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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年4月号

2008年4月号 (2008/04/07) 俳句 (選者=栢野桂山)


雪の富士仰ぎ父祖の地知る旅に
棘のみの毬割れ顔出す栗の艶
威勢よきお神輿渡御もカーニバル
【名越つぎ代】

評: 新幹線で通る時、仲々見ることができなかった雪を被った富士を見た。富士は古来より日本を象徴する霊山として崇められていて、身も心も浄められた思いがして、これが祖父母が代々生きてきた、美しい祖国だ!と思った。


お供物を拝むしぐさや嫁が君
夜襲蟻に家を委ねて引くを待つ
あけすけに物言ふ娘と居て涼し
【猪野ミツエ】

評: 何事も包みかくさずはっきり物を言う娘は、いかにもブラジル育ちらしくのびのびとして気持ちが良いもの。感覚としてよりも娘の性格をとらえ、涼しと感じて成功した句。


注連飾綯う腕たしか老移民
賜わりし卒寿初日の出に感謝
椅子席に畏りたる初茶の湯
【風間慧一郎】

評: 初茶の湯は釜始、初手前とも言われ、新年初めて催す茶の湯を言う。コロニアでは畳の間に坐って、初茶を頂くことは望めず、椅子に掛けて何んとも窮屈な起居が想像されて面白い。


久々に手を取りあいて菊日和
青春を跣足で過せし足の傷
指先に土の温もり菊根分
【吉崎貞子】

評: 我々子供移民の青春時代は靴も買えず、跣足でコーヒー園の草取りや、棉摘みに励んだもの。その頃何かで切った足の傷跡が今も残っていて、青春時代を懐しく思うのである。


みちのくの婚家の雑煮と六十年
海に射す陽に傘広げ大海月
八頭身は異人の母似ビキニの娘
【佐藤孝子】

評: みちのくとは東北地方の古語で、道の奥のこと。我々移民の結婚は、縁があれば青森の人と九州の人が結ばれた。そして故郷のちがう変った雑煮を味わって、その一生を過すこともある。この句は平明のようであるが、仲々の含蓄があって、こういう句に出合ったことがないような気がする。


生殺は医師の手にあり蚯蚓鳴く
病窓に新緑きらきら雨後の朝
【岡本朝子】

評: 重い病気になると本人はどうすることもできず、生きるも死すも医師の匙一つにかかってくる。この「医師の手にあり」とは、その生死を委ねて己れの命運を待つ、という諦観の気があること。その夜更に庭の何処かで蚯蚓のジーッというのが聴えた。実際は蚯蚓は鳴かず、けらの声というが、何か命運を告げているように聞いた。


舞を見せ酔ふごとよろけ駝鳥の仔
足音に夜学帰りの吾子と知る
【畠山てるえ】

評: 最近駝鳥の肉が注目され、その飼育が盛んになりつつあると聞く。その牧場生れの駝鳥の仔が、まだ羽根の揃わぬままに舞いを見せたが、その折によろけたさまが、人の酔ったさまに似ていて面白かった。


月毎の泰西名画初暦
斧疵を包み樹脂噴く大夏木
月見草蝶と戯ることもなく
【菅原岩山】

俳友の安否尋ねん雲の峰
百歳ののぞみ果せず逝ける夏
【大岩和男】

車椅子押して歩むや菊日和
招き猫まかり出でたるサンバ山車
【遠藤皖子】

夜学子の靴音に鼻鳴らす犬
居眠りを見逃し呉るる夜学の師
【杉本良江】

衣被好く娘にホ句の手ほどきを
母仕込みリモンの香ある新豆腐
【野村康】

独り住むスイナンの垣めぐらせて
笠戸丸苦楽の歴史星まつる
【中川操】

今は亡き友の形見の彼岸花
椰子の葉のおどろに揺れる夏嵐
【井出香哉】

にこやかな桃生遺影と初句会
詩集読むベンチの人に落し文
【木村都由子】

元旦と言えど孫等の喧嘩声
池飾り見物に咲いて蓮の花
【小野浮雲生】

サビア鳴く米寿を前に姉逝けり
北伯の幼な子真裸にて育つ
【矢萩秀子】

庭に咲く花供えんと初詣
森ふかく海岸添いに夏の旅
【玉置四十華】

遅月の少し歪みて暈の中
雨止めば掃くほども出て蝸虫
【林田てる女】

母の日や無学な母に夢ありて
目借どき読経の声のかすれがち
【前橋光子】

こぼれそう大樹塒の渡り鳥
生命の息吹きある如菊人形
【矢野恵美子】

移民村児童跣足で学校へ
鳥渡る空に道あり古里へ
【宇佐見テル子】

雨上り風さへ吹かぬ残暑かな
夕空にくの字を画いて渡り鳥
【酒屋登喜子】

奏見事日伯伝統音楽祭
古稀の友すこやかにして菊手入
【軽部孝子】

活けられて野にある心秋の草
群れ渡る鳥は秩序を守りつつ
【星野耕太】

余後の身や秋の暑さに耐えねばと
大ダムの波荒き日や鳥渡る
【纐纈喜月】

車窓越し初秋の気配あちこちに
夜学にて日語励みし開拓期
【東野外喜雄】

カラオケの舞台に並ぶ菊の鉢
メトロ中居ならぶ若き夜学生
【山田富子】

花卉祭二人晴れやか菊人形
小雨中子等の嬌声栗拾い
【原口貴美子】

夏時間終り長袖昨日今日
預りし小犬の世話も夏休
【矢島みどり】

骨のみの凧高からぬ庭の木に
夏落葉まだ落ちるかと箒手に
【伊津野朝民】

忘れ勝ちなる方言や手毬唄
独楽手毬後生大事に米寿かな
【伊津野静】

気持切り替へ爽やかに空青し
水母とは知らで踏み居し跣足の子
【清水もと子】

ピツカパウら固い木好み啄き居り
流れ星地球にぶつかる夢を見て
【上坊寺青雲】

真向いのイタペチ山のクワレズマ
娘を訪へるサントス路のクワレズマ
【青柳房治】

孫二人USP合格天高し
届きたる冬の和田浦新ごよみ
【青柳ます】

表紙絵の黒目可愛ゆいグァラナの実
百周年の日系称ふサンバ団
【本広為子】

下向いて花の愁いのシクラメン
遠近にクワレズマ咲き終へし丘
【星井文子】

雪達磨百周年のお祝ひに
笠戸丸偲びつ祝ふ百周年
【杉本鶴代】

裏庭は吾のオアシス花手入
百年祭日本よりの知名人
【黒木ふく】

伸び上り老婆等撫でる雪達磨
雪だるま見せかき氷と氷菓売る
【寺尾芳子】

油虫捕り貧乏に馴れし猫
親竹の声援に伸び今年竹
成人の日や虚弱児の吾娘育ち
砂文字を消して波去る桜貝
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


中国の食品会社疑惑うけ消費者達を不安がらせる
嬰児抱き共に踊りをたのしみて仲睦まじき若き夫婦は
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:二首共添削あり。時事短歌はニュースのコピーになり勝ちです。素材選択に要注意。)

草伸びる牧場の木陰に涼をとる汗の背中に微風心地よく
青空に雲雀の囀り聴きしことや野道走りし杳きを憶いぬ
最果ての波濤の彼方に移住して帰国の夢は今も果せず
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:三首共添削してみました。原作と比較してみて下さい。自作を再読される事が大切だと思います。)

百周年上塚翁の名は残り移住者達の胸に咲く花
皇太子迎えて祝う百年祭舞えば歌えば泪こぼるる
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一首目言葉を変えてみました。百周年で初期移民の苦労が偲ばれます。良くまとまりました。)


蘭の花今朝開きしと日記に付け吾子の訪れたのしみており
時折に古きアルバム開きては幼なき頃の吾子らを偲ぶ
一日を事なく過ごし床に就く恙なき身の有難きかな
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:三首若干添削あり。良くまとめられました。)

いつしかに習慣となりし末の娘は初物は先ず仏前に供う
紀元節に紅白の菓子頂きし少年の頃思い出しおり
【グァイーラ 金子三郎】
(評:二首共若干添削しましたが、良くまとまっています。)

一鉢に盛られし花の自然の美心にゆとり湧きて眺むる
よく喋る三歳となる曾孫おりぢいに似たると子や孫の言う
足弱な妻を支えしセ広場ひったくり来て体当たりせり
花器花材持ち来て活けるお師匠の無料奉仕に深く感謝す
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:歌意から一首目「花に盛られし」は「盛られし花の」に入れ替え、結句は現在形に。二首目の結句は過去形にします。素材選択は流石ですね。)

思い出の遠のく故郷も寒かりき雪深き景のテレビ見つめる
ベンチビー何処で鳴くのか声澄みて陽の差しくれどなおも眠気さす
【ピエダーデ 中易照子】
(評:二首共若干添削してみました。一首のリズムと流れを大切にしましょう。)

潔らかに掃除されたる奥つ城供えし菊の朝日に映ゆる
未だ若き友黄泉に旅立ちぬ人の命の儚さ思う
雨に泣き雨に喜ぶお百姓自然の恵みの尊さを知る
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:一首目の「お墓」を「奥つ城」、二首目「友逝きて」を「黄泉の旅」とリズムを合わせるため変更しました。再読すると自分の歌のリズムが分かってきます。)

大学ビル覆いし霧が雨となり学生は衿立て小走りに行く
早暁のラヂオ体操見事なる一糸乱れぬ団体の美
お釈迦様天上天下指して立ち金色に光り店舗に在す
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:ラヂオ体操は朝が早く、リズムに合わせてきれいなものですね。一、二首少し言葉を変えてみました。)

先輩の歌友は歩行ままならず月に一、二度会うがたのしみ
【セントロ桜会 大志田良子】

わずかなる土地に植えし紫蘇はびこりてそよ吹く風にさゆらぐが見ゆ
【セントロ桜会 富樫苓子】

ばあちゃんの玩具と孫にことわりて干瓢作る青空の下
【セントロ桜会 藤田あや子】

朝毎に一輪ずつ開く朝顔にいつも目覚がたのしくなりぬ
【セントロ桜会 板谷幸子】

残生の多からぬこと思いつつ仰ぐ大空果しなき空
【セントロ桜会 井本司都子】

微風にも音なく散りゆく花あれど幹には早くも新芽顔出す
【セントロ桜会 上田幸音】

バス、メトロ、バスと乗り換え歌会に月に一度の集いたのしき
【セントロ桜会 上岡寿美子】

利根こえて太鼓の音きこゆ夕べの岸辺に憩いておれば
裏庭の蓬の花に降りかかる小雨に浮かぶ過ぎしことども
すきな唄くちずさみつつ野の道を行けば小菊やコスモス咲いて
【スザノ福栄会 青柳房治】

長男に老後をまかせ一安堵庭の草取り汗をかきつつ
杖なしで歩ける手術すすめられ検査のために娘と共に
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:一、二首若干添削しました。まとまっています。)

尾の長きハサミ鳥来て庭の木を剪定するがに音の聞こゆる
記念日の長寿の心得記したる湯呑で頂く銘茶の香り
絡まりてのぼりつめたる昼顔の屋根の上にも咲かせておりぬ
【スザノ福栄会 原君子】
(評:三首目の結句の言葉をかえてみました。)

ふるさとの妹よりの初電話一年振りの消息を知る
憧れのコーヒーマット戴きて金持ち気分で食卓につく
言の葉の裏も聞きおり夫の言う「うるさいなあ」に腹も立てずに
【スザノ福栄会 青柳ます】

植え込みの夾竹桃のさゆらぎて雨も来るらし雲はしりゆく
夏たけて街を彩る百日紅日傘傾け通る人あり
【セントロ桜会 野村康】
(評:一、二首共添削あり。比較されたし。素材良好。)

大輪の紫陽花咲きて道の辺の花明りせり小雨降る中
高原のファゼンダは心地よく三日の宿泊短かく思えり
朝毎の散歩の道は杖つきて高きに登ればパラチが見える
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:一二首若干添削あり。良くまとまっています。)

ホームレスの道路清掃の老人は夜はスーツで教会に行く
日照草色とりどりの花咲かせかぞえつつ見る老のひと時
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:一首目は面白い素材ですね。カタカナ語を使って若い人の歌の様にしてみました。)


川柳


移民史を築く先駆の底力
父よりも母思ひやる子に育ち
先駆者の汗と涙の開拓史
山裾の広さ忘れた高い山
論戦の果ては気まづさ丈残り
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

現在が大切過去は語らずに
認知症らし同じ事繰り返し
家庭円満生きる力の基となり
文明が進み過ぎたる温暖化
自動車が多いとて町は誇れない
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

貧乏に付き合い呉れて共白髪
何事も笑い見過す処世術
自動車を走る棺桶とは悲し
名を惜むなどと本能隠す人
手術して視力戻らずミシン踏む
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

築き来た苦難百年花が咲き
一世は移民百年最後なる
移民百年天地の神に謝するのみ
終着駅空に煌めく星一つ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

山の朝囀る鳥をうるさがり
人を恋い人を恐れて山の道
九十九折り自動車のバンドしかと締め
竹林をくぐり老女も乙女めき
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

八十路坂背を押し呉れし身内あり
夢の中ひと花咲かせたき思い
古写真我が青春のひとかけら
米寿とは他人事の如思ひしが
【セントロ桜会 矢野恵美子】

日本人の純血守りここに生く
積心館憩の場所よ百年祭
百周年祝ってプロのゴルファ来
日本情緒豊かな公園完成す
大鳥居日系心の寄りどころ
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

中国会社調査進まず毒ぎょうざ
輸入品格安なれど危険なり
国産の無毒の野菜人気出て
近辺の野菜を使うレストラン
【サントス伯寿会 三上治子】

食べたくもポケをおそれる茗荷の子
知事殿等呉越同舟漫遊へ
公金は外国に出て万能に
何事も自分本位の今の世は
父の書斎今は息子があるじなり
【セントロ桜会 森川玲子】

按配に浮世の波に乗って来し
大相撲蒙古襲来の如くなり
肝心な要件忘れ長電話
脳の皺無くなり顔の皺が増え
散ることを知らぬ造花の塵払ふ
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】


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