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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年7月号

2010年7月号 (2010/07/11) 俳句 (選者=栢野桂山)


凶作の稲穂手にして言葉なく
すっきりと小粒木の実のネックレス
土人の日黒人恋ふを愁ふ母
ハイヒール似合ふバンビのような脚
【猪野ミツエ】
(評:名のある動物小説家に出てくる小鹿の脚にも似たハイヒールの娘を詠んで異色のある佳句。)

笠戸丸の山車に喝采カルナバル
色鳥や冠羽凛々しく美くしく
花木藷帰郷忘れしノルチスタ
虫しぐれ誰かがタクト振る如く
【菅原岩山】
(評:有名音楽の指揮棒に合せたかに鳴きしきる秋の宵の虫しぐれを詠んだ。)

母の日や母に甘える長電話
向日葵の笑顔は母のイメージと
又貰ふ生きる幸せ冬日向
【彭鄭美智】
(評:作者の母親は台湾から来伯、作者の処へ顔を見せられた。それより向日葵の黄色い大輪の花を見ると、その母の笑顔を想い出すという句。)

雪見ツアーにはしゃぐ学童夜行バス
亡き母を偲びつなめこ汁夫と
法話聞きつつ居眠る目借時
【松崎きそ子】
(評:春は蛙が人の目を借りるので眠くなる――という俗説から成った季語。余り興味のない法話を聞きつつ、居眠りをする己を叱咤する句。)

栗拾いためて山荘守る祖父母
すぐ寝つく友うらやましちちろ鳴く
二十年居着きてパウデアララの婢
【佐藤孝子】
(評:パウデ・アララは鳥篭に似た枠囲いのカミニョンに乗って旱ばつの北伯から、サンパウロに出稼ぎに来る労働者の呼名。それで来た娘が下婢として、二十年も忠実に働いてくれた。)

詩歌の日やわが一頁残すべく
干し柿を食べ少年の日に還る
萎びたる力瘤撫で秋惜しむ
【風間慧一郎】
(評:二〇〇六年の牛童子編歳時記にも、一九九五年の日本語大辞典にも、「詩歌の日」は載っていないので、誰か知って居たら知らせてほしい。)

眠る子の掌より離るる木の実独楽
飽きるほど句集めくりて夜長かな
【森川玲子】
(評:木の実独楽で遊び疲れた子を呼んで、背にくくりつけるとすぐ睡むってしまった。これから夜長というのにと、若い母親の心配。)

シャツの汗三度絞って草を取る
木の実食ぶ小栗鼡のポーズシャター切る
【秋元青峯】
(評:子供移民だった筆者も十一歳の折から跣足でコーヒー園の除草をして来た。シャツの汗を三度絞った――という句には思い出がある。)

くるくると指を廻して蜻蛉取る
新涼や岩清水落つ音はるか
【吉崎貞子】
(評:岩間より湧き出て落ちる音が、奥山の遠くより聴える――。秋のはじめ催す静かな音はまさに新涼という語にふさわしい。)

秋寒きことケータイの会話にも
街路樹の葉ずれの音に秋ゆけり
秋の雲我が行く方へゆっくりと
【伊津野朝民】

預りし孫に添寝の夜長かな
三日月や雲にじゃまされ見え隠れ
飛ぶ蜻蛉見ながら童唄偲ぶ
【宇佐見テル子】

森の影濃ゆき近径木の実降る
思ひ出の夜なべに食べし塩むすび
【畠山てるえ】

湖畔野辺行く野牡丹の彩に酔ひ
インジオ研究の学士等土人の日
【木村都由子】

初秋や新米美味く食進む
旅帰りリベイラ富士は秋の暮
【疋田みよし】

飢餓のなき国にも不況星流れ
春の風邪癒えたる孫のねだりぐせ
【前橋光子】

時雨止み冷気増し行く冬隣
日曜の一人の句作夕しぐれ
【矢島みどり】

六月やW杯に燃ゆ愛国心
爽やかに手を上げ横断杖の人
【清水もと子】

母の日や嫁と祝ひの寿司巻いて
歩行道の栗鼡見て楽し小六月
【本広為子】

露おもりして傾ぎゐる萩の花
すこやかに老いてふたりの根深汁
【青柳ます】

運動会走りし頃が懐かしく
虚子祀る老いの胸にも燃ゆるもの
【杉本鶴代】

母の日や心ずくしのお赤飯
大甘柿一つは多し分け合って
【三上治子】

揺れやまぬバナナの葉先大出水
秋深しリベイラ富士は鮮明に
【大岩和男】

秋茄子の甘き思出母の味
車椅子今日も押されて秋時雨
【小野浮雲生】

病む兄を想ひつ筆取る秋の夜
兄の怪我知らされ眠れぬ夜長かな
【玉置四十華】

油虫風呂場めぐりて逃げ回る
油虫猫に追はれて逃げ場なし
【岡村静子】

お地蔵の新よだれ掛似合ふ秋
騙されしこと知らず過ぎ万愚祭
【香山和栄】

圧巻はタイヤ転がし運動会
土香萩歯科医の君の命名と
【野村康】

恙なき我祈る宵新月に
さらさらと何かささやく秋の風
【山田富子】

母の日や三代の母寿(ことは)ぎて
旅行くや蜻蛉とび交ふ湖ほとり
【遠藤皖子】

新鮮な句に玉の汗老ク連
玉の汗オリンピックの下稽古
【軽部孝子】

世を外に秋のすだれの内に居り
愛憎のからまる櫛の木の葉髪
張ってきし乳房に飛んで大豆打
夕日中身構へ立てる大冬木
白足袋の少し汚れて竈猫
セラードの一望千里麦青む
冬蝶に夫婦で洗ふ仕舞鍬
日雇等回す仁義の新ピンガ
秋すだれ割り混血の姉妹出づ
減らぬ腹なげく老翁むかご飯
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


コスモスが墓地に咲き満ち限りなし吾が追憶にひたるひと刻
暮れなずむ雲より低き三日月が故郷に麻痺病む姑に繋がる
修羅場を幾つ越えしか半生をブラジルに過ぎ頭髪白し
【スザノ福栄会 青柳房治】

夕立の過ぐればたちまち陽の射して色鮮やかに虹の立つ見ゆ
葉の落ちしパイネーラの樹は大空にくっきりそびえて青き実垂るる
【セントロ桜会 富樫苓子】

趣味として詠みきし短歌に支えられ五十一年ブラジルに住む
亡き祖父の育てしツツジは咲き揃い吾が家の庭の春を彩る
同航の友を訪ねて詠みし短歌評し合いつつ余生のたのし
【スザノ福栄会 青柳ます】

日溜りに長ながと寝て親猫は五匹の仔猫に乳のませおり
アパートを取り巻く樹々を小鳥らは花から花へとびまわるなり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

百二歳の媼も席に福博の六十九回運動大会
鯉のぼり泳ぐ紅白旗のもとに幼き子等も父と走れる
ゲートボール五組の老人等も出揃いてゲームを競う運動会場
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

今は亡き友が賜ひたる万両のひと鉢に赤き実たわわに稔る
母の日に娘の手料理おいしくて何かと問えば名古屋料理と
【セントロ桜会 大志田良子】

初咲きのコスモス活けて朝より訪い来る二人の友を待ちおり
「気持ちよく休んでいるよ」とのらすがの柩の友を羨(せん)しみ拝む
身辺に雑物多けど捨つるには勿体なくて整理のつかず
【スザノ福栄会 原君子】

秋くればいつものように赤き柿フエラにならび郷愁さそう
娘と共に住むを拒めるわが兄は海辺の家をこよなくめでて
【セントロ桜会 板谷幸子】

在りし日の義兄の面影偲びつつしばし墓前に去りがたく佇つ
吾が夫の兄逝きてより十年過ぎ息子に連れられカンピーナスの墓地へ
三年目に逢いし義姉は九十二歳日日を静かに暮しおらるる
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】

うすら陽の当る廊下にカニサボテン開き初めたり赤きも白も
語りつつ食事をとるも久しぶり良き友ありて心なごめり
【セントロ桜会 井本司都子】

リュック背に引きあげたりし三歳の娘もいまは六十八歳
父親の釣り来し魚に舌つづみうちし思出父いまは亡し
【セントロ桜会 上田幸音】

牛追いに草刈りに疲れ帰り来て酒をグイ呑みしたる祖父顕(た)つ
一ぱいのグイ呑み酒にほろほろと御機嫌なりし祖父の表情
【セントロ桜会 鳥越歌子】

ふる里に昭和の代も遠くなり辛苦の果に老いて歌詠む
朝夕のバスはいつも満員にて高齢者優待の席ありがたし
熊本弁が標準語だと笑う人のいて県人会の会合賑やか
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:少し言葉を入れ替えてみました。それによって訴える力の大きくなったことを学んで下さい。)

マモンの木にマモンの実が重たそう寒き冬の日にしょんぼり立てり
曾孫から嬉しき便り届きたり逢いし彼の日を思いつつ読む
柿実り仏壇の夫に供えつつ「甘い柿よ」と言いて合掌す
【ピエダーデ 中易照子】
(評:自分の思いを読者に知ってもらうため、第三者にわかるようにじっくり書きこみましょう。)

亡き父母のかたみの品を兄嫁は半世紀過ぎしいまも大事に
うら山につくつく法師鳴き始め明日は帰伯としみじみと聞く
風強く椰子壁の部屋のランプ消えふと見し外は満月冴ゆる
【ツッパン 上村秀雄】
(評:第三首、椰子壁といった昔を思い出す情景ですが、風吹かば、とあるので石油ランプが消えたことを入れないと一首として定着しない。)

卒寿越え短歌の上手なベテランがいつしか紙上より消えて沙汰なし
はるばると慰問に来られし知り人の元気な顔を涙して見る
使命感持ちて福祉に一生を捧げし小畑先生尊し
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:第三首「天の星となる」と言ったような擬人法を使わずに素直に表現されるように。)

信じいし友が会長に選ばれて今後の手腕を希い見守る
風ひとつなき柘榴樹をゆすりつつ四羽の小鳥がむつましく守る
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:第一首、「貴女の手腕の見せどころ」とありましたが、そう言ってしまわないで、「見守っていますよ」とつつましく言って、遠まわしに手腕を見せて下さい。と表現するのが短歌の良さです。第二首目はよくできています。)

これの地に芽ばえて育ちし八十年太木となりて羨しみ仰ぐ
限りある命と知れど次々と植樹して子孫の未来にそなう
ラジオ体操続けて早も十四年卒寿となれど休まずはげむ
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:第一首、原作は太木なのか、自分のことかよくわかりませんでした。大木を自分にたとえるといった擬人法もありますが、成功させるのはなかなか容易ではありません。感情を内にこもらせ、さりげなく詠んで、読者に感動を与えるように表現できたら申し分がないのです。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


職場にも他人(ひと)にも馴れたと孫便り
じっとして居れず日毎箸削る
草履など編んで老妻まだ元気
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:ご夫婦で手仕事に精出すお姿が見えるようです。ご健康第一にお励み下さい。)

地下資源輸入の品に揺さぶられ
大正の気骨嬉しい日に出会い
子や孫が育ち八十年夢を過ぎ
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:「光陰矢の如し」とはよく言ったものですね。)

絶景に私の灰はここにする
息つめて手ごわい課題に句座静か
たかが川柳なれど川柳の難しさ
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:何事もその道に入ると、奥が深くなるものです。)

犬どちのモードを競う冬が来る
歩きましょう車は自然を破壊する
バスに乗り席を譲られ齢(よわい)知る
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:まだ若い気でいたのに―。悲喜交ごも複雑な心境がうかがえます。)

歯を抜いて食べれました?と聞く歯医者
眠れぬとうたた寝しては嘆く人
総理辞め初めて民にほめられる
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:「待ってました」と言わぬばかりの民の声をユーモラスに表現。お見事です。)

先ずサッカー政治二流で治安ゼロ
総理の名覚えた時は別の人
【サンパウロ中央老壮会 新川一男】
(評:目まぐるしい政界の現状が巧みに表現されました。時事吟として秀にいただいきす。)

世の進歩商人泣かせのコピー品
富故に家族争議で人が死に
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:「豪邸で起きた家族の血の悲劇」という川柳を思い出しました。)

鳩のむれ餌を持ちたる人かこみ
原爆展見る伯人も涙して
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:原爆の悲惨さはいつ誰が見ても、涙せずには見れないでしょう。)

過去は過去明日は明日の風が吹く
戦争はどちらが勝っても人殺し
【アルジャー親和会 近行博】
(評:戦争が無くなる日が来るのでしょうか。)

寒い夜はケントン飲んで温まる
嬉しいねゲートボール敬老金
【セントロ桜会 中山実】
(評:老ク連ならではの、温かい思い遣りに感謝しましょう。)

残り火の中に消えない夢ひとつ
夢つなぐ明日への背骨を立て直す
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:前向きの姿勢でチャレンジして下さい。)

テレビ見て泣いて笑って一人住む
孫子等の枝は天までとどきそう
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:すくすくと伸びてゆくお子様達の姿を見守るお祖母様の喜びが伝わってきます。)

風吹くなかよわい私飛ばされそう
人生は風にゆられて老いて行く
【山田富子】

席題「W杯」 玲子出題
 W杯アフリカ地図を再勉強【笑】
 W杯テレビ買い換え迫られる【同】
 W杯不況吹っ飛ぶこの熱気【清子】
 W杯テレビ買い替え待つ店舗【同】
 W杯ある時だけはポ語テレビ【玲子】
 W杯なければサッカー知らぬまま【同】
 多民族W杯だけは一つになり【一男】
 店事務所閉めてみんなW杯【孝子】
 W杯熱気で寒さを吹っ飛ばす【実】
(小評:二重表現、教訓、標語調にならぬよう、心がけて下さい。)

八月の句会は十日(第一火曜日)午後一時からです。誰方さまもお気軽にご参加下さい。


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