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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2009年5月号

2009年5月号 (2009/05/07) 俳句 (選者=栢野桂山)


尖塔の十字架鰯雲の上
「さようなら」と上げし手先の鰯雲
移民初期の紙雛古りて吾も卒寿
【名越つぎ代】
(評:笠戸丸移民に続く何年かの移住者を初期移民と言う。その頃持参して来伯した紙雛もその年月と共に古くなって、自分も卒寿となった。想えば永い年月であった――と、己れの人生を振り返ってみる老移民が、その古くなった紙雛を手にした感懐。)

天の川移民が賭けしこの大地
入道雲次々変化見て飽かず
独り居に動くもの欲し金魚飼ふ
【宇佐見テル子】
(評:独り居、他に家人の居ない暮しを続けていると、何か動くものが身ほとりに欲しくなる。そこで金魚を買って来て、活発に泳ぎまわる鉢の金魚のヒレの美しさを見て、何か少し自身にも活力が出てきたように感じた。こういう繊細な女性の心理を詠んだ。)

狐啼き山葡萄熟る父の里
灯ともりし西瓜提灯児等笑ふ
髪ひとすじ句帳の上に秋深む
【森川玲子】
(評:一本の落毛が句帳の文字の上にあるのが目に止まった。と同時に何んとなく秋が深まったという感じがふかくなる。若い頃のと違って艶のないのを見ていると、自身の人生にも木々が落葉を急ぐように人生の秋となった感じがしてくる。)

コロツテの水なまぬるき洗ひ飯
鼻かばふクワチーに手製銃外れし
蟻地獄奈落にすべりもがく虫
【佐藤孝子】
(評:蟻地獄は乾いた砂地に擂鉢形の穴を作って、落ちてくる蟻や虫を捕まえて食べる褐色の虫のこと。奈落は仏教で地獄のことを言い、其処に転落してもがく虫を写生したものであるが、何か不幸な底辺でもがく人間のことが想像される。)

雨弾く肌黒光りサンバ踏む
堂々と空押し上げて入道雲
キュピーさんめきて癖毛の子天瓜粉
【猪野ミツエ】
(評:現在はあまり流行しないようであるが、キュピーは、ローマの神話の恋愛の神キューピットを戯化した、裸で目の丸い大きい人形のこと。その人形に似て癖のある縮れっ毛の可愛い子に天瓜粉を打っているところ。)

頂きの雲輝やかせ山粧ふ
里芋の口にとろける走りとて
裏山に賑はふ猿に木の実落つ
【畠山てるえ】
(評:昔の奥ノロエステ・アリアンサ移住地などでは、多くの猿が居たと聞く。その猿からはじまった黄熱病から移って、多くの入植者が亡くなったと聞く。それらの猿が木の実が熟れて落ちる頃となると、喜んで大騒ぎするという珍しい句。)

屠蘇を酌む曾孫を見せに来し孫と
逃水や喋り疲れのバスガイド
鎧魚啼ける出水の忘れ水
【菅原岩山】
(評:カスクードは鎧魚と言い、生命力の強い鎧を着たような魚で、出水の引いた跡の少しの忘れ水の処にも生き残ることが出来る。鎧魚とは俳句でも余り聞かなくなっていて珍しい。)

朝夕の風快く秋近し
大き葉の左右にゆれて子芋増へ
【矢萩秀子】
(評:「芋の秋」という季語のとおり、秋の畑の中で目につくもの、山の芋に対して里の芋で一メートルにもなる葉柄は芋茎になり、大きな葉は畑の風物詩――とも言える。その葉に風が吹いて、それが応援歌となって子芋が増える。)

目の手術終えて読書の秋となる
秋蝶の飛んで淋しき花明り
【原口貴美子】
(評:野の小さい草の花が淋しさからのがれるように固まり咲いて、僅かな花明りの処を飛んでいる秋蝶を見ると、何か淋しそうで自分の気持ちさえ淋しく感じる。繊細な秋の想いを詠んだ句。)

ミサに行く襟かき合せ懐手
日本名で親しむ異人柿の秋
【大岩和男】

秋風に背なを押されて旅の我
濯ぎもの初秋の風になぶられて
【矢野恵美子】

百姓に連休はなし畑残暑
穴まどひ蛇食ふ主に見つけられ
【纐纈喜月】

念腹師の白寿の直弟子逝きし秋
車泳ぐルア河の如秋出水
【林田てる女】

サンバ踏む四千人の大熱気
十六年の夢の賞受けカルナバル
【清水もと子】

訪伯の日本女性等サンバ踏む
朝寒き季節焼藷好む子等
【小野浮雲生】

日焼して七難隠すはむずかしき
望郷の歌碑建つ園や秋の蝉
【香山和栄】

茘枝うれ色美しく甘き果汁
獅子舞にしばし故郷偲び居り
【彭鄭美智】

とびあがる程の旨さよ衣被
くっきりとリベイラ富士や秋澄めり
【伊藤桂花】

ふくめ煮の芋忘れ得ぬ母の味
聞き上手話上手や春隣り
【風間慧一郎】

来年の芽ぶきに備えし落葉とも
秋晴の飛機雲の間に見へかくれ
【藤井梢】

青き海飛沫をあげて孫泳ぐ
朝寒に負けず元気な孫の声
【疋田みよし】

街の夏槌音さかんに伸びて行く
ちりぢりに住む子等想ふ秋の暮
【前橋光子】

水薬のどにつかえて月うるむ
除夜の鐘ならぬ花火に大歓声
【井出香哉】

観光地整備おくれのビルふえて
バナナ干し天の恵みの保存食
【三上治子】

ミナス路の木の実火の色何んの木ぞ
ポケットの木の実にふくれ童行く
【秋元青峯】

穴まどい見しこと言はず妻帰る
旅人の木に寄れば我も旅の人
【伊津野静】

杖欲しと思ふこの頃老の秋
庭つづじ日当る色と蔭の色
【伊津野朝民】

クワレズマ朱ぬり欄干にぞ映ゆる
リハビリに通ふ残暑の日々続く
【遠藤皖子】

残暑にも耐ゆる健康有難し
草蔭のかれんな花や野路の秋
【荘司恵美子】

夢つなぐ芋の子会と言ふ集い
さわやかで豊かな果樹の国に住み
【吉崎貞子】

羽抜鶏中の一羽がいじめられ
残り毛の糞に汚れて羽抜鶏
【岡村静子】

秋高し少年野球始まりし
密林に猿酒今もあると言う
【矢島みどり】

人言わず地蔵語らず秋暑し
夏痩せや水割火酒にも酔ひ痴れて
【山田富子】

早足で進む朝寒歩こう会
日本の平和続けよ昭和の日
【軽部孝子】

病床にパモニアを切り分けてくれ
残暑背に遠路見舞に来て呉れし
【松下緑白】

頬寄せて母娘の別れ夕月夜
老農の手鍬無駄なき除草かな
喜雨漏りのバケツの音に安眠す
牧の子等すぐに靴ずれ入学す
灯の点る靴はき幼女入学す
看病の甲斐見えそめし林檎むく
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


苦学して成功したる末の子もコンドミーニオに家建てて住む
俄雨に軒下通るモルモットの親子見かけて心和める
【スザノ福栄会 黒木ふく】
(評:身近な素材が生きています。)

日本の朝顔咲きしと嫁と愛ず赤むらさきに白のふちどり
姫椰子に登りて咲ける夕顔の純白の花に心洗わる
伐ろうかと夫の言いたる椰子の木は軒より高く赤き実垂らす
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:情景が鮮明で良い作品です。)

鶏魂碑寒々と建つ寺の庭養鶏村と誇りいし名残り
村と共に栄えしお寺も年寄りの逝きて淋しく廃寺となりぬ
寺の句座集いし事も今は夢村の歴史の中に沈みて
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:栄枯盛衰時代の流れと共にその歴史は綴られます。静かな良い作品となりました。)

清爽な青き朝空トカチンスの空気は澄みて一日始まる
丈低き十字架六つ道の辺に並ぶは大きな事故でありしか
欲張りてもぎたるリンゴを用意せし袋に入れしが持ち上げもできず
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:補足したところあり、良くまとまっています。)

子より孫へ伝える歴史君が家の松ふかぶか緑たたえつ
土踏まずの火照る疼きを抑えつつバンカに残る野菜商う
水禍にて死せる者等の腐臭より口惜しさ募る畑中に立つ
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:今回も良い作品でした。三首目若干添削。)

矍鑠と在わす師の君偲びつつ猫背の吾も背を伸ばし行く
若き日の夢の生活も面白く時を忘るる茶呑み話しに
水茎の跡も清しき友の文湯浴みの後の心地して読む
【スザノ福栄会 原君子】
(評:まとまりの良い作品です。)

衛星と偽りながらミサイルを発射決断世論を無視して
香水も紅もなかりし開拓期乙女移民の波瀾万丈
終戦を生き永らえて我は知る戦友は敗戦知らずに逝きぬ
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:一、二首は良い仕上りです。三首目は分り易く言葉を変えてみました。)

百歳の翁を祝う孫曾孫沖縄衣裳で若返りに見ゆ
ピクニックみどり広がるゴルフ場白や黄蝶に蜻蛉も舞いぬ
窓の額白鷺横切りコルボ舞う飽かず眺むる朝の静けさ
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:若干補足していますが、良い作品になっています。)

百年の移民歴史とこれからも残しておきたい「モッタイナイ」の一言を
十余年絆深めし句友移住空席寂し夏の句座なり
子に餌を求めに来たるウグイスの追われ飼い猫に捕われにけり
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:三首共結句に音数の過多あり。素材の選択良好で良い感じです。次回も期待。)

朝な夕な団地の花壇に小鳩来る人馴れをして去ることもなし
体格の良き孫娘の付添いの老婆は街路を手を引かれ行く
展示会に絵を出展しようとて遠近法にて松五本を描く
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:一首目の結句と三首目言葉を変えてみましたが如何でしょうか。原作と比較してみて下さい。)

車窓より見えてくる景色は新緑に包まれ花咲き心和みぬ
鍾乳洞この天然の彫刻は唯唯凄いの一言なりけり
【サントアマーロ青空会 千賀子】
(評:二首共分り易く言葉を変えてみました。)

年祝い米寿を迎う嬉しさを夫と一緒に語り合えたら
手料理に張り切る姿頼もしく後片付けも孫娘たち
孫娘の初産なるは間近なり待ち焦がれつつ安産願う
【ピエダーデ 中易照子】
(評:二首共若干添削していますが、回を追う毎に良い作品の出来上りです。次回も期待。)

一日を無事すごししや小鳥たち夕べ梢に囀り止まず
枝移る小鳥の声も潜まりて明日は晴るるらしながき夕映え
雨後の街爽やかにして良きことのあるがに朝日は妻の美容院照らす
【グァイーラ 金子三郎】
(評:一首目「すごせし」は「すごしし」となります。二、三首目少し添削していますが、夫々良くまとまっています。)

今日の日は再び来ぬと思いつつその日その日を心して生きる
朝三時一番鶏が鳴き始むこののどけさに故郷思う
【セントロ桜会 板谷幸子】

誰が種を待ち来しならんユーカリの林の中にサボテンの生ゆ
独り立ち枝を持たざる覇王樹サボテン五メートル余に真直に伸びぬ
【セントロ桜会 藤田あや子】

校正に疲れしまなこ上げしとき窓外に柿の色づくが見ゆ
色づきし柿をもがむと来て見れば小鳥が先に啄みており
【セントロ桜会 梅崎嘉明】

ジョギングに出で行きたれど北風が肌をさす故急ぎ帰りぬ
パイネーラの大木はやがて花盛り小さき蕾は丸くつらなぬ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

詐欺などと思いもよらず泣き言に情にほだされ騙されており
後悔は先にたたずと知りつつも詐欺師に騙され悔だけ残る
【セントロ桜会 大志田良子】

午前三時にわかに犬の吠え立てる脱兎の如く走る人影
和やかに手話交す二人にて停まりしバスに気付かずに居る
【セントロ桜会 上田幸音】

芯少し黄色き蘭の白き花窓辺に置けばサーラ明るむ
朝陽射す廊下に出でて深呼吸白く輝く雲見上げつつ
【セントロ桜会 井本司都子】

時折にウルブーとまりいしユーカリの大樹が朽ちて倒れてしまいぬ
医師なれど癌を病む身となりし甥治癒を願いて祈り奉ぐる
【セントロ桜会 富樫苓子】

朝夕の風はひんやり心地よし秋に入りしを肌で感ずる
子育てに日毎使いし古ミシンいまだガッチリ狂う事なし
【セントロ桜会 鳥越歌子】


川柳


補聴器はなくとも悪口よく聞こえ
杖振って危い橋を渡りきる
宗教と政治の話しに乗らず来る
出発は同じ移民に貧富の差
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:その時期の情況がそれぞれ移民の境遇を変えていったのでしょう。)

貧しくも心はいつも神とあり
貧しさに打ち勝つための汗を積み
【セントロ桜会 中山実】
(評:二句同想でしたので、結句の「手を合わす」と「祈ります」を添削。発想を別々に纏めました。)

貧しさを見せない母は知恵絞る
ブランドを誇示する人の性貧し
【サンパウロ中央老壮会 中西えみ】
(評:良く纏まっています。二句目の下五の表現が佳いですね。)

まだら呆け案じて吾娘の眼が光る
貧しくも明るく生きよう子等のため
養鶏脱皮今老ク連のわが余生
【セントロ桜会 野村康】
(評:三句目若干添削。あなたの人生史が含まれた深みのある川柳ならではの作品。)

ポ語学ぶ頭の錆が磨かれる
戸締まりはしっかりしてねと子の電話
貧しくも心豊かな希望抱き
辞書引いて拡大鏡で確かめる
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:良い作品は身近かな素材から生まれるものです。全句にあなたの活き活きした姿が見えるようです。)

足裏の指圧で元気取りもどし
古里の香り豊かな慈善バザー
大胆に派手なブルーザで旅に出る
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:三句目、発想が新鮮ですね。旅に出る楽しさが巧みに表現されました。)

赤いバラ愛の象徴炎えている
貧富の差気にせぬ人といて楽し
まだ元気百寿目指して書に励む
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:一、二句は若干手直ししました。人生は生涯学習です。頑張って下さい。)

新聞が今の生き甲斐わが余生
他人事を思えぬ明日は我が身かも
悩みごと打ち明けられて我れ悩む
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:人様の悩みに悩まされる。それが人情です。二句目の「かな」の切れ字を「かも」としました。)

人生に当たりが欲しい本塁打
日が暮れて受験勉強付け焼き刃
敗戦で邪心宗教罷り出る
フッテボール喧嘩の種に衣更え
【アルジャー親和会 近行博】
(評:フッテボール観戦に行って奇禍に遇う人が増えてきました。下五が 利いています。二句目も下五の用語が活きた佳作です。)


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