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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年10月号

2008年10月号 (2008/10/14) 俳句 (選者=栢野桂山)


開けすけの孫等新鮮愛人の日
冬休託児めける吾家とて
首寄せてゐるは想思の鴨ならん
【猪野ミツエ】

評: この国育ちの孫の世になると、あけすけに恋人と手をつないだりするが、特に愛人の日になると、当然のように家に招き入れて抱擁し合う。それが昔気質の者の眼に新鮮に映るのであろう。


百姓の来年春の土に待つ
年々に過疎となる村花マンガ
囀れる床屋自慢の篭二つ
【須賀吐句志】

評: 本年も昨年に続いて平年以下の作柄である。「よし、来年こそは!」と、気を引き締めて春の土に期待するのは、昔の日本と今のコロニアと余り変りはないようだ。この国に生きて来た農業者の本音のような句。


鴨撃や地につきそうな犬の耳
好きなもの食べて留守番日脚伸ぶ
凍土に和解成りたる杭移す
【佐藤孝子】

評: 隣人と牧や畑の境界揉めが起ったが、それがやっと和解して問題の杭を移し替えることになった。暖かいこの国であるが、南の州では時折土まで凍てつくことがある。人の見付けなかったものを掘り起こした句には魅力がある。


もみ手してほくほく雑炊囲む卓
移民祭紫の袈裟映ゆる友
長髪の青年僧も移住祭
【香山和栄】

評: 袈裟はインドの僧のものが日本で儀式用となったもの。作者の友人が移住祭の法要で身につけていた袈裟は紫で、特に耀くようであったと、この句色彩に焦点を当てて移住祭の活気が感じられる。


蔓サンジョン国際鉄路ボリビアへ
立眠る馬に厩舎の虎落笛
吹抜の牛舎の夜明け虎落笛
【菅原岩山】

評: 寒風が柵や転がった瓶の口などに当って、笛のように鳴るのがもがり笛。それが夜明けの吹抜の牛舎に当って乳牛や愛馬を眠らせない。それを気遣う牧場主の作者。
夢覚めてやはり見えぬ眼虎落笛 盲杜雁
がある。


暈かぶりおぼろ月夜や星見えず
一万本に恵みの雨よ樹木の日
【三上治子】

評: 移住百年記念として「日伯の森づくり」が州立のチエテ・エコロジコ公園で進められていて、その最初の一万本に恵みの雨が降って欲しいと、植樹の日に祈願した作者。新進の俳人の句として表現に心情がこめられている。


南国の母子鯨の遊ぶ沖
船出待つ山積みコンテナ冬かすみ
【清水もと子】

評: 金属製の箱に詰めて海陸を輸送するのがコンテナで、そのコンテナ船を待つが港は深い冬霞につつまれて海さえ見えないと言う。この人も新進であるが霞の句として雄大な景を詠んで、港の春の活気が楽しく思われる。この二人に続けて佳作を期待する。


枯野行く赤のブルーザ牛が追ふ
州境の空赤々と鷹渡る
【岡村静子】

立秋の雲の千変万化見て
日向ぼこがてらの昼寝老の幸
【彭鄭美智】

田植えせし遠き日のこと思い居り
皇子迎へ百周年祭冬晴るる
【矢萩秀子】

春寒し横断歩道を幼き子
ショウインドに映る冬雲動きなく
【伊津野朝民】

「岸壁の母」に泣かさる移民祭
久びさの雨に草木の揺れ涼し
【青柳ます】

ギラギラと八月の陽や終戦忌
イタペチの春雲育ち人急ぐ
【青柳房治】

路上ぐらし百態のルポ寒灯下
初めての父となる孫パパイの日
【本広為子】

絵の如きネクタイ貰ふパパイの日
洟たれの曾孫とベイジョパパイの日
【野村康】

花桃が咲いて吾家に春来たる
百一歳の母祝ふ日の花満開
【杉本鶴代】

百周年の文綴る窓星月夜
友の随筆佳作入選祝ふ春
【軽部孝子】

桃の花仏間に活けて一人住む
菊根分夢のふくらむ空の色
【吉崎貞子】

菊根分胡座の土を払ひ立つ
舗装なき道のバス停春埃
【纐纈喜月】

牛飼いの朝寝は出来ぬ乳しぼり
百年祭祝ひを受ける百二歳
【原口貴美子】

春塵に聖市の空はどんよりと
しょんぼりとはぐれし仔馬牧広し
【宇佐見テル子】

夢うつつ亡夫と語る朝寝ざめ
生れ落ち三たびよろめき仔馬立つ
【森川玲子】

春埃吹き荒るる日のメトロ前
冬の蝶どこへ行ったか見あたらず
【山田富子】

親に添ひつぶらなる瞳の仔馬ゆく
一束の桃の花抱き誰に逢ふ
【酒屋登喜子】

見上げゐる顔へほろほろ桜散る
蟻穴を出でて地上の雨に合う
【畠山てるえ】

衿立てて余寒の街を足早に
カレッタに一千箱のバナナ積む
【矢萩秀子】

不器用なニグロ器用に耕馬御す
海の幸豊富な食事春めける
【小野浮雲生】

呼び鈴を押し春塵の靴拭う
時差ぼけの我が家の朝寝満喫す
【杉本良江】

シベリアに果てし弟終戦日
春塵やトロフィー並ぶ棚の上
【遠藤皖子】

のんびりと一家朝寝の日曜日
朝寝して誰に気兼ねのなき余生
【矢野恵美子】

難聴に語るはむなし日向ぼこ
百年祭子供移民も早や卒寿
【藤井梢】

蟻の群蘭の若芽をいためたり
両親の傘寿を祝ふ子等の春
【玉置四十華】

一徹の鍬に汗せし父忍ぶ
子等祝いくるる傘寿や風薫る
【中川操】

郵便ストに手紙届かず春寒し
盛大な傘寿の祝い村の春
【大岩和男】

百年祭終り新たな時代待つ
我が一族に一世一人百年祭
【矢島みどり】

凍て雲の漏れ日楽しむ静臥椅子
銃放ち山との別れ猟名残
鬼蓮の咲かんと力み水揺るる
春眠の娘等貝のごと眼を閉じて
降り初めて明るくなりぬ蕎麦の花
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


日本の姉に見せたや元気な吾甥はネットで老壮の友を見る
ブラジルで心の教育先生は百二歳の昇地三郎
憩の園訪問激励日野原氏来聖講演「生き方上手」を
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:良くまとめてありますが、素材が発表されたニュースです。作者自身の身辺の事を歌ったらもっと良いと思います。)

客土せる団地の花壇小鳩来て人近付けど馴れて翔ばざり
一世の我候補者宣伝見るうちに応援したき人のできもし
講話聞く一病持てる身体でも心の健康保ち続けと
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:確かに心まで病となれば最悪です。気をつけて元気な身体で行きましょう。)

リハビリはまだ終わらぬかと聞き正す笑顔が待ってる家族思いて
雨の音風にまじりて日暮れより濁りし空気を澄ますごとくに
リハビりの休日の日は真似てみる一、二、三と痛み堪えて
【ピエダーデ 中易照子】
(評:リハビリに頑張っていますね。その様子が良くわかります。)

窓開けば空いっぱいの鱗雲今日の天気は雨になるかな
何時の間に消えてゆきしや鱗雲今は晴天雲一つなし
三日月のアゴをしゃくった顔のごと雲ひとつなき空に輝く
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:二首目の「晴天」と「晴れ渡り」は同意ですから言葉を変えました。三首目の原作「大空高く」は月ですから当然の事ですから「雲ひとつなき空」にしました。)

洲道を越えて渡れるボヤーダは渡り遅れし子を持つ親牛(うし)の
紅椿昨夜の雨にあまた散り開かぬままにぬれた地面に
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:二首は良い素材で良い歌に仕上っています。)

物利用人にけちだと言われても世論聞こえる温暖化
移住せし頃は貧乏物不足今は飽食で無駄ばかりなり
故郷へ地震見舞の手紙(ふみ)やれば余震怖くてテントに住むと
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:物を大事にすることは「けち」ではなく、これは人間として学ぶべきだと思います。)

遠きより子供や孫等集い来て卒寿の祝い催しくれぬ
近隣に住まいし昔の吾が友が卒寿祝いの手紙くれたり
老いづきて残り少なき生命なれど日日新たなる望みに生きる
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:孫さん達に囲まれて卒寿の祝儀とは倖せな事ですね。益々お元気で・・・。)

日毎掃く落葉激しき街路樹を見上げし梢に新芽息吹きぬ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:気持ちの良い歌です。折角ですから二、三首作ってみては如何ですか。)

寒けれどアカシヤ青める街中に陽光もまして春遠からず
夢に見し祖父の面影なつかしく眼裏に残り消えぬさびしさ
【セントロ桜会 星井文子】
(評:一首目四句と五句を入れ替えてみました。静かな歌で良くまとまりました。)

黒き枝に黄色く咲き初むイペーを車窓に眺め歌会へ急ぐ
阿久悠の詩を五木が唄いおり何十年も変らぬ声に
【セントロ桜会 藤田あや子】

人の世は長くもあれば短かくもわが齢すでに亡父をこえたり
ようやくに寒さ遠のきのびのびと重ね着とりて身軽くなりぬ
【セントロ桜会 鳥越歌子】

両脚にぴったり合った黒タイツ自信を見せて腰ふりてゆく
葉の散るも芽ぶくも季くればこの旱魃に木々は芽をふく
【セントロ桜会 上岡寿美子】

傘差して街行くこともなき吾にふるさとの姪より日傘届きぬ
【セントロ桜会 上田幸音】

満開の黄イペーを見上げれば心洗わるる思い満ちくる
桜模様の急須は吾子の贈りもの二人で飲めよと緑茶をそえて
【セントロ桜会 富樫苓子】

「母の日」のプレゼントなりし胡蝶蘭四か月たちて再び咲けり
日に三度二十滴の薬飲む痛みにきくとうことを信じて
【セントロ桜会 井本司都子】

日曜も休まず励みし吾に比して娘の医業は遊びの如し
かけ引きの下手なる吾をバカと言う養女の言葉うべないており
【梅崎嘉明】

月に二首の作歌になやむ吾が前に雑誌の歌壇をそっと置く夫
スポーツは各種の競技好きなれど特に野球と相撲が大好き
【セントロ桜会 大志田良子】

妹の初盆の日に供花して「母さん来たよ」と姪は涙声
道の辺にグラジオラスの群生の咲く日を毎日たのしみて見る
【セントロ桜会 板谷幸子】

肩並べ巡る湖畔のたそがれを十三夜の月昇りそめたり
縄文の人もこの月に「眺めしや」今宵はうからと縁にくつろぐ
検査五種異状なしとの医師の言愛でるもむべなりラヂオ体操
【グァイーラ 金子三郎】
(評:二首目の「憩いしや」を「眺めしや」としました。言葉の選択も良いし、素材も良いですね。よくまとまりました。)


川柳


泣きごとは止めよ明日の陽が昇る
先駆者の意志つぐ次代の荷は重い
黄昏の人生一と筋道を行く
やがて来る一と筋道の人生譜
他人さす指は己の方に向け
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

右左風吹くままの我が生活
呆けし叔母赤子の如き笑顔して
覚え書きいっぱい暦を埋め尽す
お元気と云われて心を引き締める
雨の日は傘さしかけたし地蔵様
【セントロ桜会 矢野恵美子】

自画自賛異国に耐えし半世紀
金と政治五輪競技をゆさぶるな
オリンピック日頃の大言見せて呉れ
神風は吹かず敗退女子バレー
下戸共に関係はなしレイセッカ
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

リラックスされしや皇子はにこやかに
古里へ浦島太郎のごと帰国
長雨はよく降るふると褒めるから
豊作も不作もありて年重ね
【サンパウロ中央老壮会 香山かずえ】

花卉祭り百花繚乱瞠目す
駅前の公園つつじに雨欲しき
退け刻の夜間大学生アベックで
太極拳海渡り来て定着す
団体の旅砂浜に靴脱ぎて
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

金メダルブラジル国歌に胸熱く
ライチとは旨くないよの代名詞
セルラールで喋り通して日が過ぎし
折鶴は万を数えて独り住む
寿司刺身異人上手に箸使う
【セントロ桜会 森川玲子】

この年で恥と思ひつ物習う
肥満して支える肢腰脆くなり
姿見に写せるこの身肥り過ぎ
手鏡に写る心の笑ひ顔
老移民自傳残さむ百周年
【サントス伯寿会 三上治子】

満員のメトロ駅毎人が込む
艶話いくつになっても面白し
菓子売場眺めるだけで通りすぎ
コーラスは皆一様に口を開け
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

孝行の字を生かしたし永久に
良き息子二人が居りて楽隠居
着ぶくれの人見て己を見る思い
余生今杖が頼りの西東
颯爽と云える言葉かかもめ飛ぶ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

梅干しを異人甘いと思ひ買う
若い師の教えは楽し趣味に生く
黒塗りの小さき地蔵を安置して
作句する苦労楽しむ心意気
不孝せし思ひに今も手を合わす
【余碌吟】


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