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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2006年12月号

2006年12月号 (2006/12/14) 俳句 (選者=栢野桂山)


バス停のこんな所に雀の子
春寒く遺影眺めて語りかけ
【遠藤皖子】

評: バスが絶間なく発着し、人々が往き来するバス停の中に、意外や子雀が怖れもせず歩いてピポカなど啄ばんで居るのはよく見かけるところ。「おや、こんな所に小雀が」と、その行きざまの逞しさに感心。


朝寝して夢の行方を追いかける
たんぽぽの綿毛を飛ばし夢とばし
【矢野恵美子】

評: 春の野原の地面にはりついて花を咲かせ、そのあと絮を飛ばすたんぽぽ。それは綿毛のようにはかないけれど、美しい夢をのせて飛ばしているようだと見た。明るく新鮮な感銘のある句。


意にそわぬ子の声はじけ鳳仙花
吾が植えて吾が見る初花ほうせんか
【前橋光子】

評: 鳳仙花は女の子に親しまれる花で、赤、白、紫と種類が多く、それで爪を染めて遊ぶので「つまべに」「つまくれない」などの別名がある。これはその花を取って爪を染めてみたところ、思うように染まらないので、不満の声をあげたところ、下の方の種子がはじけて命があるように飛んだ。


春の恋虹見る様に頬輝き
春愁や人に語れぬ事ありて
【山田富子】

評: 春は恋の季節。娘たちは美しい虹を見る時のように恋人と手を組んで、りんごのように頬を輝かせて園を歩く。


焼けきずの樹液に蝶々群がりて
素通りす汽車の軋みや駅朧
【畠山てるえ】

評: 野火に焼けた幹から樹液が滲み出ている。兜虫にまじって蝶々が仲良く、それを吸っている。何か童謡のようで小動物に対して愛情がある句。


春蚊鳴く一人芝居の衣裳部屋
【佐藤孝子】

評: NHKのテレビで著名スターの一人芝居を見ることがある。幕の開く前に舞台裏の部屋で、一人で化粧をして衣裳を着ていると、暗い隅の方で春蚊が鳴いた。一人芝居の衣裳部屋と春蚊との関係が何となく艶めかしい。


春窮のコロノと分つ縄煙草
学歴も家柄も伏せ耕せり
【猪野ミツエ】

生き残る村の草分け入植祭
花アカシヤ福博村の一旧家
【杉本鶴代】

夏霞町よりのぞむモジ箱根
滴りて供花にと切りし花海芋
【名越つぎ代】

瑠璃茉莉の垣の奥なる句会場
子を連れし移民の像や東風の浜
【木村都由子】

ちょっと寄るうどん屋も無し寒き街
開拓記綴れば哀しパイナ吹く
【稲垣八重子】

今日のこと想い寝そびれ春灯消す
春の日の我家に帰りたる疲れ
【内田千代女】

てのひらにまるい果実や秋きざす
ブラジルの水澄むことの無き大河
【佐藤美恵子】

逝きし人の面影胸に墓参る
何時の日か吾れも入るべき墓拝む
【矢島みどり】

大根二本提げて人波よけて行く
青梅や漬け方の本共に売れ
【彭鄭美智】

木の実独楽廻し道草山路暮れ
ポ語学習止めホ句習ふ寒燈下
【香山和栄】

雄雌と互いに気くばり巣を守る
耕や百姓知らずの嫁が来て
【岡村静子】

赤潮の魚の災難五十トン
魔物めく夜風にはためくかかり凧
【林田てる女】

鋏鳥尻尾の鋏何を切る
老妻へパラグアイ土産の春日傘
【上坊寺青雲】

春寒し遠くの姉の死の知らせ
春日和記碑囲む交流会
【大岩和男】

威勢よくのび揃いたる蘇鉄の芽
球根の予期せぬ芽生へ青々と
【藤井梢】

老翁の同じ繰り言春の宵
老女の手ふるえ乾杯敬老会
【小野浮雲生】

ゆくりなく友得し法座冬ぬくし
明治節の歌詞忘れずに老移民老ゆ
【風間慧一郎】

公園の闘魂の碑に風光る
薬掘る美食で病むとは勿体なし
【近岡忠子】

リューマチに木の芽の時節いやな日々
芽ぶくもの土もり上げてのぞき居り
【矢萩秀子】

慈雨なれや待ちゐし木の芽綻びて
風ぬくし竿を片手に魚篭下げて
【伊藤桂花】

痛む足なで一ト日暮れ日脚伸ぶ
初蝶や季の訪れを知らせてくれ
【中川操】

ジャボチカバきらりと光る黒真珠
入植祭日伯国歌で始まりぬ
【黒木ふく】

良き湿りありて鳴き初む沼蛙
キロンボ路一望千里の甘蔗畑
【本広為子】

俳人の白寿の媼敬老会
宇宙観光二千万ドル春の夢
【寺尾芳子】

先駆者の苦労忘るな柿の花
あかざ摘みカンブキーラ炒め子等育て
【野村康】

親鳥の見守る中に巣立鳥
団欒の窓を明るく春燈
【杉本てる女】

邦人の住むらしき垣更紗木瓜
頂ける茄子苗鉢に花もてる
【梅林千代】

鍬だこの祖父のごつい掌思い出す
蟲達の好みそれぞれ選ぶ花
【三上治子】

濯ぎ女の唄声流れ水温む
曾父植えし桜の公園樹木の日
【寺部すみ江】

湯豆腐や津軽訛の宿の主
よろめきて花にあぶれし冬の蜂
【菅原岩山】

鍬先に思ひを込めて木の実植う
種播機一番雨を待ち焦れ
【星野耕太】

庭に馴れ人には馴れず雀の子
マクンバの供物ある辻たんぽぽ黄
【纐纈喜月】

老夫婦愛でし土くれ木の実植う
子雀の啄ばむ仕草パンの耳
【吉崎貞子】

一番雨農家の卓にお赤飯
菜を突くさまあどけなき雀の子
【杉本良江】

昨日逢い今日は別れよ落椿
板たれて窓たたきおり春寒し
【小滝貴代美】

春の朝おやつに買いし大豆パン
日本祭折り紙細工満員に
【軽部孝子】

桜咲きカンポスの空雲白く
春の日を浴びて花園とりどりに
【井出香哉】

春の虹消え緑濃き山浮かぶ
巣立鳥親の飛び方見習ふて
【原田貴美子】

逃水や直線国道消ゆ地平
朝焼やマ州草風荒く
【岡本朝子】

それなりに優雅なすがた原種蘭
姿にも良き名授かり君子蘭
【伊津野静】

風光る腰に吊りたる鍵の束
春の風邪に迫る民謡コンクール
【伊津野朝民】

牛殖えし牧に二重の春の虹
菜飯炊き置きて老妻旅に発つ
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


背後より肩叩かれてふり向けば見知らぬ人の顔がとまどう
【フェラース 米沢幹夫】

夜昼を厭わず働き子を育て亡妻と生きたり広野に幾とせ
【サンパウロ 岡本利一】

遠来の客も帰りて吾が心穴のあきたる如なれど逢うは別れの初めと思う
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

雀二羽花壇の蛇口に嘴(くち)よせて落つる水滴を待つが如くに
【セントロ桜会 渡辺光】

北米に住む息子(こ)の誕生日に送らむとカルトンに寄せ書を孫らと共に
【セントロ桜会 井本司都子】

この年の終り近づく日々なれど天候不順にて寒き日つづく
秋晴れの東の空にゆうゆうと大きい飛行船およぐが如し
寒さ去りほつと一息つく間もなく再び寒さもどるこの頃
【セントロ桜会 板谷幸子】

つんつんと莟を立てて咲き初めしシビピルーナ十日後満開となる
眠れぬ夜犬の遠吠えうるさくて明日の用事を気遣いており
【セントロ桜会 富樫苓子】

さくら餅を作らんと若葉つみおれば小さきさくらんぼ無数に熟れいる
ゲートボールのカンポは葉桜繁りいて熟れしさくらんぼ口にふくめり
【セントロ桜会 鳥越歌子】

小さなる傷にても痛み弱音吐く老いし体を持てあます日々
【セントロ桜会 藤田あや子】

言葉では言いあらわせぬその景観イグワスーの滝飛沫盛り上る
のったりと打つ波の面は夕光にきらめき暮るるマセイヨーの海  【セントロ桜会 上岡寿美子】

わくら葉を集めておればわが後におそれ気もなく鳩はつきくる
春の香の漂よう岸辺の草や木はわれ先にと新芽吹きいづるなり
【セントロ桜会 上田幸音】

早速に我が合同歌集を故郷の歌友に送りて感想待ちおり
ことさらに話すことなき日曜日互いに気づかい夫と一日
【セントロ桜会 大志田良子】

会場の中央に櫓組立ててうち出す太鼓盆おどりの夜
まんじゅうや鮨の屋台も出そろいて櫓の太鼓どんとひびきぬ
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

同年輩の親友皆他界し語る友なく余生さびしき我が老後
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

行く先も定まらぬまま故郷を追われ砂漠の中にさまよう
高層の窓より望む海暗く寄りくる波の音の静けき
【サンパウロ 竹山三郎】

牡丹色のつめ切り草は花ざかり白も添えてと植うる娘は
嫁きし孫母となる身の近づきて達者で産めよと祈る祖母われ
【ピエダーデ 中易照子】

若かりし頃は母の寒がりを笑いし吾が笑わるる身に
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

待ちおりし春耕の雨にうるおいぬ明日は晴るるらし長き夕焼
【グァイーラ 金子三郎】

祖母の思い七才の孫に挨拶が身につく様にとオハヨウ、オカエリ
わが家に来れば愚痴を言う精薄の甥四十幾才今も亡き母を恋う
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

会合が済めば白馬に鞭あてて帰りし夫はいま天国に
【タピライ 杉浦勝女】

夫と孫永久に眠れる園に来て去り難く娘もふり返りみる
涙して仰げば月も泣く如く無限の空に寂しく揺れて
【ミランドポリス 湯朝夏子】

支柱のえんどおの花ホツホツと紫蝶の止るがに咲く
セメントの鶴の親子の色あせてペンキ塗りかえ衣替えなす
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

時季くれば待ってましたと五月花ピンクの蕾をびっしりつける
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

「ブラジルを美しくする会」掃き初めの揃いの服装白く和やか
朝早くラヂオ体操に出かけおり人々揃い雲も動きぬ
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

糖尿に効を奏せしか減塩食血糖下がりて食進みたり
転倒し意識不明となりし友延命機着け命をつなぐ
思うまま生きし家族の留守守り我は店番それも生き甲斐
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

両脇に松葉杖つく人ありぬ吾手すりにて階段おりる
我に席譲りてくれたる乙女ありこの日一日心楽しく
雨降りて汚れ洗われ新鮮な緑となりし街路樹つづく
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

池の面に木の葉の落ちて小魚は餌かと思い群れ集りぬ
苦手なる寒さ来るかと内心は恐れつつ待つ冬の足音
北極の山の連らなり思わせるミナスの空の白い雲群
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

海鳴りがやや静まりし砂浜に散歩する人刻々に増え
それぞれの水着姿の人々がパラソル広げ波にたわむる
砂浜に五、六羽づつの町鳩が何を拾うか群れてついばむ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


忘れ癖過去も忘れて今を生き
春来る枯木に花を咲かそうか
腰曲げて踊るバアちゃん気が若い
転び癖又かと子等に叱られる
この脚で山河越えしと足撫でる
【セントロ桜会 矢野恵美子】

吾が老いを自覚す長子は四十才
朝目覚め私の好きな寝体操
日本より輸入高値の金暦
老ク連ビンゴ大会盛り上がり
教養ある青年移民に幸あれと
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

奇蹟など頼らず感謝で世を渡る
大鉢を供えて感謝の盆供養
白服で颯爽と打つゲートボール
ベンテビーを日本の友に聞かせたし
父の日や子等は感謝すふた親に
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

心若くすれば人間年寄らず
若いネと云われて老を自覚せり
すきま風老いたる身にはよく沁みる
ともすれば懶け心に鞭打ちて
貧しさは財布は軽し気は重し
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

八十年の夢を刻んだ開拓碑
筆舌に尽せぬ苦労今は夢
蛇蜥蜴食いし開拓期を想う
落馬して血を吐きたるも若き頃
弁護士は金のある方につきたがる
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

選挙など知らぬ存ぜぬ事にして
なるようにしかならないと一人言
口先きで腹をこやして平気なる
弁舌で当選狙うえらい人
税金に白い手黒い手のびている
【サントス伯寿会 三上治子】

老らくの熱い血潮か友の恋
海に来て雨止まぬとて皆焦れる
知らぬ間に猫背となりて丸くなり
夕立に追われて走る事出来ず
呼子吹くサルバビーダの背の浮輪
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

一世の土台ありてぞ百年祭
何事も始めがありて末長く
名城も美港も土台ありてこそ
雑草もこやしになって花咲かす
雑草と云へども花は美しき
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

百年え移民はばたく大昿野
意地と欲抱いて明日え賭ける夢
汗の塩吹ける野良着に夢を描く
他人を見て己の事をふり返る
汗知らぬ者の机上の計算器
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

詩心について絵心湧きあがり
絵を習い集中力を養へる
晩年の恋に家庭を破壊せる
三十年共に暮して離婚とは
切れすぎが邪悪でお金に縁薄く
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


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