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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年2月号

2007年2月号 (2007/02/12) 俳句 (選者=栢野桂山)


喜寿迎う心はずみて日記買う
車椅子の夫庭に出し煤払う
【寺尾芳子】

評: 思わぬことでの怪我か、高齢のためか解らないが、車椅子の主人を庭の木陰に出し、屋内調度の煤や埃を掃き清める。これを「煤逃」と言い、別室の場合は「煤篭り」。俳句の季語というのはなかなか面白い。この句の場合の煤払いは、主人の禍いを払うという愛情の気持が句の裏にかくれている。


孫と猫仲良く昼寝ハンモック
ゆらゆらと夢の揺りかごハンモック
【矢野恵美子】

評: ハンモックに横になってゆらゆらと揺られていると、遠い遠い……幼き日に揺りかごに乗って倖せな夢を見ているような心地になってくるという。この句には明るい童心と心地良いリズム感がある。


冲膾熊野漁師の気の荒さ
虫干や仙台平を譲り受け
【猪野ミツエ】

評: 熊野は熊野三社のある霊場で、熊野灘は昔から漁業捕鯨が盛ん。したがって移民となっても熊野の人は気が荒く、海を慕って船を出して冲胴など楽しむのであろう。気の荒い熊野の人の作った冲膾はどんな味がするのだろうか?


島の夏鐘の鳴る岩黒く寂び
廻り道も無駄でなかりし去年今年
【香山和栄】

評: 去年今年とあるからこの廻り道は移民の人生を言ったもの。現在の生活に辿りつくまでには、さまざまな無駄な努力廻り道をして来た。だが、よく考えてみると、それが楽しかったし、無駄な廻り道ではなかったという思いがする。希望に燃えて迎える新しい年の始め、過ぎ去った年を回顧すると同時に、遠い昔の移民としての人生を振り返ってみたものである。


茶の始祖と並んで藺草の元祖かな
移民史に残る茶の秘話茶山の香
【大岩和男】

評: レジストロの産業と言えばお茶と藺草。茶の始祖と言えば岡本寅蔵氏。だが、藺草の元祖は知らない。茶の本場の日本やイギリスにも輸出して、年間三千トンを生産した岡本氏。藺草を植えて畳表や茣蓙をこの国に広め、日本移民としての偉業を思う時、元祖である二人の面影が並んで脳裏に浮びあがってきたのであろう。


清謐な泥の営なみ蓮開く
嫁ぎ来し娘と住む余生お茶の花
【風間慧一郎】

評: 嫁に来てくれた以上、自分の娘であり、娘のように思える嫁と暮す余生は幸せである。長男でも結婚すると別に家庭を持つのが普通になった現在、こういう余生は少ないのではないか。レジストロのようにお茶は村の産業であり、生垣などにすると清楚な感じの花が咲く。茶の花は可憐で実の娘のような嫁に通じる。


山笑ふ日の丸弁当拡ぐ野良
暮鐘草庭一面を白く染め
【岡本静子】

若葉風昔移民の田圃跡
波飛沫あげて水着の熟年等
【名越つぎ代】

NHK見る時間ずれ夏時間
ゴーと来て竜巻夏木ねじり切り
【三上治子】

年用意数の子塩鮭鏡餅
年の暮背を押されて急ぎ足
【黒木ふく】

累々とエマの古巣の卵殻
首叩き子飼の鹿毛と春惜しむ
【菅原岩山】

暑かろうと思ふて不憫肥満の子
しあはせと心置きなく昼寝して
【岡本朝子】

大都市となりさけがたき大出水
熱帯の豪雨すさまじ大洪水
【杉本鶴代】

青葡萄太る蜂巣を早よ焼かな
煤払い大蜘蛛顔に落ちて来し
【本広為子】

なけなしのへそくり役立つ年の暮
良き年でありしと思う年は行く
【矢島みどり】

囀りや孫の前髪切ってやる
はるか見ゆリベイラ富士や夕霞
【矢萩秀子】

新緑の木の葉に光る露の玉
何もかも忘れ昼寝の高いびき
【小野浮雲生】

一仕事西日の海に入りてより
草矢など吹いて子供に還りけり
【伊藤桂花】

油断してこがす苺のジャムの鍋
蟻いくつ乗せて流れるバラの花
【玉置四十華】

山笑ふ異国に腰すえ半世紀
日脚伸ぶ趣味の小細工して楽し
【中川操】

豆電球めぐらす広場プレゼピオ
万緑の山野彩りジャカチロン
【近岡忠子】

煤払古りも古りたり家具と我
食べぬ妻尻目に夏の河豚刺身
【伊津野静】

シグナル青手押車の氷菓売
夏大樹根のゴミ袋また太し
【伊津野朝民】

ハンモック流れる雲に語りかけ
サングラス外せば明眸八頭身
【宇佐見テル子】

使い捨ておむつのありて雨季安堵
大夕立止まる花嫁乗用車
【杉本良江】

天と地の星きらめきてクリスマス
葉を揺らし並ぶ一筋蟻の道
【畠山てるえ】

愛犬にサングラス掛け写真撮る
白壁にくっきり残る出水跡
【星野耕太】

姉妹とも見ゆる親子のサングラス
何着てもよく似合ふ娘のサングラス
【纐纈喜月】

雨季終りまぶしき太陽仰ぎみん
サングラス外せば何時も良き笑顔
【遠藤皖子】

サングラスショートカットの似合ふ娘よ
おしゃれにも愁いもかくすサングラス
【小滝貴代美】

マンチケーラの断崖に咲く紅千鳥
森の木々たかぶり波うつ青嵐
【木村都由子】

静かなる瀬戸の渚の桜貝
新歳時記熟読せんと十二月
【花土淳子】

大出水故国は地震颱風と
東洋祭始まる太鼓威勢よし
【軽部孝子】

夏楽し紅白合戦紅勝利
ビル頂上四方の春風吹さらし
【山田富子】

蟻の道辿りたどりて小半日
サングラス気どって見せる孫娘
【吉崎貞子】

タイヤ冷す僻地廻りの医療班
カミニョネイロで終る一生タイヤ冷す
【佐藤孝子】

日盛りの十字路に佇つ婦警たち
背に余る重荷にあえぐかたつむり
【前橋光子】

借金の無き師走とて高鼾
テレレ飲み伯人女良く喋り
【上坊寺青雲】

春愁や小さき嘘と知りて聞く
ハミングす今朝の厨の水温む
【詠人不知】

滝飛沫浴び花ベイジョ水着の娘
難聴同志の話ちぐはぐ山笑ふ
【林田てる女】

縫いぐるみの白毛撫で孫初笑ひ
大夕立窓にしぶきて床ぬらす
【井出香哉】

春の海くぼめてヘリコプターのショー
ハンモックより垂れ黒髪地に届く
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


推敲に推敲を重ね詠むなれど自己満足の範囲を出でず
【フェラース 米沢幹夫】

しばらくを読めば眼のかすみきて眼鏡はずしてしばしを憩う
ゆるやかに吹く年末の風にそよぐ椰子の若木は吹かるるままに
【セントロ桜会 井本司都子】

時折に孫、子の名前とりちがう日々訪れる老の坂道
歳末も近づきたればやりくりに心いためし若き日なつかし
【セントロ桜会 上田幸音】

一つづつ記憶消えゆくさみしさは秋に落葉の散るが如くに
【セントロ桜会 渡辺光】

娘の近くにアパート買い移れと言うがガラクタ荷物気にしておりぬ
歳かさね余命幾許もなけれども惚けてはならぬ一人暮しは
【セントロ桜会 鳥越歌子】

白内障の手術の日取りようやくに決まりて夫はよろこびており
朝々に歩む道辺の雑草のみどりにわれの心やわらぐ
【セントロ桜会 富樫苓子】

長き網を小舟に曳きてかこいつつ浜に揚ぐれば鯔ははねている
長き尾羽根ひろく拡げて飛び乍ら小虫を食べる鳥のさま美わしき
【セントロ桜会 藤田あや子】

白内障の手術せし夫の様子見てわれも同じく手術をと思う
もう二度と見ることのなき故里を夜ごと偲びて老いゆくわれは
【セントロ桜会 板谷幸子】

先人が伝えてくれし盆踊り二世三世集う踊りの輪
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

さまざまな悔を遺して若き日は愚に過ぎぬ恥つつ老いゆく
【サンパウロ 岡本利一】

百二才の誕生祝を息子らが祝いてくれし二千六年十二月十一日
息子等と握手を交わし言葉出ず只感謝の涙まぶたを濡らす
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

晴れ渡る五月の空を雀飛ぶ何を求むかユーターンして
【サンパウロ 竹山三郎】

思い出の作りし歌は数あれど声を揃えて読む夫は無く
仏壇に元気な写真見つめつつ話交せず心は痛む
物騒な世の中に成り身近にも心許して話も出来ず
【ピエダーデ 中易照子】

木の枝に雛鳥の声すこのヒナの巣立ちを待ちて枝を切らむか
コーヒー園の道を水樽かつぎいし兄の姿が今も眼にあり
故里の便りを待ちて昨日今日配達時間を待ちかねており
【ツッパン寿会 上村秀雄】

雨上がりさながら墨絵のごとくあり四方の景色の冴えざえとして
先人の御苦労しのびつつナザレ文協四十年目の入植祝う
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

満開の沖縄桜のサガコート球打つ友等とお花見となる
アパートの窓より見ゆる秋の月幸薄かりし亡き母偲ぶ
ぼけ除けに誰に贈るとあてもないレース編みして一日過す
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

夢成らずせめて健康で長生きと励む日課のラジオ体操
生前の祖母を見習い身を清め初日を拝む齢となりたり
遠く住み吾の健康を電話にて気遣いくるる息のいとおしき
【グァイーラ 金子三郎】

古びたる我が家の修理を吾子達と相談してはぼつぼつ手入れす
孫達がカメラ手にしてお互いに撮りつ撮られつする様を見る
【ミランドポリス 湯朝夏子】

同病を患う友はさりげなく気の合う同志とユーモラスなり
決められし白内障の手術日も迫り身のおとろえをしみじみと識る
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

安らかな笑顔残して師は逝きぬ俳句の弟子等初ミサに集う
冷ゆる朝絵巻のごとき雲ありて隙間を洩るる太陽の光
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

年古りしパイネーラ樹の今年また花も開かず葉のみ茂れる
寒そうに足踏みをする人のありメトロのホーム風吹きぬける
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

年老いて二人で語るべき四方山の話も夫逝き語る人今は亡く
庭石に腰かけ眺むる昼の空遠き昔を思い出しつつ
【タピライ 杉浦勝女】

ファゼンダの青空の下結婚式友人知己の祝福受けて
三日絶食の友に芋粥炊き上げれば元気になりしと笑顔がうれし
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

週毎に我の安否を電話にて気遣いくるる娘の声が
朝の道ゲートボールに連れ立ちて語り合いつつ友達と行く
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

市場にて三人の主婦の買い物はトマト人参青野菜にて
待ち人の来たらず空を仰ぎ西へ流れる雲を眺める
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


武士の情立身出世の邪魔になり
マンションからかまどの煙は見えざりき
政治家も生きる手段は撰ばざり
飛び立てる大統領機だけ悠々と
良きに計え殿様流儀の大昼寝
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

銭数独り笑顔の年の暮
サントスの学舎移民の手に還る
人間の尊さ知った汗の価値
人生は燃えて希望の詩を読む
雨の日があって晴れ間の詩を綴る
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

謹賀新年皇紀平成賀状受く
一日に四季ある聖市の風に立ち
健康法瞑想組手も雨の日も
瞑想の組手武道の心練る
紫陽花の町に着きたり旅行バス
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

華麗なる極楽鳥花に見とれたる
クリスマス前夜の街に人あふれ
歳とれど希望の光り持ちつづけ
年の暮希望と無常の鐘が鳴り
君偲ぶ心しみじみ小夜時雨
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

川柳に俳句に余生の夢乗せる
雑草の中の小花を慈しむ
良き友に心の隙間満されて
小包みに嫁のぬくもり伝ひ来て
訪えるホームに友の居て笑顔
【セントロ桜会 矢野恵美子】

夏時間うかり忘れて遅刻する
ねむそうな顔して馴れぬ夏時間
夏時間メトロで舟をこぐ人も
夏時間眠気ざましにカフェー飲む
今年また夏時間来て年暮るる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

目に見えぬ親の余徳と云ふを知る
宗教がテロを促す様に見え
詩詠みて心豊かに貧に耐え
宗教論飢餓の足しにはならずして
聖書手の辻説法に足止めず
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

世界平和釈迦キリストの夢にして
天下人も乞食も同じ地球人
伯人に謙譲の美は通らざる
ピンガの味十八才で覚えたり
長裁判両方死なず老いぼれて
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】





「希望」

希望という言葉があった
長い間忘れていた言葉
若い頃は人生バラ色だった
希望に満ちていた
夢は何でも叶うと思っていた
だけど世の中はそんなに甘くなかった
夢も希望も打ち砕かれて
いつかその言葉も忘れた
が、ある日突然思い出した
余命少ない私だけど
この文句にすがって生きていきたい
〃待て而して希望せよ〃と
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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