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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年4月号

2010年4月号 (2010/04/10) 俳句 (選者=栢野桂山)


渡伯以来の箸茶碗冷奴
イグアスー滝見学ツアー日本より
七面鳥焼く油鳴りクリスマス
【菅原岩山】
(評:よく肥えたペルーを丸焼きにすると、ヂ、ヂ、ヂと油鳴りがして、クリスマスの景気付けのような音を立てるので、それを聴いて悦に入ったところ。)

初髪をおかっぱに切り傘寿なる
三つ編の癖なみうてる洗ひ髪
大乳房かかえ乳吸ふ裸の子
【佐藤孝子】
(評:多きく豊かで、いかにも乳のよく出そうな親を持つ、肥え太った児の仕合せを詠んだ句。)

乙女の日はるか彼方に桜草
走り跳び親のあと追ふサビアの仔
花筏に埋まり棹さし永久の旅
【香山和栄】
(評:桜草は日本では河畔や原野に自生する、高さ二〇センチぐらい。花茎の先に桜に似た花を付けるのでこの名があると、ブラジル季寄せにあり、人々に愛される花で贈物に使われる。)

濁流の大河に溢れ夏の雨
雨しとどリベイラ富士見る簾越し
新学期次世代担ふ子の門出
【大岩和男】
(評:新学期が始まる。どの上級校に進学する子にも、次の世代を担うその門出となる。皆んな頑張れ!)

気品ある白百合九谷の壷に映へ
師の庭や百花爛漫蝶舞ふて
ジャカランダ大きな文字の売家札
【松崎きそ子】
(評:九谷焼は力強い絵付けが特色。特に精巧な赤絵のある壷に活けた白百合の気品は凛として見事。)

老の歩に消えて現われ道おしへ
憎まれに世に出て来たか油虫
炎天を来てつくづくと我が家かな
【伊津野静】
(評:焼けつくような炎天を歩き、眼の眩んだまま我が家に帰りつくと、その暗さが感じられるが、それを詠んだ。)

豊作もむなしくなりぬ秋出水
八十路なる妻の初夢富士の山
【青柳房治】
(評:故郷で永年富士山を見て来た妻が、移住してきて八十路になるが、初夢に見たのがやはり富士。一富士、二鷹、三茄子と、駿河の名物を言うが妻はその地の生れらしい。)

入学の孫の背かくすランドセル
カーニバルリオ見下してイエス様
【青柳ます】
(評:リオのカルナバルの乱痴騒ぎを、山上のキリスト像が見下して、苦々しく思われているとした作者の目は厳しい。)

下校の子影踏み戻る夏深む
年毎に代る唄姫旗持女
一杯のビール一ト日の汗忘れ
【伊藤桂花】

リベイラの出水影消すマンジューバ
無事育ちたる今朝の庭雀の子
コーヒー咲く国に生れて八十年
【疋田みよし】

星飛ぶ夜村の長たる移民逝く
アンテナに音符並びや秋燕
【本広為子】

平坦な町の屋根屋根秋出水
菜園に秋の気吸って茄子の艶
【野村康】

カルナバルすべて忘れて踊る国
行き日傘帰り雨傘夏夕べ
【玉置四十華】

紫陽花の高速道路行く楽し
異国情緒に百花繚乱グラマード
【彭鄭美智】

虎のごと仔猫くはえて走る親
バスの旅野焼煙りをくぐり抜け
【森川玲子】

涼風や笑うたび揺れイアリング
ひとり住む金魚も家族話しかけ
【吉崎貞子】

移民の日野外舞台の蛇踊り
里の母編み送りくれ毛糸帽
【軽部孝子】

遠き日々務めを終えて夜濯に
今朝咲きし朝顔の種日本より
【遠藤皖子】

脱水症の急患ふえて猛暑日々
焼印を押され旱りの牛痩せて
【清水もと子】

帰り道紫陽花満開する街を
暮れて行く夕の道辺の葉桜に
【山田富子】

夜濯ぎの妻のぞいてるお月様
猫の手がひっくり返す金魚鉢
【矢野恵美子】

草踏んで砂地を避けて行く跣足
事なげに土蜘蛛潰す大跣足
【纐纈喜月】

素通りす駅前ひっそり七変化
乳母車加わり路地の夕涼み
【畠山てるえ】

愛猫のいつも見上げる金魚鉢
河暗し夫をさそって夜濯ぎに
【原口貴美子】

アベニーダ大河となりて夏出水
黄金藤出湯の町の園広し
【矢島みどり】

大ブラジルサンバ王国カルナバル
一年の辛苦忘れてサンバ踏む
【小野浮雲生】

孫二人鞍を新たに新学期
何も彼も新品揃ひ入学児
【矢萩秀子】

旅券古り菊の御紋の黴拭う
阿波踊りサンバと競うカルナバル
【風間慧一郎】

帰化もせず頑くなに生き屠蘇を酌む
今日からは子孫早起き新学期
【伊藤信重】

夏深し野面を洗ひ雨荒し
十五夜の残月あわし墾の窓
【藤井梢】

水害の傷跡残し秋立ちぬ
放射状の稲妻走るビルの街
【杉本鶴代】

すきあらば狙う猫居る金魚鉢
浮釣木ヨットハウスの垣長し
【木村都由子】

新年会持ち寄り料理に腕ふるふ
水飲んで玉と吹き出す老の汗
【三上治子】

七人の敵のある世へ卒業す
陽に向ける向日葵夜は月に向く
流れ来し死馬に残暑の波騒ぐ
若人の夢を濡らして秋時雨
玻璃の彩こぼして百合の露一つ
老醜の尻をさらして羽抜鶏
リズムある羽音やさしき蜂雀
往診の女医と夜光花咲くを待つ
蔓サンジョンからみそれぞれ馬柵古りて
霧雫たらし子庇孫ひさし
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


古き手紙整理しておれば亡き義姉のわれを気づかう言葉のかずかず
わが部屋に座せば心の安らぎぬ花のかたえに亡夫の写真
【セントロ桜会 上田幸音】

一人住む家はひねもす静かにて時折に吹く風の寂しき
はなれ住む子等思いつつ夜の更けをテレビを消して一人の部屋へ
【セントロ桜会 井本司都子】

雁よ飛べ早く飛び行けユーカリの梢さわぎて嵐が来るよ
この朝は大空翔ける雁の群夫を呼びて共に眺めぬ
【セントロ桜会 富樫苓子】

長生きをしすぎし吾の日日にして子等に世話かけ心で詫びる
正月には体調くずし寝こみしがやっと正常食欲も出し
【セントロ桜会 鳥越歌子】

朝食は病夫の好む味噌汁にトーフとわかめ茗荷もそえて
久々に歌友に送る手紙には地球の反対こちらは秋と
【セントロ桜会 大志田良子】

孫子らの海へ旅立つ朝にしてどこにも出るなと老われに言う
吾ら置き海に行きたる息子らは変りないかと電話をくるる
【セントロ桜会 板谷幸子】

関節の痛み述べれば先生は老化現象と事なげに言う
クレーンは昨夜のモヤに被われて距離感遠く空に浮きいる
筍の煮つまりて鍋に鳴る音の楽しく聞こゆ妻待つ宵は
【スザノ福栄会 青柳房治】

クワレズマ見事に咲けり福博へ廻り道する山を彩どり
戴きし味にはまだし刻かけて味見しながら酢ごぼうを炊く
体操を終りし我らの目の前にビルを股ぎて大きく虹たく
【スザノ福栄会 青柳ます】

みそ汁の柔き白麩を食うべつつガラスにしぶく雨音を聞く
ご詠歌のテープ流れて籐椅子の庭にしずまる姑いますがに
寅ならぬ龍馬のイメージキャラクターの年賀葉書は土佐の友より
【スザノ福栄会 寺尾芳子】

「正っちゃん」と常呼びくれし友逝けり九十三の夫日がな本読む
降り続く雨に野菜の値上りて買う人人は溜息をつく
村道は水につかりて廻りゆく道辺はクワレズマの花盛りなり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

昨夜より雨に打たれて朝顔の雫こぼしつついまだ開かず
夕立の去りし窓辺に木のしずく光り落つるを飽かず見ており
幾年を経るも忘れず亡き友の笑顔偲ばずクワレズマの花
【スザノ福栄会 原君子】

白や黄の蝶が庭先の花に群れわれも楽しく眺めていたり
空いちめんにイワシ雲の広がりて今日は晴るるらし朝より涼し
【ナザレー老壮会 波多野敬子】
(評:短歌にしたい物をよく見て、客観的に詠まれるように。)

憂きことを忘れ踊れるカルナバルの群に夜来の雨降りしぶく
金柑は見事に花を咲かせたり全部実れと願いつつ佇つ
目の手術おこなう妹を案じつつ吾は書道の墨すりており
【ピエダーデ 中易照子】
(評:金柑の歌のように見たものを素直に表現されるように。)

一年間庭すみに置きし一鉢の蘭は幾つの蕾つけたり
原始林に斧をふりつついどみたる若き日もありし移民の吾は
息子らはみな出稼ぎに出でたちて妻と二人で留守居しており
【ツッパン 上村秀雄】
(評:「じっとしていた」「はしくれ」と言った冗漫な言葉をはぶいて具体的に事物を描写されると更によくなる。)

梢高く鋭く鳴けるベンテビー鳩も雀も驚き逃げし
雨傘を日毎忘れず外出す午後には雨の降る日続きて
マスコミに騒がれ出でたる選手団競技の壁の厚きバンクーバー
【サンパウロ中央老壮会 纐纈蹟二】
(評:第三首目「参加のバンクーバー」「世界の壁」などの言葉、分かりやすくするために具体的に表現してみた。参考までに。)

移り来て早も過ぎたる二十年如何におわすや夫の友垣
わが家の一世の夫はテレビの雪景色見つつ故郷を語る
卒寿をば祝いてくれし孫子見て余生すこやかにありたしと言う
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:言葉をうまく使うだけでなく、見たこと、言いたいことを具体的に表現されるよう工夫して下さい。)

はるばると弟一家全員が訪れくれし涙なかるる
四年ぶりに逢いたる孫は日本語で話してくるる表情可愛ゆし
みやげにと持ちて来れる数々の花に新種がありて驚く
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:頭でこねあげるのでなく、花でも孫でもよく見て三十一文字にまとめるよう勉強なさって下さい。)

 先月号の本誌で渡部光氏から丁重な紹介を頂いた梅崎嘉明です。何も取柄のない人間ですが、コロニアの文芸畑を六〇年来彷徨してきました。そして、振り返ってみると残り少ない老耄になっていて、いつ斃れるかわかりませんが、それまで皆さんと一緒に勉強したいと希っていますので、よろしくお願いいたします。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


すぐ忘れよく食べ笑う長寿法
人生の道は各々作るもの
作句する助詞の一つが見つからず
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:五七五の短詩は助詞一つで大きく変わるものです。)

見て聞いて知識心に溜めて置き
神に背を押されて人生登る坂
嘘言えぬ口を世間の眼が笑う
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:世の進歩につれて道義が薄れていくようです。)

足音がわたし自身の応援歌
少子化の世にシングル多すぎる
少子化の対策如何に棒グラフ
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:少子、高齢化の対策に政府は振り回されているのが現状です。)

人生の苦難の道も過去となり
終章は笑顔で幕を閉ざしたい
亡き夫と歩きしこの道なつかしむ
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:何度も立ち止まっては振り返る、あなたの姿が見えるようです。二句目少し言葉を入れ替えました。)

品位より綱をとってよ大和力士
三代目母家売っても国売るな
きれい言並べるだけで基地出来ぬ
【サンパウロ中央老壮会 新川一男】
(評:何処にどう落ち着くのか、鳩山政権の手腕が問われるところです。)

道端の名もなき小花いつくしむ
ありがとう言えばこだま返りくる
子や孫が分らぬ川柳ほめてくれ
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:色紙を見せながら、川柳詩を易しく説明して上げる。やさしいおばあ様の姿が見えます。)

枝豆を食べる手と口忙しい
白髪抜く習慣止めて染めてみる
【セントロ桜会 森川玲子】
(評:白髪が増えるにしたがって、抜くことを止めて染髪する事になる。誰もが経験する事です。下句の「髪染める」は二重表現になりますので、「染めてみる」と入れ替えました。)

迷い道又振り出しに逆もどり
年とれば死んだ話に花が咲き
【セントロ桜会 中山実】
(評:下五に少しあらわな感じがしますが、その奥に寂寥感がうかがえます。)

井の蛙世間見たさにもだえ泣く
親を看る兄嫁に文句許されよ
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:字余りにならぬよう、五七五に纏めて下さい。)

頭脳冴え人楽しませて金儲け
老人を邪魔ものにする新世代
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:いずれ我が身におとずれる老齢期を認識して欲しいですね。一句目若干添削しました。)

ブラジルで人気絶大小泉さん
【イタケーラ寿会 小坂誠】
(評:そのままズバリ、名前を入れた方がハッキリします。)

今在りて姑の遺影に数珠くる
道義守る家庭明るい灯が点る
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

レガッタの軽装楽し川柳会
今の幸しっかり抱いて生きてゆく
虎年の強固な夫今はなし
虎子をとられ一夜眠られず
故郷に心やすらぐ歌がある
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】

生きている幸せ大事に魂磨く
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

雪国の妙技映える五輪かな
世も末か天災人災荒れてくる
【アルジャー親和会 近行博】

(小評:野村さん、山田さん、軽部さん、近行さんの作品、少し添削して分り易くしました。原句と照らし合わせて参考になさって下さい。)





「漬物」

新ショウガを取り来てつける
嫁の大好物
これも亡き義母からの食文化遺産
義母私嫁と三代続く
私は義母からずいぶん
多くのことを学んだ
嫁もこれから色々なことを
おぼえて行くだろう
核家族もいいだろう
だが老母から学ぶ事も
また大事な事ではないだろうか
たかが漬物と言うなかれ
つけものほど奥の深いものは
無いと思っている
肉食の後の一口のつけもの
おいしいですね
【ナザレー老壮会 波多野敬子】


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