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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2009年3月号

2009年3月号 (2009/03/04) 俳句 (選者=栢野桂山)


真青な肌に白き粉今年竹
インヂオの歴史奴隷の歴史紙魚の本
好き嫌い多き飼犬トマテ好
【佐藤孝子】

評: 筍が成長し竹の皮を落すと今年竹になり、薄く白粉でお化粧したようなすがすがしい感じになる。「青い肌に白い粉」と擬人化し、情と艶のある句。


神在す滝と崇めてインジオ等
幼時より覚えしクワバラはたた神
万緑に肺染まるまで深呼吸
【猪野ミツエ】

評: 「万緑叢中紅一点」の詩から生れた季語、そのみどりの香りの満ちた清らかな空気を胸一ぱいに染みこませ、深呼吸によって健康になるであろう。


芸なくて鳴かず飛ばずや忘年会
万緑や腹式呼吸壮快に
パンの木を植えて生涯島を出ず
【香山和栄】

評: 高さ二十メートルにもなり、果実は四キロもある北伯土民の主食でマンジョカに似た味がする。島の土民はこれさえあれば、生涯辺りの魚を捕ってこの地を離れようとしない。


ななたびの干支を迎うお元日
漁始婿手に負へぬ大パクー
ねずみもちセラミカ通りは花盛り
【本広為子】

評: 稀に街路樹や庭木のねずみもちの木を見る。高さ五、六メートル。初夏に白い花をつけ果実は黒紫で鼡の糞に似ていて、陶器を作るセラミカ通りでこれを見た。ねずみもちは歳時記に無いが、新季題として取りあげたい。


水の如ビール飲む娘等酔もせず
水着ショーの如浜歩く娘等よ
牛年や飛騨に産れしクーロン牛
【木村都由子】

評: クーロン牛の説明は困難だが、祖先から受け継いだ細胞から人工的に受精させて誕生した全く同じ牛のこと。この技術が完成すると全く同じ牛を殖やすことが可能。今の岐阜県で生れたのがこのクーロン牛で、丑年だった。


牧枯れて蟻塚だけが目にとまる
街燈にむらがる火蛾や雨模様
窓明けて夢一ぱいの深呼吸
【宇佐見テル子】

評: 夜明けの窓を開けて深呼吸する――だけでは平凡だが「夢一ぱい」で佳句になった。さてその夢とは?一家の子や孫を引き連れて、海辺で遊んだ――という楽しさ一ぱいの夢であろうか。さまざまに想像される句。


父母の汗染みたるこの地わが故郷
大自然の出水旱魃ままならず
【疋田みよし】

評: 一家が第二の故郷として親しみ耕したこの地は、父と母の汗の染込んだ掛替えのない土地で、出水や旱魃があっても、放れてはならぬと心に誓った。


火蛾舞うて根気の失せしペンを置く
レポーリョの割るる音聞く雨季長し
【吉崎貞子】

評: 降雨充分の年のレポーリョは、ぎっしりと実が詰って固く巻いているが、その固さが弾けることがある。その音を聞き止めるという繊細さが佳い。


ほろ酔いの唐手師範の御慶かな
梅雨出水浮きしごと見ゆ朱の鳥居
【風間慧一郎】

評: 今年は鳥居の当り年で、方々にガルボンブエノの赤鳥居と似たのが幾つも建った。そしてその中には先日の豪雨の出水に浸って浮いて見えるのがあった。賞めるでも貶すでもなく有りのままを写生した。


除草機の音伴奏に囀れる
夏日差呼ぶかに一花黄と燃えて
【伊津野朝民】

評: この国には黄金藤や黄イペー、アラマンダその他と黄の花が多い。それに夏日が当るとまるで燃え立つように、それが揺れると黄色が眩しい。


孫と居るそれだけでよし夕涼み
雨一夜経て紫陽花の毬すがし
一陣の風筋光る甘蔗畑
【前橋光子】

判じものめく初夢を見て覚めし
鬼蓮を音なく越えて跳ねる魚
お地蔵に日々平安を祈る春
【香山和栄】

音楽の奏でる賀状来て嬉し
カジューの実お猿の如き顔をして
初ミサのヴェールに透けて娘の耳輪
【岡村静子】

去年今年郷愁なきにしもあらず
八つ当りの主婦に追はれて羽抜鶏
起抜けの大朝焼を欲しいまま
【伊津野静】

蛸の木の足崖ぶちに胡坐かく
稚魚群れてダムの豊かな春の水
緋鯉跳ね日本館の風光る
【菅原岩山】

餡こ餅丸めるはしから手が伸びて
人波の職場へ向う去年今年
【三上治子】

老ク連の地蔵と歳とる去年今年
父母命名の吾が名「康」と筆始
【野村康】

成る様になりしと安堵年の暮れ
向日葵の項垂れ居り夕日影
【伊藤桂花】

喜雨祝ふ翌日出水避難とは
除夜の鐘打つ手に重き思いあり
【小野浮雲生】

火蛾舞ふて独りの食を手で覆ふ
縫初や四十五年の足ミシン
【杉本良江】

片恋か一羽だけ啼くベンテビー
半裸めくミニサイヤの娘夏来る
【大岩和男】

故郷より家族写真と賀状また
牧場の蟻塚夜は光るてふ
【原口貴美子】

短夜や昔の日記読み明す
山影の涼しき池の蓮の花
【玉置四十華】

十年余飼ひしサビアの死を惜しむ
末黒野や蟻塚焦げてくずれ落つ
【岡村静子】

旱にもめげず雑草花ざかり
噴く汗と涙の別れ子の柩
【中川操】

手料理で健康体操忘年会
春愁や亡き子の植えし樹を仰ぐ
【矢萩秀子】

日まわりの丈の低きは改良種
雨期闌(た)けて仮橋又も流されし
【纐纈喜月】

大家族頂く雑煮にただ感謝
あたたかき心の通う年賀状
【荘司恵美子】

海越えて娘の声届く初電話
百年過ぐ苦楽人生去年今年
【遠藤皖子】

姑よりのかな文字増えし年賀状
アングラの島に帆船や初景色
【森川玲子】

春愁の夜の讃美歌の清らかに
子の家の大日まわりの額二つ
【山田ふみ子】

鶴亀の折紙挟む年賀状
乱されて右往左往の蟻の道
【畠山てるえ】

年一度だけの便りの年賀状
勤勉と秩序を守る蟻世界
【秋元青峯】

百一年雑煮よばれし新年会
半ズボンの少女かけ足春景色
【軽部孝子】

年賀状今年は牛の顔ばかり
又一人曾孫生れて初笑
【矢野恵美子】

アパートの聖樹今年も満艦飾
師走市サンタの帽で客を呼ぶ
【寺尾芳子】

若水を汲むも浄化器ボタン押す
御降や南極寒波とて冷た
【清水もと子】

百二歳越えて吾が母お元日
初句会老いて増々元気な師
【杉本鶴代】

正月の庭にそよ吹く花に風
すこやかな故郷の友の賀状来る
【青柳ます】

紅色の玉紫陽花が門飾る
百万人浜の花火と除夜の鐘
【青柳房治】

黄な粉餅餡こ餅みな母の味
世に隠れ素直に生きて去年今年
【矢島みどり】

クリスマス兄と聖書を読みし頃
注連縄を見上げ感謝す年の暮れ
【桜井みつえ】

鳳凰樹花咲く広場朝の市
出水禍や倉床の穀物爆ぜる音
【林田てる女】

この儘の余生でよろし喜寿の春
大聖市傘下に納む鰯雲
【彭鄭美智】

餅搗きの人替り音かはりたる
化粧映へして初髪の混血児
土煙揚げ大耕車畑始
椅子一つ風鈴一個老一人
出稼ぎを嗤ひ夫婦で共昼寝
夫婦して不義めく朝寝おかしけれ
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


引越しは六度目にして奥地よりサンパウロに来て四十五年なり
住みなれぬアパート暮しが始まりて意外に住み良く安らぎている
【セントロ桜会 上岡寿美子】

伸び急ぐ幼なミーリョに白玉の露キラキラと葉先に光る
蒔きてより良き湿り得て順調に育つきび畑朝夕眺む
【セントロ桜会 藤田あや子】

吾が悩(なずき)日毎おとろうこの頃は間違いばかりで夫婦(ふたり)で笑う
我が思い届けと願うこの日頃届くはずなき遠き妹に
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:一首目「脳力」は「能力」と間違うので「なずき」としました。二首目「妹」は「こ」とは無理ですので、「あの」を消し「妹」とします。)

朝曇りつづきしあとの陽の光起きぬけの目にまぶしかりけり
雪景色の中に立ちたしと思いつつNHKのテレビ視ており
【セントロ桜会 井本司都子】

西遠く茜消えゆき夕暮れによみがえり来し追憶ひとつ
勤めもつ身にはあらねど日曜となればおのずと心がなごむ
【セントロ桜会 梅崎嘉明】

折り紙のヒコーキとばし曾孫は日本まで届けと歓声あげる
三年前植えたる槙苗たくましく塀をかこみて枝葉はのびる
【セントロ桜会 上田幸音】
(評:一首目原作は大分字余りになっていますので添削しました。原作と比較して下さい。)

眠れぬ夜明日の事などあれこれと思いめぐらしなお眠られぬ
夏なれど寒き風吹き外套に襟巻きまでも欲しく思えり
【セントロ桜会 富樫苓子】
(評:一首目「明日のする事」は「明日の事など」に変えてみました。)

シュラスコに欠かせぬ牛の肉なれば少々かたくも舌鼓して
早朝といえども若き乙女らは季節とともに肌をあらはに
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:一首目「欠かせられない」は「欠かせぬ」とし添削しました。「舌づつみ」は「舌鼓」です。)

桜会の忘年会にめぐり逢う移民の第一歩同耕の人と
新聞がとりもつ思い出うれしくも七十五年は余りに遠し
【セントロ桜会 鳥越歌子】

苦労せし頃の生活が忘られず衣を縫うて娘に疎まるる
アリアンサ合唱団の慰問せし希望の家の話娘に聞く
入居者の一人に介護者一人つく施設の経費如何なりや
【セントロ桜会 野村康】
(評:良くまとめられています。)

夏祭り声はりあげし若衆ら帰れば稲田に蛙鳴き初む
八十路まで生きむ思いで登る坂夕陽やさしくこの身を包む
ながらいて恥多からぬ生き方もあると思いつつ庭の草ひく
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:流石に見事な作品です。他の人の参考になりましょう。)

百日紅の蕾日毎にふくらみて霜月われの誕生日来る
大晦日に訪ね来し子らそれぞれにお土産くるるヂイとバアとに
再びを訪ねし記念公園の桜の若木に陽はぬくく差す
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:身近な素材を自由に描写する作者。毎回良い作品です。)

恋とげて翔びゆく小鳥水晶のような鳴き声耳朶に残りぬ
このような心地よき湯にひたりつつ眠りながらに叔母は逝きしか
縁起よき扇子いただき余生まだ末広がりと夢を育む
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:流石にベテラン。用語の使い方申し分なし。一首目若干添削しました。NHK全国短歌大会に二首入選しています。)

孫たちの揃いて餅搗く大晦日弾けんばかり若き声みつ
亡き父の作り残しし臼杵で今年も餅搗く家族揃いて
写真撮る夫も忙し孫達の餅搗く姿に声かけながら
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:たのしい大晦日の様子が手にとるように感じられます。)

競い合い餌をあさりし小鳥らも見えずなりたり冬の吾が庭
開花前寒波もどりて仙人掌の百余の蕾あたら開かず
花の数少なけれども昼顔の吾を和ます冬の日向に
【スザノ福栄会 原君子】
(評:静かな良い作品になりました。)

五人の子に支えられたる吾が余生あと二、三年は生きたく思う
研修に一月日本に行く息子土産は何が欲しいかと聞く
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:思い切って土産は奮発してもらい、二、三年と云わず十年以上は余生を送りましょう。)

夏風にゆれる椰子の木泣く如くもだえる如く葉をふるわせる
飛沫あげ岩に砕ける波の音風雨とともに高く聞こゆる
病床をはなれて浜に立ちたれば雄大な景に勇気湧きくる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】
(評:三首共若干の削除あり。素材良く、分かり易い歌に仕上げっています。次回も期待します。)

静寂な明治神宮参拝し友と歩きぬ北参道を
小田急に近き神宮参拝し郷土芸能奉納を見る
コロニアの歴史を刻む東山農場開設八十周年農村観光
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:三首共日記調になっていますが、作者の心の動きを入れたらもっと良い作品になると思います。)

若き日の移住の夢は果し来て今伯国に老いて歌詠む
紫の桔梗の鉢の競い咲く異国に香る古里の秋
イビウーナの道場に学ぶ七〇〇の菩薩は集うアマゾンからも
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:いずれも良い作品に仕上っています。)

ようやくに雨季となりたるこの日頃静かな雨音寝床に聴く
団欒も手もちぶさたに端居する時の流れに就いてゆかれず
古里は厳寒の候となれりと言う便りこの地の暖を分けてやりたし
【グァイーラ 金子三郎】
(評:三首目字足らずになりますので添削しました。原作と比較されたし。)

宴会にさしつさされた無二の友我より若く惜しくも他界す
我々と畠耕やしていた友は子に従いて出稼ぎに行く
溜池の暖かき水濁しつつチラピア産卵今日も跳ねおり
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:三首目など地方でなくては見れない珍らしい素材ですね。皆良くまとめられました。)

子や孫に曾孫と家族増えたれど我何も為さずに八十路へり
【サントアマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:助詞を補足して分り易くしました。慣れると誰にでも作れます。頑張ってみましょう。)

眼鏡かけ赤いリボンのブルドッグテレビの上の縫いぐるみなり
雨続き水害なきやと不安なり自然の恵みも心曇らす
田舎道オートバイでの悪い道手を振る友の安全願う
【ピエダーデ 中易照子】
(評:一、二首添削してみました。原作と比較してみて下さい。)

栗色に陽焼け塩焼け浜の人帽子もかぶらず闊歩する
嫁姑助け合いつつ修業積み我慢苦労も吾が為に
めぐり来た我も自由に出来るとき好きなことして余生をすごす
【所属なし 氏名なし】
(評:作者名がありませんでした。一首と二首目添削してみました。)


川柳


百越えて新らたな一歩踏む移民
ご来光待てど今年は曇り空
人生の長生き笑顔を持ち歩く
老の身を案じてくれる子え感謝
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】

目で通ず以心伝心夫婦愛
良く当る天気予報に食中り
青春は移民苦労で駆け抜けた
躓けど転ばぬ先の杖ついて
【アルジャー親和会 近行博】

失敗を重ねて積んだ年の功
背を伸ばしシャンとした母目に浮ぶ
受答へ上手にするがすぐ忘れ
大切な指輪盗まれ気がつかず
【サントス伯寿会 三上治子】

正直に感想述べて恨まれる
半世紀風雨に耐えし家と吾
噂では私はボケて居るらしく
犬が似たか飼い主似たかブルドッグ
【名画なつメロ倶楽部 田中保子】

呆けてないつもりで楽しく生きて行く
忘れ癖頭叩いて思い出す
孫の数止まり曾孫は増え続け
忘れ物して階段を登り降り
【セントロ桜会 矢野恵美子】

夏負けをせじと海辺で深呼吸
回転ドア男の耳輪きらめける
暑き日を電気治療ですっきりと
もてなしのマンジョカおいしといただけり
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

贈答品で人格軽く見られしか
あちこちで花火を揚げて大晦日
開拓期雑煮祝いし記憶なく
汗かかず腹立つことも無く過ぎし
【セントロ桜会 森川玲子】

錆ついた頭の掃除カルタ会
病を得これがほんとの寝正月
慰問団演ずる方も楽しんで
バス乗り場同じ方向に皆むいて
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】

真実味帯びし嘘言にまどわされ
気の合いし友が居てこそ趣味楽し
一生を娶らぬ老友思ひやる
確実に歩巾を決めて老の坂
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】





「友よ」

晴れ渡った青い空
一緒に探した四葉のクローバー
きらめく夏の海
時を忘れて語り合った私たち
はらはらと散る花びら 
何処からか聞こえる歌声
まだ寒い焼けた町を
だまって歩いた私たち
黄色い銀杏の葉を
本にはさんでくれた秋の日
降る雪を手に受けて
じっととけるのを見つめた冬の日
夢いっぱいだった遠い日
今は町も花も動物も
まわりにある物がいとおしい
自分がいとおしい
友よ
あなたはお元気ですか?
私もまだ生きています
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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