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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年10月号

2006年10月号 (2006/10/09) 俳句 (選者=栢野桂山)


児を負ふて病夫に目貼せし昔
脳性麻痺の子に撫でさせる仔馬かな
【佐藤孝子】

評: 脳性麻痺は受胎時の脳の障害が原因で、知能が劣る。そういう児は動物などに常人以上に興味を示すもので、仔馬を撫でさせて喜ばせる親心を身近に見た。そしてその悲惨とも思える母親の愛情に触れて客観的に詠んで、仔馬の句としては珍しい佳句。


春埃やおさらい終えし足袋の裏
公約のフォーメゼロなる春を待つ
【杉本良江】

評: 今のルーラ政治の公約「フォーメ・ゼロ」が守られた――という実感があまりないまま、何時しか実行されるであろうと、明るい春を待つ北伯の貧しい庶民達を詠んで、これも待春の句としては珍しい。でも珍しいばかりが佳句という訳では決してない。


やさしさを素直に受けて冬ぬくし
岩肌の雫光りて春近し
【竹内もと子】

評: 父母、兄弟、友人、近所の人々のやさしさを素直に受け止めて、感謝の気持ちを持ち続けるのは、複雑な現在の社会環境の中では難しい。又、暑さ寒さにも不平を言いたいが、暖冬を喜ぶ素直さは自然を詠う俳人にとっては大切と、自身に言い聞かせた感情を写生した句。


おにぎりに芥菜巻いて野良弁当
祭太鼓轟きカルモの花に酔ふ
【岡本朝子】

評: 中国原産の芥菜の種子は刺身に欠かせない辛子になり、漬物にしても舌にさわやかな辛味があり好まれる。作者はお握りに海苔の代りに芥菜を巻くという。厳しい畑仕事をする者を思う主婦の心配りが、一読楽しい句になった。


父の日や遺品の刀持ち出して
瘤高き牛は高値や牧小春
【上坊寺青雲】

評: 移民の荷として先祖から伝わってきた日本刀が、父の形見として残っている。日頃は忘れていたが、父の日にふと思い出して、その刀を抜いて、律儀な昔気質の父を懐かしく思い浮かべた。


春急にデンドロビウムあふれ咲く
花壇より背戸の明るき花ベイジョ
【寺尾芳子】

評: 家の表に小さいながら色々四季の花の咲く花壇があり、裏庭には手入をしていないままに、俗にマリア・センベルゴニアというアフリカ原産の白、ピンク、紅、赤などが咲き乱れ、手を加えた表庭より明るく美しいという皮肉な現象が面白い。


読み返す母の遺句集母の日に
遅刻ぐせある村のバス日短か
【菅原岩山】

涸沼の底土幾何学模様なす
冬のバラ剪をためらひ一日過ぐ
【猪野ミツエ】

やせ土に塵まぜ蚯蚓ふやしけり
花壇あるビル屋上に土蜂来る
【三上治子】

見渡せる広野淋しく冬ざるる
つくろいの針うごかしつ日向ぼこ
【杉本てる子】

蓬摘む故郷恋ふにはあらねども
蜃気楼沖に出る船帰る船
【伊津野静】

チチチチと葉がくれ鳥の声も春
木漏れ日にかがやく一と葉春めける
【伊津野朝民】

老ひて尚夢持ちつづけ春を待つ
湖に影を映して山笑ふ
【宇佐見テル子】

うぐいすにリフトの高さ忘れけり
三瓶野を渡る涼風夜もありぬ
【佐藤美恵子】

石山を拓きし移民のりんご村
十階の窓きしませて虎落笛
【近岡忠子】

枇杷熟れて小鳥の国の我が狭庭
当地産のふっくら炊けて今年米
【藤井梢】

木の葉散りつもり荒地を肥沃にす
木の葉舟風吹くままに右左
【小野浮雲生】

還りゆく土なき舗道木の葉散る
偽りの心見すかす寒夕焼
【風間慧一郎】

友来る地球の裏の冬ぬくし
巨牛の像立つ大牧の冬枯れて
【大岩和男】

老なりに仕事ある日々木の葉髪
できあがりたるカザツコに冬ぬくし
【矢萩秀子】

在りし日の夢ともうすき虹消ゆる
ステッキの先でほめられ実南天
【中川操】

ささやかな家内安全願ふ糸
終戦日遠く戦火の兆し又
【矢島みどり】

つつじ垣番犬二頭立ち守る
一ト雨に景色変りし冬の山
【寺部すみ江】

春塵や亡夫遺せし書籍棚
君子蘭蕾のぞかせ春を待つ
【遠藤皖子】

寒空ににっこり満月顔を見せ
晩年の読書三昧冬日向
【彭鄭美智】

大阪橋の古本屋消え師走町
余生まだまだ励むべくホ句の秋
【稲垣八重子】

せせらぎの水の細りて春遠し
さらさらとささやく水に春近し
【星野耕太】

春塵を払ひて招き猫二つ
春塵の陶器の象は後ろ向き
【纐纈喜月】

白骨の鯨の展示潮煙る
バスたまに通る旧道春埃
【畠山てるえ】

山笑ふ窓の景色を眺めいる
日本祭折紙細工よく売れて
【軽部孝子】

椰子の水呑んで美人に山笑ふ
鏡見て春愁の顔直しけり
【山田富子】

カップルの手話楽しげに山笑ふ
冬ざれの旅も楽しやホ句拾う
【矢野恵美子】

セラードの雀の涙ほどの露
夫の遺影丁重に拭く春埃
【吉崎貞子】

初咲きの桜のつぼみ撫でさすり
二度咲きの五月の花は色うすく
【井出香哉】

着ぶくれていよいよ丸く老母の背
ねむり草ねむり安らぎちちろ鳴く
【前橋光子】

歩行器の友に飛び交ふ秋の蝶
熱帯魚の水槽はなれぬ幼き子
【林田てる女】

兄逝けり煙曇の濃き日なり
夢抱き逝きたる兄をしのぶ春
【木村都由子】

別れ霜に背なを押されて出稼ぎに
裏街道のスイナン真紅に燃ゆる刻
【名越つぎ代】

蓬餅春の香りの馥郁と
父の日を狙って荒れる囚人等
【杉本鶴代】

踊りの輪着物姿の蝶結び
父の日や三人の父偲ぶ娘よ
【黒木ふく】

福博の村のシンボルイペー咲く
金婚と米寿の祝い続く春
【本広為子】

河風の荒しレンソで頬被り
気配りのやさしき孫と春の旅
【梅林千代】

草笛を吹いて偲べり若き頃
春残し妻を頼むと逝きし友
【菅山松江】

犬連れて草笛吹いて朝散歩
転がして木の葉と遊ぶ子猫たち
【杉本てる子】

帰省せしわが子に亡夫のおもかげを
行く年の忘れえぬ人胸にまだ
【酒屋登喜子】

我が部屋の朝日まぶしく日脚伸ぶ
三寒に耐えたる老に四温晴
【内田千代女】

莢ゆれて草鳳凰の風に鳴る
幾曲りして牛乳車花野道
【中川千江子】

切々と平和を祈願終戦忌
いける口かくしケントンチビチビと
【香山和栄】

ソッファーに爪磨いで猫春を待つ
招き猫棚のこけしに春の塵
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


警察は近くにあれど頼むなく夜の戸口はしかと施錠す
【フェラース 米沢幹夫】

幸せを日本に求めて出稼げる息子の髪に白きが混じる
【スザノ福栄会 青柳房治】

清らかに月下美人は凋みゆく吾が終の日もかくぞありたき
【スザノ福栄会 原君子】

孫の婚に歩行器の吾を気遣いくれし友と子に心なごめり
【スザノ福栄会 黒木ふく】

マリンガの日伯寺にて求めたるお守袋は目の覚める赤
【スザノ福栄会 青柳ます】

今日こそはと握るマイクに力こめ緊張のあまり歌詞を忘れる
【セントロ桜会 野村康】

郷土食を日本祭りで買い求め街並みの娘は父母に持ち来る
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

晴々とカナダ国旗を肩にかけ研修生等は帰り来たれり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

鶏が鳴けば草分けて探し出し卵拾いきし母若かりし
遠き日に姉と眺めし夜の星思い出しつつ寄るアパートの窓
【セントロ桜会 井本司都子】

杖つきてわれに寄りくる父の夢若かりし姿を思い出だしぬ
ふる里を恋うる心はつのれども義姉亡きあとは便りも稀にて
【セントロ桜会 上田幸音】

さわやかな文字で葉書を埋めつくし着きたる友の便りに安堵す
寒き朝ふと見上げれば美しき十六夜の月私を見てる
【セントロ桜会 大志田良子】

久々の雨は良けれど桜花庭一面に散りぼいており
【セントロ桜会 渡辺光】

あちこちにつつじ花咲く冬の街日射しゆたかに色どりの濃く
大方が足腰に痛み持つ友らそれでも元気に楽しい集い
【セントロ桜会 上岡寿美子】

のどかなる午後のひと時テラスにてヨーグルトを猫と分け合う
冬の夜春雷大きくとどろきて激しく雨は降り出だしたり
【セントロ桜会 富樫苓子】

少しでも何か手傳わんと思えど腰いたみ出し老いを悟りぬ
【セントロ桜会 板谷幸子】

勝つためには技と体力闘魂と揃わねばならぬコッパドムンド
【セントロ桜会 藤田あや子】

移住して父母と夫を失なえり移民法要の読経に和する
桜咲くカンポスに人等集いおりて玉打つ音のさやかにひびく
【セントロ桜会 鳥越歌子】

幼な日に鉢巻姿の伯父に従き手振りを真似て踊りしお祭り
【イタニャエン 稲垣八重子】

妻が脚病めば散歩も短かめに湖水の景を二人して眺むる
【グァイーラ 金子三郎】

哺乳瓶で育てし犬の毛並よく見知らぬ人の動き見すえる
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

虹に向い祈るは子らのことばかりふと思いいる今は亡き父母
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

生きてゆくこの世の杖と恃みしが幽明異に妻は去りたり
【サンパウロ 岡本利一】

度々の歯医者通いに気落ちせり残り少くなりし歯を維持せんと
【ミランドポリス 湯朝夏子】

開門に待ちわびし客はよろこびてカルナバルの樂の音に手拍子うちおり
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

財も無く名も無く老いし我なれどわが生涯に悔ゆることなし
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

ユーカリの林囲める金網を外して公園らしくなりたり
【サンパウロ 竹山三郎】

棚上に紫色の小花つけ美しくたれる藤房に見入る
【タピライ 杉浦勝女】

移り来て七十年の年重ねいまだ懐かし故里の梅花
ふと目覚めしとしとと降る雨音を恵みの雨と心安らぐ
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

幸福に溢れ乍らの生きる幸父母に合掌夫と稚児にも
誕生日月は変れど同じ日に旅立つあなたの面影抱いて
【ピエダーデ寿会 中易照子】

紅の雨降りしきるごと散る花よプリマベーラの太き幹より
暗き朝ビル街の空にむくむくと雲湧き出でて陽のかげりくる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

離れ馬道端の草に満腹し車音も気にせず立ちて居眠る
この丘に登れば町が一望に人々暮らす屋根が広がる
とんぼ飛ぶ小川の岸の故里に昔を偲びせせらぎを聞く
【ツッパン寿会 上村秀雄】

夕立の止みて郵便出しにゆこうとまだ降りそうな空仰ぎつつ
夫の墓に参れば蝶の寄りてきて前に後について離れず
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

変り行くサントス海岸久方に杖を引きつつ砂浜を逍遥
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

買物に毎日通る坂の道ほっとひと息空仰ぎ見る
朝顔の咲いたごとくに砂浜に色とりどりの日傘が並ぶ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

遠くまで白波の立つ朝の海風も強くて釣舟も出でず
ジャカランダ生命いっぱい咲きいると時を忘れてわが眺めたり
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

遠き日に新妻連れてこの砂浜歩きし想い出蘇えりくる
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


旅支度に訪日するかと異人問ふ
最後まで弱音を吐かず前向きに
新時代従いて行けない事ばかり
大正っ子の骨硬いぞと胸をはり
実力も知恵とは別な運不運
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

村恋いし山なつかしと泣いたとさ
田舎出は迷ひそうなり繁華街
郷土祭獅子奮迅の婦人連
寅さんを観てサンジョアキン街坂登り
夜も更けし終着駅はゴミの山
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

卒寿媼をマスコット扱ひ我が句会
一人者気楽でいいよと痩我慢
忘れ物している様な我が日課
青い目の力士日本語皆達者
うっかりと声を掛けしが人違い
【セントロ桜会 矢野恵美子】

移民等の先祖の判る顔かたち
血すじなど思わず雑婚ブラジル人
鉄筋も少なき古屋丈夫なる
地震なく曲がったビルも倒れない
災害のない国に住み皆豊か
【サントス伯寿会 三上治子】

年金に働く意欲起させる
街雀好奇な噂撒きちらす
ど根性の強さ和解にほど遠し
価値のある言葉重たく胸に受け
若者に背中押されて老い急ぐ
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

バラ色の夢を明日の生甲斐に
見習えよ孔子の如く世を過ごせ
年齢を忘れて派手な服を着て
人の波動物園に蝶も舞ひ
鳩群れて歩行に邪魔しピポカ食ふ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

癖つきしテレビ相手に一人言
一人者テレビ観ながら食事をし
蟹の泡議論に徹する人に似て
ぶり返す寒さに風邪を引きそうな
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

コンピュータ友の六十路を覚え居し
落花生殻山となり満腹す
鍛錬は動中に静見出せと
開発の青年隊も五十年
小鳥鳴く広がりて居し霧の中
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

孫居ても老人呼ばりに反抗す
政権は替れど中味は変りなし
耐え忍ぶ美徳は今は通じない
損をして得するなどと云われぬ世
指曲るほど鍬引きし移民なり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


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