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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年6月号

2007年6月号 (2007/06/11) 俳句 (選者=栢野桂山)


男帯しかと残暑の舞台踏む
残暑中抜歯詮なき親不知
【猪野ミツエ】

評: しっかりと男帯を結んで男舞いに励む舞台の女性。その華やかな舞台は残暑がきびしく、汗で床が濡れるほど。その熱演に盛大な拍手を送る観衆。


未来見る君の眼爽やか十五歳
薄墨の楷書ひと文字さわやかに
【河井洋子】

評: 「君の眼」だけであるが、しかと男の子であろう。十五歳なりに自分の将来、自分の希望を考えている眼は若さに輝いている。それを爽やかと見る両親兄弟の眼。


郷愁を重ねて口に富有柿
句碑の文字なぞるかに飛ぶ赤とんぼ
【風間慧一郎】

評: 「珈琲の花明りより出でし月(念腹)」とある日本館の句碑であろう。近くの湖より赤蜻蛉が句碑すれすれに飛ぶのを見て、まるで人がその文字をなぞっているようだと思って授かった句。


いささかの事にも疲れ秋の行く
しまい湯に明日の算段稲光
【伊津野静】

評: 色々な仕事の多い女性は、ゆっくりと仕舞風呂に浸るのが好きで、明日の仕事の算段をする。するとそれを励ますかのように、遠方で稲光りが辺りを明るくする。これは昔の奥地でのことで、囲いの無い外風呂での思い出であろう。


ままごとの机をかざるカーネーション
カンブキーラ摘んで忘れてまだ笊に
【玉置四十華】

評: カンブキーラは南瓜の葉柄の軟らな所で日本には無い季語。それを摘んできてそのまま忘れて笊の底で萎びていた。このように誰も気付かない小さな句材を見付けることで、作句の領域が広くなり俳句が楽しくなる。


稲妻の美しき夜のプロポーズ
カミニョネーロに紅一点や女性の日
【佐藤孝子】

評: プロポーズとだけあって、された方かした方か解らぬが稲妻の鮮烈で美しい光芒を放つ夜のことで、双方にとって生涯忘れられない印象として残ったのであろう。後の句。カミニョネーロとは貨物車の女性運転手、タクシーやカミニョンのモトリスタまで。か弱いと言われた女性の職域が広がり、正に「女性の日」を制定した現代の季語を称えた女性の句。


鳥猫顔拭き止めず朝曇
難聴の耳に細々蚯蚓鳴く
【菅原岩山】

牧夫炊く自慢料理のピキー飯
町住みの小鳥啄ばむピラカンサ
【木村都由子】

引き寄せて望遠鏡のけらつつき
満席の習字教室秋扇
【畠山てるえ】

熟柿好きの嫁帰るまで冷し置く
同郷の虚子を祀りし夫も逝き
【寺尾芳子】

柿つつくサニヤツソ憎し日暮どき
ふるごとき田舎屋包む虫しぐれ
【杉本鶴代】

セマナサンタ干鱈コロッケ魚料理
親子孫四月生れの誕生日
【黒木ふく】

大ヤンマ陽に群れサンバ踏む如し
富有柿収穫祭りのテープ切る
【本広為子】

飛沫よけのカッパを買うて滝を見る
長距離の寝台バスや滝見旅
【野村康】

興尽きぬ露台小話星月夜
爺婆のあの頃語る星月夜
【伊藤桂花】

奇習かな人々かつぐ万愚祭
茶摘女の茶つみし岡や牛群るる
【大岩和男】

四月馬鹿教師を騙す子罰すべし
大の字に浜に腹ばい水着の娘
【小野浮雲生】

匂ひ来るジャズミン朝の風にのり
地の果ての帰らぬ吾子や雲の峰
【中川操】

逝きし吾子偲びて仰ぐ星月夜
除草して愛犬葬る庭の隅
【矢萩秀子】

州境を越すより芒とパラナ松
大根の双葉重たく菜虫つく
【近岡忠子】

コスモス摘みままごと遊び友いづこ
しんしんと音なきわが家星月夜
【藤井梢】

柿紅葉夕焼空に彩映えて
自然保護とてパツカそと逃がしやる
【上坊寺青雲】

朝寒や笑顔元気な体操会
天高し英国研修の孫帰伯
【彭鄭美智】

無医村の期待を荷ひ入学す
歓喜樹の根元に坐して魚信待つ
【香山和栄】

帰省子の日本語会話板につき
蛇を追ふ竹を片手に栗拾ひ
【岡村静子】

賀状来て余生の胸に灯がともる
味噌味の雑煮に馴染む異人嫁
【前橋光子】

海の青目に染み入りて秋来たる
秋風や海原青く波さわぐ
【井出香哉】

太鼓の音空に響きて柿祭
古里の思ひあらた柿食べて
【遠藤皖子】

思いきりがらくた捨てし娘さわやかに
ブラジルにカキと言う語の定着す
【杉本良江】

行く秋や友の便りの絶えしまま
寡黙なる息子と暮しの秋惜しむ
【小滝貴代美】

夜学の子母と夜食の待つ家へ
本抱え夜学帰りの溢るバス
【矢野恵美子】

受難の日アパート物音一つせず
爽やかに触圧療法講習会
【軽部孝子】

啄木鳥の音こだまして森深し
仕事疲れに居眠りて夜学生
【原口貴美子】

爽やかにオームの返事にぎにぎし
年なみに馴れたる手先菜虫とる
【吉崎貞子】

残りしは柿の巨木や旧居跡
服装も年もまちまち夜学塾
【星野耕太】

つるし柿何時食べ頃と指祈る子
残されし三つ梢に木守柿
【高井節子】

仮名習ふ汗の手首のぎこちなく
日本の萩ですと句座正面に
【伊津野朝民】

女性の日母たる誇り忘れまじ
秋空に少女の声援ソフト大会
【矢島みどり】

暮る色深める刻や秋惜しむ
秋晴や八十路の足のかろがろと
【寺部すみ江】

気恥し衣替へして赤い服
壁走り虫捕る守宮あざやかに
【三上治子】

土下座して悔の拝礼秋彼岸
笑みつくり独り暮しや秋日濃し
【名越つぎ代】

草原の瀟洒な監獄秋深し
二世三世の世代となりし灌仏会
【岡本朝子】

秋旱雲伸びやかに広がりて
海の日や照るてる坊主窓に吊り
【山田富子】

郷愁に茶の実を拾ふ旅さ中
【星井文子】

空腹の鳴りて恥じらふ草取女
貧乏に女は強し洗ひ飯
【栢野桂山】


短歌 (選者=水本すみ子)


紫陽花にあじさい色の雨が降りわが思い出を明るく濡らす
【フェラース 米沢幹夫】

わが庭に年々盛に花を植え咲き次ぐ花々老いの幸せ
【ツッパン寿会 上村秀雄】

幸不幸分ちいつしか移民老ゆ人それぞれにさだめがありて
【サンパウロ 岡本利一】

未熟なるゲートボールなれど毎日を老いゆく吾の生き甲斐となる
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

手を組みてくるくる廻るフォークダンスステップも軽く盆踊りの夜
【オンリンニョス長寿会 古山孝子】

早朝の星の雫にぬれにつつ背筋のばして深呼吸なす
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

真夜中に目覚めしときに外仰げば久し振りに見る満天の星
【セントロ桜会 藤田あや子】

里帰り先祖の墓参も出来ぬまま父母はこの地で祖先となりぬ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

クワレズマの桃色紫咲きそろい道ゆく人等の心なごます
【セントロ桜会 井本司都子】

人の名の出で来ぬままにあのあのと言えば電話はプツリと切れぬ
【セントロ桜会 上田幸音】

我が町で百二才を迎えしは我ひとり地域社会より祝福受ける
【S・J・リオプレット 浅野三郎】

東京ビル屋根越しに見る四日月皎々として輝やきており
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

この国の雨の季節よ午前中は晴天午後には俄か雨来て
【ツッパン寿会 林ヨシエ】

忘られしざくろの鉢を守り育て芽の出でくるをひたに待つ人
【ピエダーデ 中易照子】

自生せるカボチャは繁り次々と黄色き花のひらく道の辺
【セントロ桜会 富樫苓子】

林立せるビルの谷間は唯一の風通る道とて髪乱しゆく
【セントロ桜会 渡辺光】

塀越しにゆらゆらゆれる隣家のざくろ真赤に熟すを日毎見守る
【ツッパン寿会 林ヨシエ】

良き事も悪しき事をも書き止めた日記の整理を思う此の頃
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

病床の姉の病名脳梗塞眼と眼を合せただ涙のみ
【セントロ桜会 大志田良子】

イーリアが沈みそうだと誰かが言った人と車のラッシュがつづく
【セントロ桜会 板谷幸子】

正月がくれば雪降る故里の大漁旗きらめく海原の朝
【セントロ桜会 上田幸音】

カルサーダの小さな花壇の草花を日曜毎に見廻り手入れす
【ミランドポリス 湯朝夏子】

さまざまの眼病を持つ人々の傍へに立ちて時間待ちする
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

時季待ちてグラジオラスは見事にて亡夫に供えて静に語る
【ピエダーデ 中易照子】

再会を固く約して別れしがその友も逝き淋しさふかむ
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

窓を開けばそよ風吹きて心もなごむ青空高く鳥も舞いおり
幼きより苦労重ねて育ちし吾子今の成功褒めてやるべし
今日も又恩師の便り待ちわびて空しく過すはや黄昏れて
【ツッパン寿会 林ヨシエ】

朝毎にベランダでする深呼吸背筋も腰もおもわず伸びる
恙なく老いゆく吾にこの年も師走の風はさわやかに吹く
振り返りふたたび思う故里を訪ねる事はなかりしを思う
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

夏の雨ひと時降りて晴れわたる衣干すアラメに光る水玉
【セントロ桜会 富樫苓子】

もの忘れ多くなりたるわれなれば書き置く事を第一となす
【セントロ桜会 上田幸音】

カーニバル夕べとなれば遠くより太鼓の音がかすかに聞こゆ
夢を見しのみに過ぎ来し若き日はかえることなし空仰ぎ見る
【セントロ桜会 井本司都子】

赤きバロン木の上ゆるゆる動きゆくをガンソ並びて見上げておりぬ
【セントロ桜会 藤田あや子】

リハビリをもう十回処方され次の十回また始まりぬ
リハビリに毎日来れば顔見知り患者の多き吾もふくめて
【セントロ桜会 鳥越歌子】

住宅をめぐりて咲ける寒椿深紅に燃え朝日に輝やく
補聴器をかけているのに聞き取れず繰返し聞けど夫返事なし
【セントロ桜会 大志田良子】

シチオへ行く道の辺に野苺の白き小花があちこちに咲く
体力が無ければ行けぬ日本へ行って来ました昨夜の夢で
【セントロ桜会 板谷幸子】

草原でありし処に建ち並ぶ新らしきビルは日に照り映えて
降りつづく雨に日も夜もうそ寒く二月始めの此所はゴイヤニア
【セントロ桜会 上岡寿美子】

久々の友の集いにも行けずして妻の看護に今日も過ぎゆく
鰯雲空一面に広がりて風穏やかに夕暮れてゆく
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

台湾の母との会話楽しかり電話カードは七時間分あり
遠き母ぼけないように電話する楽しき会話日々続けおり
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】


川柳


銭の音追って人生黄昏れる
躓いた所で痛さ見直され
生きて行く国策己を守る術
和を保つ言葉ひかえている勇気
趣味として川柳一と筋抱いていく
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

行き過ぎの八方美人に誤差が出来
借り貸しが無くて心に一寸とゆとり
僭越と断り祝辞の長いこと
平凡な暮しに苦難越えて来し
子はみんな母の味方で孫婆々に
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

世界中女性礼賛平和です
浄血に欠かせぬアロエ家庭薬
癌予防アロエが効くと識者云う
どの家もアロエの花が庭に咲く
薬効は偉大と云わるアロエ咲く
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

カサブさん目当ての店が判らない
店探す看板なくて見つからず
市長さん街の落書き消さないか
カサブ地頭泣く児に勝てぬ市民たち
広告板外せば恥部が丸見えよ
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

メトロ中暮らしを思い顔ながめ
木の種も硬い歩道で芽は出ない
当り前花咲き実が成る事なれど
片言のポ語で議論をたたかわせ
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

過去みんな捨てて今春謳歌せん
人の世は上手に使え裏表
足弱の我を追い越す杖の女
淋しさは昨日の友の反目は
此の齢で未だ悟れぬ事あまた
【セントロ桜会 矢野恵美子】

無分別豊かな生活物を捨て
捨てる紙にも利用法考えて
運河に物捨て人見て腹が立つ
科学者のえがく未来はすぐそこに
再生紙立派な物によみがえり
【サントス伯寿会 三上治子】

丹田呼吸祈る心の瞑想法
墨の芸術絵画と文字に圧倒され
禅僧の長寿は吸って吐く呼吸
組打って体鍛える気合かく
新体道運動神経鍛練す
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

追風に押されて登るエスカレータ
流行のヘソ丸出しは子供まで
儚さよ楢山節考の世は哀れ
移民祭女性外交活発化
雨降りのサンベントに法皇ご到着
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】


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