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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2009年4月号

2009年4月号 (2009/04/02) 俳句 (選者=栢野桂山)


若水の零れ放題深井汲む
水飯の胃にごろごろと哀しけれ
嫁づとめせしは遠き日洗い飯
【伊津野静】

評: これは今とちがって、昔のきびしい姑のもとで嫁づとめしてきた思い出。少し痛んで糸を引くご飯でも、何一つ言わずに水飯にして食べた――。遠き日のかなしい思い出。


初ミサや神に仕へて恋もなく
去年書きし文に書き足す今年かな
夫婦礼者仲人に児を見せに来し
【佐藤孝子】

評: はじめて子に恵まれた若夫婦が、一番にその子を見せに仲人のところへ来た。現代の若夫婦には珍しく律儀で、その若夫婦の幸せそうな笑顔が見えるような句。


初明り百年地蔵黙し居り
月下美人今宵の闇に香を放ち
雑煮食ぶ古里の味かみしめて
【遠藤皖子】

評: 国ぶりによってそれぞれ雑煮の味つけがちがう。作者の母親が久しぶりに訪ねて来て、作ってくれた雑煮の味は、嫁に来た家のと違い、なつかしい古里ぶりの味だったので、喜んでものにした一句。


初電話故郷の四万十(しまと)雪降ると
御所車引く牛優雅な賀状来る
蛇の居ぬ耕地となりぬ花煙草
【寺尾芳子】

評: 毒蛇が多く居た耕地だったが、煙草を栽培するようになり、その花が咲き揃うと、それを見なくなった。蛇は煙草の花が大嫌いらしく、安心して住めるようになった。


狭きルアピホカの如跳ねカルナバル
灼け砂を這って浜昼顔咲けり
女漕ぐカノアに戯れて赤ボツト
【木村都由子】

評: 河の水に棲むボツト(いるか)はアマゾンと揚子江に少し棲息するのみと言うことで、珍しい。その赤いボツトが女の漕ぐボートに安心して、話しかけるかに近づいてきた――という、この俳壇では珍しい句。


初秋や名知らぬ若木葉色濃く
ブラジルの蕗の固きを話題とす
秋の雲一服つけて後戻り
【伊津野朝民】

評: 風の吹くまま秋雲が後戻りしている。それは丁度旅人が道を間違えて一服つけて(一ト休みして)後戻りした様子に似ている――と表現した老練で面白い句。


豪雨一過しのぎやすくて夏の夜々
夏の朝涼しき中に体操会
生き甲斐の作句楽しむ喜寿の日々
【彭鄭美智】

評: 喜寿の喜の字を草書体にすると、七十七と読めるところから寿祝いとも言う。まだ母親の元気な作者は喜寿になっても、大きな店の大黒柱である。


朝涼や採血待ちの椅子万席
突然の心拍異状雷激し
稲妻の走る一閃電話切る
【名越つぎ代】

胡麻味噌に日々清貧の吾が一家
事故を生む気持のゆるみ霧ふかし
暮れせまる墓標はなれぬ秋の蝶
【前橋光子】

句友病み旅中止する月おぼろ
釣仲間早寝早起き短かき夜
【小野浮雲生】

鍬杖に暫し佇む秋涼し
夕日落つ庭の藤椅子に秋涼し
【伊藤桂花】

腰痛に泣きゐる人もサンバ踏む
日本種の朝顔みごと咲き揃う
【青柳ます】

移住して見られる幸やカルナバル
カルナバル世界に知らる美の乱舞
【黒木ふく】

亀の賀とは縁起よしお正月
山装ふ威儀正したるスザノ富士
【本広為子】

日本酒の「歌麿美人」新年会
新年会百年地蔵が見てござる
【青柳房治】

賀状出す卒寿の友に目出度しと
熟睡は健康のもと明易し
【吉崎貞子】

小雨中子等はしゃぎて栗拾ふ
マラソンの一番着は跣足の子
【原口貴美子】

茄子漬が色良き手を出しも一ときれ
夏夜道街の明りがウインクす
【山田富子】

短夜の暑さに寝不足重ねけり
蓮の花見とれ片足踏み外す
【玉置四十華】

寝苦しき残暑の子等のこの寝相
そうめんと茶漬の老母夏負けず
【杉本良江】

鳥の餌にするとて向日葵十株ほど
遠泳を手漕ぎの舟で声援す
【纐纈喜月】

手書き絵の友の賀状に胸熱く
茄子漬むらさき色に祖母の味
【秋元青峯】

年毎に賀状の減りて淋しかり
湯上りの跣足で歩く心地良さ
【矢野恵美子】

職得し子少し気掛り夏負けて
吹き上げて白砂をどる泉かな
【畠山てるえ】

泳ぐより跣足裸の海たのし
夏やせに呆けと重なり老いしわれ
【宇佐見テル子】

夫老ひて孫の出番よ餅を搗く
ささやかに俳句作りて秋涼し
【杉本鶴代】

クリスマス祝福気抜けせし越年
何時の日か読めると新聞溜め師走
【名越つぎ代】

連日の多雨大都市の水びたし
救済の手も届きかね大出水
【矢島みどり】

秋風や異様にきしむ竹林
強かりしジャズミンの香に人等酔い
【大岩和男】

夜明け待ち茶つみし頃の元気ほし
カーテンを操れば白ばらそこにあり
【藤井梢】

ミナス路の眺め雄大初夏の旅
牛の年急がず焦らず参りましょう
【疋田みよし】

亡き妻と二人三脚虹の下
美し名の御所祇園坊富有柿
【風間慧一郎】

住み古りて庭木高々風涼し
雨蛙葉裏にじっと眠り居り
【矢萩秀子】

南国の雑煮を祝ふ椰子の箸
まれに見る小さき素足母老ひて
【森川玲子】

晩学のホ句詠む老に火取虫
備忘録代りの老の日記買ふ
【菅原岩山】

葉脈透き香りよかりし桜餅
浜サビア夏まけもせずひた鳴けり
【軽部孝子】

イペー咲くメトロ広場に日向ぼこ
坂道をバス行きなやむ大夕立
【井出香哉】

今年は年女われ生き抜かん
月美き(うまき)夜に鬼蓮の花咲くと
【猪野ミツエ】

新移民と呼ばれし昔螻蛄鳴けり
マカコノーボと言われし父母亡し蚯蚓鳴く
【野村康】

百一歳旅愛で逝きぬイペー散る
ミニ水着悠々活歩入れ墨し
【清水もと子】

コスモスの揺るる限りは風止まず
寺院守るヨセフの御像今朝の秋
秋風にめくれる机上の聖書取る
死産の仔呼ぶ牛に牧うそ寒し
大根漬け主婦らしくなる異人妻
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


ファビアーナ十九歳の誕生日皆で祝う今日の良き日を
背の高きイタリア人の恋人とみんなに祝わる娘は十九歳
嬉々としてボーロ切る娘を眺めつつ幼き頃の思い出浮かぶ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:三首目の結句を若干添削。また一つの喜びが増えましたね。)

階段を八段上がれば裏畑に色とりどりに飛燕草咲きぬ
何時となく茶の間の座席きまりいて週に一度は友と茶をのむ
【スザノ福栄会 原君子】
(評:常連は席も決まって、家族同様ですね。一首目の結句は終止形にしました。)

フリージア摘みきて母に供えんか逝きて三十年忌日も近し
今朝生れしばかりの曾孫はすでに周りに幸せふりまいており
赤黄色白に紫白壁に今が盛りとハンギング、バスケット
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:毎回良。三首目「今が盛りの」は「今が盛りと」とし言葉を強くしました。)

鯖寿司の尾をかみながら語りつぐ叔母に戦後は未だ終らず
海苔巻を今年は嫁に任せるに細巻の飯がはみ出て笑う
厨にて刻みしレモンが放つ香よ脳裡に充ちくるもの一つあり
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首目の「裡」を「脳裡」と添削。素材良好。)

亡き母が大ファンなりし魁皇が春場所初日に白星をあぐる
暑き日を待ちいし如く日が差せば松葉牡丹は一斉に咲く
新年の歌友の電話は例会に出席できるとう弾みたる声
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:何でもない身近な素材が良歌になります。)

アメリカの救世主たらんオバマ氏の就任の報道世界を駆ける
祈ぎ事のあれば百年地蔵尊に両手を合せて頭をたるる
大晦日の茅の輪くぐりて神主のポ語の祝詞を厳かに聞く
【セントロ桜会 野村康】
(評:三首目の結句を若干添削しました。)

病床にてチラシの裏に歌十首亡き母の顔銀河を越えて
夕焼けの窓辺に独り安らげば老いの一日は静かに暮るる
炎天の街より帰り荷物投げ一風呂浴びて延命を感ず
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:三首共若干補足。二首目良い仕上りです。)

年に一度子孫の集う新年は広き我が家に人溢れおり
小雨降る寒き夕空野良猫が急ぐ事もなく道路横切る
「もったいない」は死語とし忘るるに今甦る百年目の不況に
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:一首目と二首目添削。三首目は字余りですが判り易くする為にその侭にしています。)

朝毎に隣家の石榴に集きおる雀は今朝は姿見かけず
静寂の朝のひと時椰子の樹の葉鳴りばかりが静かに聞こゆ
大空を一直線にジェット機の飛行機雲は白く残れり
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:三首共若干添削。素材選択良好。)

この国は泥棒天国ホームでも盗られる方が間抜けと言われ
身を守ることのできない老人は金はホームに預けよと言う
懺悔して己の罪を主に預け祈りつつ盗る人の物をば
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:人間の欲望がある限り犯罪は絶えませんね。)

週三回リハビリに通い十月すぎ我が子の優しき言葉嬉しく
この暑さ恋しくなりし扇風機労わる如く涼しき風の
窓越しに集いて見ゆる雀等は何を語るや賑賑しくも
【ピエダーデ寿会 中易照子】
(評:若干添削。良くまとまって良い作品です。)

窓越しに早く起きよと語るがにベンチビーの声愛しく聞こゆ
【サントアーマロ青空会 千賀子】
(評:若干手直し。多詠が上達につながります。)

カーニバルの昼の街路は人見えず開放されし思いに歩く
何となく君待ちくるる思いにてダイヤル回せどベルが鳴るのみ
【梅崎嘉明】

伊勢よりの箱を開れば採りたてのわかめの香り胸にしみ入る
自動車で角を曲りて別れゆく遠く住む娘の後を追いたし
【セントロ桜会 上岡寿美子】

時たつをもどかしく思う来る友をひたすらに待つこのひと時よ
あと何分たてば友が来るのかと何回となく時計を見おり
【セントロ桜会 井本司都子】

山裾に張りつくごとく家ありて夕陽浴びつつ鍋、食器ひかる
「ありがとう」と言われし一言何となく心暖する不思議さを知る
【セントロ桜会 上田幸音】

久々に大阪橋を渡り行くクワレズマ満開足をとどめる
赤塗りの橋の欄干陽に映えて道行く人等足早に過ぐ
【セントロ桜会 鳥越歌子】

むらさきに白き縁ある大輪の朝顔今朝は見事に咲けり
来るべき事来れりと思いおり職失いしとう吾子の電話に
【セントロ桜会 富樫苓子】

誕生日孫や子供に祝われて嬉しくもあり寂しくもある
今朝もまた歩けることの倖せを花散りしけるこの道を行く
【セントロ桜会 板谷幸子】

胸を張り頭を下げて歩けと云う昔の教えは「頭を低く」
窓に見る青空を背景にして芝の鮮緑木立の濃緑
【セントロ桜会 前田あや子】

嫁ぎ来て家計簿今も続けおりへそくりはおろか赤字が目立つ
週二回暑さも厭わずリハビリに出かける夫を黙し見送る
【セントロ桜会 大志田良子】

秋の陽が差しくる居間に老妻と子育の頃のアルバムを繰る
読み更かし書を閉じながら古里に病む姉の上に想い巡らす
朝早く勤めに出る娘らを門まで送る飼猫二匹が
【グァイーラ 金子三郎】
(評:三首共良。次回も期待します。)

人間の棚飼いなどと言いながらアパート住いも四年目となる
十五年たてど生らざるジャボチカバ切るには惜しと其のままにして
カルナバル騒音避けて奥地にと知人を招き直ぐに旅立つ
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:三首目若干補足しました。一首目の用語、面白いですね。)


川柳


☆老壮の友「川柳欄」担当にあたって
 この度、老ク連のご要請により、老壮の友川柳欄を担当させていただくことになりました。
 それに先立ち川柳教室が開設され、上原事務局長のご配慮で十名の参加者を得て、去る三月十七日に初めての川柳講座と句会が行われました。
 川柳創作についての心得についての概要が説明された後、早速実作に入り、自由吟、席題合わせて四十三句の作品が披講されましたが、初心者とは思えない多くの佳作が寄せられ、皆様の熱意を身近に感じて大変心強く思っております。
 川柳は十七音字で人生を表現する素晴らしい文芸です。お一人でも多く参加され、「喜びも悲しみも川柳で」皆様の人生の一篇のドラマの創作の楽しさを味わって頂けたら望外の喜びでございます。
 ブラジル川柳活性化のためにご高配下さいました老ク連のご厚意に深謝申し上げ、併せて今後とも一層のご指南、ご鞭撻をお願い申し上げご挨拶に代えさせていただきます。 (柿嶋)

熱帯雨林遠のき地球肺を病む
天変地異地球が泣いてる人のエゴ
思い出を辿る移民の原始林
国連もてこずる北鮮自我を張り
病身を抱いて句作の灯に出会い
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:自然と社会に対する人間のエゴへの風刺が一連に巧みに表現されました。五句目の「病身を抱いて句作」に心を打たれました。)

追従を卑屈と誤解された悔
大袈な身振りの嘘に惑わされ
うわのそら肝心要を聞きもらす
犬掻きで人生大波泳ぎ抜け
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:いぬおよぎに等しかった開拓移民の人生を泳ぎ抜いて来た作者に敬意を表します。)

アクセサリー安物なれど我が好み
妥協する返事心に余裕出来
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:納得し合った心の安らぎが巧みに表現されました。)

初句会どきどきわくわく仲間入り
米寿越す友の元気を見習いて
それぞれの夢を持ち寄る老ク連
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:日本文化の大本とも言える老ク連には、各々の趣味を持った人達がそれぞれの夢をもって集まってくる。中七の表現が利いています。)

元気よく返事したけど後が出ず
元気かと肩を叩けば人違い
【セントロ桜会 野村康】
(評:他人の空似。うっかりする間違えることがあります。)

腹割って話せば皆んな仲良しに
老いらくの恋は互いの突っかい棒
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】
(評:支え合う相手があることは大変幸せなことです。老いらくの恋を描写してお見事。)

友に会い元気もらいに家を出る
元気という字が踊り出す嬉しい日
【サンパウロ鶴亀会 相沢絹代】
(評:健康は人生の何よりの宝。元気でいればこその喜びが中七に発揮されました。)

空元気冷水シャワーで風邪をひき
老いらくの恋も出来そうまだ元気
【サンパウロ中央老壮会 新川一男】
(評:老いらくの恋で老春のパワーを発揮して下さい。)

千思万考叡智努力で世を渡り
生きる欲まだ煩悩を捨てきれず
負うた子に扶養うける齢となり
【アルジャー親和会 近行博】
(評:自然の成り行きです。扶養家族の一員として幸せな余生をお過し下さいますように―。)

逆わず乗れば風が押してくれ
孫一人増えてわが齢一つ増え
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:孫の誕生につれてわが齢も増えていくことへの哀歓が秘められています。)

カルナバル金融危機も何のその
日系も大胆不敵サンバ踏む
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:下五のサンバ踏むが活きています。)

空元気出して坂道登り切る
ラジオ体操今日も元気で出来る事
【サンパウロ中央老壮会 加納照代】
(評:健康第一に頑張りましょう。)

温暖地のろのろ暮らしは国民性
勤勉さ流石日系混血児
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:血は争えぬもの。混血児にエール!)

世界に一つ天皇の道リベルダーデ
昭和四年海を渡って八十年
【セントロ桜会 中山実】
(評:光陰矢の如し。早いものです。)

◎選後に「あと少し推敲されたら」と思われる句がかなりありました。一部添削させて頂きましたので原句と照らし合わせて参考になさって下さい。句会は最良の勉強の場ですので、なるべく川柳教室にご参加されるようお勧めします。尚、川柳教室は第二火曜日となりましたので、お忘れなくご出席下さい。


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