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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年9月号

2006年9月号 (2006/09/06) 俳句 (選者=栢野桂山)


幸せに甘え姑と日向ぼこ
老寡夫(やもを)同じ愚痴言ふ日向ぼこ
【名越つぎ代】

評: 実母と変らぬやさしい姑と永年暮してきて、仲よく幸せに甘えて日向ぼこしている今のコロニアの姑と嫁。姑と言えば昔は怖いものとされていたことを思えば隔世の感がある。


帰し度くない人と居て時雨けり
指先をからめ時雨を別れ来し
【猪野ミツエ】

評: 帰し度くない人、とはどんな人?指先をからめ…と次句にあるから若い恋人同志であろう。これは世の辛酸をなめた老移民が、若い者達の睦まじさを写生したものと訳す。時雨と言えば寒々とした句になりがちだが、これは明るく楽しい句。


孫と嫁の笑い声する冬至風呂
冬至風呂孫の玩具と柚子浮かせ
【彭鄭美智】

評: 昔のしきたりを大切にする姑の立てた冬至風呂に孫と嫁の笑い声がする。ブラジルの冬至は六月二十六日頃(サンジョン祭)で、最も昼の短い日。今年の冬至は丁度日本祭りの最終日だった。

コーヒー熟るペネイラ頭は移民の子
和太鼓の全伯大会冬晴るる
【本広為子】

評: この句を読むと子供移民として耕地生活を送り、珈琲さび(篩うこと)をした頃を懐かしく思い出す。子供ながら「今日は捗って二十俵に達した」などと言って、ペネイラ頭を競ったものだった。


羽布団海越へ届く老の幸
パラナ路の旅情なぐさむ蔓サンジョン
【遠藤皖子】

評: 日本で働く親思いの子か、何か事情があって日本に子を置いて渡伯したのか解らないが、その子から豪華な羽布団が届いたが、父か母の日のお祝いであろう。昔移民として来た者は永年使って固くなった煎餅布団やミイリョのパイヤ布団に寝ていた頃を思えば、羽布団に寝るとは夢のよう。


ヘリコプターで運ぶ囚人鱶の海
冬菜洗ふ赤く脹れて農婦の手
【佐藤孝子】

評: 度々騒動を引起す犯罪組織PCCの逮捕した一部の囚人を、陸上は危険なのでヘリコプターで鱶の海上を運び、より堅固な刑務所に送る。これまで家庭の幸せの句ばかりのあとに、こういう荒々しい現実にある風景を詠むのもよいと思う。


葉桜の濃き影に来て憩ひけり
冬陽背に山路を登る老の足
【寺部すみ江】

卆寿への念あらためて春近し
深耕の土奪い去る秋出水
【風間慧一郎】

目つぶれる程脂のり寒の鰡
燠の上油鳴きする寒の鰡
【木村都由子】

日脚伸ぶ老の歩かづも少し伸び
折紙に挑む老女に冬ぬくし
【大岩和男】

もの焼きし灰黒々と草は実に
散ることを忘れし如く冬の蘭
【伊津野朝民】

仔牛にも残す搾乳日脚伸ぶ
山伐りし斧もフォイセも小屋に錆び
【中井秋葉】

明るさをすぐ取り戻し初時雨
もの忘れの己れを叱り暮早し
【竹内もと子】

犬と待つ車の切れ目冬ぬくし
旅路来て四温の朝の顔洗ふ
【畠山てるえ】

床上げの父に地鶏の玉子酒
悶えつつ飛びたき仕草冬の蝶
【杉本良江】

夜露置く落葉重たく掃きにけり
呼鈴に手梳を止めて木の葉髪
【梅林千代】

千仭の峠に見えて夏山家
秋晴るる折紙の独楽出来上る
【今田安枝】

着ぶくれてバスの乗り降り気がかりな
寝酒して少し熱あり早寝とす
【内田千代女】

夕餉にと嫁が持参の木藷汁
一人居の寒夜佗しと早寝して
【岡本朝子】

あちこちと日溜り追って冬の蝶
寒き夜々皆でたのしむ玉子酒
【宇佐見テル子】

茶の剪定すみし安堵や日脚伸ぶ
乗り継いで友訪ふバスに日脚伸ぶ
【近岡忠子】

大根の芽が出たと孫告げに来る
ほほえみて初なりの柿かぞえつつ
【高野美枝】

ジャカチロン山脈飾りつつ変化
大夕立埃の匂ひ舞ひ上る
【中川操】

健康ですごす幸せ日脚伸ぶ
街の灯の明るき中の冬の雨
【矢萩秀子】

自己流の千枚漬をお茶請けに
今日明日にと思ひめぐらし日脚伸ぶ
【藤井梢】

いささかの風の日老母着ぶくれて
ひたすらに雨待つお茶の新芽かな
【小野浮雲生】

子等の呼ぶ小鳥の名前又忘れ
わが庭の主となりて千日紅
【伊藤桂花】

冬フェジョン一ト当りして耕車買ふ
マスク掛け棉消毒す遠き日よ
【上坊寺青雲】

生きのびし思い沁々根深汁
羽たたみひっそり生きて冬の蝶
【矢野恵美子】

冬の蝶輪となり二匹ゆるく飛ぶ
小春の日日本祭りに独楽出展
【軽部孝子】

おおばこの花に蛙の一と休み
桐と空いづれが淡き小紫
【佐藤美恵子】

冬の蝶二つならんで飛び立ちぬ
まあ嬉しバラの花束うけとりて
【山田富子】

足早に交す挨拶息白し
挨拶も手をポケットに息白し
【星野耕太】

掘り割の崖を飾りて蔓サンジョン
搾乳の牛も牧夫も息白し
【纐纈喜月】

イッペ咲き住み古る程に楽しき国
癒えず逝く友に一夜の春寒し
【前橋光子】

しみじみと母の思い出根深汁
寒稽古三日坊主の一人っ子
【吉崎貞子】

花の昼陽光あびてとりどりに
風速く目もあけられぬ春ぼこり
【三上治子】

枯蔓の吹かるるばかり窓の景
つと伸びて万両十粒も庭の景
【伊津野静】

海賊が踊り聖人サンバ踏む
烙印の生涯消えぬ奴隷の日
【菅原岩山】

寒き日の倖せゆっくりつかる風呂
寒き夜は煮込みうどんに温め酒
【矢島みどり】

冬蚕飼って買って貰ひしミシン踏む
銀色の月の冷たく椰子の上
【野村康】

放牧の牛馬哀れや永雨中
凧あげの子等の歓声流れ来る
【杉本鶴代】

コーヒー熟れルビーの如し庭に撮る
雨汚れの句宿の木蓮泣くごとし
【寺尾芳子】

玉子酒頬ほんのりと髪を梳く
花と競ふ踊りの衣装カルモ園
【原口貴美子】

イペー散り花屑となり地に還る
スイナンをうつし湖静かなり
【小滝貴代美】

小雨中風物詩なる星祭
総領事お神輿担いて郷土祭
【西沢てい子】

天井の落ちんばかりや猫の恋
夏の雨娘の帰宅する頃に
【下境とみ子】

いつの間に浄土への道青き踏む
透いて見ゆ浜の並木路冬深む
【稲垣八重子】

二度咲きの五月の花は色うすく
老ひし身の一人は寒し冬の風
【井出香哉】

明治大正昭和も遠く文化の日
枇杷の花慎み深き山乙女
【湯田南山子】

家囲む樹々の吹かれて露しぐれ
莢ゆれて草鳳凰の風に鳴る
【中川千江子】

着ぶくれてにこにこ会釈今朝の市
鉤裂のズボン繕ふ寒燈下
【香山和栄】

寒々とコッパドムンド負けいくさ
【北川智慧子】

星祭おばこ三世色白し
夫に従きこころ素直に星逢ふ夜
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


青き蛾のむくろ摘めば指に捺す鱗紛の色生臭きいろ
【フェラース 米沢幹夫】

頂きし万歩計つけ幾度も凡そ百歩の庭を行き来す
【スザノ福栄会 青柳房治】

病院の待合室にて知りし人法座に会いて親しみを増す
【スザノ福栄会 原君子】

ぎっしりと詰りし予定次々とこなして吾の六月はゆく
【スザノ福栄会 青柳ます】

六月はもう今日だけねカレンダーの君の笑顔に励まされたよ
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

バスに乗り一人で買物に出し頃は気力有りしとつくづく思う
【スザノ福栄会 黒木ふく】

移住して父母の手伝いせし頃は登校拒否など夢にも知らず
【セントロ桜会 野村康】

カナダへと研修に発つ孫達を夫と見送る冬の空港
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

乳飲み児は全身の力で乳を飲むつぶらの瞳で母の顔見詰めて
早朝の冷気は老の身に沁めど元気に生きむと両手を合わす
【セントロ桜会 上田幸音】

黄のリリオ白きダリアとベゴニアも友の花壇は今花ざかり
カニサボテン午後の陽を浴びあざやかに赤、白、桃色咲ききわまれり
【セントロ桜会 井本司都子】

母の日の近づき亡母を思いおり「母の日」祝うことのなかりしを
日に増して寒きのつのるこの日頃鈴かけ並木紅葉をなす
【セントロ桜会 富樫苓子】

雨去りて花壇を荒らすかたつむり塩ふりかけの厳罰に処す
桜葉の日ごと散りばうガレージに犬歩くたび秋の音せり
【セントロ桜会 渡辺光】

真白き犬に手編のチョッキ着せ抱きてフェーラへ行く人のあり
鍼灸の治療受けしも腰痛はなおらず早やも二ヶ年となる
【セントロ桜会 上岡寿美子】

アングラドスレイス一泊三日の小旅行天候に恵まれ心地よき浜辺
海水にふと手を浸しなめてみる塩分強く苦みさえ感ず
【セントロ桜会 大志田良子】

部屋の戸を孫はとんとん叩き居れどいまは開けられぬ作歌に四苦八苦
台風も地震も知らぬイーリヤベーラ岩石の上に家建ててあり
【セントロ桜会 藤田あや子】

習慣の目覚まし時計にはね起きて今日は祭日とまた床の中へ
窓に見る宣伝気球はゆっくりとゼッペリン飛行船の形しており
【セントロ桜会 鳥越歌子】

酒好きが医師のすすめに酒断てど長生きしたし酒も飲みたし
【グァイーラ 金子三郎】

両隣り付き合いながき日系人朝の挨拶に手をあげゆけり
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

久々のサンパウロ行きセーラにて遠々と小雨にけぶる峯つづきおり
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

漁り火の遠く近くにまたたきて蛍飛び交う夏思い出す
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

名も知らぬ草花見つつ病む友と春の深まる野路歩みゆく
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

高齢を一つ重ねて生きてゆく幸も不幸もさだめのままに
【サンパウロ 岡本利一】

友の作りし寒天ケーキ美味しくて持ち寄りの馳走に皆の喜び
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

枯牧を歩けばカサカサ音立てて仰げば白雲ひとつ浮かぶ青空
【ツッパン寿会 上村秀雄】

乾きたる狭庭の土に砂浴みてせわしくついばみいる小鳥らは
【ミランドポリス 湯朝夏子】

時かけて水は次第に増してゆき満水になり前門ひらきぬ
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

明治、大正、昭和、平成を生き抜きて百一歳の長命を神に感謝す
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

孫達の来る日を待つはながくして帰る日はすぐ来て淋しさ深し
【ピエダーデ 中易照子】

雨後の木々葉裏ひらめく夕暮を家路を急ぐ労務者の群
【サンパウロ 竹山三郎】

遠く来て異国に幾年日は流れ早や米寿の年を迎へたり
道ゆけば数多の馬で歩かれず急ぎの使いはおくれるばかり
喜びも悲しみも流れゆく水の如くに二度と戻らず
【タピライ 杉浦勝女】

年齢を思わず水着を着て見たが鏡の前で大きな溜息
年末を迎え小さな手仕事を感謝しつつ奉仕に励む
星くずのきらめく夜空ながめつつ明日も暑いとひとり言云う
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

落語聞きひとり笑える我の声聞けば和みて夫も笑う
姉の死を電話で知りてメッセージを涙で送るひとりの妹
優しかりし姉の面影偲びつつ人生の儚なさ想う秋の日
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

珍らしき苦瓜五本買い求め妻への土産と足音軽く
西瓜の山見ているうちに売り切れる天候暑きが幸いしてか
ペッキー売る土人女のよく肥えて素足のままで訛り言葉で
自由市自動玩具に孫達があれもこれもと手を伸ばしおり
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


ブラジルの選挙に縁なし移民われ
政治批判しても選挙の資格なし
我がままに育てて親は苦労する
夕焼けに頬染め百姓鍬洗ふ
気力だけで生きて居ますと白寿翁
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

光陰を自覚す間なし五拾年
あっと過ぐ指折る間なく五拾年
鉄面皮トーチカ心臓で通し来て
臥薪嘗胆などと大袈裟過ぎたる日
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

バス焼討ち度重なれば只呆れ
ペスケーロ小魚ばかり釣りあげて
釣り落し魚は特に大きかり
大好きな雑煮に汗を流しつつ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

政敵が居て論争にある進歩
懐の金を数えている政治
横流し出来るお金のある政治
一流に伍す子育てし汗の価値
一世の汗に学士の子が巣立ち
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

大ぴらに仕事を休んでテレビ前
期待したブラジル負けたワールド戦
名優の演技に心奪われて
何もかも黄緑物の大はやり
【サントス伯寿会 三上治子】

褒められるお世辞なれども一寸と嬉し
足弱を忘れ旅路の楽しくて
バスの旅唄に詩吟に童唄
八十路坂前向姿勢崩さずに
【セントロ桜会 矢野恵美子】

信号待つ窓に寄り来る物売り等
今の世は混血孫や子は普通
団体の演武揃いの胴衣着て
四十年住めば都のサンパウロ
七夕に願ひ多かり子沢山
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

講習の料理に自己の手を加え
紅バラは恋の花とや遠すぎる
要介護の理想目ざして進みゆく
波風に耐えさらされて世を過ごす
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

朝聞いて昼もう忘れ認知症
老いてなお好きなお人が胸に棲む
風鈴を聞きつつ家事を片付ける
NHK観る幸せをつくづくと
【イタニャエン 稲垣八重子】

大儲けしたが取引違反とは
カンブキラ食べし子供等よく伸びて
北鮮のテポドン発射は気違いか
ミサイルの発射は世界に非難さる
コンピュータ祖先は猿と出て来ない
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】





「先生もおんなじ」

静かに頭をさすってやると
はっきり 手のひらに入る 黒い髪
すくめるように 押さえていると
腕の中で次第に 和らぎを覚える
気がつくと 恥ずかしそうに 笑って見せ
さっと教室の方へ とんで行く
いい子 いい子
お話も 読みも 歌も
できるように なったね
かけっこもするし
仲良しも たくさんできたね
先生がだまって 窓を見ている時でも
肩をもみにおいでよ 安心して 
先生も せつ子とおんなじ
時々 勉強が いやになったり
すねたくなったり
泣きたく なるんだもの

【オウリンニョス長寿会 中川由太郎】


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