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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年6月号

2008年6月号 (2008/06/16) 俳句 (選者=栢野桂山)


聖母の名唱ふ行列受難の日
夫在りし日のごと点し夜なべの灯
名水の湧き出づ里の新豆腐
【杉本良江】

評: 日本酒の出来の良し悪しは水が決定すると言うが、茶を点てるにも豆腐造りも同じようだ。名水の湧き出る里を訪ねて、その美味が自慢の新豆腐を戴いた句。


懐しき父母の思い出夜なべ更く
一と雨の来るたび冬の気配聞く
孤児院へ送り届けて冬支度
【矢野恵美子】

評: 日系の婦人会の全員が各家庭を訪ねて、不要となって箪笥にしまってあった冬物を貰って集めたのを、町の孤児院の冬支度のために届けた。移民百周年の年にこういう隠れた行いが大切。


百歳の媼が一番甘茶かけ
青い地球滅ぼす勿れ大地の日
百年祭祝ぐすずらん燈市の寄贈
【寺尾芳子】

評: 宇宙から初めて地球を見たロシアの飛行士が「地球は青い」と言った。四月十五日は大地の日で、地球の青い森が伐られて砂漠化するのを懸念して、青い大地を守ろうと大地の日が定められた。それを大切にしたいという女性の句。


水田王渡伯陸稲に取組みぬ
大根蒔き呼寄花嫁落着きぬ
庭の芝青く照らして秋蛍
【佐藤孝子】

評: 大きな水田農家が渡伯して、日本に輪を掛けた大掛りな陸稲作りを成功させた―と言う。ミナスか麻州での日本移民の物語り。


土香萩ゲートボールの碑を包み
風に揺れパイナま白き並木道
【杉本鶴代】

評: 福博村にゲートボールの発祥の碑があり、土香萩がそれを咲き包んでいる。その萩を愛し俳句や小説で名を成した小滝土香を偲んで仲間が土香萩と名付けた。土香萩と聞けば萩とも思わるる 滑稽楼


訪伯の僧の法話や仏生会
ででむし這ふ家なき民の天幕村
【林田てる女】

評: 風が吹くたびにぱたぱたと音を立てる。土地も家も無い天幕で暮す村が、この豊かな国にもある。その天幕の裾を殻という家を持った蝸牛が、安堵した様子で這っている。対照が一寸皮肉で面白い。


放屁して跳ねて牧場の馬肥ゆる
さやさやと椰子の葉ずれに月のぼる
【纐纈喜月】

遠き日々南瓜で命つなぎ来し
水平線真赤陽昇る浜の秋
【遠藤皖子】

一人居の開放感に秋たのし
園日和千本のバラ目のあたり
【山田富子】

乳児眠かせ一息ついて夜なべかな
よく熟れた南瓜のジャムの甘さかな
【宇佐見テル子】

書き疲れ読み疲れ月のぼる窓
かんと鳴る野球のバット秋高し
【畠山てるえ】

濡紙を剥かす如くに熟柿むく
満月を串刺しにしてテレビ塔
【星野耕太】

明日出荷のトマテ選別する夜なべ
柿農園父の後継ぎ四十年
【原口貴美子】

貧しさの夜なべに更けし青春時
わびしさに窓に寄り添ふ星月夜
【荘司恵美子】

渋柿を一口かじりし孫の顔
遠き日の母の手料理南瓜の芽
【酒屋登喜子】

高台の畑に恵みの秋夕立
奥地旅続くかぎりの甘蔗畑
【黒木ふく】

芸能祭故郷へ届けと大太鼓
客人にシャッター頼む花祭
【軽部孝子】

日ごと来て小鳥熟柿を啄みつくす
山家訪ふおくどに匂ふ焼茄子
【吉崎貞子】

春風に闘志いだきて百周年
澄み切った日射しにリベイラ富士聳え
【小野浮雲生】

茶摘みとは腰に篭つけ頬被
シャツズボン滴る汗が塩となり
【大岩和男】

招き猫わが店愛し年守る
柿熟れて小鳥嬉しくはしゃぐ声
【彭鄭美智】

サウバ蟻行列長く道遠し
ジャズミンの香る狭庭の小人像
【岡村静子】

一人居の夜の静けさに遠蛙
夕暮れや二三羽蝙蝠飛び廻り
【矢萩秀子】

美しき歯並のムラタ青葡萄
浜千鳥はち切れそうな水着の娘
【中川操】

荒れ果てし畑に茶の花咲く日和
姉さんの形見の花瓶菊活けて
【玉置四十華】

爽やかな御法話葡語を交えつつ
初嵐散らす机上の覚え書
【風間慧一郎】

色派手に森の贈呈落葉かな
童歌風に乗り来る秋夕べ
【伊藤桂花】

穴まどひ昔ナチスのかくれ里
枝豆をおちよ口にして平げし
【香山和栄】

新涼や句友の水茎あでやかな
糸瓜水取る化粧水買えぬ頃
【猪野ミツエ】

朝寒や言はずもがなの事言うて
敗荷や耕地に残る三家族
【伊津野静】

ホ句秋の句材そこそこ旅一と日
寒紅や老ひて忘れぬ身だしなみ
【伊津野朝民】

初花の鉢植え蜜柑のいとおしく
窓開けて吹きこむ風に秋を知る
【井出香哉】

連日の時雨に泣いて行商女
時ならぬ雷雨はげしき昼下り
【矢島みどり】

齢重ね雅やかとも旅人木
サーカスの客呼ぶジンタ鰯雲
【菅原岩山】

懐しの故郷の旅柿紅葉
鹿の肉一番御馳走墾の卓
【上坊寺青雲】

カピバラの単独行動湿原に
水澄める池にうつれる尾長猿
【青柳ます】

尼様が掌を添えかける甘茶かな
見まねして甘茶の杓をとりにけり
【清水もと子】

水澄むや岸に鷺佇つ山の湖
大地の日地主に憧れ逝きし父
【野村康】

秋蝉の慟哭を聞く甥の葬
火焔樹は熱血の花炎えて咲く
【木村都由子】

甘茶かける老人ホームの花祭
ありまきが大好物の天道虫
【三上治子】

エタノール産す甘蔗の地平まで
未枯れてピッコンカラビショ棘荒し
【名越つぎ代】

画布と人との間流れ霧寒し
霧寒しシグナル五つ越え逢ひに
花野行く皺なき卓布食堂車
花圃を踏み荒し冬眠覚めし亀
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


生きている事の幸せ想いつつ夕焼け空を仰ぎていたり
冷え冷えと義歯洗いつつひたすらに老いゆく吾の命いとしむ
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:三首投稿のうち一首は先月発表した作品でしたので、投稿しませんでした。他の二首は良い仕上がりです。)

濯ぎもの干し終え庭の草取りも生きていることの幸せなりき
心臓の専門病院検査前四時間絶食午後の二時なり
窓外の庭見る日課躑躅の陰に待ちいし蘭の蕾出始む
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:一首目助詞の補足、二首目は結句を終止形にした方が決まります。夫々良くまとまっています。)

ウオーキングを兼ねてポン買う朝々の清しい気持ち一と日を支え
降り初めし雨の音にも気ずかずにTVの相撲に心とられる
【スザノ福栄会 原君子】
(評:二首共素材を生かされて良い出来上がりです。)

今は亡き友が顕ちくる「古関ですいや大関です」と自己紹介の
乗り継ぎて六〇〇キロを訪ねくれし八十路の友矍鑠として
日本移民百周年に来伯の宝井琴梅の講談を聴く
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:一首目は面白い発想です。二首目漢字訂正、良い作品です。)

百周年祝う日本の音楽が今日も響かうスザノの公園
「東声」作校歌唄えば聖市に住むゆかりの君の面影が顕つ
アチバイアの弘田師を訪い帰り路に秋日にしずもるイガラツタ湖見ゆ
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:ゆかりの君とはどんな人でしょう?三首目結句は「ゆ」を入れた方が良いようです。字余りでも。)

塩分を控えし効果のあらわれて細くなりたる足くびさする
友の唄う民謡ききつつ日本の風土偲ばる父母のルーツも
恙なく平和に暮らす吾にして心離れぬこと一つあり
【セントロ桜会 野村康】
(評:良い出来です。三首目の「心離れぬこと一つ」とは何でしょう?)

秋雨の冷たく降りしくバス停に勤め帰りの人等列なす
夕暮れの時は迫りて帰宅する人は群なしビルの間を
老い夫に助けられつつ行く旅の路今一番の幸せのとき
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:一首目の「降れる」を「降りしく」に、二首目は言葉を入れ替えてみました。三首目はリズムをとるため「旅の路」としました。良い素材です。)

一月で日本移民の日が来る皆で寿ぐ百周年祭
サンパウロ日本移民百周年知事も祝いぬバンデイランテス宮
最大の意義ある年の百周年大和撫子の栄えある祭り
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:移民百周年でコロニアも盛り上っています。元気で祝い度いものですね。一、三首若干添削。)

寒風の身を刺す朝も夫婦してウォーキングするを日課とせり
NHKにて「不義にして富まず」の言葉忘れぬように書き留めており
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一首目下の句を若干言葉を変えました。二首目は字余りのため少し変更しました。)

朝陽浴び湖畔を巡り語り合うを我等夫婦は日課となせり
停年になるも贔屓の客あり止められぬと言う美容師なる妻
古里の出で湯のタオルで顔を拭く今日のひと日に幸あれかしと
【グァイーラ 金子三郎】
(評:一首目若干添削、二首目は字余りで少し変更しました。身近な素材が生きています。幸せな毎日が感じとれます。)

国の為つくした功績忘れてか罪をあばきて悪し様にせり
まざまざと己が心をさらけだしこれでも国の政治家なのか
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:内容に具体性がないので分かりにくいのですが、こんな場合、註釈を入れておいたら良いと思います。)

鯉幟五月節句を威勢よく日本国中の大空に舞う
息子らは二千五百キロの道程を訪いくれてアラカジュに帰る
今日もまた生かされていしを悦びて感謝の涙頬を伝いぬ
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:二首目は言葉を入れ替えてみました。良い仕上りです。)

想わざる自動車事故で投げ出され腰骨折るも命助かる
心ある人等によりて病院に担ぎ込まれて命長らう
運命か神の庇護にて生あるを感謝の心で今を生きつぐ
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(評:交通事故に遭われた由、大変でしたね。神の御守護でしょうから、これからもっと長生きされますよ。きっと。)

恩師逝き久留米の便り金絶えけり馴染の友等如何にお座すや
愛娘早くも帰伯し五年過ぐ日本語会話も忘れかけおり
旅立ちに母が漬けたる梅干を小樽に詰めしをコーヒー園に食ぶ
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:一首目の結句を変化させました。素材良好で、判り易く仕上っています。)

亡き夫の生れ月なる皐月の日遥かなる世の夫に挨拶す
お母さん風邪の予防注射はしましたかと子等が電話で気遣いくるる
忘れ得ぬ京都に住まう妹の頭弱りしと姪の便りに
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:子供さん達の気遣い倖せですが、三首目は逆に心配ですね。人生交々。)

スイナンの古木はすでに葉を落し花あかあかと燃えたちており
平凡に暮して米寿を前にして百周年を祝う倖せ
描き上げし双鶴友が見ていしが首短かしと指摘されたり
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:一首目若干言葉を変えてみましたが?三首共良くまとまっています。)

土佐に生れ北海道からブラジルと移り来し祖母パラナに眠る
年とれば取るほど祖母に良く似るとパラナの従弟吾を迎えて
【セントロ桜会 藤田あや子】

わずかなる庭を彩る赤き実の万両に鳥も近付き憩う
行きずりの老人我と同じにて杖付き影を引きつつ行けり
【セントロ桜会 上田幸音】

自分では気付かざりしが若き日に撮りたる写真は意外と美男
半世紀ぶりに逢いたる友の面変り名のれど急に思いいだせず
【サンパウロ 梅崎嘉明】

補聴器をかけているのに聞きとれず繰返しても電話が遠し
カニサボテン丸く愛しくふくらみて五月を迎えいっせいに咲く
【セントロ桜会 大志田良子】

すみれ会老いも若きも手をとりて温もり伝う演歌の絆
学生の引け時道路は渋滞で杖つく我は立ち止まりおり
【セントロ桜会 鳥越歌子】
(評:二首目は字余りになっていますので若干言葉を変えました。)

今は亡き友が植えたる「ダーマデノイテ」日暮れとともに香ただよう
わたしにはここが第二の古里と悟りし時より心安らぐ
【セントロ桜会 板谷幸子】

ピッコンをおひたしにして食べしこと唯一の野菜でありしあの頃
そのかみは生めよ増やせよと八人も九人も子を持ち幸せなりき
【セントロ桜会 上岡寿美子】

鉢植えの朝顔日々に伸び早くこの幾日か吾のたのしみ
カニサボテンわれもわれもと競うがに咲きはじめたり紅きも白も
【セントロ桜会 井本司都子】

市役所の植えたる街の牛蹄木花咲きそめて歩道明るむ
急激な寒さにあわてて愛犬に編みたるチョッキ着せてやりたり
【セントロ桜会 富樫苓子】


川柳


運命は神の庇護あり生き伸びて
人生は八十四才神まかせ
自動車事故腰骨折るも頭を打たで
今日も亦痛みに耐えて一と日過ぐ
生かされる感謝の心忘れずに
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】
(注:作者は最近、自動車事故に遭い、腰の骨折と云う大怪我をされた。気丈な方と存じます。一日も早く本復されるをお祈りします。)

生き別れして移り来て永住す
酒故か詩心湧けば絵心も
云い過ぎた覚もなきに誤解され
活け花の流派見分ける眼は未だ
やりくりと子育て苦労の妻の過去
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】

特技なくも齢が取得と崇められ
老人会回春剤に役立ちて
卒寿越し本気で死など考えず
備えなく憂いがあってずぶ濡れる
取りつかる程に川柳魅力あり
【アチバイア清流クラブ 吉野幸輔】

米寿過ぎ後は悠々暮すのみ
米寿とはよくぞここまで生きて来し
拙づくとも綴る川柳生き甲斐に
惚けもせずホームの友はにこやかに
辛い事ばかりでなかった我が歩み
【セントロ桜会 矢野恵美子】

国宝が展示されるや百周年
先駆者のルーツ巡りのバスの旅
百周年思い出写真編集す
笠戸丸のルーツを辿る百周年
ブラジルで国宝銘刀披露さる
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

曼珠沙華咲り誇りして人を呼ぶ
人見えずカペーラの門閉ざれて
食欲の秋とは云えどダイエット
健康の為にとひたすら野を歩く
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

都落ちして豪邸に住んでおり
勿体ないもったいないと仕舞いこみ
聖像にドローが詰めこむ罰当り
大乳房ゆすり上げつつサンバ踏む
カルナバル三世代は勇ましく
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

近くても遠いゴールの運動会
運動会意気込みだけでは駄目だった
走っても歩くが如き老の足
岩のぼり恥かしながら四つ這いで
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

猛暑去りオニブスの中声高に
老人会のビンゴ数字に胸はずむ
生も死も病院となる新時代
熟年期人生列車なに急ぐ
【セントロ桜会 森川玲子】

恩忘れ反対党が罪かぶせ
政治家の夢国民の幸せを
国民はテレビの論争見守って
根気良き福祉シニヤに支えられ
【サントス伯寿会 三上治子】
(注:川柳とか俳句で個人を名指ししての批判の句は余り感心出来ない。特に川柳は自分の身辺の雑事を詠むを歓迎されるもので、材料はいくらでも有ります。選者)


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