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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年9月号

2007年9月号 (2007/09/12) 俳句 (選者=栢野桂山)


冬温し梨のつぶての便り書く
牛逃がす柵切り放ち牧場火事
【纐纈喜月】

評: 親しかった友と別れて、こちらから何度も便りを出しても、筆不精の彼は一度も返書をくれない。全く梨の礫であるが、それでも又便りを書く律儀な人。「梨の礫」は梨と無しにかけて語呂を合わせたもので面白い。


農知らぬ民占拠の地冬ざるる
出稼ぎ子もどる当てなし隙間風
【畠山てるえ】

評: 日本へ出稼ぎに行ったきり、全く便り一つせず帰伯する様子もない。可愛い孫が子がどんな仕事をして苦労をしているかと思っている時、立て付けの悪い家の寒い隙間風が、その不安をかきたてるように吹きつけてくる。


嫁姑互いに気遣ふ湯ざめかな
叱る人なくて一人の根深汁
【吉崎貞子】

評: 行儀の悪い音を立てて根深汁を啜っていても、それを叱ってくれる人も居ない一人の夕餉である。淋しいとは言っていないが、その侘しさがよく伝わってくるが、これは他人を写生したものであろう。
「鍋蓋の破れしが浮いて寝深汁 虚子」がある。


衿巻と簪明治の祖母のもの
目を伏せて衿巻の肩おとす通夜
【猪野ミツエ】

評: よほど親しくしていた友か、または敬慕していた先輩の通夜であろう。肩をおとし眼を伏せて哀しみに耐えている様子が目に浮んでくる。寒波の夜の通夜の写生。


今まではやらず貰らわず火事見舞
発表のミス・ユニヴァース観て湯ざめ
【杉本良江】

評: 前噂では日本代表が有力と聞いていたので、胸を躍らせてその発表のテレビを観ていたら、期待通りに日本代表がその栄冠を手にした。だが、その身代りにひどい湯ざめをしてしまったとは。


茶の始祖を除き茶の里語られず
百年祭忘れてならぬお茶の始祖
【大岩和男】

評: 笠戸丸移民から数えて来年は百年で、百年祭を祝う計画は少しずつ進められている。我々レジストロの邦人は茶の始祖である岡本寅蔵氏の功績とその苦闘を忘れてはならない。と、その里の住民の心からの言葉。


特待生ボルサ射止めて入学す
コンテナ船貿易風に抜錨す
【菅原岩山】

評: 貿易風は温帯から赤道に向けて吹く強い風のことで、年中変わらない夏季の南風である。その風に乗って大きなコンテナを積んだ船がベレンかマナウスに向けて出航すべく、音を立てて錨を巻いたところ。


寒紅を引いて勝気な性見えし
独立祭近づく銅像磨く班
【木村都由子】

採り溜めてパイナ枕を嫁ぐ娘に
モンジョーロ壊れしままに水温む
【名越つぎ代】

公園の隅に住む孤児冬の月
花を見る前列の人のけぞって
【高井節子】

隣の児夜泣きおさまり冬の月
手花火のうしろは闇に包まれて
【星野耕太】

明日に希望賭けて寒肥施せる
まゆつばの話に無れずふところ手
【前橋光子】

初雷や開校簡素に日語塾
初雷や惰性の句作改めん
【風間慧一郎】

テレビ見る間にマシシエ太り過ぎ
赤いバラにかすみ草添へ活けて見ん
【矢萩秀子】

幼な子と声をまちがへ猫の恋
猫の恋ねむれぬ長い夜が続く
【玉置四十華】

カフェー園茶畑と荒れ山眠る
深井汲み湯気の立つ水冬の朝
【近岡忠子】

切干を煮込む日向の匂ひして
雨つづきの手足温もる根深汁
【藤井梢】

夜々散歩眺める月と歳重ね
寒灯下夜毎才時記開きみる
【小野浮雲生】

レジストロ山脈緑雨季上る
あどけなき稚児の欠伸や小春ミサ
【中川操】

切干に母の日偲び嗅いでみる
しんしんと底冷一人寝は淋し
【伊藤桂花】

脂肪草薄墨色に露まとい
梅の花風に甘い香運ぶ庭
【本広為子】

かにサボテンさそい合いして満開に
春愁や婚期すぎゆく孫娘
【重松公子】

火遊びの多い季節の火事ニュース
山火事の小さき火元捨て煙草
【畠山てるえ】

剪定すむカーザデローザのバラ淋し
淡々と気配りの風冬の月
【山田富子】

葱ぬたに祖父晩酌の目を細め
浮浪児の焚火に犬も仲間入り
【矢野恵美子】

夢のせて空に輝く揚花火
葱坊主起立正しく兵のごと
【酒屋登喜子】

雪洞の揺れ風情あり星祭
姉眠る市営の墓地や冬麗
【軽部孝子】

遠き日の亡き人恋ふて冬の月
三世帯夕餉に集ひ根深汁
【遠藤皖子】

日本着の柄と似合のショール掛け
薬喰火酒に程よき相手でき
【岡村静子】

子の犬の冬至南瓜と申すべし
陽当りて触角動く凍てし蝶
【伊津野静】

日短か膝に子立てたせバスの客
煙曇タイヤ修理のよごれ顔
【伊津野朝民】

夜廻りの笛の震えや寒きびし
桜祭り天プラの海老さくら色
【寺尾芳子】

着ぶくれるよりは動けと母厳し
革命の道沿い続くバナナ園
【野村康】

風呂吹や祖父の血を引く子や孫と
捨てきれぬ移民の思ひ出古布団
【青柳ます】

お守りの獏を財布に魔よけとす
大漁の寒鰡刺身に味噌汁に
【青柳房治】

日当りで何の相談寒雀
着ぶくれて老の寄り添へる日向かな
【杉本鶴代】

カンポス路タペッチめける脂肪草
風呂吹や亡母の味に程遠し
【黒木ふく】

旧家豪族の夢のあと紅イペー
敬まいし神父の転勤惜しむ秋
【今田安枝】

山眠る裾寒村の家眠る
アララ二羽中天高く冬日和
【成戸浪居】

母の日や婦唱夫随の六十年
母の日や嫁に譲りし杓文字権
【香山和栄】

電線にずらりと鳩の日向ぼこ
手術後の友案じられ寒波の夜
【矢島みどり】

年々に小さくなりゆく踊りの輪
跳ねて打つ踊太鼓や小柄な娘
【佐藤美恵子】

砂蚤が喰い入り慌て新移民
付け髭の孫の花嫁ジュニナ祭
【上坊寺青雲】

白百合の香り豊かに部屋一ぱい
青空に玉なし満開紅イペー
【三上治子】

祖母の家は子等の楽園冬休み
隔てなく異人の嫁もおでん好き
【岡本朝子】

店頭に青首大根積み上げて
ピニョン好き歯並良き孫五人あり
【彭鄭美智】

鉢巻をせしは邦人パラチ舟
胼薬つけてやるのも看とりかな
【佐藤孝子】

枯芝に自転車寝せて添寝して
乳離食に白身の魚寒卵
【谷脇小夜子】

雲切れて雨月明りの舫ひ舟
どんぐりの落ちし木の火の尾栗鼡
【仲川千江子】

一瞬の夢金色に秋夕焼
螺旋描きつつ天かけて五月鯉
【清水照子】

銃捨てて樹上に野猪をやり過す
【湯田南山子】

暮鐘草神輿飾りに花の数
研ぎ減りし鍬の歴史や冬耕す
煮こぼれの牛乳の匂ひに蝿生る
海光に島のスイナン花眩し
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


真っ先に大き鮭買う懸命に働く嫁と息子の為に
悲しみも喜びもまた夢の如く過ぎし思い出なべて美し
産土の祭りに今日は御馳走を作りて一人の客を待つ吾
【スザノ福栄会 青柳房治】

椰子の葉が隣り合わせのパイネーラの花を散らせる如くに騒ぐ
子供らの広場に遊ぶ活発な声とおりくる日曜日の街
クワレズマの並木の中の歓喜樹は一度に咲きて彩り鮮やか
且つて吾が憎みて除草せしものを薬草と知り庭に育てる
【スザノ福栄会 原君子】

一病の痛みはあれども生きる事は幸せなりと日々を迎う
寝坊して読経間違う吾なるを写真の夫が見守りており
【スザノ福栄会 黒木ふく】

世は変わりモラルも変わり隠しきことも今ではお目出た婚と
逍遥の丘より二人で眺めおり次々と建つ工場地帯
吾知らぬ孫の恋人のまどかなる家庭を覗くデジタルカメラに
白鵬の全勝優勝に老眼鏡外してにじむ涙を拭う
【スザノ福栄会 青柳ます】

日語校は幼稚園となり二郎氏のヒマラヤ桜は冬陽に耀う
移民船の中にて仕上げし八重垣姫裳裾の紅も褪せて久しき
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

玄人の演じ物もあり全伯の芸能祭は人に埋まりぬ
勤め持つ人は出払いしならんアパートの窓閉ざされて昼を鎮もる
【セントロ桜会 野村康】

寒空に街行く人らそれぞれに花咲く如く襟巻き匂う
メトロ中ブーツを履きて乙女らはマネキン人形歩くが如し
靴下や手袋などの子供もの色取りどりに人の目うばう
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

結婚式も無事に終えたる今、なぜか淋しき思い吹き抜けてゆく
【セントロ桜会 板谷幸子】

認知症のはじめなりしか無口なる母は俄に饒舌になりき
【セントロ桜会 上田幸音】

後遺症にやせし吾が身をいかにせむスカートもズボンも身に合うはなし
【セントロ桜会 鳥越歌子】

この年も七夕祭はにぎやかに東洋街を彩りており
【セントロ桜会 大志田良子】

我が暮しに影響なけれどNHKのニュースを見ておりただ懐かしく
【セントロ桜会 藤田あや子】

丹精せるカニサボテンの新芽をば蛞蝓が皆なめてしまいぬ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

日中は夏の暑さに人々は半裸で片陰求め急ぎぬ
【セントロ桜会 富樫苓子】

年毎に花を咲かせしフランボヤン今年は見られずその木切られて
【セントロ桜会 井本司都子】

音楽にみんなと共に声上げて心も軽く笑顔で体操
はるばると訪伯されし歌姫は老人ホームにも歌いくれたり
七夕も日本の文化とて各州に祭りの飾り色とりどりに
【サントス伯寿会 三上治子】

折紙の究みに魅せられ懸命に折りてくす玉四個つくりぬ
【オウリーニョス長寿会 古山孝子】
(評:お元気で何よりです。短歌の方もリズムに合わせて頑張りましょう。)

魔除けと言うくす玉作り老友に一つを上げて喜ばれたり
週一度カラオケ、コーラス、民謡と夜は踊りに老いても楽し
(評:色々な趣味に一日の時間が足りないようですね。元気である事この上なし。)

見事なる桜並木に車止め伯人笑顔でカメラにおさむる
ボトカツウ桜を植えし日系移民その業績に心うたるる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:日本人は桜花に酔い桜花愛でるが故に初期移民の人が植樹したのでしょう。)

ゲートボール創立二十五周年祝うは満開の桜の下で
年毎に見事な桜サガコート今が見頃と友に知らせる
【グヮラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:二十五周年記念も花見を兼ねての祝盃、満足感にひたっております。)

夫は逝き吾子も遠くに移り住む我が心は淋しさ募る
希望に燃え移り行きし吾子の事思い只成功を願うのみにて
淋しさも吾子の幸せ願うなり耐えて忍ばんまた逢える日まで
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:淋しい事とは思いますが、きっと笑顔で語り合う日が来ますよ、近い日に。)

生まれきて八十九年の歳月を経し我が人生を振り返りみる
身に沁みる寒さに老いの身は哀しただひたすらに温き日を待つ
亡き夫の命日迎え数々の想い出熱く胸に迫り来
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:三首共良くまとまっています。この調子で続けましょう。)

原爆の悲惨味わう日本の冥福祈り平和を誓う
地下鉄の傍にイペーの花散りて梢に莢のぶら下がりおり
終戦日シネマの会の講演はミッドウェー海戦のこと
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:唯一被爆体験の日本は世界に核廃絶を発信しなければならないと思いますね。二、三首目少し言葉を変えてみました。)

終戦の記念日のシネマ会ガダルカナルの講演を聴く
桃色の艶よき蘭の展覧会人で賑わい春の香ただよう
【サンパウロ玉芙蓉会 前田ミサオ】
(評:二首共良くまとまり佳作になりました。)

珍しき花苗友より頂きて今朝は小さき莟を見たり
枯れ牧場牛は細りてとぼとぼと子牛を連れて草求めゆく
墓地近く花束抱きし家族連れ初盆参りか知り人も居り
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:身近な素材でよくまとまりました。)


川柳


故郷発ち移民等夢を見し曠野
意気天をついて移民の来た曠野
寄る歳に勝てぬと知った人生譜
負け惜しみだったと思う淋しい日
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

日系の証しは蒙古班ばかり
世を覗く最合眼鏡の老夫婦
老班を勲章として移民果つ
内股で歩む女にある自信
【サンパウロ中央老壮会 丸丁呂】

ふるさとの第三アリアンサ移住祭
八十年の皺と白髪で移住祭
移住祭五人の一世の友達者
日本移民の拓魂讃う州統領
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

空を飛ぶ棺桶なるか飛機の旅
一と理屈聞かせご隠居満足す
繰り言は相槌打てず聞くばかり
根性で通し来たりし移民老ゆ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

生きること人生最高の目的に
老後の一日値千金おしむべし
快活な一日は千年にも勝る
楽隠居楽に苦しむ人なるな
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

桃太郎のごとく句友に吉備団子
風林火山幟瞼にほうとう汁
大海老のど真ん中なるまつり寿司
野沢菜漬酸っぱさが良し鄙の味
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】

床の間と掛軸ほしき蘭の鉢
いつの日かいつの日か夢見百年祭
品の良さ老女の日本語美しく
孫が来て落花狼籍欲しいまま
【サンパウロ中央老壮会 森川玲子】

退職後新たな趣味にとりつかれ
好きな事やってみようと別れ住む
歩こう会老父母案じ従いて行き
救済会積んだお金に助けられ
【サントス伯寿会 三上治子】

香り良き煎茶饗応日本祭
歴史永遠移住地護る半世紀
美味にして喉に辛味が生姜菓子
父の日や感謝瞑想光り来る
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

筆とりて無念無想に書に向う
恙なし心忙はしく糸をとく
樋の水呑んで美人の友とあり
風鈴の音色に心和ませる
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

空の旅一歩ちがえば地獄行き
テレビニュース見れば悲惨な事故現場
痩せる事期待したれど又肥り
ミス日本さすがと思う女でも
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

萬全のいでたちにしてスリッパとは
ボケ茄子はボケは誰かと聞いている
惚けたふり時には巧く使い分け
化かし合い狐と狸のぼけたふり
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

老いて子に従える身の有りがたし
風邪引けどビデオテレビを見てこもり
粗大ゴミ捨てらる先は養老院
気がねなく大の字で寝る老となり
【セントロ桜会 矢野恵美子】


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