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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2007年12月号

2007年12月号 (2007/12/08) 俳句 (選者=栢野桂山)


バス降りて嗅ぐモジアナの春の土
花珈琲の香に包まれて移民寺
春蝉や適度に泣かす育児法
【風間慧一郎】

評: 父母の墓参か何かの用で、かつて配耕されて石ころの多い土地の除草や珈琲の採集に苦労して泣いたモジアナの土地を、バスを降りてすぐに嗅いでみた。草の萌えた土に春の日差しが当って、かすかに懐しい匂いがあった。


韮の花垣をまたげば母の家
活花の鋏に鈴や桃の花
春眠の覚めて夫居ぬ世に戻り
【佐藤孝子】

評: 春眠が覚めてふと見ると、常に寄り添って看病した夫の寝床が空っぽで、心地良かった目覚めが、哀しい現実に居る己を見つめたという句。「夫居ぬ世に戻り」という表現が佳い。


田楽に無いものねだり山椒の芽
揺籃となるそよ風の吊巣かな
陽炎えるインカ遺跡の石畳
【菅原岩山】

評: 陽炎と言えば長閑な感じのものであるが、これは陽炎の彼方に古い悲惨な歴史が、揺らいで見えるように思われ、この作者らしい佳句。


物言はぬ別離となりぬ春の雲
蜘蛛の囲の風をはらみて光る刻
咲いて佳し散り際もまた黄イペー
【猪野ミツエ】
追憶をゆらゆら揺らしハンモック
誰も居ない風が揺らしてハンモック
バス停に手話の若者うららかに
【矢野恵美子】
数へつつブランコの順待ちきれず
小学生の集団洗礼水温む
一斉に森うごくかに囀れる
【木村都由子】

評: この三名の句に評を加えると、句の佳さ優しさが毀れそうで不要であると思われるので止めることにする。


元茶山今運動場春日差す
準備することも楽しや運動会
白テント朱の大鳥居春祭
【大岩和男】

評: 昔は緑の美しい茶畑だった土地に学校が建ち、広い運動場には昔お茶を作った男や、茶摘みをした女達の二世や三世が嬉々として走りっこを競っている。昔を知ってか知らずか、うららかに春日が輝いている。お茶で栄えた昔を知る者にとっては、感無量と言ったところ。


鯉のぼり立て祝ふ家子供の日
リボン結ぶ蜂鳥の巣の可愛いさに
【原口貴美子】

評: 蜂鳥の巣は小さな繭を半切りにした形で、柔らかい蒲の穂絮などを集め、納屋の軒の藁の先などに吊り下っていたりする。その可愛いさに女の子が紅いリボンを結び付けた。


春愁や孫等の伴侶みな異人
素心花の白花咲き満つ屋敷街
【岡本朝子】

季の序曲風が連れ来る春の音
先駆者の尊き汗の百年祭
【中川操】

濯女の頬にやさしき春の風
晩年の老父を偲び春彼岸
【近岡忠子】

立春の水鳥集ひ来る田ん圃
已むを得ず男女立食夏祭
【小野浮雲生】

旱魃に恵みの雨のすぐ消えて
湯の川の泳ぐ影ありカスクード
【三上治子】

七才での種痘の跡の腕に尚
孫七人金髪混じえ子供の日
【上坊寺青雲】

うららかや健康回復体操を
「無量寿」の書に人春の書道展
【軽部孝子】

皆んな身軽に体操やうららかに
ハンモック低く吊るして子守唄
【宇佐見テル子】

故障バス降りて出合えり舞子鳥
人に径ゆずり新緑陽に匂ふ
【吉崎貞子】

ハンモック孫と仔犬と頬寄せて
たそがれのほのかに匂ふ花りんご
【酒屋登喜子】

花りんご人工授粉する農婦
街うらら綿菓子売りのラッパの音
【杉本良江】

春うらら小窓夜明けの風吹いて
池の水また飲みに来て蜂雀
【山田富子】

ハンモックの下湖の風吹き抜けて
日系の保姆と園長子供の日
【纐纈喜月】

うららかや笑顔で挨拶車椅子
ハンモック老の楽しき夢むすぶ
【遠藤皖子】

双子のせ乳母車行く園うらら
玩具屋に笑む子ぐずる子子供の日
【畠山てるえ】

国旗立つモンテ・セラッテ東風強し
港出るコンテナ船に燕来る
【清水もと子】

戻り寒熱き日差しのどこへやら
待ちかねし雨何処へやら春寒し
【矢島みどり】

朝告げ鳥聞いて寝過ごすことなくて
子供の日子供移民でありし吾
【野村康】

金襴と八重うつくしき君子蘭
門構え城塞めける合歓の花
【本広為子】

売り切れし秋刀魚弁当イペ祭
鈴懸の花は見られず実のころぶ
【寺尾芳子】

歳時季にさがす花の名念腹忌
早やばやと眠りにつきし合歓の花
【青柳ます】

行く春の亡夫闘病の日記見て
ジャボチカバ黒光りして落つる庭
【黒木ふく】

ジャカランダメトロの駅を明るうす
未来明るき夢を子に子供の日
【杉本鶴代】

リベイラ富士見て茶摘娘等よく笑ふ
末の子も学士様かや子供の日
【青柳房治】

温暖化とて早や咲きの千日紅
街一筋明るくなりし黄イッペー
【伊藤桂花】

遠き日々雨のお茶摘みサッコ着て
盆梅の期待に応ふ花二つ
【藤井梢】

早春の旅北伯に七八日
売れ残り買えば半値よ日本茄子
【矢萩秀子】

古オーバまとひ余寒の姑卒寿
散りそめしイペの絨氈春惜しむ
【名越つぎ代】

春愁や拭いても取れぬ泣きぼくろ
ダンスの輪に入るはにかみ子ジュニナ祭
【前橋光子】

夜の喜雨の音頼もしく聞き入りて
雨季冷えや燗徳利の割れし音
【伊津野静】

夏衣乙女足どり軽やかに
別れ告げ菊の香残る柩閉づ
【伊津野朝民】

咲き満ちて紫淋しジャカランダ
春彼岸何時も身近に母感ず
【林田てる女】

骨折の老母の寝部屋冴返る
感謝して後悔もして春の夜々
【重松公子】

春蝉や闇忍びよる村の四方
シーソー漕ぐきびんな孫やチューリップ
【佐藤美恵子】

腰曲げて鍬ふる農婦に秋日さす
秋月の海原照らし冴えわたり
【井出香哉】

春昼やケースの人形色褪せて
世相おそれ窺ひて蛇穴を出づ
【猪野ミツエ】

葉桜の緑に生気貰ひけり
土割って太き大根となりにけり
【彭鄭美智】

布袋草の花ゆらす鯉産卵期
木槿咲き日々沛然と降る日照雨
【吉崎貞子】

目こぼれの韮花あげて庭隅に
石積みの段々畑花林檎
【中川千江子】

追憶の掌を句碑に置く念腹忌
春眠や婚期過ぎしを気にせぬ娘
肩巾の男勝りや夏帽子
蝿飛んで魚市果てし石畳
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


朝ドラの「どんど晴れ」より学びたりみんなで支えるやさしい心
ふと見たる窓にやさしき春の月流るる雲の上に輝く
茨城を訪いしが知らずに帰伯してTVに観ている袋田の滝
【スザノ福栄会 青柳ます】

風の音にこころさむざむ年暮れて年もとるまじ七十八歳
噛み合わぬ時代の考えに術もなく対する息子の俄に遠し
旅心に触れることなく妥協せし竹馬の友との語らいの果て
【スザノ福栄会 青柳房治】

襟足の入墨誇示して夏の娘ら無垢なる肌を惜しみなく汚す
初夏の駅に事件ありしか金髪の婦警凛々しく構内巡る
町角の屋台を囲み若きらはパイナップルを貪りており
【セントロ桜会 野村康】
(評:三首は字余りですので削ってみました。良くまとまっています。)

窓外に競い咲きいし黄イペーは雨と雹とに枯れて黒ずむ
ジャボチカバ黒く光りて落ちる庭に街に住む子ら弾みつつ採る
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:情景新鮮に表現されています。)

寒空に電線たわめて群鳩がおしくらまんじゅうする如並ぶ
七人の侍の如馳せつけし村の若者に賊は逃げたり
若き母と山のおどろをかき分けてゼンマイ摘みし古里の春
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

うつむいてばかりはおれぬとTVの百歳万歳に身を引き締むる
あの時に言いそびれたる一言が誤解されつつ波紋ひろがる
年毎にお盆の供養も変わりきてパウマとバラより菊の目立てり
四季の移り目立たぬ国と言うなれど若葉のみどり春を告げおり
【スザノ福栄会 原君子】

グラニット石海底油田と海の幸良港多しビトリアの街
岩山の修道院を訪いぬれば眼下に見下ろすビトリアの街
ジュズイッタ布教の跡を訪ねつつ坂道けわしビトリアの街
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:福博歌会の作品は流石に良くまとまって良い作品。)

旅人は歩みを止めて満開のイペーの花を愛でておりぬ
珍しきたんぼ耕す風景を眺めておりぬ都会の旅人
春祭り旅して人出に押しもまれ昼の食事も立食となる
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:都会では見られない農作業風景。佳作。若干言葉を変えたところあり。)

許してね嬰児逝きて四十八橋忘れられないあの流れ星
アマリリス大きな顔に頬染めてヤンチャな坊主含羞む曾孫
霧を吹き大事にしたいこの花に母の日だよと語りかけおり
惚け防止動く指先変わらねど編む目揃わず悲しくなりぬ
【ピエダーデ 中易照子】
(評:三首目若干言葉を変えています。良くまとめました。)

雨に泣き雨に喜びままならぬ自然相手の農業故に
今年の天候不順は桁外れこの先如何にと不安がつのる三日間の日本祭も終わりしに雨よ降れ降れ黄金の雨
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:「黄金の雨」は少し大袈裟の様です。「恵みの雨よ」ぐらいにしたら良いと思います。)

呆けぬようにと言いつつ呆けた友の様吾の心も痛む思いす
年とればなりたくないと言いし母いつしか我も同じ道歩む
咳込めば知らず飛び出る不浄の水が情ないとは思いておれど
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:年令を重ねると色々と体に異状が現れますが、一日を感謝して大事にすごしましょう。)

暖冬を恙なく過しし老いの身に廻りくる夏を如何にすごさむ
しばらくは故郷の便りも途絶えおり如何にお在すらむ懐しき友は
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:原作の故郷が二度使われますので結句を変えました。)

現世の利益望まぬ僧侶でもお布施多きに喜びており
年寄りて短気になりしこの我と対照的に気長な老妻
喜雨降りて農家は急ぎ蒔付の準備に忙し昨日今日なり
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(評:面白い素材ですね。僧侶は苦笑いしてます。)

幸あれと祈りて蒔きし裏庭にマモンの種の芽吹く日を待つ
アマリリス見事に咲きし今朝の庭居間の窓辺で眺めたのしむ
夫と孫の墓前に供う白菊を愛でる如く微笑む遺影
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:静かな歌に仕上がりました。)

独り住み些細な事を事毎に遺影の夫に語るこの頃
年の暮れ間近に迫り思い出す子等の幼なき頃の事など
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:二首目の結句を変えてみました。二首共佳作。独りになっても夫婦愛がわかります。)

光る湖光る風あり歩こうと妻を誘いて草露を踏む
老いたりとは思わぬ我の手をとりて車道を渡る娘の掌が温し
野生なるミニトマト早や色付きぬ妻と二人の食卓に添える
【グァイーラ 金子三郎】
(評:二首目リズムを整えました。三首目の「野生えの」は「野生なる」とします。一首目など良い作品です。)

日曜市オーム釣り下げ赤緑リベルダーデは子供の広場
セードームを見ながら椅子に腰かけて昼の挨拶西瓜売り通る
【サンパウロ玉芙蓉会 前田ミサオ】
(評:長閑な素材でよくまとめました。)

お盆の日今年も巡り逢いたるを先祖供養の法話を聴けり
慰霊祭に集いし人は厳かな先祖供養に感慨深し
風雪に耐え百歳を生き抜いた表彰万歳移民人生
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:お盆は毎年一度の行事ですが、先祖の追憶、そして供養と忘れ難いものですね。)

ブルメリアの花を言葉に現わさんと具に視れどいよいよ難し
【セントロ桜会 藤田あや子】

待ちわびし久方ぶりの降雨にて庭の花壇も生気をもどす
【セントロ桜会 大志田良子】

雨止みし後の青葉にふりそそぐ日射しをうけて生気ひとしお
【セントロ桜会 井本司都子】

同居して三年は過ぎ息と嫁のくらしの中でくつろぎており
【セントロ桜会 上岡寿美子】

夕近き盆の墓所の碑の陰に若きおんなのすすり泣き聞く
【セントロ桜会 上田幸音】

シチオにて鷹が巣作りし庭隅に威嚇しながら雛守りいる
【セントロ桜会 板谷幸子】

久々に降る雨は良きかな各々の心も潤いゆくがごとくに
【セントロ桜会 富樫苓子】


川柳


義理人情浮世の風が揺り起す
割り切ればすべて平和な世がひらけ
人生の夢で明日の事に触れ
余生など忘れ明日の夢を追う
絶妙な弁舌余談に花咲かせ
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

受けて起つ気概は昔の物語り
人ごとと思えぬ膝の弱さかな
月制覇目指す中国科学陣
原子炉は始動もせずに威容見せ
自信もて来しが傾きかけて来た
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

若者が参加す宗教盛り上がり
温暖化か西瓜はふとり甘きこと
オゾン層希薄なりとて温暖化
ねじれ国会案を通すか自民党
重厚な総理の腕に期待かけ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

老移民泌尿器科医のお得意に
女学生の如き媼のコーラス団
あきらめて労り合いて共白髪
一病と仲良く越えて幾山河
ツーカーと似た者夫婦共白髪
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】

趣味をもち夢もち続け孤独の身
神の守護信じて行くも帰りにも
差別なく人を愛せば世は楽し
光陰は矢の如しとか我も老い
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

雨降って地は固まらず崩れ行く
ホームとて無銭で通る事出来ず
お偉方我が手で首を締めている
恐妻をよそいて夫婦円満に
新総理やる気充分意気高し
【セントロ桜会 矢野恵美子】

御詠歌を祝す会場喜々として
御僧の御詠歌公演静聴す
半身をかまえて二列空手道
夏時間水仕終わればテープ聞く
風味良き玄米炊き込み墓参の日
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

夏時間お腹の時計も針合わせ
フィナードをお盆と呼びて四十年
月までもメイドインシナはおびやかす
ふるさととブラジルの地に五十年
両親は如来菩薩を信仰し
【セントロ桜会 森川玲子】

にせ造り国民性までうたがわれ
にせ造り国の信用おとすもと
にせ物も安く間に合い文句なし
生活のためなりふりを気にかけず
【サントス伯寿会 三上治子】

かるた会爺婆連の腕達者
事故現場身につまされて目に涙
額写真に告げてお盆の墓参り
耄碌の老婆に付添ひ一と苦労
突風に倒れ街路樹おぞけたち
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

打ち込みて唄ゲートボールで百寿待ち 
一期一会江差で唄を百年祭
有がたや白寿迎へしも娘の支え
気かかる白寿に腸ガン鉢合わせ
大阪と江差の夢や千の風
【オウリンニョス長寿会 金田敏夫(遺稿)】

金田敏夫翁を悼む(十一月末逝去)
 民謡の付き合いで三十年以上になる。人一倍努力家の彼は、日本の江差追分熟年大会で、並み居る強豪を押しのけて、見事、準優勝を得て帰伯した。元気で何処の大会でも得意の追分を披露して、民謡界の名物男だった。文協の白寿祝いには私も会場へ行っていたが、出席者を代表して江差追分を謡った姿が今も目に浮かぶ。只々冥福をお祈りするばかりである。
【纐纈蹟二】


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