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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年7月号

2007年7月号 (2007/07/07) 俳句 (選者=栢野桂山)


降るような音符にしたき蝉時雨
アリランの唄は悲しく砧打つ
【吉田しのぶ】

評: 長い間帰らぬ夫を恋慕する妻が、木の台に衣を打ちつけて思いを紛らわした、という謡曲が日本にある。アリランの唄は韓国の民謡で、哀調をおびた旋律のある唄。現在増えて繁栄している韓国系の娘が、アリランの唄を口にしながら衣を打っている音を聞いて詠んだ珍しい句。


朝露に鎌の切れ味稲たわわ
捨てられて草葉に埋もれ茶摘篭
【藤井梢】

評: 人手が足りないのか、採算割れか、見捨てられた茶摘篭が雑草に埋まっているのを見て、かつて好景気だった頃のレジストロに永年住む作者の詠嘆。


マリア月夢に結婚の晴着縫う
法王の聖市来訪寒気連れ
【原口貴美子】

評: マリア月は結婚の月。母の日があり縁起の良い月。「良き縁を授かる良き娘マリア月 春一」という句のように、幸せを一身に集めた娘が自身の婚礼の白いドレスを縫う夢を見たのか、又は結婚を諦めざるを得ない不幸な病気を持った娘の句か。色々想像が広がる句。


一点となるまで見据え子のバロン
年毎に減りし風物詩のバロン
【杉本良江】

評: バロンはジュニナ祭の頃揚げる火風船のことだが、火事の元になると禁止されている。でも隠れて揚げるのをよく見るが、華やかだった昔を偲んで消えゆくブラジルの風物詩を懐かしむ句。


残る鴨翔び来着水荒々し
春月のうるみしあたり闇浅し
【佐藤美恵子】

評: 秋の月は清爽なるを愛で、春の月はかすんで見えるのを佳しとした。日本は湿度が高いので、この国の春月とは感じが違う。日本で生活する作者は潤んで見え、その辺りの闇がぼんやりとしている風情を感じながら、家族の住むブラジルを偲んだでのあろう。


流れ星すぐに忘れる星座の名
天体ショーめきて獅子座の流星雨
【菅原岩山】

評: 日本では冬の十一月頃、獅子座に群生する流星が、地球の引力によって光りの雨となって飛び込んで来る現象があると辞典にある。天体に興味を持った作者は、その映写か何かを見て、天体ショーだと見立てた珍しい句。


雲垂れてイタペチ連山冬ざるる
物乞ひにやる古ジャンパー冬の雨
【岡本朝子】

認知症の友はホームに秋深む
奇種珍種の花々撮らる秋祭
【名越つぎ代】

風光り甘蔗畑は銀の波
裏庭の木々小鳥等の良きねぐら
【矢萩秀子】

収穫をすませ一息旅に発つ
庭落葉溜めて堆肥に積み上げて
【小野浮雲生】

一と足の差で身を避けて椰子落葉
老無心熟柿に口を汚しつつ
【風間慧一郎】

思ひ出の「落葉しぐれ」てふ流行歌
混血児珍らしくなし移民祭
【大岩和男】

荒海の波間に生れ初日の出
赤き実を仰ぎ踏み行く柿落葉
【伊藤桂花】

牛の耳印章付けて牧の秋
水郷の山脈虹の橋架けて
【中川操】

通信塔山上はるか秋高し
露の菊供へ仏壇清々し
【近岡忠子】

咳の娘の顔半分の大マスク
「一リットルの涙」のテープに泣きし秋
【黒木ふく】

冬モード二人で選ぶ新モード
晩秋の脂ののりし鯖を買ひ
【青柳房治】

帰聖する子等送る空十字星
植込みの狭庭緋と炎え猩々花
【青柳ます】

母の日を待てず着てみるワンピース
来伯のパッパ迎える初時雨
【寺尾芳子】

一と夏を舞ひ疲れたる庭の蝶
秋深むパパ来伯の空澄みて
【杉本鶴代】

フォイセ研ぐ夫の横顔寒夕焼
哺乳びん握りややこの冬帽子
【野村康】

母の日や娘とベルチオガの島めぐり
パパ迎う今日の佳き日やマリア月
【本広為子】

富士山を仰ぎぎんれい目にしみる
桜花散りゆく風をおしみけり
【酒屋登喜子】

母の日や家支え呉る子も六十路
誤字脱字に気付かぬ老の秋思とも
【名越つぎ代】

細流に別れまみゆ柿紅葉
紅葉晴れせし柿の園老の行く
【成戸浪居】

父母よりも夫よりも生き秋彼岸
旧耕地の鉄戸に残る木兎鳴ける
【林田てる女】

夕月夜仰ぎ遅刻のバスを待つ
パライバの稲田を走る稲光
【木村都由子】

療養の花野に座して聖書読む
広すぎてキャンペン届かぬ大地の日
【佐藤孝子】

冬めくや番茶の香るひとりの夜
母となる愛の眼指しマリア月
【吉崎貞子】

ゆるやかにバロン飛び行く夢乗せて
冬空に澄み渡る声パパ祈る
【矢野恵美子】

寿司辨当外人椅子に秋日和
夕陽映え野看板染め秋の空
【前田ミサオ】

寒空や行き会う人等急ぎ足
寒き朝身寄りなき身の末思う
【神田清美】

土の香の木藷並べて朝の市
若き日の生命燃やし労働祭
【星野耕太】

皮むくをサービスとして木藷売り
メーデーや土地無し屋根なし気勢あげ
【纐纈喜月】

落ちて来るバロン大人も子も走る
マリア月生まれの娘早や嫁ぎけり
【高井節子】

バラ生けて大理石なる応接間
禁じらるバロンを子等の揚げたがる
【山田富子】

開拓の斧打つ舞台寒灯下
街頭に焼芋売りや街小春
【遠藤皖子】

病治す念力確か冬の朝
マリア月神の声聞きよく眠る
【軽部孝子】

無器用に生きて悔あり末枯るる
末枯や原野粧ふ彩として
【竹内もと子】

短日や明日に残せぬ事ありて
些細ごとに無言の親子秋侘し
【矢島みどり】

容貌の異国人めき冬の服
お茶の花垣も当世風の寺
【伊津野静】

秋の風郵便受に何もなし
日まわりの横向くもあり下向くも
【伊津野朝民】

四十年見上ぐるアバカテ大樹かな
里の秋の生れの弟妹今祖父母
【三上治子】

ブラジルの歳時記供へ椿寿の忌
宝さがしめきて大根選びおり
【彭鄭美智】

ぼんやりと眺む白波海の秋
水平線遠くかすみて秋ふかむ
【井出香哉】

菊活けて一人の夜をまぎらわす
乳色に見ゆる灯火や霧の街
【前橋光子】

木の実落つ深山越ゆれば他州なる
看護師の白衣に散りてアレルイア
【岡村静子】

車庫に積む使はぬ農具昼の虫
拓きたる地に植林す大地の日
【香山和栄】

土人村神の旗立て雨をそふ
古毛布新婚当時の想い出も
【上坊寺青雲】

木の葉髪異国に住みて七十年
国なまりそれぞれに出ておでん店
【小滝貴代美】

旅に病み味噌汁を恋ふ露の宿
秋深し虚ろに兄の訃を受けて
【湯田南山子】

週末を花野に遊ぶ寺巡り
此のあたり庶民住宅花アロエ
【畠山てるえ】

釣竿の遠く近くにかいつぶり
太陽に朝の挨拶日輪草
【中川千江子】

六十年夫唱婦随や木の葉髪
コロニアの十戸に一つの井戸涸るる
【栢野桂山】

追記: これまでも今回も選句をして、少し難解と思われる句に「評」を加えたが、評が無かったから次点句と言うことではない。一読すぐ情景が伝わる簡明な佳句に評は不要と思われたからで、これからもこれを続けたいと思う。(選者)


短歌 (選者=渡辺光)

 水本すみ子先生の体調優れず暫く休養される事になり、今回より担当に指名されましたが、今まで投稿なさっておられる方々はベテランの方達ばかりのようですので私も共に勉強させて戴きたいと思っております。何卒、宜敷くお願い致します。(渡辺光)


紫に煙らう如き野牡丹を讃えつつ行く
【セーラ・ド・マールフェラース 米沢幹夫】

ひたすらに運命に抗い九十年たやすからざる一生なりしよ
【サンパウロ 岡本利一】

沁みとおる老いの寂しさ吾おきて山本君も弟も逝く
【スザノ福栄会 青柳房治】

老いの目にうつる侘しさ西空の茜は褪せて暮色深まる
【スザノ福栄会 原君子】

日本より初児を見せに来し孫は仏壇の夫に拝み告ぐる
【スザノ福栄会 黒木ふく】

わが村の悲喜こもごもを書きとめて長野で働く友へ便りす
【スザノ福栄会 青柳ます】

このような朝であったと茫然と佇む庭に霧の流るる
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

諦めることにも慣れて嫁かぬ娘の誕生日祝う日本食堂
【セントロ桜会 野村康】

健康の為にと励みしラジオ体操はや二十周年
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

何となく不安覚ゆるエレベーター階段上る自信もなくて
【セントロ桜会 板谷幸子】

紙とペンそろえてみたが適切な短歌は浮かばずリンゴの皮剥く
【セントロ桜会 大志田良子】

この年の誕生記念の写真には孫ら四人の笑顔とわたし
【セントロ桜会 井本司都子】

草原を歩むラガルトの尾は長し傍への人にも怖じる事なく
【セントロ桜会 藤田あや子】

紅雀の如き小鳥の群なして飛べるを見たり今日の喜び
【セントロ桜会 富樫苓子】

椰子の陰に弁当枕に昼寝の人行き交う事を気にも止めずに
【セントロ桜会 上田幸音】

花期すぎしイペー若葉は萌えそめて緑豊かに風にそよぎぬ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

桜並木ライトアップの映像にわが家の茶の間を明るくなせり
【セントロ桜会 鳥越歌子】

来年の移民百周年祭まで生き延びて我が生涯の喜びとなさむ
【S・J・リオプレット 浅野三郎】
評:百二歳の年齢に驚かされました。しっかりした詠みぶり、最後の年でなく続けて下さい。

猪のスタンプ目立つ年賀状友の温もり伝わりて来ぬ
つぎつぎと新年宴会の知らせ受く倖せ多き年とならむか
【中央老壮会(バストス在住) 信太千恵子】

楽の音は東京音頭に変わりゆく踊りつつ偲ぶ渡伯時の船上
まだ慣れぬ移民百年の踊りには戸惑いつつも懸命に踊る
【オウリンニョス長寿会 古山孝子】

寒き朝歩道の紙屑掃きながら道徳心なきこの国を案ず
喧騒の絶ゆることなき庭の樹に飛び交う小鳥をしばし眺むる
【サンパウロ玉芙蓉会 神田清美】

訪ね来し娘夫婦に連れられて雨の晴れ間を墓参りする
ばあちゃんと皆に呼ばれて愛しすれ心豊かに暮らす倖せ
【ミランドポリス 湯朝夏子】

雨上がりすっきり晴れた朝迎え心静かに日の出拝(おろが)む
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】

恩師との永く続きし文通も遂に途絶えて久しくなりぬ
コーヒー園に満開の花が懐しい黄金時代も過去のことなり
【ツッパン寿会 上村秀雄】

祭日は家に隠りて読む新聞核廃絶の記事のみ目立つ
体つくり冬の夜には瞑想し呼吸が変わる意識も変る
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

夕陽さしイペーロッシャの輝きに行き交う人もカメラ構えり
【サンパウロ玉芙蓉会 前田ミサオ】

はるばるとマットグロッソより来しとう同病の人と会話はずみぬ
【アチバイア清流クラブ 高井敬子】

訪ねくるる度に親しさ増してゆく愛しき孫の嫁となる人
読み疲れ眼鏡かけしまま仮眠する卒寿の坂を登りつめたり
【グァラニー桜クラブ 内田千代女】

水冷えて厨の中も静もりて老いの楽しみ湯気の食卓
寒空にカーテン揺らす風の音寒気弥増す老いの体に
【ピエダーデ 中易照子】

ハイウェイの二百キロ余りの道程を四時間かけてホテルに着きぬ
なだらなる山に囲まれ広大な素敵なホテル見晴らしも良し
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

それぞれのポーズで医師を待つ患者表情も明暗分くるが如く
担当医総合診断書に目を通し異状なしと声太くして
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

雷の音遠のけど秋の雨一際激しく降りしきるなり
亡き夫をニックネームで語る人朗らかなれど寂しさ秘めて
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


川柳


不況風働く意欲吹きさらし
人生に幸わせと言う日の温み
安心をすればおだてが背なを押す
安全な暮らしに祈る今日がある
褒られた所で己の位置を知り
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

理非裁く前に厳しく自己裁け
大いなる夢と理想を持ち続け
元気なりし友の訃報を知る朝
褒めてやる言葉で孫等に慕われる
差し出口控えて丸くこと治め
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

鞭打つも親の情の心とて
無口なる後姿の父想ふ
泣きごとも趣味の一つかほどほどに
民謡を心の糧とした集い
島国根性これも美徳の一つなり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

風邪ぐすり友の意見のあれやこれ
笑顔なる優しき亡夫の夢にして
八十年越し来しことに悔いも無し
独り居はビデオ観賞深夜まで
青春の時代の我を夢に見し
【セントロ桜会 矢野恵美子】

すり足で爪先立ちで武技を練る
聖体祭旅行のバスでお祈りす
カラオケダンス米寿の人の達者なる
万葉の和歌読みあげるカルタ会
寄り合いは倫理を話す集いなる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

大看板罰金避けるに借銭し
看板に替り極彩色に塗り
金婚式頑張りましたねご苦労さん
梅干婆骸骨爺の金婚式
共白髪共草臥れの共疲れ
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

好感を持って世渡り敵は無し
矢の如く書道六年早やも過ぎ
好奇心と期待でバラの蕾見る
栗色に染めたる髪をセットして
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

海に来てカイピリンニャが利いて来た
深闇に隣の犬が吠えたてる
ごめんねとあやまりながら蟹茹でる
酒談義下戸上戸なく面白し
友集ひ波を肴にビール酌む
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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