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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年1月号

2011年1月号 (2011/01/19) 俳句 (選者=栢野桂山)


鉄砲百合活けて住職御縁日
さそり這うと鳥肌立てて夫を呼ぶ
夏料理宮城名物烏賊ぽっぽ
手料理しつ母しのばるる菊なます
【野村康】
(評:菊の花を入れたのが「菊枕」。その花を茹でて甘酢に漬けたのが「菊なます」。それを上手に良く作った亡き母を偲びつつ、菊なますを作る娘たち。)

目路遥か対向車見ず春の旅
吊りズボン草笛うまき美少年
草笛や父は亡くとも明るき子
【猪野ミツエ】
(評:前句に続いて草笛の句、この子は幼き頃父を亡くしたが、その切なさを友にも見せず、明るく草笛吹いて淋しさを見せない建気な子。)

ごきぶりと鼡退治をしつつ住む
滝風に声とられつつ案内人
谷に落つ白糸を引く如小滝
【纐纈喜月】
(評:日本に「白糸の滝」と言う名の知られた滝があるが、広大なこの国にもそれによく似た滝があるとは―。一度拝見したいもの。)

大夕焼けに心はずませ明日を待つ
コロニアの隆盛汗のたまものと
茶摘み娘を追ひ立てし母今墓碑に
【藤井梢】
(評:茶摘みが盛んだった頃、大勢来てもらっていた。どんな摘手の娘にも負けず、その若い娘等を追い立てるように茶摘みをした亡き母を偲びつつ、その墓碑を深々と拝んだ―。)

野も山も緑したたる夏に入る
大夕立過ぎて湯気立つアスファルト
冬着きてサンタクロース暑からむ
【杉本鶴代】
(評:クリスマスの前夜、靴下につめた贈り物を子等に呉れるサンタクロース。厚い赤い服を着て居るので、さぞ暑かろうと子等の心になって心配する心やさしい作者。)

夜濯ぎ女あしたの野良着干す月夜
山道に小滝現れひと休み
夜更け待ちごきぶり覗く戸の隙間
【森川玲子】
(評:人類が滅んでも生き残る―というごきぶり。それが戸の隙間から人間の生きさまを覗く。)

習慣となりて夜濯く妻老いて
うたがいを知らぬ人好し狐百合
昨日今日白紙そのまま日記果つ
【吉崎貞子】
(評:年末の二、三日、白紙のままに日記帳が置かれている。これは主が病気かさもなくば政局が急変して日記など書く暇もない大物政治家のものか―。)

奥地行きの白靴汚れ医療班
パンの木の実のたわわなる島に棲み
銃眼ある豪邸の庭パン実る
【木村都由子】
(評:銃眼のある豪邸と言えば、政敵の多かった昔の大物政治家の邸だったのであろうが、その庭にパンの木の実がたわわに下がっていて、風に揺れている景。)

桑の実を食べ紫に手も口も
新茶もらい棚の中まで佳き香り
天候不順首出す筍時季外れ
【玉置四十華】
(評:夏になっても寒く、藪の筍が頭を見せないので諦めていたら秋口になってやっと生えてきた。これも天候不順のせいと天を見上げる作者。)

夕ミサの賛美歌暮鐘漠と聴く
水玉の模様涼しき妊婦服
【松崎きそ子】

望まれて街に嫁ぐ娘桃の花
ようやくに曾孫に女児や桃咲いて
虻一匹入れてにせ蜂蜜を売る
【佐藤孝子】

久々の夏日燦燦気も晴れて
若人等背中丸出し夏来る
【矢島みどり】

収穫の近し向日葵首重く
黄金のひまわり競ひ咲く耕地
【清水もと子】

夜濯ぎの我を見下すお月様
油虫ひげ右左戸の隙間
【矢野恵美子】

国境にかかりたる虹雄大な
太き葉を押し上げ咲ける君子蘭
【遠藤皖子】

入賞に輝く百合の花友へ
姫百合の咲きてお盆の近づきし
【青柳ます】

花ユッカ白き砂丘に青き海
婆さんと二人も良しや晦日そば
【青柳房治】

移民期に幼児背にして夜濯ぎす
油草野道に背丈草いきれ
【秋元青峯】

干物に主婦狼狽す夏の雨
実感のなきまま過ぎる夏時間
【大岩和男】

越へて来し移民の山河風光る
一粒も粗末に出来ぬ今年米
【山田富子】

それぞれの想ひを胸に流灯会
生きのびて今日も初蝉聞き待てり
【小野浮雲生】

新しきスーパー開店燕舞ふ
初蝉の声昨年と変わらざる
【疋田みよし】

山畑に鹿出て騒ぐ風の子等
八重ざくら仄(ほのか)な気品潔子の忌
【本広為子】

春耕の心はずめば土踊り
一児背に一児の手引き雨を乞ふ
耳寄せて芽木の鼓動をしかと聴く
香水の香を置き画廊去る女
ランバリー驚きやすき命群れ
初恋の想ひのたけを草笛に
あめんぼう水面に映る雲に乗り
ジュート洗ふ大アマゾンの水温む
色変り音かわりたる出水滝
花環置き心を置いて来し墓参
【栢野桂山】

◎明けましておめでとうございます。今年も皆さんの健吟を期待しております。本年も何卒よろしくお願いいたします。


短歌 (選者=梅崎嘉明)


リオ市民麻薬組織に悩まされ装甲車も出る掃討戦に
リオ郊外のビラ・クルゼイロの丘に建つ白き教会騒乱の中
ヘリコプターの低空飛行する街の上マコンニャ残党狩りの行為か
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

アカデミーに自転車こぎ行く喜寿傘寿雨はあがりて春日おだしく
訪日の友の帰りを待ちいしか培いおきし朝顔満開
盆の墓に酒井師親子の名を呼びて佇みおれば雨の降り来し
【スザノ福栄会 青柳ます】

天候の異変にとまどいいる吾に春告げくるる黄イペーの花
門前に何時も糞して通る犬手たたき追えども振りむきもせず
追跡をするがに馳せる車あり歩道に立ちいし吾が肝冷やす
【スザノ福栄会 原君子】

いまゆ後張りある日々を持ちたしとあたう限りを教室に通う
吾は常に聞き役が好き黙しつつ働く習慣身につきていて
二キロものエスカベッチ作りしとう友に何人家族と問いそびれたり
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

サンパウロは暑さ寒さのはげしくて十二月間近かに蝉の鳴き初む
雨降りて紫蘇いきいきと葉のしげり眺めておれば食欲そそる
【セントロ桜会 富樫苓子】

歳古れば淋しきものと思いつつ口には出さずひとりごちおり
フェリアードに孫の誘える昼食に仕度を終えて待てりひととき
【セントロ桜会 井本司都子】

日本での人の心の貧しさをしみじみ語る帰りし友は
シベリヤに拘留されいし兄帰る子供のように小さくなりて(旧稿)
【セントロ桜会 板谷幸子】

何気なく鏡を見るにいつのまに老いたる吾か溜息もらす
七年振りに寄こせる姪の便りありて逝きたる姉を再び想う
【セントロ桜会 上田幸音】
(評:この度はなかなかの佳作。)

時季はずれの海辺は人のまばらにてホテルの番頭は手持ち無沙汰に
高血圧にはプライヤがよしと海の家へ塩なし料理毎日食せり
【セントロ桜会 鳥越歌子】
(評:最初のは佳作。二首目の作品、高血圧は、プライヤが良いと出てこられたのだから、「塩なし料理」などははぶいて「海の家へ来て養生した」と言うだけで充分です。)

ジャバクワラ歌会に集う会員の車椅子あり杖の友あり
老人会会館の庭の地蔵様たずね来りてまずは手合わす
【セントロ桜会 大志田良子】
(評:ジャバクワラ歌会は九十歳を過ぎた方が三人もおられる。年齢を言わずに杖と車椅子でとらえたのがユニーク。二首目も情景と自分をよく活写している。)

父母逝きて三十余年故里を訪う事もなくこの国に眠る
移住して病に貧苦に五十年晩年の父母は豊かに住めり
父の吹きし尺八はじょうじょうと月の夜に流れて隣の人も聞きたり
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:第一首、「逝」の字が二回あったので一つを略しました。また作品全体から運命を汲みとれるので、ことさら「運命」の字を使う必要はありません。)

五週間を母と枕を並べ寝し至福の夜は心に残る
にっこりと笑う動作が愛しきと妹はおもむろに老母の髪なず
三十二歳で未亡人となりしが夫の遺言守りて母は再婚をせず
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:老母をたずねて五週間も共に寝たという母と子のつきぬ絆をよく客観して詠んでいる。)

良きことも悪しき行事も過ぎ去りし今年最後のカレンダー剥ぐ
楽しみは老壮の友に投稿する月に三首の短歌を詠むこと
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:掲載の二首はよく出来ていますが、保留の作品は意味が汲みとりかねました。次回によく推敲して送ってください。)

儲からぬ牛を飼いつつ一すじに励みて今日の生活(くらし)ささえし
農薬のあれど使わず作りたる野菜はバンカですぐに売れ切る
ハルとナツの映画に過ぎし日の苦労重ねつつ涙の頬を伝えり
【ツッパン 上村秀雄】
(評:九十歳になられたとか。文芸はスポーツと違い、一生創れるので頑張って下さい。)

婿殿の還暦祝いてよき日なり遠くパラナより母の来ませり
集まりし人多くして遠く来し母とゆっくり話もできず
【サントアマーロあおぞら会 竹内千賀子】

だんだんと歩行あやしき身となりてリハビリ通いは婿が一緒に
九時予定の患者はこれで五人目なり医師はなかなか病院に来ず
朝早く雨のあがるを待つ小鳥ピーチクパーチクさえずりいたり
【ピエダーデ 中易照子】
(評:身体の不自由のようですが、詩歌は病人でも詠めるので頑張って下さい。)

東京の友と不忍の池めぐり波動だにたてぬ鯉の群見つ
人の世の盛衰をよろず代見たまえる大仏の目は慈悲にうるめり
買いて来しパソコンに座し老耄の活性化願い右往左往す
文芸に忙殺されて経し一年バカな野郎と己さげすむ
【梅崎嘉明】

◎常連トップの青柳房治氏の作品は先月の分と同じだったので割愛しました。年末は気忙しいせいか、投稿者が少し少なかったのですが、皆さん新しい年を迎えて心機一転、今年は更に頑張って下さい。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


新春を寿ぎ一歩踏みしめる
たじろがぬ所へぴたり己が道
衆目を集め演技に燃える花
国政の始動国民夢を賭け
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:ブラジル初の女性大統領に賭ける国民の期待は大きい。)

数撃てる鉄砲玉も底をつき
飢餓撲滅うたい文句で票稼ぎ
七光り消えて普通の人となり
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:七光り故に思わぬ災いを招いて、普通の人にもなれない政治家もある。)

超肥満臆せずビキニ闊歩する
気の持ちよう日々好日の有難さ
明暗がきわ立ち見える歳の暮
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:過ぎ来し一年の事柄を振り返る作者の真摯な姿が見えてくる。句姿とともに、よく整った秀吟である。)

嫌なこと捨てて生きようもう余生
もう師走光陰矢に乗り突っ走る
料理下手はりきる手料理忘年会
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:忘年会ともなれば、手料理に心を込める作者の心意気が微笑ましい。)

十二月夫一人はマイペース
プレゼントに頭悩ます年度末
酒抜きの忘年会が増えてくる
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:アルコール入り運転が厳しくなってからは、会食も酒抜きにすることが多い。)

古都眠る古都を囲む山川も
哀愁が心にしみる盆の風
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:二句目、若干言葉を入れ替えました。)

歳を経て忘れたいこと増えてくる
咳ひどく腹筋運動するがごと
止まぬ咳周囲の人等遠ざかる
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:周囲の人達に気遣いながら咳を押さえることの苦しさは、経験した人でなければ分からない。)

難聴に筆談通訳欠かせない
読書三昧ひと日過ごせる老いの幸
生存中の無沙汰を詫びる通夜の席
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:悔いても詮ないことだと知っていても、心の中で詫びる哀しさが伝わってくる。)

一大事自動ドアからクマ侵入
おヘソまでピアスつけて人目引き
半世紀経って目覚めてポ語習う
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:人生は生涯学習です。頑張って下さい。)

お早ようの笑顔でひと日爽やかに
雨上がりフェーラ一気に活気づき
【アルジャー親和会 近行博】
(評:少し言葉を入れ替えました。参考になさって下さい。)

老いの年重ねる毎に軽くなり
ナタールの余韻残して賀正かな
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:この国ではナタールが主で、ナタールの後のお正月はあまり盛り上がりがない。)

他人(ひと)事と思った我れも敬老者
満身の汗の結晶移民栄ゆ
【レジストロ春秋会 大岩和男】
(評:若干添削。参考になさって下さい。)

立ち話根がつきそうでポチが引く
影法師ぴたり付きそう野良仕事
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:影法師と野良仕事のタイアップが佳い。)

◎席題「用意」 交告余碌出題

片付けも用意も下手で六十年【鈴木ふみ】
事故に遭(あ)い用意もなしにあの世行き【中西笑】
一番に心の用意してかかる【交告余碌】
死の用意終えて死神迎え待つ【坂口清子】
さあ出番用意はいいかと呼び出され【中山実】
旅に出る前の用意でひと日暮れ【山田富子】





「静かな日々」

一片の雲もなき 今朝の空
 数多のつばめが飛び交う
その遥か向こうを小型機が行く
 コーヒーカップを手にひとり
このひと時の静寂を楽しむ
 風もなく静か 唯々静か

草をけずっている時
 ふと気づくと
  袖に虫がはっている
手にとって見ると
 尺取虫の子供だ
  小さな体で尺を取りながら
一生懸命に歩いている
 鳥に見つからないように
  大きくなるんだよ、と
木の葉の陰にそっと置いてあげる
 この小さな命に 幸あれ
【ナザレー老壮会 波多野敬子】


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