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     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年5月号

2010年5月号 (2010/05/15) 俳句 (選者=栢野桂山)


滝音に五臓六腑のひきしまる
蛇睦む縄なふ如くよじり合い
ハンカチで傷結ひくれしよりの仲
【猪野ミツエ】
(評:若い女性が何かのことで手か足の指に傷を付けてしまった。どうしようかと思っていると、通りがかりの青年が真新しいハンカチを裂いて手当てをして呉れたが、それが縁となって結ばれた二人。)

露しとどぬれて草刈る老農夫
露ふんで一番乗りの釣の道
友の訃に悲しくたどる露の道
【原口貴美子】
(評:親しくしていた友人か、別れて暮らしていた恋人か、その訃の報を手にして足のもつれるのに耐えながら、露深い道を辿る哀しみを詠む。)

人家五戸に牧広々と馬肥ゆる
向日葵の笑顔こぼしてひひなの日
誘われて手櫛の老母秋日和
【吉崎貞子】
(評:久しぶりに美しく晴れた秋日和に誘われて、外出しようとした老いた母。乱れた白髪まじりの髪に手櫛を当てて、老は老なりに身を整えているところ。)

琉金の泳ぎ派手なる金魚玉
出目金の愛嬌を買ふ老婆かな
青柿に催促鳴きのベンテビー
【菅原岩山】
(評:まだ青い柿の枝に止まったベンテビーが、何か催促するように鳴いた。それを「催促鳴き」と面白く表現して、三句とも老練な句。)

並び行く母娘見分けぬ夏帽子
ごきぶりの言ひ訳をして墾の妻
炎天来て仁王の如く口つむる
【猪野ミツエ】
(評:燃えるような炎天を来た信者が、仏門の脇を固める仁王〔金剛力士像〕の如く、固く口をつむって不機嫌な顔をして立っている老人を写生した句。)

枯苔の青とりもどす夏の雨
稲刈るや蟷螂(とうろう)も鎌上げて居て
豊作や脛(すね)の高さに刈る陸稲
【大岩和男】
(評:たわわと稔った豊作の稲の丈は高く、脛の高さに刈ることになるが、そのよろこびを詠んで、百姓を止めて久しくなる選者も心豊かになった気持ち。)

露踏んでカフェー採集コロノの日
仕合せも一緒に包みパモニア蒸す
ずっしりと手応へしかと豊の芋
【宇佐美テル子】
(評:豊作の年は親芋の囲りにぎっしりと子芋が付いていて、それを掘り上げるとずっしりと手応えする重さは、百姓にとってうれしいもの。)

灌水の飛沫に飛び交ふ鬼やんま
一升枡てふ移民の荷今年米
【本広為子】
(評:一升〔約一・八リットル〕の量を量る枡〔ます〕が移民の古い荷の中にあって、それで今年の新米を量るという珍しい句〔わが家に昔その古い枡があって、亡き祖母がそれを使っていたのを想い出した〕。) 

パウブラジル最も高し森の秋
秋晴るる教会の鐘遠くまで
【寺尾芳子】

菜園に来て捕えられ穴まどひ
引抜いて逆吊りにして唐辛子
【纐纈喜月】

小さな川メダカお玉も珍らしく
秋山のふもと市営の遊園地
【三上治子】

はにかみつ妻に花束女性の日
迅雷を背に駆け出して野良の人
【松崎きそ子】

秋灯下絆うれしく手紙読む
やわらかき干こんにゃくを土産にと
【清水もと子】

胡麻餡の団子食べ夫恵比寿顔
夜の秋合同句集に師を偲ぶ
【彭鄭美智】

数珠白く喪服の母に秋暑し
傘かぶる月をながめつ夜濯ぎに
【森川玲子】

本年も手書の賀状海越へて
酒の味ようやく覚えし忘年会
【多川富貴子】

対岸の丘の聖堂灯涼し
夏の園鳴かぬサビアー地を走り
【木村都由子】

油虫叩くも付添ひ婦の役目
車椅子片蔭ぞひに行き戻り
【佐藤孝子】

干してあるサラメにとびつく油虫
飛機の人夏帽を振る別れかな
【岡村静子】

日差し強くも風涼し秋日和
一山売りのリンゴ求めて砂糖煮に
【矢島みどり】

人の波渡る新涼の交差点
戸開くれば音のなき雨庭の秋
【伊津野朝民】

諸草に押されつましき鳳仙花
穴まどひ道に長々通せんぼ
【伊津野静】

財も名もなく生きのびて老の秋
逆縁に耐えて米寿の秋となる
【前橋光子】

一人住む金魚も家族話しかけ
あじさいや何から話そう初対面
【吉崎貞子】

ピンガ匂う日雇ひ父子の跣足かな
アバカテの落ち実あらそう豚と犬
【野村康】

馬肥ゆる牧夫も手古ずる力み馬
楽聞きつ窓越しに見て夕時雨
【秋元青峯】

露の身の悲しや老の気力失せ
芋の葉の朝日に光る露の玉
【荘司恵美子】

電話来る和語のうれしき夏の朝
秋暑し一人で耐える部屋広く
【軽部孝子】

好物の秋茄子焼いて一人住む
星祭老の願ひを記しては
【遠藤皖子】

風鈴が風に揺られて和む朝
越えて来し移民に険しき山河かな
【山田富子】

熱々のパモニア塩味チーズ味
楚々と咲く雑草の葉の露光る
【畠山てるえ】

水壷の水浴ぶ小鳥来てうれし
ていねいに仏具磨いて秋彼岸
【矢萩秀子】

亡兄の稲刈り姿目に浮ぶ
裏山に行く夕とんぼ数知れず
【玉置四十華】

桜咲く民とつ国に移り来て
朝顔の枯れなんとして花一つ
【藤井梢】

洋館の桜に住める日本人
タコの手を宝として吾七十年
【伊藤桂花】

杖ついて孫に付き添いお彼岸会
黄色に実りて稲穂に夕とんぼ
【小野浮雲生】

世界不況どこ吹く風とカルナバル
仏壇を浄めて迎う秋彼岸
【疋田みよし】

新茶注ぐ赤字経営なる菜園
蜻蛉の目腕白小僧と睨めっこ
【風間慧一郎】

誘われて踊る輪に入る友卒寿
売られゆく愛馬のこぼす泪見し
【青柳ます】

秋の風娘らの袖なし気にかかり
ダリア祭気まぐれ天気に悩まされ
【杉本鶴代】

記録的猛暑乗りきり老二人
手にしたる花の女王の鹿の子百合
【青柳房治】

大根蒔く今は亡き祖母思い出す
夕焼けにカンナ炎え立つ火の如く
朝寒や小雨しとしと窓を打つ
幼き日南瓜のお八つも懐かしき
【矢野恵美子】

惜別のつば返しを夕燕
ピラセーマ済む安らぎに河流れ
綺羅星の涼しき牧の暮しあり
歓喜樹下慈顔うつむくマリア像
落し文園の木樹齢七十年
脚たれて鷺すれずれに保袋草
体温のごとくぬくみて水の秋
色鳥に並木明るき学徒町
亀鳴くと地獄耳なる牧夫妻
河豚(ふぐ)の仔の一連遊ぶマンゲの根
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


誘われてミナス出湯に向かうバス「からおけ」の声賑やかにして
歌好きの妻にわざわざ贈りきしカセット「風鈴」繰り返し聞く
惚けもせず一日いち善せわかけず粗大ゴミにはなりたくはなし
【スザノ福栄会 青柳房治】

鉄路そいにアレルヤ咲けるところ過ぎ野菜畑の広々と見ゆ
行きなずむスザノ路なれど吾が夫と行けば住家の近く感じる
冬のカナダに研修終えて帰り来し少し大人になりし吾が孫
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

杖をつく夫を待ちつつ登る坂電柱の陰に時に休みて
水害にもめげずチシヤ植えほっとして忘れていたるカラオケ歌う
小学生の頃の受け持ち先生の「死亡通知」が故郷より届く
【スザノ福栄会 青柳ます】

一年をかけし聖母学園の新築成りて秋空に映ゆ
娘や孫も便利と使う国語辞典賞に得しもの重みを感ず
【スザノ福栄会 原君子】

あっと言う間にカーニバル過ぎこれだから吾の年寄る早し
カーニバルの熱きサンバも早や過ぎてチョコレートの祭典はじまる
昨日買いしバナナは早もソバカスを浮かべはじめり暑さに耐えず
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

足病めば外出かなわずひっそりと友の電話をひたすらに待つ
新しき暦を壁に早や三月窓吹く風も秋めきて来ぬ
【セントロ桜会 井本司都子】

月に一度友に逢えるを楽しみて短歌の集いを待ちわびており
昔のこと記憶にあるに昨日のこと思い出せずに戸惑いていし
【セントロ桜会 上田幸音】

病みいても会話のかなう夫といて日日の出来事かたみに語る
「お早よう」と明るく挨拶かわしつつ友と広場に歩調をあわす
【セントロ桜会 大志田良子】

姪が来てわずか五泊の滞在で思いを残し帰りゆきたり
伊勢神宮の近くに生れし吾なれど異国の土になるも運命か
【セントロ桜会 板谷幸子】

路の辺の紅き小花の群れ咲くを数えて今日の幸せとする
アセローラ色づきそめし畑の辺を朝々通る心楽しく
【セントロ桜会 藤田あや子】

カラオケを唄い別れし友急にたおれてついに帰らぬ人に
大地震またも発生チリーにて多くの被害者いでていたまし
【セントロ桜会 鳥越歌子】

この日頃雨遠のきて遠近のパイネーラの花満開となる
隣家の庭に大きなコーヒー樹の青き丸実をびっしりつけて
【セントロ桜会 富樫苓子】

頭髪のぬけ落つるのが気になりてオリブ油を少しつけたり
沖縄の黒あめはるばる送りくれし岐阜の人にて心ざし嬉し
【セントロ桜会 上岡寿美子】

相性の良きとは言えぬ夫なれど残る日々を共に暮さん
心臓の手術に心配していしが長男は元気に退院したり
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

永年を賭けて手にせし横綱の地位も無念に朝青龍退く
春うらら友は息子の招待を受けて旅立つワシントンの桜見に
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】

田舎町の静けさ破りオートバイ生命の危機をおかして暴走
声揃え火の用心と拍子木を打ちて歩みし遠き日思う
【ピエダーデ 中易照子】

気にすれば汚辱だらけのこの浮世恵みの雨も毒ふくむという
頭よき人にうかつに語れないあべこべに説教されることあり
【サントス伯寿会 三上治子】

あずかりし孫は事故なく四年間大学卒業今日は去りゆく
歌作りはじめて良かったこの年で無い知恵しぼり時を楽しむ
【ツッパン 上村秀雄】

クワレズマの花もいつしか咲き終えて朝夕涼しく秋風の吹く
つつましく日日のゆかしきお母様夫と共に老後大事に
【セントロ桜会 星井文子】

夫の卒寿祝いて呉るる孫子ありあまえて生きむ残る余生を
一族で一世は夫ただ一人テレビの雪見て故里語る
訪日の彼の日より過ぎし二十年如何におわすか夫の友垣
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:よく詠めています。この調子で続けて下さい。)

塀越しに朝夕眺めるザクロの樹早や八年の月日は流れ
大空にむらがり浮かぶ白雲はゆるゆる流れて遠く消え去る
長雨の去りて朝日に照らさるるザクロの緑葉みずみずと見ゆ
【ツッパン寿会 林ヨシエ】
(評:対照をよく見ていて、あぶなげない詠風に安定感があります。)

何時の日に不安なく住めるかこの国に強盗殺人絶ゆることなし
天災に如何なる対策取り組めど自然の猛威に力およばず
照りつける猛暑に屋根壁焼け石となりて眠れぬ夜は続けり
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:生活を、風土の変化をよく見て詠まれているので読者によく伝わる。)

 毎度投稿ありがとうございます。選者が交代したのでなるべく直接私宛にお願いいたします。また規定は三首投稿ですが、紙面の都合で二首掲載になることもありますし、批評も一部の方々になりますので、御了承下さい。添削された作品で納得される方は別として、不満の方がおられましたら原作と添削作品を添えて私に送ってくださると説明申し上げます。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


これでいいなどと言えない人の欲
師が逝きて約束己の手に残り
黄昏の道でも明日の夢を描く
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:前向きの姿勢でいつまでもお健やかにお過し下さいますように―。)

基地問題又も迷走三代目
長として義務果せずに会乱れ
また新党枯れ木も山のたちがれか
【サンパウロ中央老壮会 新川一男】
(評:「たちあがれ」がたちがれにならぬよう、願いたいものですね。日本の政界の現状を突いてお見事。)

権利だけ求めて義務は知らぬ顔
人生の長旅川も谷もあり
満腹でしんどい連発至福なり
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:空腹に耐えている人達のことを思うと、幸せすぎますね。)

自然保護一人一人の心がけ
あれこれと義務を抱えて身も細り
義務のない停年暮らし天国だ
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:義務から解放された歓びが伝わってきます。)

義務と義理どちらも重い人の道
わが余生孫子の枝に支えられ
他人事と思いし卒寿今我が身
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:ご卒寿心よりお祝い申し上げます。ご健康第一に益々のご健勝を祈ります。)

義務果し逝きし夫安らかに
地球儀を回せば母国が迫りくる
義務よりも希望に燃えてた子育て期
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:子育てに燃えていた頃が花でした。)

人並みに義務を果たして老い楽し
花まつりブラジル人も甘茶好き
庭鳥も犬に追われて舞い上がる
【セントロ桜会 中山実】
(評:田舎ではよく見かけたものです。そして、庭鳥は夕餉の食卓に供されたのでした。)

派手な色選んで好みの秋着買う
義務じゃないけど水曜シネマ欠かさない
義務のように週のフェイラ欠かさない
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:固着してしまった主婦業の一つですね。)

吾ながらあきれる程の物わすれ
辞書引いて見た字画もう忘れ
老いの目に大きな活字の名作集
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:大活字の常用国語辞典なども出ています。眼鏡なしで見れるのでとても便利です。)

夏帽子恋に逢える眼をふさぎ
流される表土を掴む必死の根
間引き菜の悲運降雨に頭上げ
【サンパウロ中央老壮会 丸丁呂】
(評:「間引き菜」に共鳴しました。初めてのご投句ですが、昔の柳誌に「丸丁呂」の柳号を見た記憶がございます。次回もご投句をお待ちしています。)

麻薬犯極楽郷を闇に染め
培えば古木も花咲き実を結ぶ
大自然お恵みばかりと限らない
【アルジャー親和会 近行博】

郷里離れ移民国際人となり
国際化未だひ弱な日本国
日語うすれ余生日々に狭くなり
【インダイツーバ親和会 早川正満】

パスコアのチョコ玉子年毎細くなり
敗戦の飢えをかぼちゃに支えられ
ゴミ捨て場所阿修羅と化した土砂崩れ
【セントロ桜会 森川玲子】

(小評:近行、早川、森川諸氏の作品、少し添削して分かり易くしました。原句と比べて、ご参考になさって下さい。字余りにならぬよう、なるべく十七文字に纏めて下さい。)


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