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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2008年11月号

2008年11月号 (2008/11/08) 俳句 (選者=栢野桂山)


夫婦して年子を背なに耕せり
高台の墓地より望む遠霞
風に乗り椰子の実流れ着く浜辺
【杉本良江】

評: 年々得た子宝を、一人ずつ背にして耕しに明け暮れする若い日系の夫婦。「ミレーの晩鐘」のコロニア版。


六甲の水を祖霊に盆供養
憩の園のバザー巡りに花吹雪
雹害の畑にさだめを賭けし人
【名越つぎ代】

評: 百年祭の行事として天下に知られた六甲山の銘水。神功皇后が甲(かぶと)を埋めたという言い伝えに由来する銘水が、コロニアの百年祭に振舞われたが、それをお盆の日に祖霊に供えた、日本のしきたりを大切にした。


形見なる衿巻母のぬくみなる
犬の餌を盗みに日毎寒雀
いささかの葡萄酒老の顔ほてる
【中川操】

評: 母の形見の毛糸の首巻をした折の暖かみは、正に幼い頃に母に背負われた時の温みと同じだった、と亡き母の愛情につつまれた幼い日の思い出をまとめた句。


古着売る社会鍋の娘陽がまぶし
亡夫呼べば遠い彼方に銀河澄む
月の宴終れば空し紙コップ
【前橋光子】

評: 景気のよい月見の宴が終り、男らは千鳥足で帰宅すればことが終るが、女等は散らばった後片付けで忙しい。同じ月見の宴でも性別によって、こんな不公平があるのがうつし世。


日向ぼこ薄くなりたる髪なでて
鞭伸し塀にもたるるアンツーリョ
更衣心機一転ステージへ
【伊津野朝民】

評: 真紅の心臓形の花弁を突き出したさまは美しく、殆ど年中花を見せる。その花の棒芯を鞭と言い、それが土塀にもたれたようだと表現した。


水涸るる大牧掘抜井戸急ぐ
甘蔗の穂寒夕焼に揺れ揃ふ
ムクインを釜茹でにする着物脱ぐ
【菅原岩山】

評: ダニの一種で肉眼で判別できないほど小さいが、触れるとすぐに取り付いて血を吸う厄介な奴。釜茹でと言えば、世に名のある大盗賊・石川五右衛門の釜茹を思い出すが、同じ釜茹でも極小と大賊との対比が面白い。


春一や鴨の如飛ぶ野飼鶏
蝌蚪泳ぐ洗ひし野菜屑の下
別人の如き素顔や春眠す
【佐藤孝子】

評: この春眠の愛しい幼児であろう。起きている時のやんちゃな顔とは別人の天使のような素顔、それを見つめる親の顔にスポットを当てた句。


雪降りし如くに梨の落花かな
パイナ散る子等の学びし廃校舎
ボーロ焼く甘き匂ひに蝿生る
【木村都由子】

蜂鳥の巣に豆粒の卵二個
つきまとふアヌーに耕馬不機嫌な
コーヒーの花明り行く部落会
【纐纈喜月】

春光や雨後の日ざしのやわらかく
春光や大河の流れゆるやかに
【沢木しげる】

アパートは白亜春光あたたかく
着ぶくれて老臭気になる朝のバス
【鈴木照緒】

耳遠き同志の話長閑さよ
たんぽぽの道埠頭へと続きけり
【清水もと子】

春を待つ暦に印すスケジュール
春愁や正座の出来ぬカルタ会
【山田富子】

わせおくて揃え自家用種を蒔く
突風の村を飲み込み春埃
【畠山てる江】

耕して家を支えて乙女の日
コーヒーの花の下にて泣きし日も
【矢野恵美子】

窓明り細き篝火草咲いて
病室の窓に白蝶シクラメン
【森川玲子】

我が狭庭一番雨によみがえる
猿すべり芽吹き屋上園親し
【遠藤皖子】

花種を蒔きて夢ある暮しかな
手の荒れは云はず親しむ春の土
【吉崎貞子】

老ク連の地蔵尊像入魂式
独立祭休みお地蔵様参り
【軽部孝子】

春暁や銀木犀の香りたつ
蜂鳥の羽音無く来て蜜ビンに
【原口貴美子】

春愁や俳誌開けば安らぎて
精神異常の人の迷える木の芽時
【伊津野静】

春来たとつい口に出る童歌
パラナ路やどちらを見ても花コーヒー
【宇佐見テル子】

山眠り呼べど返らぬ遠谺
木の葉髪慰めくれる人欲しき
【青野妙子】

日伯の絆ゆるがず移民の日
四温晴老も早起き早寝ぐせ
【藤井梢】

母逝きてより五十年百年祭
絵で見るも狐の襟巻知らずして
【疋田みよし】

レジストロ盆地喧し稲雀
地に溢れ黄菊白菊無縁塚
【風間慧一郎】

衿巻を使ふ間もなくぬくき日々
幼子が葡萄手にして数ふまね
【玉置四十華】

空見上げ明日の天気を知る蛙
一房の葡萄手に亡き母偲ぶ
【伊藤桂花】

喜寿傘寿の夫婦そろって菊の宴
棚崩れマシシエ地面を這いまわる
【矢萩秀子】

父のたしなみの葡萄酒一人酌む
衿巻は母のぬくもり形見分
【大岩和男】

東洋街の歩行天国百年祭
よもぎ摘む質実な嫁誇りけり
【彭鄭美智】

天候異変脱着はげしきちゃんちゃんこ
春一番ミミズ引きずる小鳥来て
【小野浮雲生】

咲き盛るシューバデオーロに佇ちつくす
湯上りの冷水一杯甘露とも
【矢島みどり】

雨続き猿の腰かけ殖え太り
黒毛虫黒い揚羽の幼虫か
【三上治子】

幼き婢手櫛を当てて朝寝髪
継ぐ子無き耕地美し春の虹
春眠の娘等貝のごと眼を閉じて
リズムある羽音庭訪ふ鋏鳥
混血児黒瞳黒髪ジャボチカバ
街を黄に染め金鳳樹並木かな
降り初めて明るくなりぬ蕎麦の花
【選者吟】


短歌 (選者=渡辺光)


街路樹の若葉に映ゆる路地裏をラッパ鳴らしてソルベッチ売り
「老壮」の短歌に出合い投稿の喜び知りて晩年を生く
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一、二首共若干の添削、素材を生かすため   に一工夫されたらもっと良い歌になります。)

杳き日は野草を摘みて食したり今はスーパで選り取り見取り
生き別れ生まれ故郷に父母残し五年で帰ると再会ならず
移住時に共に湛え来し兄達は今は異国の土に還りぬ
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:移民百周年を迎えるとそれぞれに深い思出があります。)

今日もまた曇り空だがしっくりと湿める慈雨ともならず去りたり
いつしかに九月半ばも過ぎゆくに未だプランタもできぬ現状
儘ならぬ自然相手の農作業すべてを自然にまかせて待とう
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:一首目若干添削してみました。人の力ではどうにもならない大自然ですね。)

アマリリス種より仕立て育てしが見事に咲きて早も萎めり
絵手紙という新しき画法ありて月に一度の講習を受く
ブラジルに住みて日本のプロ野球巨人ファンと云うて笑われ
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:二首目の結句は語順を変えてみました。私も巨人ファンです。リーグ優勝から更に日本一に?たのしみですね。)

老いづけばこんな所でと笑うけど転ぶ悲しさ起きられもせず
回復をリハビリ信じて歩いてる歩ける力持ち続けます
曇空照らして欲しいお陽さまよ足温めて踊ってみたい
【ピエダーデ 中易照子】
(評:老いの心情を見事に詠まれました。)

神無月長女と次女の生まれ月老いゆく娘らをいとしみ思う
小雨降る狭庭にひとり華やかにアマリリス咲く見る人もなく
聖市に住む老いし弟が遠き日の断腸の想い出を綴り送り来ぬ
【ミランドポリス 湯朝夏子】
(評:三首共素材を生かされて良い作品になっています。)

春風に吹かれ揺らて蒲公英は何処の地にて芽を吹くのやら
久々に尋ねて行きしチエテ市よ我が家はすでに湖底に沈めり
故郷を訪いてより早や一年二度と見れまい富士の美影を
【サントアマーロ青空会 酒屋登喜子】
(評:三首目を若干添削していますが、良くまとまっています。)

舞いもどる冬将軍に帰宅の娘「十三夜よ」と鼻赤くして
老ク連に鎮座まします地蔵尊「シニア」の家族守れと額ずく
戻り来し寒さの中の暁をサビア啼く声健気に聴こゆ
【セントロ桜会 野村康】
(評:寒くなったり、暑くなったり、老人の身体は反応しきれませんね。良くまとめられました。)

お地蔵様苦労重ねし移民らをお守り給えと老ク連に建つ
散り敷ける病院前のイペーの花踏むには惜しき黄金の色
人一倍健脚でありし夫なりき嫌いし杖をつきて歩みぬ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:二首目の初句を変えてみました。良い仕上りです。)

老ク連秋の旅行に参加して初めて拝観むお地蔵様を
朝帰りの夫に小言つつしみウインドーの中にブラウスを買う
うっぷん晴らしに買いしブラウス良い柄と褒める夫と散策に出づ
【スザノ福栄会 青柳ます】

日に透けるバーラボニータの湖わたる老ク連の人等と親しみながら
夜の御馳走いただきながらバストスの老人クラブのカラオケを聴く
青葉若葉日に照る天理のおやしろの濃き紫のブーゲンビリヤ
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:三首共良い作品に仕上っています。)

選挙終え市長は再選と決まり今朝降る雨に町も静もる
昨日より春となりたる洗面所の蛇口の上に足長き蜘蛛
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:二首目の結句「足高き」を「足長き」としました。良くまとまっていて佳作です。)

一千キロ離れしホテルの予約までインターネットでできる世の中
日本の仕来り幾つか孫達に継がれ頼もしき家風となりぬ
弛みたる身を引きしむるがに気付かざる傷に沁みるはレモンの果汁が
【スザノ福栄会 原君子】
(評:世界が狭くなりました。科学の進歩はすごいですね。)

夕焼ける沼に番の白鳥が降りて安けき黄昏となる
鎮もれる沼に漁りいし白鳥は羽繕いしてとびたちにけり
教会の朝の礼拝に妻と座しポ語解せねど心清まる
【グァイーラ 金子三郎】
(評:静寂な朝の情景が清々しく詠まれています。)

百周年記念の行事の書道展華やかなり会場MASP
ルノアールのファンでありし祖母と母青の時代の代表画あり
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:一、二首を添削していますが、歌意が分りやすくしました。)

はるばるとゴミ処理指導日本からみんなが本気で取り組むように
年寄りに席をば譲る国民も何故できぬゴミの処理など
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:自然破壊に皆が気をつければブラジルの街も美しい街になると思いますが。)

帰途の折ひそやかに降る霧雨に手持ちの新聞頭にのする
やわらかき柿の若葉が目にしむ梅崎氏宅の厨の窓から
【セントロ桜会 大志田良子】

集むるのみ捨てるを知らぬ妻子にて家の中は鼠の巣の如し
贈られし俳誌なつかし幾人の知人の句より先ず読みはじむ
【梅崎嘉明】

忘るるという良きことのあるなれば人らは生きるこの辛き世に
ジャカランダ咲ききわまりて紫のかすみの如く春はきにけり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

季節はずれの寒さがもどりシチオの暖炉がしきりに恋し
平日は歩道を小さく歩きいる日曜は車道をのびのび歩く
【セントロ桜会 板谷幸子】

ボーナスも添えて早々年金が届きぬ今年も暮れが間近し
木葉髪そめて心もはれやかに急ぎ出でゆく今日の集いに
【セントロ桜会 鳥越歌子】

歩けるかと労られつつ畑の道息子と孫と春風の中
春息吹く野は朝夕に新しとそぞろ歩みて歌想いたる
【セントロ桜会 藤田あや子】

かすかなる風にゆれつつコスモスは野菜畑の傍(かたえ)に咲けり
それぞれに家路をさして帰り行く夕茜に下校する児等
【セントロ桜会 井本司都子】

午前四時ガラス戸越しによぎりゆく若き人ありまぼろしの如
遊覧飛行日航とブラジル結ばれて未来明るく幸せねがう
【セントロ桜会 上田幸音】

またしても寒さ戻りて野良犬はところどころに丸くなりおり
日々しろくなりゆく汚染か道の辺にピッコン生ゆるも稀となりたり
【セントロ桜会 富樫苓子】


川柳


欲張った心詐欺師の掌に踊り
逆移民夢を抱いて出た故郷
躓いたとこで見直す老の足
足跡が見えぬ吾にも百年祭
移り来て未来の夢が待つ昿野
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

姿消すタイプライター過去のもの
使用人までも携帯持ち歩き
贋ばやり高い薬も疑がいて
文字一字すりかえて売る贋商品
見なければ証拠無しとて泣き寝入り
【サントス伯寿会 三上治子】

生活の必需となりてセルラール
孫曾孫インタネーットでオバアチャン
大らかな心で人生いつも春
今日句会友に会えると張り切れる
息子にもヂイちゃんと呼ぶ孫が居る
【セントロ桜会 矢野恵美子】

郷土食体重増加に拍車かけ
日本祭みたらし団子きび団子
粗衣粗食ブラジル生れに蔑まれ
六頭身よくぞ開拓耐えて来し
勝敗は時の運とはそりゃ非道い
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

我がベスト尽し協力移住祭
健康保持ラヂオ体操の老人等
健康にて平均年齢疾に過ぎ
圧倒す書の大文字息をのむ
いるものも捨ててしまえと神がかり
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

雇用増えネクタイも売る露天商
耳にペン今なし時代はセルラールに
運と根二つそなわり財をなし
自家療法生兵法で病気増え
政治にも議員欲しがる金メダル
【セントロ桜会 森川玲子】

書を学ぶ一心不乱に前進す
八十路とて望を捨てず進まんと
去りし事追わず忘れて振り向かず
生き甲斐は書道に全身全霊を
【サンパウロ中央老荘会 山田富子】

異常気象温暖化とて人の罪
夜の旅一際めだつラブホテル
久々の温泉旅行に寒さ来し
晴れ女と雨男来て空曇る
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

捨て子猫泣き声哀れ小雨の夜
臥せし身を孫の看とりに感謝をし
手も足も不自由なれど盆踊り
八十路過ぎうれしきものは友の愛
選挙あり誰が市長でも同じ事
【サントアマーロあおぞら会 酒屋登喜子】

陸上の選手も老いて車椅子
揶揄もせず褒めもせず聞く大自慢
味噌汁に馴れて異人のお手伝い
石地蔵陀羅尼称えつ彫られしと
自由なる暮しに振り込め詐欺狙う
【余碌吟】





「別れて来た愛しい人を偲びて」

想い出しても想い出しても懐かしい君
いつまでも、美しく雄々しく
生きていられるよう
生ある限り、祈っている
生れ来て、はじめて愛し合った人
想い出はいつまでも、美しく
そっと、離さずにしまっておこう
あの可愛い、お下げ頭
ふっと慕い合い よりそった
君の身体のぬくもり
手紙のやり取りで、胸がときめいた事
過ぎし日のこと
僕は忍耐と努力をもって
生き抜こう
君に愛されたことを胸に秘めて
あゝ想いは消えず
心と心の結びつきは消えず
地球の表と裏にまで離れてしまったのに
【レジストロ春秋会 黒澤森男】


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