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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年7月号

2008年7月号 (2008/07/15) 俳句 (選者=栢野桂山)


冬そうび屋上庭園華やげり
母の日や海越え届く祝電話
母の日や三代の母集ひ来て
【遠藤皖子】

評: 高齢であるが元気な祖母、一家の主婦として切盛りしてきた母、働き盛りの孫の嫁と三代の母が居るのはコロニアではよくあること。今日は母の日だというので、同族の者が仲良く大勢集って、盛大に祝福して貰うとはお目出度い。


言いたきこと胸におさめて銀河見る
長き夜々夢の一生ふり返る
冬銀河流れるはてにある祖国
【宇佐見テル子】

評: 冬の夜空に白く光って河のようなのが冬銀河。その果てにまだ見ぬ祖国があるのだと、慕わしく思うブラジル育ちの作者。


露一滴落ちて水輪を描きけり
火焔木俄かにふえて雑居ビル
神の旗古りて一族信篤き
【猪野ミツエ】

評: サンジョン祭の夜、聖ヨハネや聖ペドロの絵旗をかかげ、収穫した稲穂など結びつけて豊作を祈るのが、この国の敬虔なカトリコである。この絵旗は古びているのは、先祖代々信仰が篤かったあかしである。


珈琲にかけし訪日霜に消え
落葉掻き無くせし玩具見付けたり
鶏が寄り来て邪魔な落葉掻き
【畠山てるえ】

評: 豊作を予定して訪日を計画していた矢先、思いがけぬ霜害でコーヒー園が全滅して、その楽しい夢が吹き飛んでしまった。パラナ州のコーヒー作りではそれが多く、サンパウロ州でもよくあった悲劇。


三聖者を画きて文盲神の旗
宵闇や手を置く妻の肩も老い
逆縁の句ばかり出来てホ句の秋
【佐藤孝子】

評: 仲秋の遅い月の出るまでの暗さを宵闇という。日本人の老夫婦は派手な愛情の表現を人に見られたくないので、この宵闇の折に妻の肩に手を置いたところ、仕事や子育てで苦労を重ねた肩は思いがけなくごつごつとしたていた。


逃げ足の早き落葉を掃き集め
車窓より風景変る鰯雲
ポンの耳得んと朝々寒雀
【吉崎貞子】

評: ポンの耳は固いので歯のよくない老人の居る家庭では捨てることがある。それを賢い寒雀が待っている景を詠んだ。こういう風に小さいことがらを発見したのを佳句と言う。


百周年の賞金はずむ運動会
金坑跡見学旅行奴隷の日
【杉本鶴代】

評: 昔、金鉱を掘削するという厳しい労働には奴隷が使用された。今日は奴隷解放の日(五月十三日)だというので、そういう歴史に興味のある団体が、奴隷の血と汗を流した金鉱掘削の跡を見学した。


半ズボンの親子お揃ひ砂遊び
角笛の高く低くと初嵐
【岡村静子】

百周年笑顔が集ふ祭かな
寸暇惜しまぬ我読書の秋となる
【彭鄭美智】

記念写真いく度撮りし園枯るる
ダリア祭かつての句友認知症
【伊津野静】

熱々の餅入り雑煮楽しみな
風邪予防の列長々とルア寒し
【矢島みどり】

寒夕焼広漠の牧牛まばら
端午の日ちまきの味を語り合い
【吉野幸輔】

寒雀垣に陽を浴びふくらあり
鷲鼻の異人の媼冬帽子
【纐纈喜月】

母の忌の済み微笑ある五月花
凍星や施設に暮す老夫婦
【杉本良江】

ドゥラード釣る赤銅色の力瘤
私小説めく移民妻の記秋深む
【香山和栄】

熱燗に山豚の肉馳走され
友の訃に悲しく見上ぐ冬銀河
【原口貴美子】

喪の家の軒に束ねて唐辛子
蟷螂の鎌振りかざすギャング振り
【菅原岩山】

屋上のコスモス蜂と風にゆれ
老ひて得恋大切にシクラメン
【清水もと子】

賜わりし九十一歳天高し
過去となる時刻む音秋惜しむ
【風間慧一郎】

星月夜故国の俳詩待遠し
秋彼岸改宗嫌ふ老移民
【木村都由子】

ホ句の秋赤シグナルに動くペン
ホ句の人寒波もさほどなきさまに
【伊津野朝民】

喜寿傘寿卒寿も侍る大虚子忌
星流れ明暗織りなす移民の史
【名越つぎ代】

母の日や機械でできる寿司並ぶ
四人目の曾孫誕生マリア月
【黒木ふく】

百周年待たで逝く夫流れ星
走らねど弁当楽しみ運動会
【寺尾芳子】

親の顔たて見合いの娘佗助に
七階の地震に動転暮の秋
【野村康】

配耕地のコーヒー園に花大根
配耕地のコーヒー園の鍬に泣き
【星野文子】

取り直し角力に両者の面構へ
鍬立ててふっと一息畑残暑
【伊藤桂花】

浮寝鳥風吹くままに一ト日暮れ
人種差別なき国がらや街の春
【中川操】

鰯雲あかねに染めて日の出かな
ゆく秋の老母逝きし娘日々恋ふて
【大岩和男】

秋暑き慈善バザーに客多し
そちこちに建つ記念塔百周年
【矢萩秀子】

秋ふかむ朝夕の風身にしむる
涼み居し帽子に秋の蝶々かな
【玉置四十華】

白穂立て原野を覆ふ苦芒
我読書妻夜なべして今宵更く
【上坊寺青雲】

ビール手に女の強き世となりぬ
百年祭移民根性あれやこれ
【小野浮雲生】

追ひかけて鬼ごっこめく栗鼡の恋
芝刈れば池さっぱりと五月晴
【本広為子】

一人居の熱燗もよし冷もよし
ささやかな暮しに熱燗ちびちびと
【山田富子】

首かしげ餌をねだるのか寒雀
寒雀一人寝るのは淋しいかろ
【矢野恵美子】

初七日の松落葉路を集ひ来し
ハンサムに苅りて空手や冬暖し
【軽部孝子】

木々の枝風にゆすられ秋つげる
すれちがふ人にゆずりて山の道
【井出香哉】

飛行雲駈け母の日の暁けの空
街路樹の塒のさわぎ秋つばめ
【林田てる女】

咳の子に抱かせパンダの縫ひぐるみ
冴へ返り夜星朝星美しき
夢さめて水尾引一羽浮寝鳥
美しき毛皮の飛機の女客
鍬疵のなく大小の揃ふ芋
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


笠戸丸の漢詩作詩は優雅にて個性輝く墨絵芸術展
日本人移民百周年記念式典大法要あり
開拓に命捧げし先駆者の御霊をしのび感謝追悼
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:移民百周年の記念すべき月ですが、その事柄にこだわりすぎるとリズムがくずれますので要注意。次回に期待。)

歯みがきを躾けし娘に悟されて残り少なき歯を磨きおり
長年を飼いしオームは同家族妻は毎朝ポンを与える
雪国の古人(いにしえびと)が考案の合掌造りは世界遺産に
【グァイーラ 金子三郎】
(評:一首目は結句、二首目は言葉を入れ替えて分り易くしました。)

人を信じ売った土地代ごまかされ裁判にかけよと弟は言う
見も知らぬ霊峰月山テレビ視て共に旅する神の山なり
語る人聞く人共に旅気分味わいながら合掌するなり
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:三首共リズムがくずれています。素材良好、若干添削しました。)

短夜にとりとめのない夢を見て誰に語るなし独り居なれば
久々に友と出会いし街角に挨拶もせず涙湧き出づ
【グァラニー桜クラブ 苅谷糸子】
(評:素材が良く生かされています。二首目の結句を変化させました。)

移民の記事読みつつ思う吾も早や七十五年をブラジルに住む
ブラジルに夢を描きて移りしが苦難に終りし父母を悼みぬ
夫と孫父母兄弟も永遠に眠れるこの地よ我が終焉の地
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:二首目一部分を直しましたが、三首共良い作品となりました。)

晴れし日は名画となりて窓枠に切りとられたるイタペチの山
若き日は夜明し呑みていし夫が好好爺となり杖つき歩む
百までも起きて着替えて食を摂りひとりで排泄出来るを念ず
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:三首共良くまとまっています。三首目の作品のように誰しも願っていますけどねえ。)

来年は小学生となる孫がときおり低く口笛を吹く
こんな事がなければ会えない旧友と野辺の送りに手を握り合う
故郷に送らん孫の金メダルつけたる新聞の切り抜き写真
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:素材が生かされて良い作品。次回にも期待。)

嗅覚も視覚もうすれし身となれど玉葱きざめば未だ泣かさる
人間の創りしものは人間の枠より出でず神も仏も
【スザノ福栄会 原君子】
(評:視覚と外部からの刺激とは関係なさそうですね。)

裏庭の小草の中に抜きんでし蚊帳吊草も未枯れはじめぬ
起きがたき暁の冷えに目覚めいて隣耕地の鶏鳴を聴く
常使う包丁さえも人目避け仕舞うに刀を飾る家あり
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:良くまとまっていますが、三首目は要推敲。)

人通りまばらな朝を清掃夫等柿色の作業衣まとい働く
誰に見せるつもりはあらねど吾ひとり鏡に対い薄く紅刷く
【セントロ桜会 野村康】
(評:一、二首共添削しました。参考までに原作と比較して見て下さい。)

落雷に枯れし古木を伐る人の電気鋸の音悲鳴にきこゆ
末っ子と吾の誕生祝のボーロ吹き消す瞬間を撮影さるる
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:一、二首共添削しました。素材を生かすために一工夫しましょう。)

歴史の町パラナに寄ればその昔栄えし面影寺院に見らるる
海岸線もどりてくれば景色良くサンセバスチョン重油タンカー見ゆ
重油タンク海岸線に並び建ちサンセバスチョンの変貌を見る
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:三首共素材を生かされ良い作品に仕上りました。)

きのう冬今日は半袖流感の季節到来三寒四温
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:サンパウロ近郊も一日に四季があるようですね。)

使い水溜めてバケツに運びおりバラの鉢植え乾きしを見て
ひとしきり激しき雨の止みてまたしとしとと降る雨季の最中は
自ずから老いゆく我の老後には何かをなさんと思いはすれど
今日までは杖は使わず朝歩き自慢にならぬ来年は米寿
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:良くまとまっています。来年米寿とは長寿で結構ですね。益々お健やかに頑張って下さい。)

市場にてダース五〇センターボバナナの味は甘さ百パーセント
【セントロ桜会 大志田良子】

移り来て七十六年過ぎたるが兄妹七人健やかに住む
【セントロ桜会 梅崎嘉明】

オリンピヤの町を目指して早朝を秋空ふかき州道を疾る
【セントロ桜会 鳥越歌子】

秋たけし夕暮れの窓閉めんとし刻々移る色見つめ立つ
【セントロ桜会 藤田あや子】

孫子等にともなわれ行くレストランフランス料理を初めて食す
【セントロ桜会 井本司都子】

時折りに吾が青春の写真を見れば馬子にも衣装と口のほころぶ
【セントロ桜会 上田幸音】

しとしとと降り来し雨は心地よく心静かになりゆく思い
【セントロ桜会 富樫苓子】

五月花少しおくれて咲きはじむ窓辺を色どる大好きな花
【セントロ桜会 板谷幸子】

寒き夜は電気毛布のスイッチを入れほかほか息子のおかげなり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

私も米寿を迎えありがとう大事な宝の家族に乾杯
五月晴れ思い出します大空を鯉幟舞う美しき里
【ピエダーデ 中易照子】


川柳


先駆百年尊く移民の子が育ち
農移民行方変えたる道しるべ
いたわりの心に咲いた愛の花
最高を目指し句作の灯をともす
両の眼で見つめ心に句を描く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

百年樹嵐に耐えて根を張れる
今の世に不思議にお金要らぬ人
主留守猫藤椅子に眠り居て
大それた願ひに神も苦が笑い
生も死も神に委かせて句を案ず
【カンポグランデ老壮会 上坊寺青雲】

転倒して一寸先の闇を知る
ギンナンを食べ認知症追払い
三十回噛んで食れば長寿すと
リハビリの韓国ドラマにほれた日々
此れからは己が可愛いと欲を張り
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

日系のブラジル支える百年祭
共同で社会に尽す日系人
人信じ売った土地代ごまかされ
土地よこせ努力もせずに横どりし
ひかえ目で争い好かぬ日系人
【サントス伯寿会 三上治子】

浮世風避けて通れぬ嶮しさよ
インターネットバアさんうろうろするばかり
孫達が次々現るインターネット
宗教も医者も治せず胸の傷
己が身を殺して生きる世は苛酷
【セントロ桜会 矢野恵美子】

目の前の金山利用も腕次第
公金を上手に使ふも技術あり
仕舞い込み食べない内に腐らせた
催促され腐らせ捨てたと云へずして
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

黄金色神輿担いで青葉祭
百周年舞台に羽ばたく青葉祭
移民祭記念法要厳粛に
笠戸丸百年神戸も移民祭
寿司まつりブラジル人に人気呼び
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

母の日を祝いて呉るる子皆遠く
母の日に親子断絶遠退きて
移住者の運命それぞれハルとナツ
セルラルで時代は過ぎし伝書鳩
愛犬も寿命の伸びて医者通い
【セントロ桜会 森川玲子】

移民皆働き通した百周年
子育ては苦あり楽あり人生路
苦難乗り越え来て今の幸掴む
カラオケで親子楽しむささやかに
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

孫育ち吾が子と同じ癖持ちて
今少し長生きのぞむ移民祭
曾孫抱万歳三唱移民祭
長電話終りて用件思い出し
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

百周年日本文化に花咲かせ
生け花をしかと見つめて自然の美
電子辞書引いた途端に又忘れ
地球病む二酸化炭素の重圧に
農政を貶して百姓鍬を研ぐ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】


川柳を広めよう

 ブラジル川柳の神代時代、一九九〇年頃の掘田栄光花先生の川柳に
 日蓮とキリスト欲しき世のすがた
 この胸に日の丸抱いている誇り
 風ぐるま逆ろうたので羽根が折れ
 金的のぶつ貫いた努力の矢
 冷然と月は地球を見てゐたり
という名作がある。
 川柳は単に笑いや皮肉、くすぐりではなく、生きている人間の、ブラジルでは日本移民の真実の叫びであり、人間の魂を揺さぶる詩でなくてはならない。
日本の剣花坊に
 神となるより人間となる努力
 わが剣でまだまだ石が切り裂けず
 絶頂へ来てもまだまだ高い空
などという名川柳がある。
 太平洋戦争中、リンス駅上塚植民地アリアンサのわが家の隣に、コロニア川柳の始祖とも言うべき掘田栄光花先生が住んでいたことがあった。
 そのころ邦字新聞もなく、おおっぴらに集会もできなかったが、戦前からの俳句会がひっそりと持ち回りで続けられていて、父・栢野牛歩に従いてぼくも熱心に作句していた。
 近くに川柳作家がいなかったからか、栄光花先生はその仲間入りして俳句を作っておられたが、その内に父は川柳も作るようになった。
 抜き放つ伝家の宝刀錆びており
 尖った字書けない丸いエンピツだ
 この老壮の友には短歌、俳句と共に川柳欄があるが、投句者が少ない。コロニアには多くの川柳作家がいるので、こぞって投句して頂きたいと思う。
【丸丁呂】


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