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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2009年6月号

2009年6月号 (2009/06/01) 俳句 (選者=栢野桂山)


紗の羽織まといて飛べり銀蜻蛉
納屋隅に乳ふくませて夜なべ妻
待ち針に小指さされて夜なべ仕舞ふ
【森川玲子】
(評:夜なべ仕事が深夜になり、うとうとしていて待針に小指を刺されてはっと目が覚めた。それを機会に夜なべを仕舞うことにした若い母親。前の句の「納屋隅に乳ふくませて」の句とともに男には詠めない佳句。)

星光り亡き父母銀河を渡りしか
姉弟けんかして寝て母よなべ
夜なべして縫ふ学芸会の児の衣装
【原口貴美子】
(評:我が児の学芸会が迫った。母親は多忙の中をさいて夜なべ仕事にその折に着る衣装を縫いあげた――。何処にでもよくある母親の愛情が、よく表現された。)

稲光神の怒りと言ふインジオ
血圧に効くてふ木の実の首飾
とぼけ顔して精悍なカピバーラ
【猪野ミツエ】
(評:カピバーラは尾の無い豚に似ていて、水辺に棲むので水豚とも言い、土語で「草の獣」という意。まことに、とぼけ顔をしているが、この句の通り仲々精悍な動物である。)

子沢山夜業で学費稼ぎし日
娘盛りを鍬仕事豊の秋
歓喜樹の並木歩道を明るうす
【矢野恵美子】
(評:歓喜樹はアレルイアとも言い、花は鮮黄色で美しく、それの咲いた折の並木道は人々の心まで明るく歓びに満ちたものにする。)

鉄戸閉め今日の終りや夕月夜
あでやかな和服を思ふ立子の忌
立子忌やパラナパネマは今如何に
【伊津野静】
(評:「秋蝶よパラナパネマという河よ 立子」確かこういう俳句だったと思うが、星野立子先生が来伯されて、パラナに行かれた折に州境の大河パラナパネマを渡られ、その折に汀に秋蝶の群落に眼を留め、そのパラナパネマは今どうなっているのであろうかと、立子忌の日に思った。)

抜手切る泳ぎは小豆島育ち
両手両足扇かざして泳ぐ技
鯖寿司用筍の皮選び剥ぐ
【香山和栄】
(評:鯖は最も一船に親しまれている魚で、それで作った寿司を竹の皮に包んだのを弁当にした少年時代の思い出があり、懐かしい気持でこの句を取上げた。)

銭を乞ふ親子連れなる門礼者
初ミサの鐘が鳴ります厳かに
【岡村静子】
(評:門口で新年の祝詞を述べるのを「門初者」と言うが、これは親子連れで来た礼者。それを乞食でもむげには出来ないのを知って、銭を乞う考えた横着者の乞食。)

今の世に海賊騒ぎ秋寒し
くんくんと鳴く愛犬の夜寒かな
【杉本鶴代】

父母ありし頃の夜なべも懐しき
手枕で嬰児に添い寝夜長妻
【吉崎貞子】

秋立つや雲の流れに吹く風に
耐えること多き人の世天の川
【宇佐見テル子】

老いて尚句作に励むホ句の秋
故郷を恋いて仰げり天の川
【遠藤皖子】

黄金の風吹く向日葵畑見渡して
親子より仲良き姑嫁秋茄子
【木村都由子】

流星の美しき世の二人連れ
稲妻や間をおき光るガラス窓
【佐藤孝子】

赤とんぼ竿に止まれば魚釣れず
コーヒーが出されて夜なべ未だ続く
【纐纈喜月】

雨期上る明るき陽差しに気も晴れて
夏風邪が尾を引き残る昨日今日
【矢島みどり】

新調の靴はきて行くホ句の秋
命ある限りは灯す秋の夜々
【山田富子】

熟れジャッカ踏みて不覚よ足滑り
追う警部マロンバに逃げかくれしと
【清水もと子】

木の実食ぶ小栗鼡のポーズ愛ほしく
ひそひそと風に乗りくる秋の声
【秋元青峯】

豪雨来て浮浪児気使ふ秋の夜
イペー満開心潤す道路行く
【彭鄭美智】

ねむられず夜長に書籍読みふける
虫の声聞きつ夜なべをする一人
【加納照代】

秋服着しマネキン店に飾られて
秋の服着やせを望む乙女等よ
【軽部孝子】

高波に屋台も客も逃げる秋
砂の城波に攻められ崩る秋
【井出香哉】

憂国の士チラデンテス忌忘れまじ
唐辛子きかせ糠漬けマンジューバ
【野村康】

意のままに庭の様変へ花ゴヤバ
蘭の鉢幾つも下げて花無き木
【伊津野朝民】

揺さぶりて大都の眠り秋の雷
子育てに追はれし日々や夜なべ妻
【畠山てるえ】

焼藷を好む季節や朝楽し
パモニアとマンジョカ料理移民妻
【小野浮雲生】

眼の手術終えて明るい春の風
パモニア嫁の手作り頂きぬ
【疋田みよし】

病人食草梅漬けを副へてあり
味噌汁に浮かぶずいきに母偲ぶ
【大岩和男】

白牛の群みな木蔭に牧残暑
マンジョカの皮むき楽しむ子供達
【矢萩秀子】

何事もなく過したり四月馬鹿
バス四台止めてパモニア店繁盛
【伊藤桂花】

九十二歳の思惟の幼なに戻る秋
落日に揺れて吊柿簾かな
【風間慧一郎】

枝多きつつじの剪定さっぱりと
落葉掃くはしから鶏のかきちらす
【玉置四十華】

かぐや姫の伝説今に月今宵
宵闇に浮かれてタツー狩られたる
【本広為子】

櫓臍鳴る孤舟晩夏の湖の景
啼き止まぬ迷子羊や草虱
【菅原岩山】

パイネイラ二人の愛の家樹下に
火炎樹や大学の庭赤く染め
【青柳房治】

香り満載してバス帰路にりんご狩
亡夫と見しあの名月と変らねど
【寺尾芳子】

仲秋の名月雲に見え隠れ
月に孵化したる小鳥の羽根のばす
【青柳ます】

蜘蛛の巣にキラキラ光る露五色
からめとる虫のさだめや蜘蛛のあみ
【三上治子】

機械化で耕馬艶々肥りゐし
秋晴やイタペチの嶺指呼の間に
【名越つぎ代】

彩と撒きそよ風を生むアレルイア
歓喜樹や独立宣言したる岡
牛桶の塩吹きとばす初嵐
新居建つまでの空地やアレルイア
けんかあと夫口きかぬ夜なべかな
種牛の瘤ゆすり行く大秋野
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


寺借りて句座を開きし事もあり村の歴史の中に沈みて
福博寺六十三年の歴史閉ず時代の波に呑まれるように
村と共に栄えし寺も年寄りの逝きて淋しき廃寺となりぬ
いそいそと集いたる日よ福博寺幼なき子等を連れて参りし
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:時代の流れと共に消えるものが身近に沢山ありますね。これも運命であり、歴史の中に生き続けるものでもありましょう。追憶の詩として良くまとまっています。)

逸早く起き出し娘は朝顔の大輪咲きしとはずみて告ぐる
見に来よと娘の呼ぶ声に下り立てば雨は上りて十六夜の月
まとまらぬ短歌に時間を過ぎゆけば心放ちて庭の花見る
【スザノ福栄会 原君子】
(評:二首目の「仲秋の月」は八月ですから「十六夜の月」としてみました。三首共良くまとまっています。)

丁寧に歯磨きせよと大学生の女歯者のやさしきもの言い
病むこともなく突然に逝きし人八十五歳の苦のなき畢り
夏空をさぐり伸びゆく朝顔が幾輪咲してかと朝のたのしみ
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:三首目若干言葉を変えてみました。何れも良くまとまっています。)

移民船の中に仕上げし「八重垣姫」武田の姫とは老いて知りたり
咽渇く夜半を厨に茶を汲めば亡き夫の椅子に気配を感じぬ
伊予弁のK・Yさん、リンゴ作りの苦労話で皆を笑わす
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:三首目はリズムを整えるために若干言葉を変えてみました。次回も良い作品を送って下さい。)

病院を出で来し眼にすがすがし銀杏大樹の青き円ら実
我が思惟をみだし駆けくる少年ら白きボールと弾け合いつつ
緋の糸を結ぶ形に曼珠紗華燃えていよいよ秋は深まる
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:素材に対する視線、用語の使い方など短歌ならではの見事な出来映えです。)

サビア鳴く椰子の林の野に立てばゴンサルベを唄う詩歌の日
趣味をして夢中にならず欲捨てて平穏無事の日々を只謝す
民謡会で振舞われたるにぎり飯香り豊かな新米の味
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:ゴンサルベス・ディアスと言えば「我がふるさとに椰子ありてサビアひた啼くその陰に…」と言う流離の歌。心をうつ詩歌はいつまでも忘れられませんね。三首共良いまとまりです。)

新世帯嬉嬉としてすごす孫娘共稼ぎ故母恋しがり
【サントアマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:言葉を入れ替えて分り易くしました。次回は二首、三首と送ってみて下さい。)

吹き荒らす金融危機とは他人事とみんな踊れや唄えカーニバル
蝉の鳴く声も聞かずに夏は過ぎ自然美消失遺憾とぞ思う
六十余年住みし故郷に今も尚亡き父遺植の椰子は実りて
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:一首目リズム整えるため若干言葉を変えてみました。三首共良くまとまっています。次回も期待します。)

秋夜長夜半に目覚めて作歌するまとまらぬまま浅き眠りに
フェーラまでカリーニョ引いて急ぐ道路上に秋の風受けながら
喜びは心の中の玉手箱淋しい時はそっと出して見る
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一首目は「句作」を「作歌」とします。二、三首若干補足しました。身近な素材でまとまっています。)

台北は不夜城の都市、オートバイの轟音続き眠れぬ夜に
黒胡麻に黒米と紫蘇常食すれば健康に良しと新聞で知る
蚊やブトに散々食われし旅なれど森林浴が良い旅となる
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:健康第一に考えておられる姿が作歌に表現されて良い作品となっています。)

集会に行きたい心募るのみ一年会わぬ皆の笑顔に
母体には重すぎました女の子良くぞ頑張り出産万歳
世は進み複雑なこと増しゆけど日本の孫等よ強く生きてくれ
【ピエダーデ寿会 中易照子】
(評:三首共若干補足しています。次回も頑張りましょう。)

ひと鉢のつつじの花の美しくサーラに賞でて夜は露に置く
今日の日は六十回忌五十二の若さで逝きし母に香焚く
つつがなく過ぎしを喜ぶ小鳥らの夕べ梢に囀りやまず
【グァイーラ 金子三郎】
(評:二首目「逝きし母」とありますから「亡母」の「亡」を取ります。三首目、結句を少し言葉を変えてみました。良い出来上りです。)

道の辺に雑草の中花一輪朝日をあびて光りて見ゆる
姪が来る故郷の便りを持って来る幾日と指折りて待つ
【セントロ桜会 板谷幸子】

九十と九十二歳が電話にて昔を語るつきぬ思いで
朝の日を背中に受けてここちよきぬくもりにいる静かな庭で
【セントロ桜会 上岡寿美子】

朝の戸を開けばカニサボテンの花が目に五月はたのし花咲き盛る
青空の見ゆる廊下に時折に出でて大きく深呼吸する
【セントロ桜会 井本司都子】

朝夕は徐々に冷えゆく昨日今日うすき下着を一枚重ねし
老いゆけどわれもいまだ希望あり今日は曾孫と日本語の会話
せわしさに見忘れていしビオレッタ今朝は莟をあまたつけおる
母の日を祝すが如くつぎつぎとビオレッタは咲く濃き紫に
【セントロ桜会 富樫苓子】

ずっしりと重き小包受け取りてあくれば歌集「祖国はるかに」
二十首が「祖国はるかに」集りて吾も仲間の一人うれしき
【セントロ桜会 大志田良子】

笹竹のこまかなる葉は逆光を受けてさゆらぐ目にいたきまで
ヨーロッパを旅行し日より十年過ぎ一人は逝きてまた一人病む
【セントロ桜会 梅崎嘉明】

母の日にリンス温泉へ息子と共に多量のお湯にゆっくりひたる
リンス市は子等が育ちしなつかしの第二の故郷忘られぬ街
【セントロ桜会 鳥越歌子】

鄙の街の誕生記念行進に乗馬服着て孫参加せり
歌友ありて月に一度の集会に頂く批評を吾の良薬
【セントロ桜会 藤田あや子】

(寸評:鳥越さんの歌一首目「ゆっくりあびる」は「ゆっくりひたる」の方が更にゆったりした感じがします。二首目の「忘られぬ街」は「忘られぬ都市」の方が範囲が広がり無難のようです。藤田さんの歌、一首目の「記念行進」は「記念パレード」とした方が近代的では?板谷さんの歌、二首目の「来る」が重複していますので要注意。以上、気付いた点を書いてみましたが、今回も良い作品が揃っています。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


下請けの夜逃げ赤字を抱く政府
勝つ為の政争我田引水論
咲く花の四季を狂わす人のエゴ
感謝する言葉の中に人がいる
他人を見る目から自分見逃さず
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:社会と人間風刺を描出された一連。五句目の「他人を見る目」が活きています。)

心ない泥棒わたしの数珠盗む
今の世は引き際知らぬ人多し
豚児とて世界揺るがす力持ち
老い夫婦オウム返しで日が暮れて
【セントロ桜会 森川玲子】
(評:和やかな老夫婦の日常が巧みに描出されました。若干添削しました。益々のご健吟を期待しています。)

好き嫌い言わせぬ躾のゴーヤ煮る
実力があっても勝敗時の運
洪水の北伯南は沼干割れ
虎描けば猫ではないかと揶揄もされ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:揶揄されても虎は虎。虎を見据えて頑張って下さい。ユーモアに溢れた佳吟です。)

鍋盥並べて待つ雨無情なり
物忘れ病気のうちと若い医者
米寿まで生きよと子等の応援歌
期待され母の日大鍋日の目見る
【サンパウロ中央老壮会 中西えみ】
(評:滅多に使う事のない大鍋もこの日だけは母の日の為に大活躍。お母様を囲んで家族団欒の様子が浮かんできます。お子様達のエールに応えてご健康専一に――。)

思わざる豪雨民家流される
まずいポ語孫に口まねされ口惜し
ほどほどの雨のぞめどもままならず
【サンパウロ中央老壮会 渡辺文子】
(評:北は豪雨禍、南は旱魃で非常事態に陥っています。人の世も自然界も侭にならないものですね。)

日本語言わねど伯人箸使い
洪水禍水漬く景が痛ましい
【セントロ桜会 野村康】
(評:毎日のテレビニュースに胸が痛みますね。)

老婆心お節介過ぎて嫌われる
文明の世が行き詰まる麻薬犯
善人の住む所なしこの世相
悠久の平和の理念神代から
ありがとうただありがとうの八十路
【アルジャー親和会 近行博】
(評:幸せの秘訣は感謝の心を持つこと。ありがとうの繰り返しで一段と深みのある佳吟になりました。)

にわか雨ラジオ体操バラバラに
整体術おかげで骨が生きかえる
薄皮取り熟柿啜る口忙し
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:三句とも言葉を少し変えてみました。原作と較べて参考になさって下さい。)

浮雲に逝きし夫の影を見る
亡き母を偲ぶわたしに風無情
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:一、二句若干手直ししました。次回に期待しています。)

薬漬け止めて健康取り戻し
早や喜寿笑顔大事と思う齢
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:笑顔は世界共通語。笑いの門に福来たると言いますね。)

雨よ降れわたしのいい人泊まるから
激戦の爆弾投下雨あられ
【青葉茂】
(評:よく纏まっています。雨あられが利いています。)


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