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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2010年12月号

2010年12月号 (2010/12/09) 俳句 (選者=栢野桂山)


在りし日の恩師を偲ぶ君子蘭
ジャカランダ山装いてモジ箱根
火酒一杯と芥菜漬けに食進む
慈母のごと遺影麗し潔子の忌
【松崎きそ子】
(評:ブラジル中を旅行されて、俳句をコロニア中に広められた念腹先生の留守をまもって、牛の管理や牧手入れなどされる、潔子夫人の慈母のような遺影を、婦人の鑑として拝ぐ作者。)

ビル街の墨絵のさまに煙霧濃し
薄ら日に弱々飛んで冬の蝶
実を飛ばし合ふ道の草あちこちに
翅合せ箒のままに冬の蝶
【立石紀子】
(評:弱々と命の終りに近い冬蝶が、色のはげた翅を合せたまま、庭の塵と一緒に箒のままに掃かれて行く哀れを詠んだ句。)

爪研ぐを互いになさず鶏合せ
桃咲いてチコチコの巣はそのままに
咲き揃ふ一番花の若珈琲
【纐纈喜月】
(評:一番雨の恵みを受けて、咲き揃った一番花の美しさは、珈琲造りにとって天国に行ったような心地にさせる。評者も十二歳からそういう気分を味わった一人。)

清らかな水湧く里の新ピンガ
春窮やくよくよせぬは母ゆずり
春窮や筋金入りの移民妻
【佐藤孝子】
(評:米やフェジョンなど、何もかも不足するのが春窮。それに耐えて今日のコロニアの繁栄があるが、それはこの句の通り移民妻は、その主役の仲間である。)

磐石の木蔭句会や念腹忌
桃の花果樹養鶏で村栄へ
東風に祈る女神の像は湖に向き
【木村都由子】
(評:春になって大西洋を渡って来る風を東風と言うが、その中に凛と立つ女神の像、すべての弱い立場の人々の仕合せを、湖に向いて祈りをささげているやさしい姿。)

生ふ水草ゆすりて行くは鯉ならん
偏屈で通り娶らず軍鶏を飼ふ
星一つ侍らせ春の月かすむ
【猪野ミツエ】
(評:春のおぼろにかすむ月の近くに、まるで玉者に侍べるように星が一つ輝いている。何か御伽の国に迷い入ったような感じの句。)

早春のしらけ初めたる葱坊主
初春の文清らかに力あり
古代文字岩に古りゆく春探し
【山田富子】
(評:巨きな岩に彫られている謎のような古代文字。評者もかつて北伯旅行中に見た覚えがあり、心引かれる一句。)

せがまれて仔犬を連れて野に遊ぶ
草若葉に坐して糸垂る太公望
玄関に瀟洒なアーチ藤の花
【野村康】
(評:門近くの藤が長い花房をたれていて、その家を訪ふ者はそれを潜ぐって行くと、それを歓迎するように落花が肩にこぼれた。)

初ざくら声弾ませてあねいもと
野仏に一礼し行くピクニック
藤咲いて薄むらさきに白き蝶
【吉崎貞子】
(評:薄むらさきは日本人好みの彩で、藤が門近くに植えられていて長い房を垂れている。蝶々もやはりこの花が好みとみえて、それにまつわるように飛び廻る。藤の紫と白蝶の対比が美しい。)

昨日より今日みどり濃く草若菜
農閑期なき国に住み種を蒔く
藤の門くぐりて肩にまた落花
【森川玲子】
(評:門近くに幾つかの藤の房が、前句と同じように垂れていて、それを潜ると待っていたかのように、その人の肩をやさしく打ってこぼれた。)

砂地には砂地の匂ひ耕せる
かたことと我が家近所と種を蒔く
雨上り村賑はせる種蒔機
【畠山てるえ】

むらさきはわが好きな彩藤の花
久に訪ふカルモ公園遅桜
ふりむけば佳人過ぎゆく春日傘
【遠藤皖子】

あれこれと又物忘れ春寒し
春日傘くるくるまわし乙女達
野遊びや蝶ひらひらと後や先
【矢野恵美子】

猿などと言はれバナナの好きな子よ
進水式のくす玉割れて空に虹
白いバラ私の影へ崩れけり
【軽部孝子】

廃校となりても素心花咲き満ちて
ケロケロの親にはやされ巣立鳥
【寺尾芳子】

春日和腰をおとして長話
ひともとの紫陽花の彩あざやかに
【三上治子】

寒暖のはげしき日々よ病む夫に
ヅットラ街道跣足参りや初夏の風
【杉本鶴代】

子等巣立ち恙無き母落葉掃く
友の家の重たき棚の藤の花
【青柳ます】

孫連れて山道歩き栗拾う
自家製のもぐさの灸を父にすえ
【玉置四十華】

おぼろ月仰げば亡父母偲ばるる
校庭にイペー満開日射し濃し
【小野浮雲生】

リベイラ河釣人並ぶ風光り
日ポ両語の法話あり春彼岸
【疋田みよし】

菫(すみれ)似の食虫植物沼日永
辻の灯をかくしブーゲンベレア咲く
【鈴木照緒】

神仏に任せし体冬ぬくし
見て食べて母の味なる蓬餅
【大岩和男】

子供の日老人ホームの運動会
ひこ孫と組んで一等運動会
【清水もと子】

老ゆるほど古里恋ひてよもぎ餅
おぼろ夜の街灯淡く人まばら
【藤井梢】

木葡萄の落果の匂ひワインめく
拙くもホ句詠む余生念腹忌
【本広為子】

冷雨来てトレイス・マリアの花散って
夫看取る友案じられ日々寒し
【矢島みどり】

種蒔きや豊作の夢胸に抱き
教会の鐘の余韻や春寒し
【秋元青峯】

新茗荷刻んで蕎麦に添へし宵
隠居所の軒に来て鳴く赤サビア
【青柳房治】

化粧知らぬ母の一生耕して
選挙戦よそに野を焼く老夫婦
移民村野焼煙の小一ト月
ミナス野の大野火遅速なく進む
夫旅のサボテンの花匂ふ宵
気嫌良き日の古耕車たがやせる
日本間の障子に映へて野火遠し
亡き師まだ句作の支へ念腹忌
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


朝八時日課の散歩に一回り黄花コスモス揺れる道ゆく
妻と来て憩う山の湯しみじみと浸れば木々の緑やさしき
六歳の孫が器用に箸つかう唯それだけで朝が明るい
【スザノ福栄会 青柳房治】

八階のベランダに咲くブリンコに緑の蜂鳥今日も飛び来し
久しぶりに降りたる雨に山々は緑を増していきいきと見ゆ
ビル街を震わせ降り来しにわか雨春をつれ来し雨とも思う
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

ブロッコリーは蕾のままに茹でられて咲いて華やぐ命を知らず
借金で首の回らぬ日もありし今は感謝の悠々自適
かすむ眼ににじむ泪をしばたたき夜ふけ聴きいし「日本のうた」
【スザノ福栄会 青柳ます】

訪ないし友のサーラの白百合は生花か造花か手を触れて見る
長距離のバス内にして退屈をしのぎて孫としりとりをする
下校路の清水を木の葉で汲みたりし大正生れの幾人は亡し
【スザノ福栄会 原君子】

勤め持つ娘が時間をやり繰りし買い来し野菜まないたに乗す
背に負いて育てし娘も成長しいまは何彼と誘いてくるる
非日系の男子の舞たる「白虎隊」凛々しき動作に息つめ見つむ
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

朝露の光る芝生におり立ちて手足をのばし体操なせり
十月に入れども今年のサンパウロは冬の寒さに風吹きすさぶ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

古里より持ち帰り来し水仙は気候に合わぬかついに花見ず
中国の経済成長はよけれども周囲を威圧する背伸びはこまる
【セントロ桜会 板谷幸子】

ふたたびの寒さもどりて暖かき鶏のスープを夫に作らむ
毛並よき黒き野良犬拾いきて朝の散歩の楽しみとなる
【セントロ桜会 富樫苓子】

杖を持ち初めし頃は忘れしに年寄りいまははなすことなし
気負うこと無き身となりて久し振りに降りたる雨をしみじみ眺む
【セントロ桜会 上田幸音】

ヨグルトを匙にすくいて食しおり少し横目で本を見ながら
久々に孫らと共に食事とる四ヵ月の曾孫は口をもぐもぐ
【セントロ桜会 井本司都子】

カラオケのエストラ級になりたれどその後の体調くずして冴えず
歌唱力落ちたる吾は張りもなし友の励まし有難けれど
【セントロ桜会 鳥越歌子】

花は散り街路の木々は新緑にもえて道行く心に滲みる
訪日の旅より帰りし梅崎さん次の歌会でニュース聞きたし
【セントロ桜会 大志田良子】

貧しくも心豊かな祖母なりき異国に逝きて六十余年
水を汲み炊事洗濯子守など一人けなげに働きし祖母
故里のお盆の話茄子の馬作り語りし祖母いまは亡し
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:三首ともよく詠めています。)

サンパウロ寒波にみまわれ着ぶくれて「寒いですね」が挨拶となる
美しきつつじ眺めつつ足運ぶ体操の友と朝のひととき
六十余年夢の如くに過ぎにしが写真の君は若くほほえむ
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:母親を詠んだ作品は他にも出ているので略しました。感情豊かな作者ですから更に独創的なものを目ざして下さい。)

連れ合いを亡くせし友より電話来し一人居は淋しと泣きつつ語る
小夜嵐窓打ちいしが雷鳴をともないてどっと豪雨となれり
人間の生命は平等と言わるれど短命長寿のありてかなしき
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:二首目の作品、原作は「風」が二字。風と同じ嵐も入っていたので、少し添削してみました。短い詩ですから同じ言葉は入れないで感動を述べるように。)

シベリヤの帰還者にと六十年過ぎたるいまを一時金賜(た)ぶ
あるじ亡き庭にも春はおとずれて草木の中に椿満開
味噌豆腐手作りで移民の初正月せめては祖国の味知りたくて
【ツッパン 上村秀雄】
(評:読者により以上感動を与えるために字句を少し入れ替えてみました。参考までに。)

盆太鼓の賑わいの中に手拍子をとりつつ悲し車椅子のわれ
左腕寝ちがえしか今朝痛しリハビリに来て少し落ち着く
あれこれと積め来りしが旅先で開けば不足のもの多くあり
【ピエダーデ 中易照子】
(評:熱心な作者で少しずつ上達していますが、更に好きな歌人の歌集などを読むのもいい勉強になります。)

六人の孫にかこまれ好々爺早や五〇年の歳月は過ぐ
あやふやな爺のポ語とかたことの孫の日語の会話はおかし
ピンガ飲み気炎を上げし頃もありいまは下手なるカラオケ三昧
【レジストロ春秋会 黒沢森雄】
(評:第二首目、同じ言葉を重ねてありましたが、一方を「かたこと」と変えてみました。短い詩なので言葉を吟味しましょう。)

認知症に視覚味覚の失いてただむしゃむしゃと腹みたすのみ
贅沢な世代か新しき寄贈品ホームバザーで安く売らるる
やりくりの生活は満たされ寿命のびかたみにあらを探く人々
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:第二首目、後の言葉を先に置き換えてみました。そのことで具体性がよく出ました。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


趣味持たぬ人に満たさる物ありや
やさしさも濃い武者髭に児はおそれ
告げ口に親しみ少し揺れはじめ
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:いわゆる「陰口」をする人には要注意。下句の「揺れはじめ」が利いています。)

たかが川柳されど川柳奥深き
時々は奇跡もあろうとロッテリア
大風呂敷拡げ合いして大笑い
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:若しメガ・セナが当たったら?「取らぬ狸の皮算用」で大風呂敷を拡げ合うのもまた楽しいもの。)

明日句会慌ててひねる五七五
威張る支那日本アメリカやり返せ
ブラジルは老いにやさしい良いところ
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:この国の老人に対するやさしい思い遣りへの感謝が素直に表現されました。)

ノーベル賞日本人のここにあり
幾山河越えて平野に辿りつき
金銭欲すてて九億円の寄付
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:カナダの老夫婦が宝くじで当たった一一二〇万ドル(約九億円)を慈善団体に寄付したという。この記事を読んで感動した人は多い。)

オーイ竜馬今日本にコロニアに
墓よりもプライアにぎわうお盆の日
やまと国八方ふさがり何処え行く
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:多事多難、菅内閣の前途の厳しさが窺える。)

日本の国技他国で花が咲き
人生に詩あり楽しい日を描く
楽しみに鍬引く老いの汗光る
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:開拓時代に汗と涙で引いた鍬を、今は楽しみながら引く作者。)

逝く日まで趣味に生きたい老いの夢
十字星仰ぐ夜星の梅匂う
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:十字星と夜干しの梅の匂いのマッチで、奥深い作品となりました。)

ギーアーの言う一人一個は聞かぬ振り
階段と遠道さてどっち行こう
老人席座ってみたけど落ち着かず
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:「まだまだ」の心意気が頼もしい。年齢に拘らず、心身共にいつまでも若さを保持出来る人は幸せです。全句、よく纏まっています。)

事故防止神の加護を祈るのみ
新時代遅れぬように本を読む
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】

W杯占い蛸が死にました
初誕生の女元首に期待の目
【セントロ桜会 中山実】

愛でる花デングの元と捨てられる
貴賓席これも役職大事です
【サントス伯寿会 三上治子】

焼香のけむりの先に親が見え
追悼の念が深まる盆の月
【インダイアツーバ親和会 早川正満】

鍛冶屋さんトッテンタランと泣き笑い
生かされた自然の恵みに悟される
【アルジャー親和会 近行博】

弱腰の日本外交尖閣島
鳩山に止まり切れずに野に下る
【レジストロ春秋会 大岩和男】
(軽部、中山、三上、早川、近行各氏の作品、若干添削。参考になさってください。)

◎席題「汗」 鈴木ふみ出題

我が人生冷や汗ばかりの縄渡り【しんかわ】
最高点頂き冷や汗じっとりと【清子】
大相撲手に汗にぎる大一番【ふみ】
席題に両手汗して五七五【孝子】
仕事着が塩吹く暑さ農作業【笑】
今日も汗しながら通う老ク連【富子】
答弁に冷や汗かくか菅首相【余碌】
冷やビール汗の背中にしみわたる【実】


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