の嘴形の真紅の花が穂をなして咲き、その頃は葉が無いので美しく目立つ。その近くで一人っ子が一人で遊んでいて、よく見ると砂に文字を書いている。学校で習った日本文字を書いて覚えようとしている小さい姿が、スイナンの燃えるような真紅とあいまって、印象的である。


カイサラの合同洗礼冬凪げる
浮寝鳥足踏みボートに恋実り
【佐藤孝子】

評:
 白鳥や鴨などが浮寝しているのを分けるように、湖で遊ぶ舟があり、その一つの舟では恋が実った二人が抱擁しているのが見える。湖上の浮寝鳥の静かで情緒のある趣きと、当りを気にしないブラジル流の抱擁との対比が面白く、枯淡を重視する俳句にこういう句があってよいと思う。


ボンバ買いブラジル戦の明日を待つ
少年等国旗を描くルア小春
【杉本良江】

評:
 今ブラジルは、いや世界中がサッカー・ワールド・カップの終盤戦を迎えて狂気のように騒いでいるが、宇宙ステーションに居る宇宙飛行士等も、地上から送られて来るサッカー記事に夢中になっているという。地上では方々のルアに少年等が、黄緑の国旗を描いてブラジルの勝利を願っているが、天気を司る神様もおだやかな小春日和を与えて呉れている。


鯉三尺跳ね飛ぶ軸を掛け五月
風孕む神父の裾や草虱
【香山和栄】

呆け防止にと奨められ毛糸編む
冬晴や孫の図画めく青い空
【野村康】

柿祭丹誠こめた柿見事
友と逢う二十年ぶり柿祭り
【三上治子】

スイナンの緋に蜂鳥の瑠璃光り
六月や黄緑のシャツ街に溢れ
【木村都由子】

目の覚める黄色衿巻編む老女
甘酒に酔っても一句も一杯
【寺尾芳子】

寝静まる七面鳥小屋木兎鳴ける
ユダ人形提げ行く人に子等従いて
【中井秋葉】

闇に触れ闇に濡れ行く蛍狩
移民百年祭待たず逝き兄悲し
【大坂恵美子】

だんだんと言葉少く老の秋
重ね着て足元見えず躓きぬ
【内田千代女】

万緑の山腹占めて貧民街
炬燵寝が恋しくなりぬ冬の雨
【稲垣八重子】

手立てなき夜の故障車に星流れ
袋継ぐ夜なべも今は語り草
【菅原岩山】

寒波来てスキヤキ食材売り切れる
秋刀魚売る車に長いフィーラ出来
【彭鄭美智】

唐菖蒲腰の高さの壷に活け
引かれたる地に根を戻し滑ひゆ
【佐藤美恵子】

一人居の庭にまいこみヒナ燕
燕の仔羽根ふくらませうづくまり
【井出香哉】

移民して悔いなき一と日時計草
タコ焼きのよく売れいる街小春
【遠藤皖子】

人恋し薔薇につめたき宵の雨
一息にガラッパ市より帰り道
【山田富子】

春めいて木の芽の動きが解るほど
寒空の風にのせられパイナ舞ふ
【宇佐見テル子】

パイナ吹く汚れしままに踏まれつつ
青パイナ幹を四方へ憩いの場
【吉崎貞子】

牧枯れて牛の目細り川細り
トラック群二両編成甘蔗積む
【畠山てるえ】

宣伝車楽流し呼ぶ小春の日
長唄を地方で舞へり小春の夜
【軽部孝子】

ウルブの輪爪病む手の臥す空に
居残りて今大地主パイナ吹く
【纐纈喜月】

甘蔗積むカミニョンの列砂塵あぐ
花火師の業天駆ける大輪菊
【星野耕太】

小春日や孫と手を組み童唄
風に乗り夢追う如くパイナ飛ぶ
【矢野恵美子】

六月やコッパドムンドに夢を追う
冬うらら夫婦こけしの引出物
【西沢てい子】

ピポカはぜケントン人呼ぶ焚火祭
ケントンにほろりと酔って心浮き
【矢島みどり】

露寒く日差し返して真珠めき
大根煮る湯気立ちこめる古厨
【竹本もと子】

住み心地良きこの国や菊日和
ホ句の秋余生の命大切に
【寺部すみ江】

バス降りし人の目鏡に集る冬日
段々と弱まる視力冬霞
【伊津野朝民】

意に添わぬ子の声はじけ鳳仙花
子育ての頃の仕合せ子供の日
【前橋光子】

苦も楽もみんな忘れて移民の日
鴨撃ちは湖畔の宿の常連で
【上坊寺青雲】

黄緑のコッパの色に新渡戸菊
黄緑にピポカを染めてジュニナ祭
【本広為子】

橋下に夜毎焚火のホームレス
寒椿二本植えたる夫偲ぶ
【黒木ふく】

小さくやさしき白き花梅畑
ユニークなセーターに見とれメトロ中
【杉本鶴代】

頬を打つ夜風冷たき街を行く
冬晴の湖青々と輝けり
【矢萩秀子】

幌馬車の駆ける野道や雲の峰
濃艶な夕日の映えしお茶畑
【中川操】

母の日や母なる孫とボーロ切る
孫呉れし電気毛布の暖かし
【近岡忠子】

地球儀を廻し故国の冬しのぶ
炭売りの汚れしままの笑顔かな
【風間慧一郎】

洗濯の手先凍りし小川の辺
茶の花の香に誘われて句会へと
【伊藤桂花】

酒の味知らねど寝ぎわの梅酒ちょっと
根無草の汚名返上移民老ゆ
【大岩和男】

着ぶくれて転び上手に孫の智恵
朝市の終りし跡の時雨寒
【小野浮雲生】

軒下にひっそり咲いた月見草
一夜花とその名ゆかしき月見草
【酒屋登喜子】

娘と暮す妻の願ひやちゃんちゃんこ
庭狭き看護婦大学猩々花
【中井秋葉】

指折りて帰伯の娘を待つ寒の月
運命に素直に生きて移住祭
【梅林千代】

霜除の下一輪の寒のばら
散歩するこぼれ日受けて冬木道
【杉本てる子】

寒月をながめ出稼ぐ孫忍び
逝きし友偲び佇つ庭冬そうび
【菅山松江】

次々ぎと逝き「椰子の花句会」閉づ
被爆手帳持つ移民逝く原爆忌
【林田てる女】

闇の夜に出荷す大根明りかな
何も彼も入れて一人のお雑炊
【岡本朝子】

眉きっと寒雷見上ぐ美人かな
残菊を集め母の日失業者
【成戸浪居】

三世の嫁も世慣れて根深汁
深霧に滲む灯に佇ち肩よせて
【名越つぎ代】

磯に干す蟹の鋏の残る綱
流木に乾く海苔採りカイサラ女
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


百日紅の秀枝にあそぶ小鳥いて眞昼の闇にその花散らす
【フェラース 米沢幹夫】

湯上りの汝と割り竹踏みながら元気でいたし何時いつまでも
【スザノ福栄会 青柳房治】

庭の柿に初めてとび来しツッカーノをカメラに撮りしと息子は喜べり
【スザノ福栄会 黒木フク】

壷に挿すイエライシャンの花匂う居間に樂聴く暖かき夜
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

丈高く蕾つけいし月下美人今朝四十の花を数える
【スザノ福栄会 原君子】

坂の道を餅を担いで賣りに来る老いし移民の声しわがれて
【スザノ福栄会 青柳ます】

身のこなし日本情緒たっぷりに舞うは四世日本知らぬ子
【セントロ桜会 野村康】

新渡戸菊今を盛りと咲き満る吾が福博の村の道辺に
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

朝まだきあたりのしじま破るがに新聞投げてオートバイ去る
【セントロ桜会 上田幸音】

三月は蘭の花咲く季節にて蘭展の支度にいそしむ人等
【セントロ桜会 井本司都子】

晩酌に亡夫とわけ飲みし冷ビール肴は野菜のてんぷらなりし
【セントロ桜会 鳥越歌子】

秋晴れの木漏れ日の下歩みゆくささやかな幸福かみしめながら
【セントロ桜会 板谷幸子】

噴水を噴かぬ広場の朝涼し掃除の会はたすき掛けして
水溜り畑跡地きれいに埋め立て大学校舎秋風に建つ
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

酒好きが医師のすすめに酒断てど長生きしたし酒も飲みたし
【グァイーラ 金子三郎】

籠る日を気遣いくるる吾娘といて旅の話に心かたむく
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

坂登りほっと息つく目の前にカンナの花の赤が目に沁む
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

会場の観覧席にひたすらに娘の力走を祈る父母(ちちはは)
【サンパウロ 岡本利一】

靖国を政争の具とするなかれ国に捧げし御魂安かれ
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

故郷の豪雪のさま息のみて眞夏の国でテレビに見入る
再会を固く約して別れしがその友も逝くうつつに淋し
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

前庭に鮮やかに咲く蘭の花道ゆく人が佇ち止り見る
【ミランドポリス 湯朝夏子】

門開きて船はしずかに入りゆきて門はしまりぬ黒き壁の中
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

幸せを思いて生きる春の朝過去は茨の道もありしが
【サンパウロ 佐藤喜八朗】

今の身に叶わぬ事と知り乍ら今一度日本訪問を希望す
同年輩の会友皆他界して語る友なく月例会も楽しみうすらぐ
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

工事中のソロカバ行きは町廻り完成待ちて心地よき旅
少しでも自分の足で歩きたくぼけずに元気で今朝も散歩に
【ピエダーデ 中易照子】

朝に咲き夕べはしぼむイビスコの眞昼日に映え美しく咲く
それぞれに好みに向きて咲く花のその色の差が面白く美わし
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

聖言に励まされ今日も教会に雲一つなき美わしい晴日
平凡に過ぎ来し日々を思いつつ八十路もすでに後半となる
父母の顔思い浮べていく度も涙ながらに「ハルとナツ」を見る 八階のビルの小さなベランダにどこからか来るのか蟻の行列
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

人前はストイシズムを装いてアマンテ囲う神父もありき
朝早く公園のベンチに大学生授業のまえに恋をささやく
【サンパウロ 竹山三郎】

若きより重労働に耐えて来て昔のことを夢に見る夜
財もなく地位もなけれど子や孫に恵まれ余生は幸せに過す
【ツッパン寿会 上村秀雄】

広島に五人の弟妹集い来て思い出話に花咲かす夕べ
卯の花の盛りとなりてほのかなる香り楽しむ夫とふたりで
今日も一日支え給えと祈りつつ東洋市へ行く子らを見送る
柿の葉が眞赤に染まり秋深み高齢の夫は寒さをかこつ
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

厨よりもろこしの匂い漂よい来母が焼きいる三時のお八つ
バスの旅窓辺の席は眺めよくカフェーの木には赤、青の実が
見渡せば稲穂は金に輝やきて農夫は手早に苅り取り進む
【タピライ 松浦勝女】

九十六才母の声音は元気にて楽しく過せよと吾を励まさる
海岸に向う山路に霧立ちて峠曲れば寒気増しくる
へちま棚ゴーヤのつるも伸びゆくをよろこび吾に自慢する友
新生姜出盛りとなり年末に一人で五束も漬ける人あり
広場には冬を思わす風立つも老どち元気に体操会へ
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

三年を出稼ぎの孫婿連れて国際飛行場に今降り立ちぬ
金髪の孫上手なる日本語を覚えお爺さん只今と言う
老人会笑わせ上手な人居りていち日爆笑繰返し居り
快活な老女はうまく纏めゆき集会の皆の心をつなぐ
髪を刈る女美容師愛嬌よく男性客の絶え間なくして
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


ロマンスに心揺さぶる桜ばな
一人住む柱時計の鳥が鳴く
不自由な足いたわりて万歩踏む
わびしさは雨に濡れ行く一人旅
何事も耐え忍び来て今の幸
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

母国では知らざる移民の夜逃劇
藷成金で栄えし料亭草茫々
満員バス臍のピアスが目の前に
藷成金担ぎ屋となる三代目
勲章の夢など見ずに移民逝き
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

風邪予防口実にしてカイピリンニャ
孫みんな家庭を持ちても子を産まず
病友を見舞いて自己の明日思ふ
少子化はブラジルにいる我が家にも
晴ればれと過去の悪夢を捨てし今
【セントロ桜会 矢野恵美子】

寒稽古瞬時許さぬ木太刀組
道場の激しき気合寒稽古
晴れやかに日本祭で踊りたし
騎馬立ちの唐手百回深く蹴る
歌謡ショー軍歌戦友聞き涙
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

進歩せる科学に環境破壊され
いつか来る無常の風を意識せず
希少価値頼られている頑固爺
領事館へ公文書など書かされる
対処する平常心を失わず
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

難聴で都合良き事ばかり聞き
猫殺してうだつ上がらず年重ね
自由買ふ三億円の保釈金
造園家石にもあるてふ裏表
高層ビル仰げば首の骨軋む
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

早起きの息子の出勤ねむたげに
老いぬれば心も寒く肌寒し
空っぽの頭叩いて苦吟する
行商の荷を重たげにゆすりあげ
放映のコッパデムンドに歓声上げ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

収賄のつきぬ政界平然と
地下鉄も安心できぬサンパウロ
古川長官命かけたる六年間
新聞にテレビに出て罪重ね
悪人を殺し警官さばかれる
【サントス伯寿会 三上治子】

農かなし増産すれどまた赤字
汗の価値知らぬ政治の机上論
平和称え片手に核を手放さず
背伸びした己他人に見透かされ
暴風雨喉元過ぎれば虹の色
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】


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