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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年4月号

2007年4月号 (2007/04/14) 俳句 (選者=栢野桂山)


山伐りて歳月重ね百周年
耶蘇塔に白雲一つ秋彼岸
【中川操】

評: 多くの初期移民は夢の実現のため、原始林を伐り開いてコーヒーや農作物を作ってきた。現在、サンパウロ州には原始林は減少したけれど、そういう歳月を重ねて日本移民百周年を迎えようとしている。その歴史を振り返ってみた感慨の詰まった句。


角隠し付けても見たや嫁が君
婿探す童話のありて嫁が君
【猪野ミツエ】

評: 鼡は大黒様のお使いとして、地方によって忌み言葉として正月三日を鼡の嫁取り日と言って、鼡の好きな餅を供へたりすると言い、そういうことから「嫁が君」という言葉が生まれた。その鼡の花嫁に人間なみに角隠しを付け見たいと思った童心の溢れた句。


卒寿無事越えて手伝ふ初厨
卒寿まで生きし冥利や初茶の湯
【風間慧一郎】

評: 新年始めて茶の湯の会が催され、それを習っている娘か孫娘かに招待されて行った。仕事に明け暮れしてきた老移民にとっては始めての事。そしてこれは卒寿まで生きてきた名利に尽きると詠嘆した。


たまたまの嬉しき出合い初詣
雨音のリズム窓辺に寝正月
【畠山てるえ】

評: やさしい窓の雨音のリズムは快いもの。子供等が皆成長して、それぞれが安定した生活をしていて、心に掛けるものは何もなく、ゆっくり寝正月を楽しむことが出来るのは、移民双六の上りとなったようなもので、羨ましいかぎり。


顔写す如き光沢初茄子
カボクロの味噌っ歯目立つ日焼顔
【川井洋子】

評: 茄子はインドが原産という。肥しが効いて出来のよい初成りの朝露に濡れた茄子の紫紺に顔を寄せると、鏡のような光沢に写るようだと、少し誇張して述べた。


蝿帳に学校帰りの子の食事
痩土地も我が家の宝鍬始
【矢野恵美子】

評: 長年コロノ生活を続けてやっと手にした土地か、又は分家して貰ったものか解らないが、永年連作を続け表土が流出して痩せた土地であろう。そういう土地でも百姓にとっては家の宝として、いそいそと出かけ行くのだった。


書初の我をパソコン小馬鹿にす
初句会焼栗剥いで賑やかに
【杉本鶴代】

頼りなき浮巣を無事に鳰孵る
ナタールの丸焼ペルーの油鳴き
【菅原岩山】

瑪瑙風鈴甲高く鳴り雨近し
大朝焼に染まりアマゾン遡行船
【木村都由子】

またたける星と話して外寝かな
ピラセーマ岩にぶつかり草に飛び
【佐藤孝子】

心あるかに日向むく時計草
逆縁の子の初のミサ夏夕べ
【大岩和男】

マラクジャとアセローラジュース交々に
形見ともなりし百日紅の鉢
【近岡忠子】

風に乗り蒲の穂競ひ叩き合ふ
一本の心和ます百日紅
【伊藤桂花】

大雨のマラクジャの棚崩れかけ
蒲の穂の枕作りし昔あり
【矢萩秀子】

マラクジャのジュースでしのぐ不意の客
落葉焚く煙の中の鬼ごっこ
【小野浮雲生】

大空の遠く近くに凧無数
尾引いて落ちかかりては凧昇る
【三上治子】

自転車を倒せし風のつくし摘む
よべの雨宿して光る仏の座
【佐藤美恵子】

三州より娘等来て祝うお正月
十三人の姉妹揃いしお正月
【寺部すみ江】

幼子の金時腹巻寝冷せず
初茜明けゆく年の幸あれと
【矢島みどり】

白き歯を見せて寄り来る大日焼
ふれ合いて鳴る茄子出荷の箱づめに
【纐纈喜月】

白茄子の精進揚げや寺の膳
背丈のび髭剃る孫の初鏡
【杉本良江】

クワレズマ吾が荒ら家を明るうす
わが家へとクワレズマの道七曲り
【小滝貴代美】

日本の雪の香のせて賀状来る
初夢の幼な友達若きまま
【原口貴美子】

遠雷に少し動きし猫の耳
無駄と知り意見を少し茄子の花
【星野耕太】

ていねいに賀状書いても癖字かな
杖と傘両手に余る夏の雨
【吉崎貞子】

マンションのおぼろに浮ぶ夏の月
若き夫とのランデブー初夢に
【山田富子】

何時までも老いたくはなしと初鏡
火取虫老いても生涯学習を
【遠藤皖子】

初刷の文芸集出来寄贈する
準二世俳句を学ぶ火取虫
【軽部孝子】

初夢や亡き父母と話して
濃紫茄子の漬物白い飯
【矢野恵美子】

リンドウの花咲く岡を二人連れ
新涼やベンチに話の花咲いて
【上坊寺青雲】

初旅の羽ばたく気分テレフエリコ
手の早さ競ひて胡瓜もみしてと
【畠山てるえ】

大門戸大穴一つ草は実に
我が苗字のルーツ記せる初便り
【伊津野朝民】

幸あらむ読書の窓に流れ星
旧正月龍獅子と舞ふ東洋街
【彭鄭美智】

短夜の試験地獄の孫二人
炎昼の急坂弱き老の足
【内田千代女】

月白の河に竿伸べ夜釣人
競馬育てる馬場広く草の花
【岡本朝子】

万歩計腰に往き来の野路の秋
誇り咲く赤黄桃色ミニ鶏頭
【青柳房治】

すこやかに重ねし齢亥年来る
使はずのパソコン机に秋埃
【青柳ます】

生き別れ死に別れして二月尽く
白菊の蔭の位牌に秋蚊鳴く
【寺尾芳子】

足萎えに気力衰ふ秋暑し
スザノ紙にダム堰く報道載る二月
【本広為子】

残暑中老人夫婦の半ズボン
リベルダーデの中国祭り秋高し
【杉本鶴代】

裏小屋の守宮の卵真珠めく
ブロコリの出荷さ中の秋の雨
【黒木ふく】

花ジンジャ懐広きリベイラ川
かなかなや藪の向ふは養老院
【野村康】

ふっくらと踏めば応える春の土
春めくや昼をまどろむ老の椅子
【前橋光子】

青空もハイビスカスも燃えており
初日出輝やくといふ未来あり
【竹内もと子】

カジューの実匂玉揃ひ熟るる庭
水打って花圃に仕合せ満つごとし
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


亡き孫に似たる少女を見かけたる夕べ巷に点る灯の色
【フェラース 米沢幹夫】

炭坑節相馬盆歌と踊りゆく二重三重と輪は広がりて
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

夏時間とまどう事の多い日々今日も見逃がす大河ドラマを
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

明日のみを夢見励みし杳き日よ子育て終えし妻は逝きたり
【サンパウロ 岡本利一】

コーヒーの収穫始まるその道具担ぎし道の記憶は今も
移住時に素足で通いしコーヒー道冬の感触今なお沁みる
黄一色園の歩道を敷きつめし名知らぬ花びらに遠廻りして
【ツパン寿会 上村秀雄】

生存の限界越ゆるシベリヤに同胞死なせしソ連を憎む
【サンパウロ 竹山三郎】

一枝を挿しし躑躅の見事さよ牡丹の花を思いおこさす
思いがけず綿入れはんてん送りきし友の優しき心温とし
【ピエダーデ 中易照子】

早起きは三文の得山あいに長き尻尾のリスと出合えり
【ナザレー老壮会 波多野敬子】

日本よりの電話をとれば友の声あまり近くに聞えてびっくり
まだ若きイペーの木の枝ひろげ一人前に花つけており
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

道の辺に咲く草花の愛らしく手折らんとしてしばし眺むる
かぎりなき雑用に追われあくせくとひと日は忽ち過ぎてゆくなり
【セントロ桜会 富樫苓子】

今からでも遅くはあるまい短歌道九十の坂越しても学ばむ
【ツパン寿会 林ヨシエ】

土砂降りの中を半裸で悠然と歩く青年清々しかり
小遣いを息子にもらいて息子への贈り物買うおかしくはあれど
【セントロ桜会 藤田あや子】

高層のビルの片面を下降する茜にもえて朝の光は
【セントロ桜会 渡辺光】

新しき年明けたれど曇り日のつづくこの日々心も冴えず
今日何かうれしきことのありしごと籠の小鳥は夕べを歌う
【セントロ桜会 井本司都子】

目覚めては今日ある事に感謝して朝夕祈る家族の無事を
三人の子もそれぞれに巣立ちゆき明るく生きよと亡夫の声きく
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

移り来て年月流れ七十五年今杖つきて老いし身を支う
故里に母いまは亡く田草抜く母の姿の無性に恋わる
【タピライ 杉浦勝女】

時流れ紀元の佳節をなつかしく思う世代も少くなりたり
【グァイーラ 金子三郎】

開拓時希望に燃えて意気高く成功失敗泣き笑い人生
過去の日々懐かしく又ふり返る移民の一歩コーヒー園除草
一枝を折ってみたい垣根越しの美しき花よ遠く眺める
【ツパン寿会 上村秀雄】

ベゴニヤのひとつふたつと散りゆけど花のうてなの清々しくて
味変る頂くご馳走おいしくて友とひととき楽しい人生
収穫も間近に迫りしあの時の雹の嵐の無情な思い出
【ピエダーデ 中易照子】

アパートに育てし五株の虎の尾の十年経ちて花の咲きたり
文芸集出来るを待ちしナタールよ制作下さる人に感謝す
通りすがりに見かけし大輪の菊の鉢安き値段に人等寄り来る
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

さりげなく手渡しくれし菓子包み開ければ友のこころ身に沁む
久し振りに会いたる友の名を忘れ会話交せど思い浮ばず
長閑なる春となりても天候は冬となったり夏になったり
病みて知る子の暖かき心根に感謝しつつ余生を送る
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

早春の野原の一角を彩どりてタンポポあまた咲き満ちており
幼き日タンポポの花でネックレス作りし日々を懐しみ憶う
体操や歩こう会の会長の眼差し優しく号令かくる
親子五人歩こう会に参加して賞受ける息子に拍手と歓声
タンポポは夜明けのようにさわやかに金色に輝やき人に愛さるる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

両眼の手術も終えて冬空を仰ぐ彼方に飛機の飛び行く
久々に仰ぐ青空白き雲己のが心も晴れ渡る如
【カンポグランデ老壮会 名取芳月】

塀際にコッコアナンが五十近く実が落ちるばかり風に揺らるる
晴れし午後日傘で顔を隠す女どんな女かと好奇心の湧く
五人の子等上手に連れて街の辻危な気もなく渡り行く見ゆ
煙吐く老朽車に山程野菜をば積んで市場へ急ぎゆく人
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】


川柳


日進月歩老の足では追いつけず
不況です政治手腕に夢を賭け
背伸びした言葉浮世の風が吹く
意気だけで通れぬ浮世の風当り
泣きごとを止めて笑いの顔を描く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

目標に向ひひたむき生きる日々
磊落で普段着の如総領事
温暖化地球怯えさす文明化
欲得はなく一生を過したし
今生の幸せ認知症など待たず
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫】

身上を競馬に食われしまいたる
追分を唄ふ白寿の翁達者
富籖は一と桁異いて運逃げし
身は不幸だから倖せ説いている
数撃ちし鉄砲遂ひに当らざり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

良い事に笑い渦巻の浮世欲し
幼な友俳誌を添えし手紙呉る
五機編隊整然として目を掠め
ジェット機の爆音残し機影見ず
煙幕を引きつ成層圏飛行
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

晩餐会借着ドレスで肩が凝り
フルコース味も食材も記憶なし
メロンの皮上品ぶって厚く剥き
磨かりしナイフフォークは滑り勝ち
漬物にお茶漬ゆとりを取り戻す
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

世の中に悪の親分どの国も
大親分金あり地位あり大知恵者
カナ言葉全く意味が判からない
パソコンもけいたい不要老移民
新式の小型ヒーター幅きかし
【サントス伯寿会 三上治子】

あざける者相手にせずに居るが得
女には苦が付きものと諺に
手をとり合い親しき人と輪を拡げ
世の平和祈るやしかと神信じ
吾が心くづれおる時神祈る
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

前進も後退も無く平穏に
下を見て暮せば愚痴など出ない筈
生き甲斐は常に自分の側にあり
三猿を見習い無難に生きて我
長生きをし過ぎましたと云ふ媼
【セントロ桜会 矢野恵美子】

波しぶき船で発つ友見送れば
日本語をポ語で書きたる招待状
中道の精神保てと聞く講話
棒術に励む姉妹の白道衣
恵まれぬ人に愛の手差しのべる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】





「空」

青い空に一すじの雲が
 ななめに走る
その下を無数のウルブーが
 舞っている
このウルブ―の群れの中を
 小型機が行く
何とも言いようのない構図
 平和な日の朝の出来事
淡いブルーの空
 天候異変の兆しと云われるいわし雲
その下にタコが足を広げたような雲が
 ふわりふわりと流れる
すぐに消えてしまうだろう
 空を想うもまた 快なり
【ナザーレ老壮会 波多野敬子】


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