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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2009年9月号

2009年9月号 (2009/09/16) 俳句 (選者=栢野桂山)


冬ぬくし娘の言ひなりに髪染めて
種一粒抱いてふんわりパイナ吹く
愛人の日に金婚を祝はるる
【猪野ミツエ】
(評:愛人の日は六月十二日、百姓はコーヒー採り女は毛糸編みなどで忙しいが、着ぶくれながら夫婦揃って金婚式を子供等が祝って呉れた。これは作者自身のことであろうが、紙上を借りてお祝いを申し上げる。)

初時雨夫の遺せし傘さして
くれないの風起し散るイペローザ
束の間の陽ざし取り合ふ寒雀
【佐藤孝子】
(評:この国では寒鴉は居ないが、寒雀が人を怖れず少しの間の冬の陽ざしをうばい合うように、折々は小さい喧嘩という寸劇を見せたりする。)

寒菊の枯れても香り失はず
移民気質通わせし同志瓢骨忌
銀杏落葉金に輝やく石畳
【木村都自子】
(評:この国では日本のように高くはならないが、やはり銀杏落葉は黄金色をして美しい。この句は公園などでそれが並木をなしていて、石畳を埋めて美しくかがやくので、人々は歩を止めてそれを踏むのを惜しむのである。)

落葉焚くより堆肥にと老の愚痴
竹馬や振袖乙女たすき掛(想ひ出)
寒明やてにをは略し挨拶す
【風間慧一郎】
(評:この国では寒が明けるのは七月末、本年もその頃が最も寒さがきびしく、人々は何ごとでも簡略に、知人に出逢っても「こんちは…」と「に」を抜いて挨拶したりして、いかにも素朴で人情に厚い村が詠まれている。)

日本料理習ふ黒人鮪割く
我が齢娘の齢木の葉髪
睦じき事は美し浮寝鳥
【伊津野静】
(評:夫婦らしい白鳥鴨などが仲よく二羽並んで澄んだ水に漂っているのは、いかにも絵のように美しい。)

豊作を祝ふシュラスコ牛二頭
竹馬に乗れぬと地団駄踏む子かな
竹垣の高さ揃わぬ虎落笛
【大岩和男】
(評:もがり笛は寒風が竹垣や空瓶の口などに当って、丁度笛のように鳴るのを言う。そしてその垣の高さに高低があり、それに合せたように高く低く鳴るを詠んだ。)

沢庵は買ふものと嫁憚らず
沢庵漬止めし空樽たがゆるむ
ドンキホーテを目の当りいぼむしり
【菅原岩山】
(評:ドンキホーテはスペインの作家の小説で、その主人公。理想に向かい現実を無視してひとりよがりの正義感をふりまわす。かまきりを仔細に観察していると、意外にもこのように見えてくる。一寸予想外とも思えるが、ドンキホーテのように安ものの権威を振りまいているようにも見える。)

独りごつ吾も歳かや着ぶくれて
身悶えすごと夜半の牧虎落笛
【伊藤桂花】
(評:前句にもあった虎落笛の句。これを仔細に聞いていると、何か苦しみに身悶えしているように思える。もがり笛を聞いてこのようにそれを表現するとは感覚が鋭い。)

鮨祭り手袋マスクでそれを盛る
眠られぬ夜更けに聞こゆ虎落笛
【矢萩秀子】

難聴に静かな夜半のもがり笛
大らかな大陸の味シュラスコは
【藤井梢】

冬晴れや修復進む山カペラ
セルタネージャに和してヴィオロン焚火の輪
【清水もと子】

伯人娘和服で淑やか寿司祭
爽やかに白寿の媼ボーロ切る
【疋田みよし】

寿司巻いて母の日の母忙しげに
落葉径踏めば煙吐く茸ありて
【纐纈喜月】

さんさんと陽射し良き日の落葉踏む
リオの山眼下にウルブー舞ひゐたり
【畠山てるえ】

若人等登山流行人の波
御来光に喊声あがる大合唱
【三上治子】

懐しや竹馬競技の運動会
着ぶくれて身なりかまわず老散歩
【小野浮雲生】

寒月に送られ帰る夜業の子
冬木立坊守り帰日寺すたれ
【野村康】

枯枝に挟まれ遠き千切れ雲
混じる葉も一景緋寒桜かな
【伊津野朝民】

百一年晴れてめでたき移民祭
聖母会のバザーにぎ合う冬日和
【矢島みどり】

母の愛心にしみる夜学の子
遂に来ぬ母よ若しかと待つ夜長
【前橋光子】

あえて踏む靴先沈み落葉道
独り居に誰はばからぬくさめかな
【吉崎貞子】

母の日や祝電一番出稼ぎ娘
落葉掃く老の務めの一つ増え
【秋元青峯】

父も居て母の日祝ふ大広間
冬野菜根本揃えて洗ふ母
【森川玲子】

老ひし身にしんしん沁みる寒さかな
幼な孫寒さ知らずの赤い頬
【矢野恵美子】

何時までも母の日偲ぶ胸ふかく
悲しみは洗ひ流そよ冬の雨
【山田富子】

時雨るるやメトロ入口傘売屋
遠き日に故郷で食べし兎汁
【遠藤皖子】

冬晴れの空に元気な喧嘩凧
あれこれとねだる笑ひや恋人の日
【原口貴美子】

鳩群れて座る足もと冬日和
石ベンチに小鳩より来て冬うらら
【軽部孝子】

撒水に冬蝶ふらふら舞ひ立ちぬ
水耕の冬菜栽培試植とて
【名越つぎ代】

七夕や母と作りしナスのウマ
天に住む母も来ませよ星祭
【青柳ます】

楽に合わす健康体操寒の汁
老医師の受勲祝いや町の春
【寺尾芳子】

ポップ歌手の急死惜しむか月冴ゆる
緩慢に池の主めく寒の鯉
【本広為子】

青春の血の色スイナン花の句座
日だまりに五、六輪づつ冬のバラ
【青柳房治】

大サンパウロ霞の中にビル浮ぶ
早春や街道かすみ事故多発
【杉本鶴代】

亡夫恋ふこころを濡らす春しぐれ
一日一善一日一杯まむし酒
泣きほくろある男の子ジュニナ祭
銃眼ある寺院の歴史ジャカランダ
蛇行して音無き大河春霞
春浅く雲の上飛ぶ訪日機
石船を引く武人像春霞
新妻の小さき寝言春の闇
【栢野桂山】


短歌 (選者=渡辺光)


イペー散る踏まねば通れぬこの路を今年も国花の終わるを惜しむ
歌集着く二〇〇九年朝日歌壇海の向こうに笑顔の姉が
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:一首目少し補足しました。二首共良くまとめられました。)

一周忌親戚一同相集いうれしくあれど悲しくもあり
【サントアマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:法事の心境が実現されています。)

年嵩ねし故にもあらず朝市の主婦らも言えり今年の寒さを
「サビエルの腕」を見し日も暑かりき包帯巻かれし吾が手を眺め
十二階に住む人の窓涼しやと炎天の街に見上げつつ歩む
【スザノ福栄会 寺尾芳子】
(評:二、三首目を若干補足して見ました。素材の視点が良いですね。)

雪国に育ちし異人が丈長き外套で行く寒空の中
寒さこそ我が世の春と謳うがにきりりと咲けり紅弁慶草
エビデミーヤと云う名被せられ豚の風邪今ホンコンで流行ると
【スザノ福栄会 杉本鶴代】
(評:一首目の結句を変えてみました。二首目は良いですね。インフルエンザには、お互いに注意しましょう。)

ボーナスで買ってくれたるコンピューターは机上で吾の座すを待ちおり
悲しみに心なゆるかこの夕べ箸にとる飯たびたびこぼしぬ
円ら実の赤々と燃えるピラカンサ鳥脅しのヒモ丁寧に張る
【スザノ福栄会 青柳房治】
(評:一首の「燦然を輝き」は大袈裟ですから言葉を変えてみました。二首目の心情に心を動かされましたが、何故でしょうか?)

今日一と日留守居と炊事まかされて「大丈夫」と応う自信なけれど
吾が視野を包みてけぶる今日の雨焦燥の心いやされてゆく
【スザノ福栄会 原君子】
(評:一首目の作品は前回提出されたのと同じ作品でした。控えと照合してみて下さい。)

湯呑茶碗の「長寿の心得」読みながら夫と茶飲む幸せがあり
十二度Cの今朝の寒さに驚きてラジオ体操さぼりていたり
コバルトブルーの空をバックに華やげるイペーホーザに蜂鳥の飛ぶ
【スザノ福栄会 青柳ます】
(評:三首共良い作品に仕上っています。次回も良い作品を読ませて下さい。)

温室に並べられたる蘭の鉢花(はな)作りし人の心咲くがに
誇らしく咲き満つ蘭を前にして思わず背筋伸ばしたりけり
生き生きと体操をする老いどちは健康に自信有り良き晩年過す
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:三首共良い作品でした。台風8号の台湾の被害御心配の事と思います。)

泥沼より這い上がり来たアマゾンの移住の悲話に涙あふるる
アマゾンは人の住めない原始林その地を開拓八十年なり
松風のさわぐ先祖の墓地に立ち半世紀ぶり香煙を焚く
【ツッパン寿会 上村秀雄】
(評:三首目の結句を変えてみました。今回の歌は特に良い作品でお見事です。次回も頑張って下さい。)

目に見えぬ空気に混じるクバトンの黒い埃の港町
病持ち静かに暮す余生でも手先動かす趣味を持つ吾
苦心して少しのほころび繕うに捨てよとて娘は新調す
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:二、三首の結句を変化させました。三首共良くまとめられ今回の作品は特に良かった様に思いました。)

戦争と戦後を共に生きぬきし日本の姉の訃報に接す
倒れたる友の病名聞きしより怠りおりし体操に励む
降るとなく晴るるともなき朝空にくぐもり聞こゆ山鳩の声
【グァイーラ 金子三郎】
(評:二首目の結句は字余りになりますが、助詞を入れた方が良いようです。三首共良い作品です。次回も期待します。)

満開のさくら見ずして逝きし夫に思いはせつつ苗をさしいる
主なくも季節忘れず植物の盆栽の木瓜美しく咲く
【ナザレー老壮会 波多野敬子】
(評:二首共良い作品に仕上げられました。素材の視点が良いです。次回も頑張って投稿して下さい。)

週末の夕食あとの楽しみは孫達とするトランプ遊び
久々に昔の友を訪へば家族全員風邪ひきており
【セントロ桜会 板谷幸子】

足腰のよわさを愁いて自己流の体操日々におこたらぬなり
この冬の寒さは特に厳しくて風邪の予防にと熱いお茶を飲む
【セントロ桜会 上岡寿美子】

誕生会老人会員矍鑠とケーキを切りてパラベンスうたう
老いたれど介護はいらず何もかも一人ですれば惚けるひまなし
【セントロ桜会 鳥越歌子】

アマリリス今年も咲けり苗賜びし木村正和逝きて一年
身に支障なけれど骨粗鬆症とか重き物持つなと医者に言わるる
【セントロ桜会 梅崎嘉明】
(評:「苗たびし」とありましたが、漢字の方が意味が分かり易いようです。)

日に一度郵便受けを見るわれは約束ごともなきものなるに
ころびたる折に出来しか頭のコブ痛さおさえてがまんしており
【セントロ桜会 上田幸音】

わが気持ちほぐるるならばと思いしかきれいな花を吾娘は持ち来ぬ
桃色の鉢に珍らしきもも色の蘭の咲きしを吾娘は持ち来ぬ
【セントロ桜会 井本司都子】

ゆっくりと時間をかけてカフェー飲む朝のひと刻夫と共に
蔦サンジョンの蕾ようやく八月になりて咲き初むる今年の気候は
【セントロ桜会 富樫苓子】

寒ぞらに半月淡く残りいる吾を眺めているかのように
ビルの間に残月淡き朝まだき友達と行くラジオ体操
【セントロ桜会 大志田良子】

足痛め部屋こもりするを慰めんと窓辺に来たりベンチビー囀(な)く
冬なれどエニシダ真黄に花盛り朝日を受けて誇りかに咲く
【セントロ桜会 藤田あや子】
(評:一首目の結句を「囀る」とすれば字余りになりますから「囀(な)く」とルビをうてば意味が分かります。三首目の「誇らかに」は「誇りか」が正しいようです。)

出稼ぎの家族共帰国して何することもなく時は過ぎ行く
姉逝きて悼みし胸の遠き日に想いとなりし遺句をひもとく
旅帰り心と心通い合うごとく愛犬喜びそばにより添う
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:なかなかうまくまとめられています。次回も良い作品を寄せて下さい。)

孫よりの真心こめし贈り物感謝感激言葉につくせず
はるばると贈りくれたる車椅子感謝の涙とめどなくして
わたし程倖せ者は世にあるや總べての物に与え恵まれ
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:一首目、二首目若干言葉を変えてみました。家族への感謝の気持ちが良く表現されています。原作と比較してみて下さい。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


東天へ両手合わせて呼ぶ故郷
母さんと呼べど答えぬ遠い空
感謝の念燃えて黄国の土に生き
子や孫の集い至福の父でいる
黄昏の人生明日の夢描く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:開拓移民としてこの大地に行き抜いた移民の詩。一連によくまとまっています。)

まだ七十リズム体操に湧く生命
新妻に小さな嘘と口づけを
カイピーラの天下ひと月ジュニーナ祭
杖でなくステッキと言うお爺ちゃん
【サンパウロ桜会 森川玲子】
(評:全句よく纏まっています。モダンなお爺ちゃんの姿が見えるようです。三句目はジュニーナ祭にマッチするように上五をカイピーラとしました。)

人生に地獄極楽分岐点
文芸の師の友情に弾みつく
年の功皺はますます深くなる
【アルジャー親和会 近行博】
(評:生きて来た証です。益々お健やかに―。)

共同風呂夫婦の絆たしかめる
総入れ歯なじんで粋な江戸っ子弁
ひょっとこの面で隠す鬼爺
老らくの恋は惚けをいやすかな
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:川柳の妙味がうまく活かされました。次回もご投句をお待ちしています。)

百年の恋も醒めるよ大欠伸
寒中の臍出しルック脱帽す
座高なる私も負けぬ背を伸ばす
【多中矢須子】
(評:二句目の下五の表現が良いですね。大いに背を伸ばして益々お元気で―。)

まだ猿にならなかったと旧移民
新聞を切られ社会闇となり
締め出され行く先のない就労者
【レジストロ春秋会 大岩和男】

おすそ分け少しの物も喜ばれる
お月様民話童話で親しまれ
先見の明でうまく金儲け
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:少し添削して分かり易くしました。ご参考になさって下さい。)

桜見のプランに合わせてプラン練る
人怖じもせずパン屑拾う鳩の群
年金日友も笑顔声はずむ
踊りの会年金仲間も減っていく
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:分かり易くするために若干言葉を入れ替えました。短期間でのご進歩嬉しく思います。これからも頑張って下さい。)





「小鳥」

サーラの前のジャボチカバの盆樹に
 小さな鳥が巣を作り
ひながかえっている
 次もここへ来て
 巣作りをしなさいね、と
つぶらな目を持つ
 小さな鳥に語りかける
天敵の猫もいない
 静かで平和な一角である
【ナザレ老壮会 波多野敬子】


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