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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年8月号

2010年8月号 (2010/08/02) 俳句 (選者=栢野桂山)


子育ての書を読む移民妻として
夜もすがら啼く豚の仔等寒波の夜
季節待ちしずかにそよぐ糸柳
大鉢の四方に枝垂れ五月花
【松崎きそ子】
(評:新移民として渡伯した若い人妻が、身篭ったことを知り、母が持たせて呉れた育児書を、暗い灯の下で読み更けるのである。)

ホ句の秋多作大事と師の便り
一握(いちあく)の白雲浮いて秋深む
先人の偉業藺草田波打てる
【大岩和男】
(評:品種は日本のと違うが、この国の藺草(いぐさ)田が青く波打っている。家々で使うむしろや、畳にするこの藺草を育て、レジストロの新産業として先人の労を偉業としてたたえた句。)

六月や神の日毎日つづく国
乳飲子をかたえに生活の牡蛎割女
少女移民たりしが杖突き移住祭
【木村都由子】
(評:渡伯した頃は十一、二歳の世間知らずであったが、開拓期の苦労を経て、現在は杖を突いて移住祭に行くようになった――と、昔を顧みる老移民妻。)

水涸るる隣りの井戸を覗き見る
湯ざめせぬよう急ぎ足貰ひ風呂
開拓期パイナ布団に子等寝せて
【宇佐見テル子】
(評:昔の開拓期の移民は、風にとぶパイナ棉を拾い集めて、風邪を引かぬようにと布団を作り、子等を寝せた昔の想い出をまとめた句。)

入学や泣く子拗ねる子平気な子
くちびるの少し痺れて木の実酒
登校の馬つかまらず露寒し
【佐藤孝子】
(評:また昔であるが、田舎では学校が遠く、バスなど無いので乗馬で登校する子が多かったが、その馬がつかまらず牧草の露に濡れて、寒さにふるえたものである――という句。)

朝寒や何時ものコース一廻り
朝日差すテラスに咲き初め五月花
母の日は満開ならむ五月花
【矢島みどり】
(評:五月はマリア月とも母の月とも言われ、その頃咲く蟹サボテンを、五月の花として母の日(五月の第二日曜日)の頃の満開を待つのである。)

痩畑の歯並み乱れて茹ミイリョ
セリエーマの血まつりにして穴まどい
アマゾンや熱帯雨林と大銀河
【菅原岩山】
(評:地球上唯一残された、日本の十四倍もあるという大密林と、その中を流れる六五七七キロもあるアマゾン河とただ並べただけで、読む者を圧倒するような俳句。)

愛犬の美容院あり街の春
雑炊やビンゴに当りし茶碗もて
襟巻とブーツが闊歩空っ風
【野村康】
(評:ブーツは女性の長靴、この婦人と襟巻の鮮やかな友と、乾燥した空っ風の中を颯爽と闊歩するのをまとめた佳句。)

孫の手を取り童唄冬日和
兎狩り愛犬一役かって出る
風に乗りどこへ行くのかパイナ棉
【矢野恵美子】
(評:木から放れたパイナ棉が、風の意のまま飛んで行く。それを「どこへ行くのか!」と人のように呼びかけたのが面白い。)

古里はまぶたにたんぽぽ舞ふ日和
川沿ひの広き菜園水涸るる
【畠山てるえ】
(評:風の意のままたんぽぽの綿が飛んで行く――。こんな景は、何十年もこの国暮らした者にとって忘れがたく、パイナ棉が飛んで行くのを見ても、古里のたんぽぽのことを想い出すのである。)

雑炊を吹きふき食べる寒夜かな
寒波にもめげずにサッカー熱の子等
玉子酒つやめく頬の老爺かな
【青柳ます】

母の日のメニュー父が音頭取る
掘り上げて泥つき蓮根待つお客
ブラジルは果実天国マンガ熟れ
【小野浮雲生】

流れくる水滝のごと大雷雨
ホ句の友逝きて淋しき秋時雨
友の葬天も悼むかに時雨
【疋田みよし】

塒帰りの小鳥どち暮早し
赤絨毯めきて散り敷く柿落葉
【杉本鶴代】

冬日和検診終えて足軽き
旋回すヘリコプターに冬晴るる
【遠藤皖子】

小魚の泳ぐカナール水澄まず
濃みどりの山々写し湖静か
【三上治子】

久々に霧の匂ひのサンパウロ
母の日は母手作りのちまき欲し
【彭鄭美智】

湯上りの夫に用意の玉子酒
消え入らんばかりに淡し三日月
【寺尾芳子】

朝陰を飾るアマゾン百合ま白
幾山河越へ七十年移住祭
【青柳房治】

桃色の鳩の集へるイペ落花
青春の話さわやか講演会
【軽部孝子】

新渡戸菊街道筋は花ざかり
冬の鳥声なく集う果樹の庭
【本広為子】

たたずまい静かカザロン秋深む
霧の灯のうるむファベーラ川辺りに
【清水もと子】

十字架に静かにすがる冬の蝶
湯豆腐に箸ままならず異人妻
【鈴木照緒】

亡き姉の思い出つきぬ夜長かな
天高く風にゆられて鯉のぼり
【玉置四十華】

豚飼いと契約結び南瓜植う
ノルチスタの望郷かき立てカジユの雨
【湯田南山子】

無駄口のくせ直りたる風邪マスク
燕飛ぶ小さき彈みやわが余生
【風間慧一郎】

角笛の遠くに牛の旅らしや
菜畑にうさぎの糞の粒黒き
【森川玲子】

どこへ行く道みな満開パイネイラ
満開のつつじながめて日々ゆたか
【山田富子】

手廻しつるべ土付け上る井戸涸れて
なだれ行く肩寄せ合ふて牛の旅
【秋元青峯】

テレビドラマ遂々ひかれ湯ざめかな
バラボニータの遊船賑あひ冬晴るる
【原口貴美子】

ちょこ一杯妻にすすめて兎汁
厨妻土にしたしむ小春かな
【吉崎貞子】

落花生掘って汚れず神父鷹
野コスモス移民降ろせし駅廃れ
枝のアヌー目白押しする時雨寒
ほつれ髪風にまかせて畑打女
雑炊を猫と分け合ふ妻の留守
群ウルブー見付けし死馬に神楽舞
猿酒に群れて猩々蝿の群
どぶろくや茶渋に黒き古茶碗
豊作の藁でしばりし大冬菜
姉女房芋の煮ころがし上手
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


恋を得てこころやわらげる孫の声青葉さやけき庭に聞こゆる
一株のパンパス・グラスが朝風になびきながら冬に入りゆく
床の間に溢れ咲きたるカトレアの鉢に見惚れるブラジルの秋
【スザノ福栄会 青柳房治】

さんさんと冬の陽は射し美容院の待合室に呼び出しを待つ
血の検査受ける夫に付き添いて病院に行く冬陽射す中
あたたかき子等の瞳に見まもられ老いたる吾の静かなる日日
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

幾山河越えて来れど一抹の夢の如しよ八十五年
夕食後孫らと集い日本語で話せることを喜びとする
娘の作る今夜の献立なになるか鼻歌まじりに野菜きざめる
【スザノ福栄会 原君子】

うちに残るわずかな力たのみつつ生きつぎゆかむ九十の坂
重き足歩行器にたよりぼつぼつと歩いて行こう人におくれて
【セントロ桜会 井本司都子】

心地よく湯ぶねにひたり鼻歌を唄いし夫の面影うかぶ
過ぎ去りはなべて夢の如くにて岬の燈台点滅やまず
【セントロ桜会 上田幸音】

窓近く花盛る見てうかららと昼餉をなせり今日の幸せ
白梅と沖縄桜の共に咲く庭のある暮し有難きかな
【セントロ桜会 藤田あや子】

陽当りのよき娘のアパートふんだんに日向ぼこせり汗ばむまでに
娘のアパートの近くのバールよりビヨロンの楽の音きこゆ日曜の午後
【セントロ桜会 富樫苓子】

三十余年の古木といえる柿の木は季節季節に表情変える
毎月の歌会の度に眺めたる柿の木改装のために伐られし
【セントロ桜会 大志田良子】

まれに見る健在な夫婦あう度にカラオケ・ダンスを楽しく踊る
卒寿をば祝われし友めでたくもご主人は九十五歳とのらす
【セントロ桜会 鳥越歌子】

わが爪は自分で切れどマニキュアをせしことはなし歳古りにけり
そうめんを茹でて時計の秒針が五分をさせば急ぎ火を止む
【セントロ桜会 上岡寿美子】

真夜中に警備のならす警笛に眠気さまされいらだちいたり
今日明日はもどる頃かと暦見て友の帰りを待ちわびており
【セントロ桜会 板谷幸子】

ワルド・カップブラジルに声援送りつつテレビ見守る寒さ忘れて
日本勢は苦戦なりしが勝ちたるを心よりうれし吾は二世なれど
朝夕に寒さつづきしが昼さがり冬日ぬくとく我が身ポカポカ
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】

歩行にも不自由な吾をはげまして娘はリハビリに誘いてくるる
何事も気づかいくれれどままならぬ我が身悲しや寝てもさめても
【ピエダーデ 中易照子】
(評:身体の不自由な方のようですが、短歌を作ることも一つのなぐさめになるもので頑張って下さい。)

寒き日の続きて流感の予防にと早くより接種のフィラに並ぶ
庭先のフロル・デ・マイオは巡りくる季を忘れず花咲き盛る
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:三十一文字にあまりとらわれず、思ったことを自由に表現されてもいいのです。)

六月となれば常夏と思われぬ寒さつづきて重ね着をする
窓くれば吹きこむ冷たき風ありて思わず身ぶるい衿を正しぬ
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:季節をよくとらえています。サンパウロ州は常夏の国というよりも温暖地帯ですね。)

実在のモデルで親しまれるゲゲゲのドラマは楽し黒きバナナも食べて
NHKの報ずる「世界の遺産」をば神のみ業と見とれていたり
スポーツは黒人が万能にてどの国の選手も黒人が参加
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:身辺をよく観察されているのはいい。この素材をより深く表現できるようになれば申し分なし。)

夜もすがら姉の看病つづけしが明けてむなしや姉は言なし
穏やかな一生でありし姉上は秋の夜風に誘わるるごと逝く
俳句をばこよなく愛せし姉なるに逝きて寂しや空席となる
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:姉の死をいたんだ一連。会者定離は世のならいで、これを乗り越えて更なる進歩を期待します。)

バラ一株植えむと裏庭耕せば一鍬ごとにミミズはね出す
こみあえる朝市に出でて詮もなし目まい感じつつ急いで帰る
故里の便り途だえて久しかり文通せし友の温顔浮かぶ
【ツッパン 上村秀雄】
(評:第一首、バラ一株が後になっていましたが、先に持ってきたことで、情景が具体的に作品が生きました。ちょっとした入れ替えで作品はよく見えるもので、仕上がった作品をよみかえして吟味するのも上達の一方法です。)

しとしとと長く降りつぐ冬の雨寒き今宵はカレーにせむか
寝つかれぬ夜は電灯を消したりともしたり何するとなく天井見つむる
【サントマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:作歌を一応心得ておられるようで心強く期待していますが、毎月締め切りは十五日となっていますので、他の方々をもふくめて早めに送付を願います。)

カミュにサルトルを語りし日は遠く会心の友の次々と逝く
さまざまの書をあさり読み果にして実存思想の感化に生きる
創作に凝りていつしか心奥に悪魔棲ませて悪魔と遊ぶ
【梅崎嘉明】


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


よかったね日本でなくてオランダで
病妻のペダル踏む足動き出す
老いの身を家族の愛でオブラート
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:家族の愛に包まれておくる余生、これに勝る幸せはありません。)

故郷に友あり夢に見る山河
年齢を忘れ多忙な今日がある
頂点を守るコッパの道険し
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:期待されたブラジル・チームの六度目の優勝は成りませんでした。)

伯負けて休日計画フイになる
川柳会笑ってしゃべって句が湧かず
鏡見る時だけはずす老眼鏡
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:「あら、思ったより小皺がないじゃない?」老眼鏡なしで見る鏡の顔にうっとり。新鮮な着想、お見事です。)

ブラジルが敗けて静まりかえる街
老移民杖を頼りに投票す
良き祖国願う移民の清き票
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:祖国を思えばこその清き一票。菅内閣への国民の期待は大きい。)

ばらまいて勝てば消費税で民怒る
又ねじれ民の心に秋の風
云えば負け云わねば借金雪だるま
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:今回の参院選の敗因となったと云われる消費税論争の中で、借金は容赦なく増えて行く。時事吟の一連、良く纏まっています。)

夢だけで生きては行けぬ浮世です
やさしき友笑顔遺して永遠の旅
わが余生途切れ途切れの夢を見て
【セントロ桜会 矢野恵美子】
(評:切れぎれの夢の連結の中に生き甲斐があるのです。)

W杯エスパニアにおめでとう!
W杯頭でゴール決勝へ
W杯蛸(たこ)が占い当てました
【セントロ桜会 中山実】
(評:延長戦の最後に決勝点を挙げ、スペインの優勝となり、蛸の占いが見事に的中。蛸にも乾杯といったところ。)

朝食に青汁飲んで健やかに
先ず健康保持につとめる余生です
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:健康は何よりの宝です。)

残されし歴史に余生の花咲かせ
凡句でも一日楽しむ老の幸
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:各種の趣味の会で励んでおられるお姿に頭が下がります。上手、下手は別として、楽しみながら続ける事が大事です。)

泣き笑い金婚過ぎた夫婦愛
痛むひざ支える杖よありがとう
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:転ばぬように気をつけて下さいね。)

兄弟と云えども色々好き嫌い
温暖化と思えぬ寒波に着ぶくれて
【アルジャー親和会 近行博】
(評:少し添削しました。参考になさって下さい。先回と同じ句が何句かありました。)

席題「年」 中山実出題

 年金で悠々自適で生きる幸【清子】
 年毎に益々輝くおばあちゃん【同】
 頑固爺年と皺とで丸くなり【しんかわ】
 バスの中年寄りあつかい悲しいね【同】
 年したら言いたい事云うが勝ち【玲子】
 年寄りの一喝欲しい現世代【同】
 孫の年数えて悟るわが齢(よわい)【恵美子】
 何事も笑って過ごせる年の功【同】
 この年で杖も要らずに歩く幸【実】
 年毎に強くなれよとひとり言【富子】
 年金と健康あってのわが余生【孝子】





「漬物」

新しょうがを取り来てつける
嫁の大好物
これも亡き義母からの食文化遺産
義母、私、嫁と三代続く
私は義母からずいぶん
多くのことを学んだ
嫁もこれから色々なことを
覚えていくだろう
核家族も良いだろう
だが老母から学ぶ事もまた大事
たかが漬物と言うなかれ
漬物ほど奥の深い
ものはないと思っている
肉食の後の一口の漬物は
最高に美味しい
【ナザレー老壮会 波多野敬子】


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