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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年1月号

2008年1月号 (2008/01/02) 俳句 (選者=栢野桂山)


鉢覆ふ一花に春の訪れし
暑気払ひ暑気払ひとてバー毎に
濃く淡く筆先に生る文字の春
【伊津野朝民】

評: 作者の書道は広く知られ、その筆先より生れる濃淡の美しい文字は、正にこの句の如く春先の趣きがある。


ウインドーのマネキン反身夏に入る
未黒野の径らしきものくねくねと
花卉展の日主なりしよ菊人形
【猪野ミツエ】

評: 夏に入る商戦を前に、各呉服店のウインドーにはマネキンを揃えて客を待っているが、それが反り身になって八頭身を誇り、夏に入るのを喜んでいるのは如何にもこの国らしい風景。


ジャカランダに想ひはつきず潔子の忌
ジャカランダの雨に別れし人想ふ
怒涛となり押寄す牛に牧開き
【木村都由子】

評: 日本では春になり廏の牛馬を少数放牧するのを言うが、この国では棉作跡の広大な草萌えの牧に、多数の牛を放つのが牧開き。何人かの牧夫が千頭もの牛を新牧に追込むのは、正に怒涛の如くであろう。


抱き合ふて旧知と再会墓参り
子供移民の我孫抱く百年祭
【近岡忠子】

評: 親に連れられて移住したのは「移民の子」。子供ながら移民としての心構えがあるのが「子供移民」。幼いながら苦闘を重ね、良き老後を孫と移民百年祭を待つ嫗に幸あれ。


茶摘唄姐さん被り消えし世に
敬老会異国に残す良き遺風
【大岩和男】

評: 昔のレジストロの茶摘女は日系が多く、故郷と同じように姐さん被りだったが、今の茶摘女はブラジル人で、昔の姐さん被りの風習が消えたのを淋しがる作者。


目と耳の老ひて鈍りし梅雨に入る
淋しさに負けそふ桐の花拾ふ
【風間慧一郎】

評: 老若誰でも折に触れ一寸したことで淋しさを感じるもの。その寂寥を紛らさんと桐林に来て淡紫色の花を拾うて夕べを過した。桐には「一葉落つ」「一葉の秋」という淋しい感じを伝える秋の季語もある。


短日の牛舎にゆとり搾乳機
新農年慈雨に幸先きよき出足
【菅原岩山】

評: 現在は搾乳機という機具があり、何百頭という牛の搾乳も人手を煩わすことなく、牛飼いにとって短日にも余裕ができた。


筍を買えばてきぱき剥きくるる
飾られず不平もなくて韮の花
【杉本良江】

春愁や拭いても取れぬ泣ほくろ
夕焼小焼の唄の聞えず赤トンボ
【前橋光子】

夏帽子孫とばあちゃんお揃いで
初夏の風乙女の髪をなびかせて
【矢野恵美子】

夜風吹き夾竹桃の花筵
急ぐなよゴールは遠いぞ蝸牛
【名越つぎ代】

何も彼も億劫な身も夏に入る
嫁えらび娶らば鄙のやさしき娘
【伊津野静】

早やばやと施設のクリスマス・ツリー
紅白の大輪咲かせアマリリス
【三上治子】

初出産庭の青柿熟るる頃
牧場の一巨樹蝉の宿となる
【岡本朝子】

夢を追い耕し続け百年祭
孫曾孫住む地は祖国花イペー
【中川操】

学ぶ子等旅楽しみに夏休
食物の置場に困る夏厨
【玉置四十華】

朝な夕な小鳥にぎやか庭の樹々
新築の屋根すれずれに燕来る
【矢萩秀子】

腐木に巣くふ王者や兜虫
忘れゐて漬かりし辣韮の壷一つ
【伊藤桂花】

五十年祭祝うわが町四温晴
初雷や音のみ残し素通りす
【近岡忠子】

湯の宿にひびく和太鼓盆踊
物の芽のふくらみ春はもうそこに
【矢島みどり】

連休の夏の交通事故多発
絶え絶えの命燈篭流しかな
【小野浮雲生】

キリスト像化粧がえして山笑ふ
勝鶏にピンガ呑ませて怪気焔
【岡村静子】

席占めてもう一役の夏帽子
日傘行く光と影を従えて
【星野耕太】

草取りやドイス・カーラは良く切れし
重ね飲むピラニア汁に元気付き
【上坊寺青雲】

旅帰り土産に一つパナマ帽
久方の筍飯に母思ふ
【吉崎貞子】

クルクルと絵日傘廻す十九の春
絵日傘の下からつぶらな青い目が
【酒屋登喜子】

渡りたき近道なりし虹の橋
気まぐれな陽気此の頃街は初夏
【畠山てるえ】

夕虹や空手衣白く帯黄色
夕虹やバンカ明るきメトロ駅
【軽部孝子】

白髪かくしの夏帽子外出す
淡月の空愁いあり春の宵
【山田富子】

蝿打ってストレス解消することも
夏の雨傘売り早やも駅に居て
【纐纈喜月】

ダム広し何時もどこかに時雨虹
何か良きことありそうな二重虹
【宇佐見テル子】

華やかな日傘の人にふりかえる
国境を越えてかかりし虹仰ぐ
【遠藤皖子】

山の家一人聞き入る椰子の風
うたた寝の耳をくすぐる蝉時雨
【井出香哉】

生垣の芝生さわやか夏の露
戻り寒あの日の日差し今いずこ
【矢島みどり】

青嵐ビルの窓打つ音激し
新盆の墓うずめたる白きバラ
【杉本鶴代】

黄蝶めく金雀枝の初花清し
庭巡り木葡萄漁るアラサリー
【本広為子】

襟足の入墨誇示す夏の娘等
添木ごとヴァージェン根こそぎ青嵐
【野村康】

初夏やリンスの出湯ひとめぐり
夕顔や音なくはじけつぐ狭庭
【青柳ます】

ピネイロスの競馬眺めて初夏の句座
電柱の蔭にバス待つ日の盛り
【青柳房治】

屋上に日焼楽しむ娘らの夏
庭の木に吊りて寛ぐハンモック
【黒木ふく】

海苔粗朶の満干に浮き沈みして
かすかなる胎動おぼゆ春の雷
【佐藤孝子】

ひたむきに咲いて日本の萩なりし
日本の萩とて手折り供華とせん
【香山和栄】

久々の夕立来たり路地洗う
老夫婦昔想いて氷菓なむ
【成戸浪居】

崖向う空軍基地とか雲の峰
山崩れトンネル堰きて雨季深む
【清水もと子】

百姓のごろ寝極楽喜雨三日
喜雨の酒百姓詩魂養なはん
五十年寡婦を通して汗の日々
許されぬ髪を洗ふて療舎の娘
【栢野桂山】

本年も何卒よろしくお願いします。今年も沢山の投句をお待ちしております。


短歌 (選者=渡辺光)


 明けましてお目出度うございます。皆様方にもお元気で新しい年をお迎えになった事と存じます。今年も何卒宜敷くお願い申し上げます。

老いづきて口論絶えなき妻と吾幼き頃の育ちの違い
おっとりと太りし老妻と痩せっぽの吾との性格も異なりており
真夜中に落雷しきり暴風雨窓のガラスを激しく叩く
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(評:夫婦といえども他人同志。遺伝子も異なり全てが一致する者は居ないようです。お互いに譲り合ってこそ夫婦なんでしょうね。)

一年の終りを告ぐる除夜の鐘真夜の闇を空に響けり
今日もまた待ち侘びおりし便り来ず淋しく暮るる夕空仰ぐ
アラカジュの嬉しき便り今届きやれ嬉しやと勇気沸きたつ
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:いよいよ今年も暮れ新しい年を迎えますが、来年も健康に留意されて頑張りましょう。)

二年越し開花忘れたアマリリス今年続けて幾輪も咲く
若人の精一杯のヨサコイに団結の場を学びつつ視る
世の中に障害ある人多かりきかつての活気見る影もなし
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:忘れた時に花が咲く。人生も同様悪い事ばかりは無い。必ず花咲く時が来るようです。)

貧しさの中にも八人子育てし父母の苦労をしみじみ想う
水樽を担ぎし兄を先頭に兄弟三人農道を行きぬ
朝夕に母が作りし味噌汁を戴きし日の家族なつかし
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:喜びも悲しみも家族の絆で結ばれて今の倖せがあるのですね。)

お祭りと供養の異なる感情を込めて流るる灯籠二千余基
気炎上げ始めた辰年生れの集い意気込み立つ年伸びて行くなり
リベイラ富士自然の緑に囲まれて環境守り移民百周年
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:いよいよ移民百周年を迎えますね。先達の苦労を新めて偲ばれます。)

暮れ迫り片付物のひと時を遺品手にしてしばし見つめる
朝毎の日記の余白も後わずか来る新年の恙なき祈る
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:新しい年にむかって新しい夢をもち頑張りましょう。)

音たてて食みし昔を懐しみ沢庵ひと切れ刻かけて噛む
古き葉のすべてを落し楠は若葉となりし鹿島神宮
娘より孫より今日も電話あり頼られる身の幸を思えり
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:頼りになるおじいちゃんで、こんな倖せなし。)

足病みて墓参かなわず過去帳に記しし御先祖に日毎経読む
青嵐に倒れし庭の花の鉢を見回り起して心安らぐ
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:心のやさしさが歌に表現されています。)

体重は軽くなりしが重ねたる齢の故か動作も鈍る
あの時に言いそびれたる一言が誤解されつつ波紋ひろがる
【スザノ福栄会 原君子】
(評:会話の中で一言多いのも少ないのも誤解をまねきますよね。でも気にしない。)

スザノの町またぐ大虹落雷もなかりし如く架かりぬ
亡き母の慈眼の如く雲間より細き朝日が輝く盆の日
新聞紙丸めて蹴上げる少年の瞳はペレー夢見て光る
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:良い素材で佳作です。二首目など特に注目しました。)

病むことも悩みもなくて牛蹄花彩る苑を夫と歩めり
雷も知らずに吾は寝ていしか友は夕べの雹を嘆かう
朝ドラの「どんど晴れ」より学びたり皆で支えるやさしい心
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:病災も悩みもなければ朝ドラも良い気分で視れますね、倖せいっぱい。)

世はうつり代替療法許されて脊髄治療の「セラジェン」賑わう
老連のビンゴに興じる夢覚めて吾が手に残るいくばくの賞品
初盆の歌友の墓に額ずきて福博歌会守れと祈る
【セントロ桜会 野村康】
(評:歌会の永遠の発展を祈念するお気持ちは素晴らしいですね。)

どの墓も色様々な花が咲き逝きたる人を慰むごとく
半年振りに百二歳の母のもと訪えば喜び迎えてくれる
年一度父の墓前に額ずきて無沙汰を詫びる吾も老いたり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:一首目の「咲き誇り」は字余りになりますし、「誇り」は必要ないと思います。長寿の家系なんですね。喜ばしいことです。)

日暮れ町迷子に出逢いあちこちと家を探して交番に依頼す
毛糸編み母が教えた贈りもの今も続けて心温む
【ピエダーデ 中易照子】
(評:生前の母から教わった編み物は本当の宝物ですね。)

訪日の旅より戻りし弟夫婦老いの長旅に疲れしと言う
来る年を迎える為の準備してまた来るからねと娘は帰り行く
末孫の結婚式に出席の叶わぬ吾の体調を嘆く
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:お祝い事にも老いづくとなかなか思うに任せないのは寂しい事ですが、言葉だけでも慶びを伝えてあげれば嬉しいものです。)

鉢植えの石榴の花の極まりて一果の重みに撓む細枝
大輪のダリア真紅に咲きほこり狭庭華やぐ夕映えの中
充実という程遠き日々なれど慎しく生きる倖せのあり
【グァイーラ 金子三郎】
(評:良い出来上りです。三首目のような毎日をすごせたら最高ですね。)

日本移民の百周年を紹介する広告写真家の活躍を見る
文協シネマ「姿三四郎」の大作に日本武道の礼節を知る
工事音夜まで続く地下鉄にリュック背負いし学生ら行く
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:日本の武道は古来より礼節より始まると言いますね。)

忘年会終わりて友と語りつつ駅舎にむかう足取り軽く
雨間近メトロに乗客急ぎ足傘売りの来て呼びかけており
【サンパウロ玉芙蓉会 前田ミサオ】
(評:身近な素材で良いのですが、仕上げた後で再度音読されたら分り易い歌になると思います。)


川柳


老いの足急がす師走の風の中
新春の祈り燃えたつ夢を追う
去年より今年と祈る春の風
一年の早さで拝む初日の日
初日の出合掌をして祈る幸
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

ブラジルに夢担いで来移民老ゆ
希少価値言われ一世移民古る
信仰に祖先の供養忘れずに
我々の祖先は神武の昔より
良き二世三世育て移民老ゆ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

病院に付添ふ孫を頼りにし
米寿には今一と息と思へども
夢を追う人羨ましと思う日々
同病の友を励ます手紙書く
易断は晩年よろしと出ているが
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

六十六年前の想い出開戦日
子の年の健康祈願の賀状書く
お師匠の仕度子年の踊り初め
笠戸丸の暦豪華や百年祭
東洋祭型も鮮やか空手道
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

ペスケーロ泥水の魚釣れずして
カルタ会目の前にある札とられ
カルタ会昔の腕の見せどころ
成人し今では孫に叱られる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

牛乳を噛んで飲む事御存知か
白バイのポリは美人で声荒し
見栄張って新車を買って襲われる
立てば椰子座れば蘇鉄の肉体美
裾長で走るに走れぬ俄か雨
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

人品の豊かさ流石にお家柄
おしゃれ癖派手な服着て年忘れ
読めねども漢字の好きなブラジル人
物腰の豊かさ何時も若々し
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

遠く住む子等を想いて寝正月
忘れ物して来たような年の暮れ
あれこれと何もせぬ間に年暮るる
又一つ齢重ねて腰伸ばす
良き家庭何より宝合掌す
【セントロ桜会 矢野恵美子】

煩悩は捨てきれずとか除夜の鐘
出っ腹はほめられもせず不摂生
用の無い老人と鳩園ベンチ
蛸と芋小鍋の中で遊ぶ箸
ミシンなし自動車持ってお嫁入り
【セントロ桜会 森川玲子】


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