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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年2月号

2008年2月号 (2008/02/20) 俳句 (選者=栢野桂山)


夏の雨昼の街燈黄に灯り
葉の蔭に花あり雨の大夏木
夏雨に濡れたる傘の触れし詫
【伊津野朝民】

評: 喜雨や夕立とか、じめじめせず明るいのが夏の雨の風情。人通りの多い街路を行く時、差した傘が触れ合うが、大抵素知らぬ顔ですぎて行く。だがこの明治気質の人はいちいち慇懃に詫を言うのである。


新緑に頬染め画布に立向ふ
プリムラや庭の小さき新世帯
弾く人もなく蛇皮古りし暮れの春
【菅原岩山】

評: 三味線は猫の皮を張るが、蛇皮線は蛇の皮で模様が美しく、昔中国から琉球に伝わったもの。この蛇皮を弾いて故郷を偲んだ祖父が逝ってより、奏でる者もなく大切に壁に掛けたまま暮春となった。


教師たる子持ちの娘夜濯す
池に立つ小使小僧の音涼し
同航海記念のタオル髪洗ふ
【杉本良江】

評: 同航者は移民にとって特別の思いがあるもの。よく新聞紙上にその集会を呼びかけた記事を見るが、これはその会を記念して配布したタオルを手に髪を洗った―というブラジルの移民の妻らしい発想の句。「働けば幸おのずから洗ひ髪 野田きみ代」がある。


我が如く彼も喜雨待つフェイランテ
蓮の花揺れると見れば白き鷺
【小野浮雲生】

評: 清楚で芳香があり君子花とも、極楽浄土の象徴として蓮華とも言う。その白蓮が揺れているのでオヤと思って見ていると、白蓮と思ったのは白い鷺が葉に止まっていた。


朝顔の蔓ほぐし去る風荒し
青涼し月より登る地球視る
【清水もと子】

評: 先日、NHKで日本の打ち上げた観測衛星が、月面より撮った青い地球や、大きな三日月となった地球を写したのを見せた。科学が進歩すると俳句にもこんな変化が現われる。


窓若葉厨の水を青く染め
茅花野に唄えば故郷にある如し
【伊津野静】

評: 野原に叢生する茅(ちがや)。ここではサッペの花で、子供の頃若い穂を抜いて食べて、その甘さが懐かしい。この茅花の原に風が吹いて明るく銀色に光って美しく、それを見ながら子供の頃唄った唱歌を口ずさむと、遠い祖国に在るように思えてくる。


マンジューバ漁師の仁義守られて
目計りで売る河漁師マンジューバ
【纐纈喜月】

評: 漁れたてのマンジューバを秤を持たぬ漁師が、集まってくる人に目見当で売っている。素朴で鷹揚でいかにもこの国らしい風景。先の句、マンジューバ漁では漁師仲間で互いに守られている規制が昔からあって、不法は通らない。


頬にキスはじける若さ洗ひ髪
どの店も痩せ夏大根並べおり
【星野耕太】

寒暖の時差ぼけの身に玉の汗
プランたて夜濯のたのし旅の宿
【高井節子】

一目惚れされ玉の輿嫁選
瀬戸内海めく島三百船遊
【猪野ミツエ】

盆捧げボーイくぐり来夏暖簾
餅祭御幣巻きたる臼据へて
【野村康】

弱り行く足きたえんと青き踏む
草を取る鍬はね返す旱畑
【故 近岡忠子】

秋日和今日の仕事をあれこれと
雨上り花植えかえる無心なる
【三上治子】

手作りの賀状呉れたる友はなし
移民てふ宿命背負い転耕す
【大岩和男】

農大の閑かな径鳳凰樹
開拓で鍛えし足腰餅を搗く
【香山和栄】

若人等会釈慇懃墓参り
墓洗ふ扶け合ひつつ老姉妹
【風間慧一郎】

水郷の一偶に生き老の夏
身勝手に生き腰を病む年の暮
【藤井梢】

カジヤマンガ熟れ邦人の稀な町
過去忘れ今幸せに年用意
【矢萩秀子】

歩け歩けと会ふ人毎に半ズボン
夫婦して歩け歩けと日焼けして
【伊藤桂花】

年頭の花火未来の夢を呼ぶ
藤椅子に杖立てかけて居眠れる
【中川操】

プレゼントのポインセチアに納め句座
売らんかなの健康食品師走街
【名越つぎ代】

天地今黄色に染めて国花イペ
命ありて猪の年あと僅か
【重松公子】

アンツリオ目出度き席に侍べらせて
ピラセーマ河の色今真黒に
【上坊寺青雲】

次々逝く草分移民年終る
杖頼り無事に米寿の年迎ふ
【林田てる女】

あっさりと鼡の絵添へたる賀状
日の匂ひ残りて温し干布団
【前橋光子】

大嘴の目敏く漁るバナナ熟る
「黄金の蜜」てふ名札桃植える
【本広為子】

客を呼ぶさまにまばたく聖樹の灯
濃き霧にイタペチ連山かくれたり
【青柳ます】

青春の香ともゆかしき花蜜柑
轟音のイグアス瀑布岩燕
【青柳房治】

住み古りて庭木に宿る蘭いくつ
日々のメモもて埋めたる古暦
【杉本鶴代】

山梔子の香の満つ忘年句座清し
故郷より早々年越そば届く
【寺尾芳子】

ボーナスも月賦払いに店不況
暮の庭蘭の莟の開花待つ
【黒木ふく】

布団着て口をおさえて夜々に咳
去る年や多難なりしも乗り切りて
百年祭明けて爽けき鳥も啼く
【矢島みどり】

夏大根葉ごと刻みて一夜漬け
洗ひ髪娘が来て白髪染め呉れし
【宇佐見テル子】

残り日の陽炎病める床の壁
八時まで陽の差す庭や夏時間
【森田千鶴子】

銀鱗の河面におどる喜雨来たる
手作りの味を並べておさめ句座
【畠山てるえ】

歳末の東洋祭の阿波踊
夜稽古の空手組手や玉の汗
【軽部孝子】

降る雨に聴耳たてて春わびし
髪洗ひセットをすます面変る
【山田富子】

遠き日々務めを終へて夜濯に
古手紙炎にしたる年の暮
【遠藤皖子】

夜濯ぎの妻ににっこりお月様
喜雨の音聞きつ結ぶ夢楽し
【矢野恵美子】

健やかな八十路のゆとりの春惜む
汗の顔くちゃくちゃにして畑戻る
【吉崎貞子】

恋成りし二人連れ合ひ喜雨に濡れ
夜濯女着物一枚流されて
【原口貴美子】

帆を立ててま白きヨット海の果て
羅の娘十八恋心
【酒屋登喜子】

野も山も黄金に光り麦の秋
ハイビスカスのレイ掛け飛機を降りる客
【木村都由子】

マンジューバ禁じられたる酒探す
汐引きし街路にパンの実を拾ふ
【佐藤孝子】

六十年振り恩師に再会秋の旅
秋晴れに恩師訪ひし日忘れまじ
【彭鄭美智】

椰子の実の歌懐かしむ女高生
ピーマンの五彩いろどる夏料理
【岡村静子】

大臼に首ぐらぐらの黴の杵
戸飾りや支那飯店は廟に似て
春愁や言葉の綾を咎められ
頬紅のうすく移れる賀状読む
【栢野桂山】

狂ひ咲く紫木蓮また寒木瓜と
弱り行く足鍛へんと青き踏む
藺草干す三日で仕上るよき日差し
蝉時雨伴奏にして早夕餉
【故 近岡忠子】
 これは姉忠子が入院中の病室で詠んだ最後の句となりました。これを書き終えた翌日、静かに眼を閉じました。長い間色々と御指導下され、心からお礼申し上げます。(二〇〇七年十二月十九日 弟小野浮雲生)

 こういう俳句とお礼の言葉を頂きました。俳句の同志の一人として心より哀悼の意を捧げます。(栢野桂山)


短歌 (選者=渡辺光)


新年に「年の初めのためしとて」と昔唄いし歌の懐かし
新年は如何にと問いて便りするアラカジュに住む吾子を思いて
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:二、三ヶ所添削しています。今年も頑張りましょう。)

慰霊祭お墓に集う縁者達三十六人粛粛として
死ぬまでは酒は止めぬと言う友は呑ん兵天国の住人ならん
死して後次の世とかがあるならば俺は行きたし呑ん兵天国
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(評:酒豪家には禁酒という言葉はないのかも知れませんね。)

移り来て幾星霜も練成受け未だ国歌も歌えぬままに
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:ブラジル国歌は我々日本人にはなかなか覚えられませんね。長い歌詞ですから。)

今少し朝日浴びよと語りかけサーラに置きし盆樹数鉢
夜の雨にアバカテの葉は朝日受け光りつつ舞う眩しきまでに
【ナザレー老壮会 波多野敬子】
(評:何はともあれ作歌の心が動いたことは良いことです。あせらず続けましょう。)

新しき年を迎えて健やかに生きる命を有難く思う
この夏は訃報が多し日本の弟妹達は如何にいますや
枝を曳くままに終らん残生かクチナシの咲く庭に佇む
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:一日一日を健やかに過される事の幸せは何よりです。)

縁起などかつぐことなく還暦も古稀も祝わず傘寿を越えたり
良き結果願いて仰ぐ大空に心ともなし雲去来する
子の年を七巡りして恙なく新年祝う八十四歳
【スザノ福栄会 原君子】
(評:年齢など考えさせない和やかな歌の出来上がりです。)

降りてよし晴れてまたよしイタペチの山を眺めて老後は愉のし
子の年を七たび迎う友の居て笑顔で幸せ挨拶交わす
苦になりし俳句と短歌まとまりて今宵気楽にカラオケに行く
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:毎日が楽しい。それが歌に詠まれて幸せですね。)

長かりし旱のつぐないせる如く降り出し雨は今日で十日目
木曽川のほとりでつみしヨモギとう餅をいただく帰伯の友より
精霊菊雨後の道辺に清々し恙もあらず年暮れんとす
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首共に良い歌に出来上がりました。)

コロコロの掃除機使えと息子がくれて部屋中きれいになりて楽しき
孫達の開店祝いに息子等と行く財布はたいて弾む買い物
【スザノ福栄会 黒木フク】
(評:良い買物ができましたか?子等ありてこそ幸せですね。)

アイルトン、セーナ自動車教習所十五の孫の練習を見る
家族連れ多いセーナの教習所今日は日曜活気に満る
Tシャツの赤き娘が二人居てことさら目立つ教習所は
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:将来はF1ドライバーですか?微笑ましいですね。)

八十の誕生日に賜いし蘭の花サーラいっぱい香りただよう
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:花に囲まれた誕生日、おめでたいことですね。)

叢のあわいに青虫横たわる蟻と戦いし結末なりや
【セントロ桜会 上田幸音】
(評:三句と四句の間を一字あけると感じがでます。)

朝顔の枯れたる如きつるの先朝ごと咲きてひとりごちする
【セントロ桜会 鳥越歌子】
(評:朝顔は場所によっては何度も咲くようです。)

荒雨に洗われし道歩みつつ大地踏みし確かめて居り
【セントロ桜会 藤田あや子】
(評:石の街の生活より土の町の生活がもっとも人間らしいと思います。)

昨年は一度も返信なき友に賀状にそえて安否を伺う
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:現代ではペンを取ることも友を思うことも少なくなりましたが、良いことですね。)

夏の雨雷をともない降りたれば庭の草花をいためつけたり
【セントロ桜会 上岡寿美子】
(評:人生に於いても痛みつけられる事がありますが、だから立ち上がる勇気が必要ですね。)

新しき年を祝いて息子等がかけくるる電話に幸せ満つる
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:良い子供達に恵まれて幸せいっぱいですね。)

さからわず時の流れに従きゆかむ涼しき朝を蘭に寄りゆく
父よりも祖父よりも齢重ねきて異国の空に初日を仰ぐ
独り身を移り来し日もはるかなりうからと共に穏やかな日々
【グァイーラ 金子三郎】
(評:三首共良くまとめられました。長寿で幸せです。)

好物の冷奴に醤油の過ぎたりと血圧あげし友の嘆ける
失恋も五回目という男性(ひと)の声渋く唄い聞かせる佐渡の恋歌
頂きし山梔子の花捨てて来し旧家思いて匂いたちくる
【セントロ桜会 野村康】
(評:塩分とりすぎて血圧を上げ、人に恋焦がれて血圧上昇。)

訪ね来し娘等と共に新年を心をこめてささやかに祝う
頂きし友の賀状を手にしてはブラ拓時代のあの頃偲びぬ
【ミランドポリス 湯朝夏子】

年も暮れ暦も一枚残りいる時計の針も刻きざみおり
【ツッパン寿会 上村秀雄】

皇室の繁栄祈りブラジルの祝百周年皇太子様待つ
年寄りと子供集まる「ふれ合い会」活け花満杯旅行の話題
大晦日東洋街で餅搗きす茅の輪くぐり無病息災
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】


川柳


先駆者え移民感謝の祭り唄
紆余曲折それぞれ好みの道を行く
原点に戻せば移民にある神戸
年重ね歳を気にせず句作の灯
一喜一憂人生明日の夢を追う
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

只祈るだけでは願い届かない
神様も地球温暖手を貸さず
天裁く人間共の身勝手を
皺の顔節くれの手で移民の日
大欲の願ひ叶えば浮ばれる
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

不足とてなき友の愚痴黙り聞く
コドルノの卵で余命養なわん
三年もたって知人の訃を知れる
科学的検査で病原つき止めし
踏み込んだ意見を出せば厭やがられ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

飯粒で手紙の封をせし世代
かまぼこ板で飯粒糊を作る技
工夫して廃物利用して育ち
飯粒と理屈はどこにでも付くと
身体八膚五臓六腑を撮るカメラ
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】

又一つ年を重ねて行く旅路
変哲もなく平凡な年迎え
ひとごとと思えず明日を誰が知るや
当て外れ娘の家で休む気も
昨日まで鳴き居し鳥よ今日鳴かず
【セントロ桜会 矢野恵美子】

独り居は正月酒に酔ひて寝る
怠け癖ついて出来ない窓掃除
目ざましをかけず時間に目を覚ます
御詠歌をかけて夜毎に母憶ふ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

気品ある家紋の額を掲げもし
国際のスピード郵便着く初日
百周年幕開き日舞の踊り初め
教え児の賀状を捧ぐ姉の墓
暇人か東洋街の椅子に座し
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

露天商に押しつけられ買うアバカシー
便秘らしキャーボ山程買う女
お茶漬けに梅干し振りかけ塩昆布
少しずつ身辺整理老の秋
老一人今日足何処まで伸そうか
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

夕立に犬もぐり込む雨やどり
尋ね犬謝礼は不要まい戻り
ビール酌む朝の女に只あきれ
我れ七十鬼の居ぬ間に背をのばす
【セントロ桜会 森川玲子】


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