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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年11月号

2010年11月号 (2010/11/12) 俳句 (選者=栢野桂山)


花の雨地蔵の頭巾濡らし過ぎ
老兵は語らず八月十五日
志す日本再建終戦日
少年兵瞳純なる終戦忌
【香山和栄】
(評:太平洋戦争の末期に、二十歳未満の少年航空兵などが出撃して戦死したが、その時の彼等の瞳は純な澄んだものだった――と、終戦忌にそれを追慕した句。)

冬ざれて腰折れ曲る枯芒
颯々とトロツペーロの黒ポンチョ
恙なく翅震はせて蝶の羽化
乱舞する森の妖精モルフォ蝶
【菅原岩山】
(評:妖精とは西洋の伝説に出てくる超自然な仔仕を言う。森深くその妖精のようなモルフォ蝶が乱舞するさまをこのように詠んだ。)

シンビ蘭原種の渋い色が好き
風むきに鍬投げすてて凧揚げる
独立祭黒奴ズンビー物語
【本広為子】
(評:逃亡奴隷の隠れ場のキロンボの黒人ズンビーは、「黒人共和国の指導者」として、パルマーレスの戦に捕えられて、斬首刑に処されたが、独立祭の日にそれを追慕した句。)

夜の森に野焼きを逃げて猿の群
小雀の母呼ぶ口嘴まだ黄色
気にそまぬ結婚話しの春愁ぞ
【原口貴美子】
(評:両親は娘の将来を思い、家も豊かで優れた男性に嫁すように話を進めるが、娘はそれに気が進まない。よくある昔風の親と、現代娘との軋轢。)

父と子の音ことなれる種蒔機
一台の耕車引っぱり合いの村
新ピンガ帰国あきらめたる日より
【佐藤孝子】
(評:懐しの故郷へ帰国することになって、それを楽しみにしていたのに、家の誰かが大病になったかして、それが叶わなくなったりで、それを悔んでその夜から、新ピンガを痛飲する思切りの悪い男。)

黄イペー車窓に賞でつマ州旅
蜂鳥に蜜瓶吊って美容院
毛糸編む伯国々旗の彩模様
【猪野ミツエ】
(評:この国の国旗の緑は大自然を占める森林を表現し、黄は国を代表する黄イペーの彩と聞くが、この二つの彩を賞でつつ麻州の旅を重ねた。)

晩学の作句に挑む春灯下
毬咲きの黄イペー提灯点るかに
添乳しつ目覚めざる母目借時
【松崎きそ子】
(評:目借時は蛙の目借時のこと。暮春の頃、人がしきりに睡眠を催すことがあるが、それは蛙に目を借りられるためだ――ということから季語になった。この珍らしい季語を見付けだしたのが手柄。)

咲き満ちて庭の黄イペの花明り
煙突の曲って見ゆる朝霞
針穴に糸の通らず春愁ふ
【森川玲子】
(評:老齢で針穴に糸が通らなくなった季節を悲しむ女性。大家族の着付けの世話をしなくてはならぬのにと、それがままならぬとは…。春愁は他に春怨、春恨、春哀し、春思などがある。)

花イペの黄を取り囲む蜂雀
疎ましき春蚊の鳴声打払ふ
林檎剥ぐ女が帯を解くように
【青柳房治】
(評:日本女性が長帯を解くさまは婉容なものであるが、林檎の皮を剥いでいて、ふとそんな形容が頭に浮んだ――。)

たっぷりの慈雨に山火事鎮火して
沖縄の王朝衣裳や初詣
元気よく豊作踊り子供達
【三上治子】
(評:昔の沖縄は中国との交流が深く、その頃の王朝の衣裳はどこか中国風で、まことに煌びやかであったのを、テレビか何かの本で見ていたので、こんなあでやかな句になった。)

立春や日当り早きリベイラ富士
温かな言葉が届く父の日に
【小野浮雲生】

ドンペードロ像の足元君子蘭
春愁や披講聴き取り難きかな
【野村康】

雀の子人を恐れずすぐそこに
春愁や古きギターを爪弾きて
【秋元青峯】

静かなる慈雨を聞きつつ朝寝かな
満月の光りに幹のジャボチカバ
【青柳ます】

背番号入りの凧上げ競う子等
春惜しむ民族舞踊を立見して
【寺尾芳子】

西風吹いて珈琲の花咲き初めし
耕して自然に生きる父尊
【木村都由子】

寒波の夜人も車も絶へし街
三寒に演歌四温に童謡聴く
【彭鄭美智】

野火煙さけてお使ひ遠廻り
釣り日和行楽日和イペー咲く
【畠山てるえ】

紫の花絨毯やジャカランダ
ジャブチカバ町の屋台の黒真珠
【杉本鶴代】

時雨るるやリベイラ富士の影淡し
散り急ぐ大根の花に冴返る
【伊藤桂花】

見えぬ目に只嘆息す秋の朝
又変える体の向きや日向ぼこ
【大岩和男】

リベイラの川面に読経の声冴へて
白蝶の好む大根の花やさし
【疋田みよし】

親友と離別残暑の風染みる
大夕焼足軽がると我家へと
【玉置四十華】

茶の花やこの古里に住み慣れて
オーと呼べばオーと答へて山笑ふ
【風間慧一郎】

憂濃く落込む友や春を待つ
碇泊船霞みて積荷遅々として
【清水もと子】

重ね着て愚痴をかさねて老の日々
春浅く足腰冷えて陽の出待つ
【藤井梢】

昼よりの蒼き宵空春の日々
椰子の実を振れば涼しき音のして
【山田富子】

春かすみ眠気もよおす昼下り
カラカラの乾季の大気に胸苦し
【矢島みどり】

春愁や何時も見る夢父母のこと
朝寝して余生幸せ噛みしめる
【矢野恵美子】

春愁や一人暮しの寂しさに
くたびれて老の余生の朝寝かな
【荘司恵美子】

ビッコ鳩餌をもろうてイペー樹下
雀の子鳩と一緒に餌を啄みて
【軽部孝子】

気兼なきひとり暮しの朝寝かな
お東の鐘の余韻や朝かすみ
【吉崎貞子】

一人居の老後の朝寝ほしいまま
黄イッペー国花となりて輝やけり
【遠藤皖子】

町に寺院田舎にカッペーラ鐘かすむ
シュピンの仔連れて餌漁る雀かな
【野村康】

許されし如二花寄りてバラ大花
バラの刺袖引くままに手入れかな
密林の土客土してバラ咲かせ
赤き匂ひ青き匂ひのトマテもぐ
岩山のひだに二三戸秋山家
乳子抱いて膝ぬくぬくと夜長かな
春の夜の眩しきほどの女振り
春眠の髪吊床の目より垂れ
あいまいな素性の女毛皮売
穴を出し蛇に投げ打つ手のパイプ
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


八十の歳を越したり新しき時流の動き吾を励ます
久しぶり日本よりの妹の声まだまだ吾も生きねばならぬ
茫茫と茅萱の原に吹く風に旅の街道気温は寒し
【スザノ福栄会 青柳房治】

朝帰りで人に知られし吾が夫晴れて傘寿の乾盃あぐる
四キロの男の子生れしを喜びし生家の祖母を今も忘れず
買い物を済ませて街で飲むカフェーふたりの仕合せかみしめながら
【スザノ福栄会 青柳ます】

早朝のメトロに乗りて眺めゆくペンニャの丘の大聖堂を
町いまだ眠りの覚めぬ町中でコーヒーの香りただよいて来し
あわただしく勤に出でゆく人々でサウデの駅の朝の雑沓
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

庭土を起す力の及ばねば鉢植えのみを日々に愛しむ
傘寿過ぎ卒寿を目ざす夢よりも転ばぬ先の杖を購う
御法話を日伯両語でなされる師老いも若きも諾いて聴く
【スザノ福栄会 原君子】

懸崖の菊思わせる筏こぼるるさまに塀外に咲く
愛息を逝かしし人の淡々と語れど苦衷は身につまさるる
衿正し読み居り明治神宮の杜を造りし人の生立ちを
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

街中の遠近に咲くジャカランダ紫はよし人をなぐさむ
四階の窓にもたれてわづかなる日差しを受けて日光浴なり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

小鳥屋の朝はにぎわしさまざまな小鳥の声に明けてゆくなり
小鳥屋のかたえに金魚も売られいて楽しそうに泳ぎていたり
【セントロ桜会 井本司都子】

朝まだきひときわさえしサビーアの声今日も天気だ元気でいこう
老ゆけど女のたしなみ忘れずに心たのしく編針を取る
【セントロ桜会 上田幸音】

思わざる寒さもどりて夫の好く鶏のスープをつくらんと立つ
久々に逢いし歌友の渡辺さん何時もの笑顔に安らぎ覚ゆ
【セントロ桜会 富樫苓子】

人生は長くみじかき坂道と思えばたのし老いし吾が身も
朝市へ急ぐ道すがら白イペーの凛々しく咲けるに足をとどむる
【セントロ桜会 鳥越歌子】

運動会今年のプログラムは皆ポ語あわてているは我ひとりなり
アメリカへホームステイに行きし孫ブラジルの旗涙で見たと
久々に大地をしっぽり潤して夜ふる雨をうとうとと聞く
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】

玉砕せしつわもの偲び南洋のみどりの島にもろ手を合わす
遅すぎる政府の対応シベリヤの抑留者に對し一時金とは
老いてなお夫婦元気であればこそ寒き一日を共にいたわり
【ツッパン 上村秀雄】

満開の桜のトンネル続く道思い出の旅日本の名所
客間より孫等のはしゃぐ笑い声寒さわすれて心が和む
ブラジルに移住し本当に良かったと歌詠む幸せかみしめている
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】

姉逝きて一年過ぎしこの朝形見のセーター暖かく着る
夫病みて介護に追われ身は疲れ今日のひと日も無事に終わりぬ
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:下句の「形見のセーター暖かく着る」は素晴らしい。亡き姉を偲ぶ心情が「暖かく着る」でよく表現されている。)

待ちわびしただ一日の雨なれど街路樹の新芽いっせいに芽ぶく
雨待たるる小公園も整備され春の日差しに小鳥遊べる
ひと日ひと日緑増しゆく並木道朝の散歩の心はずみて
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:第1句、日、一日となっていたが、「日、一日」は一日中のことであるから、二句の緑増しゆくに対して適切でない。ひと日ひと日、と丁寧に詠むべきである。「朝の散歩の心はずみて」には老たりといえども若々しい気が漲っている。)

日本での人の心の貧しさをしみじみ語る帰りし友は
シベリヤに抑留されいし兄帰る子供のように小さくなりて
忘れない終戦の日の暑き日を皆んなで泣いた遠い想出
【セントロ桜会 板谷幸子】
(評:六十数年経った今でも終戦の玉音放送を聴いてみんなで泣いたあの暑い夏の日を一生忘れることは出来ない。)

大いばり衛生局の名のもとに職員はみな手袋仕事
大切な金はどうして手から手へ消毒もせずしまい込むのか
戦争は金と人とを失って国民泣かせて得るものはなし
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:この調子で励んで下さい。「戦争は」の歌、国民泣かせて得るものはなし、この歌のとおりだと感心させられました。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


もう余生競うことなく胸をはり
絆まだ祖国にありてNHK
躊躇せず老人席に座る今
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:老人席に座ることがためらわれた時期もありましたが――これからは堂々と老人席に座して、健やかな余生をお過ごし下さいますように――。)

幸運に恵まれ努力の日を忘れ
支持率の公表選挙後を追う
政党の派閥たてつきねじれ込み
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:「ねじれ国会」は更にねじれそうですね。)

航空路せまくなったか事故多発
難のがれ神のお加護に感謝する
ついつられ旅先で買う土産物
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:旅先では心もうきうき、財布も軽くなるものです。)

ちっぽけな会だが鳩も鷹もいる
血の濃さがいざと言う時ものを言い
覚悟きめ夫の歩幅に添ってゆく
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:二人三脚でいつまでもお幸せに――。)

六十歳良妻賢母卒(お)えました
気がつけば今年も残り三ヶ月
肥りすぎ試着室で気づかされ
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:「あら、わたしこんなに肥ってたの?」試着室の鏡に思わず問いかけてみる作者。)

ブラジルの百姓健在フェイラ愛で
百姓の目で見るフェイラ安過ぎる
昼すぎてフェイラに通う大家族
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:昼過ぎからの安値を待ってフェイラに行くのも、大家族を賄うお母さんの知恵。)

はるばると来たのに見せぬマターホーン
ポ語教室話す八割日本語で
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:ポ語教室だからと言っても、日本人同志の会話にポ語では違和感があるものです。)

おはようの声が元気を測る元
夏時間きても居座るこの寒さ
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:今年は余寒厳しい立春となりました。)

春うらら上海万博見て廻る
日本の文化引き継ぐ趣味の会
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:各種の趣味の会の殆どが、日本文化継承の場となっているようです。)

餌くれと膝に上る鳩忙(せわ)し
アマリリス見事に咲いてるビルの窓
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:今年は時候に合ったのか見事に咲いたアマリリスを多く見かけました。)

親鶏が餌を見つけてひよこ呼ぶ
羽広げひな守る鶏の目が丸い
【セントロ桜会 中山実】
(評:親子の断絶が進む人間社会が悲しいですね。)

平和郷人間欲で壊される
ご託宣一言居士が見栄を張る
【アルジャー親和会 近行博】
(評:ご託宣も見栄の陰で見えなくなる。)

祖父死んでいたのも知らぬ核家族
大金に眩み政権地におちる
【レジストロ春秋会 大岩和男】
(評:「政治とカネ」に政界はいつも揺らいでいる。)

幸せを今日も感謝の香をたく
時代には勝てず一人で句に挑む
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:一人静かに句作に励むひとときを大切に――。)

少し春ときめきくれた良い出会い
ナツメロに映る遠い日の灯影
残照にまだある明日の彩を溶く
砕け散る波は白くて美しい
過去はもう問はない爆ぜたシャボン玉
【柿嶋さだ子】


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