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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年1月号

2007年1月号 (2007/01/03) 俳句 (選者=栢野桂山)


リベイラ富士眺めお茶摘む新移民
歴史にも残る茶の秘話移民の日
【大岩和男】

評: 在来種の茶の栽培をしていた岡本寅蔵氏と俳人の久江夫人は、品種改良を決意して訪日の帰路、セイロン島に寄り、アッサム種の茶の実を手に入れ、パンの中に隠し持ち帰り、リプトン茶をブラジルに拡めた。これが歴史に残る茶の秘話で、レジストロの移民の日に残すべきもの。


父の日や父知らぬ子が父に似て
行春や身辺整理それとなく
【小滝貴代美】

評: 父知らぬ子とは、おそらく幼い折に父と死に別れた子であろう。父の日にその我が子を改めて見た時、死に別れた夫とかくも似てきたものかと思った。人々がお祝いする父の日に、亡くなって久しい夫を思い出して喜べない日となった。


寝汗のたび濯ぐ病衣や煙曇
仕上りし鳥巣つくろふていねいに
【佐藤孝子】

評: 病人はよく苦しい寝汗をかくもの。病人に少しでも気持良くしてやりたいと、家事で忙しい中、毎日その病衣を洗濯する。野焼やスモッグの続く八月は「狂犬の月」と言われ、病人も看護する人も大変。その苦しみ哀しみを少しも感情を交えず、淡々と写生した。


墨染めの袈裟に春愁ふかき僧
水温む洗ひし狆に耳飾
【菅原岩山】

評: 黒みをおびた黄色の衣をインドでは袈裟と言い、僧の衣をその色にした。その袈裟をつけた僧は、日本から派遣されて間のない若い僧であろう。はなやかで楽しく友人も多かった日本を思い出して、春怨とも言える感情にふけるのであろう。


敬老会に二世が増えて珈琲咲く
長男を杖にお盆の墓巡り
【名越つぎ代】

評: 日本移民も百年という一つの区切りを迎えようとして、敬老会にも二世が増えてきた。その内に三世が加わるであろう。そのかみ初期の移民が奴隷代りの労働に泣きつつ見たであろう珈琲の白い花が、百年の昔と同様に香りを放っている。珈琲の花に託してコロニアの歴史を詠んだ、平明にして感銘のある句。


振り向かぬ娘に草矢射る少年よ
落雷に燻ぶり続く野の枯木
【木村都由子】

評: 念腹先生の名吟に「雷や四方の樹海の子雷」があるが、その親雷が下界を駆けてその雷火が野の枯木に飛び付いた。この大枯木は芯が腐っていて倒壊するまで燻り続けるであろうと、自然に発生する壮絶感をとらえた句。


よろばひて踏んばって翔つ巣立鳥
目に沁みし苔むす岩の紅千鳥
【香山和栄】

ちりぢりの雲足早に春の雷
白百合が薫る屋台の路上売り
【前橋光子】

名物の泥蟹料理バイアの旅
新玉葱三台入荷値下りす
【上坊寺青雲】

驢馬の耳ほどの中国産木耳
愛深き貴公子セーナの墓に供花
【寺尾芳子】

初夏の湿地めぐりて風立ちぬ
夕食になにはともあれ瓜きざむ
【成戸浪居】

強東風に押され押されて坂のぼる
しゃぼん玉子の歓声のたびくだけ
【内田千代女】

羅や乙女の裳裾軽やかな
端居して思はざる愚痴聞かされし
【岡本朝子】

半裸の娘腕組んで行く初夏の街
痩すぎしモデル悲しや初夏の風
【杉本鶴代】

蘭の花咲く庭吾れのオアシスよ
長男次男二軒の庭の初夏の風
【黒木ふく】

優勝す自動車レース国旗の日
木耳の歯応え楽しむ村句会
【本広為子】

ピアバ釣り老いたる夫婦肩よせて
たそがるる草葉のかげで蛙鳴く
【酒屋登喜子】

葉を着せてこけしつくりし葱坊主
墓洗ひ過ぎし月日を数へみる
【畠山てるえ】

窓を打つ雨の音にも春を聞く
降りしきる雨足白く海は春
【井出香哉】

神の日に出かけくたびれ春の人
神の日に出かけて哀れ車事故
【三上治子】

愛犬のやさしき目春惜しむかに
父の日や息子の贈る高級車
【軽部孝子】

古本に賢者の教え冬うらら
荒れ放題の畑を惜しみて蝶舞えり
【彭鄭美智】

子供の日大人が遊ぶ子の玩具
長旱り終止符打って初の雷
【梅林千代】

家に家紋国に尊き国旗の日
アバカテの朽木木耳出揃える
【野村康】

学僧の衣新らたに秋彼岸
三姉妹八十路揃って秋彼岸
【吉田しのぶ】

たんぽぽの淋しく咲いて無人駅
闘病しつつ無事迎え古希の春
【原口貴美子】

右左確かめ歩む蝸
楽しめる孫等の笑顔春めける
【伊藤桂花】

供花に満つ霊園心やすらぎて
遠ざかる流燈しばし去りがたく
【矢島みどり】

流燈会終りを告げる大花火
胸に背に漢字書かれしアロハシャツ
【近岡忠子】

囀りて枝から枝へ親子鳥
二世嫁老の好みの鴫焼を
【藤井梢】

ゴーヤ喰べ沖縄の人寿(いのちなが)
世の名利捨てて裸の卆寿翁
【風間慧一郎】

角出してでで虫這い出る雨上り
秋風や俳句仲間の野辺送り
【中川操】

春雨や屋根の小草の花咲いて
朝飯の茄子の糠漬け故郷の味
【小野浮雲生】

青々とつづく茶園の細い道
マネキンの色あざやかなアロハシャツ
【矢萩秀子】

父の日や母の日よりもうとまれて
葱坊主いが栗頭となり果てて
【星野耕太】

春の虹色あざやかに消えて行く
菜飯とておいしく朝夕食卓に
【山田富子】

遠き日の思い出偲び春惜しむ
ナツメロのくちなしの花我が庭に
【遠藤皖子】

親鳥に見守られつ巣立かな
春の虹消えゆく如く友逝けり
【矢野恵美子】

行く春と共に逝かれし師を悼み
二度三度弾みをつけて鳥巣立つ
【猪野ミツエ】

碑の我が筆跡の墓参る
足弱の妻の手をとり春惜しむ
【纐纈喜月】

早立の客を見送りサビア鳴く
健やかに育てと願う子供の日
【杉本てる子】

失ひし耳かざりあり青芝に
おとずれし季節たがわず菊咲けり
【玉置四十草】

怖ごわと残りの一羽巣立けり
「お見なはれ」春の虹指す京ことば
【杉本良江】

ふと気付くさざんか咲いてをりしこと
山茶花のたちまちにして百花超ゆ
【佐藤美恵子】

愛犬を残し友逝く春寒し
桃色の窓のカーテン春の風
【青木駿浪】

床上げの近き病室春の雲
筆談の合間のしじま秋の声
【湯田南山子】

下萌に建築材料積みし跡
日傘樹下車二台の車庫となる
【須賀吐句志】

青空を支へる麦の日和風
青春に幸あれと吹く春の風
【寺部すみ江】

幼児に離別の涙鳥雲に
セラードを統べ満天の初茜
【栢野桂山】

句友の皆様へ
 句友の皆様より沢山の年賀状を頂きました。こちらからも礼受の賀状を差上げるべきところ、その数も少なくなく多忙にかこつけて、失礼ながら紙上をもって新年のご挨拶を述べさせて頂きます。
 二〇〇七年元旦 栢野桂山


短歌 (選者=水本すみ子)


読むもよし読まずともよし生きの日をつづりて残すわが歌の章
【フェラース 米沢幹夫】

日常の会話になるべくポ語を使い学びの足しにせよと云う子ら
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

住み着きて姿は見せぬ屋根裏の猫が日暮を声ほそく啼く
【スザノ福栄会 青柳ます】

イギリスの伝統美ひとつ住宅の温もりやさしきライフステージ
【スザノ福栄会 青柳房治】

高台のわが家より見ゆるスザノ路を玩具のごとき車が走る
【スザノ福栄会 黒木フク】

酒好きの亡夫に習いし黒田節「ここは力んで」と言いしを思う
【セントロ桜会 野村康】

待望の親王さまの生れまししニュースに輝やく同胞の顔
【スザノ福栄会 原君子】

とうの昔死んだとの便り今日を聞く「フィゲレード」を我は永生きさせたり
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

医師薬剤師三人の子らともどもに市庁に勤むるは心安けし
【グァイーラ 金子三郎】

椰子の風そよぐ北伯の砂浜にはるばると来し身のやすらぎており
【セントロ桜会 星井文子】

めぐり来し盆の墓所は花ざかり寄りくる蝶は人の魂かも
日溜りのベンチに憩う老二人耳に口添え何語りしや
【セントロ桜会 上田幸音】

吾娘のため亡夫の歌集にかなをふる暇いとまに今日初めたり
男孫は漢字の練習におそくまで十二時過ぎてもまだ一心に
【セントロ桜会 井本司都子】

夕映の褪せゆく庭の桜木に雀すだきて喧騒はじむ
【セントロ桜会 渡辺光】

娘と孫ら訪ないくれて三日目に一千キロを帰り行きたり
ブラジルに七十八年住み古りて訪日暦は二度であるなり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

牧に植え四十年愛で来し大樹の名をシビピルーナと今日は知れたり
良き雨に成育早く豆畑を眺めて散策思わず足伸ぶ
【セントロ桜会 藤田あや子】

老いづきて種々の予防の検査にてせわしくなりぬ夫との日々は
さまざまに自由に伸びる街路樹に夏の陽射は映えて輝やく
【セントロ桜会 富樫苓子】

見さくれば赤と黄のライトきらめきて家路を急ぐ陸橋の車列
久々に友と出合えば気負いいて曲りし腰を伸して語る
【セントロ桜会 鳥越歌子】

何処へ行く飛行機なるか真夜中に点滅しながら過ぎてゆくなり
【セントロ桜会 板谷幸子】

数かずの提灯明るく灯のともりはなやぎ増しくる盆踊りの夜
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

育てたる子に護られて老境を他郷に生きゆくささやかな幸
【サンパウロ 岡本利一】

青空に大きく長く飛行機雲橋かけるごとどこまで伸びる
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

老後の幸福は一に健康二に善き友を持ち三に小使銭に恵まれること
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

夕空の電線に止る小鳥らの帰るねぐらを探すがごとく
【サンパウロ 竹山三郎】

便りあり胸おどらせて封を切る皆の笑顔に声聞えそう
茄子蒸かしトマト玉葱きざみ入れ薄酢に塩は大好物のもの
摺り足は駄目よ言はれ手を振って一二三四と転ばぬように
【ピエダーデ 中易照子】

体調の良し悪しにより歩調決むる今朝は晴れたり体調万全
味噌汁の香り漂よう夕餉どき老いし二人の黙あたたかし
五十年ぶりの同窓会恩師の笑みに歳月を忘れ友と語らう
補聴器を使えば少しは聞きとれる難聴なれども妻ある幸せ
【ツッパン寿会 上村秀雄】

花が二度咲くイペーローザ大木となりその姿美し
今朝もまた空一面のいわし雲元気のよさを告げているよう
丹誠をこむれば答える百日紅見事な花の盛りを見する
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

寒波きて色とりどりの糸集め足病む姉に膝掛けを編む
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

湯のような熱き水道の水に觸れ戸外で働く人等を思う
【ミランドポリス 湯朝夏子】

夜学生戻る靴音耳にしてTVドラマを止めて灯を消す
落雷で不通となりし電話口手もち無沙汰となりて過せり
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

在りし姉を友と語りて涙する教え子の賀状は早々に故国より
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

冷蔵庫常に満して呉れる嫁今日も刺身と赤鯛があり
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

高い空見渡すかぎりのカンナ畑風にそよいで葉裏を見せる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

晒したる布巾幾枚円型に吊して冬の陽だまりに干す
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

立ち並ぶフィツクス樹の木陰にて憩う老夫婦睦まじそうに
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


自治の手の届かぬ広い国に住む
己が事よりひと事に気を使ひ
我を張った心は他人の眼がさばく
移民百年道の遠きに居る祭
一日一善一句も出来ず年が暮れ
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

人生の明暗交々年暮るる
在るがまま何も飾らず在るがまま
科学とは月や火星を掻き廻し
遜り下る心他人を柔らげる
言い度きを言わずに居りて後悔す
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

貧しくも施す心忘れずに
バス降りる足のもつれに老を知り
前向きの姿勢崩さず来たつもり
足るを知る事を悟れば聖者並
称えもし平和を種に武器を売り
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

逃げられて握った拳の力ぬけ
うつ病が予病をよんで悪化する
救急のベルを鳴せど誰も来ず
教職者四十で迷ひ監獄に
人の口有りもせぬ事伝はりて
【サントス伯寿会 三上治子】

大阪橋東洋出店の賑いて
男女揃ひ団体演武の棒かかげ
大勢でヨサコイソーラン運動会
竹に雀伊達の家紋の気に入りて
青葉祭神社のお守りしかと着け
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

幸せは自分で掴め手を伸ばせ
白昼夢覚めて冷めたや浮世風
去年今年変らぬ夢を抱きつつ
我が人生泣いて笑って今が有る
おエラ方最敬礼でケリつける
【セントロ桜会 矢野恵美子】

ひたすらに学ぶ姿の尊しや
一心に学んだ技術残したく
こだわりを捨てて仲間と肩を組み
輝いて居ますか私の余生とは
風雲に耐えて生ぬく気迫有り
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

先駆者の犠牲に百年花が咲く
ドトールも名士も一世あればこそ
耕して種播き人を育てたる
実も花も育てし人のあればこそ
先駆者の苦労の実り今栄誉
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

年頭吟

平和乞う色に燃え立つ初日の出
【塩飽博柳】

年新らた大和心を通し行く
【交告余碌】


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