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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年2月号

2011年2月号 (2011/02/05) 俳句 (選者=栢野桂山)


辺境へ赴任農大卒業子
口許に見覚えありしサングラス
丸太小屋にオブヂエのごと籐寝椅子
はやぶさ号地球に帰還す去年今年
【香山和栄】
(評:宇宙探査機「はやぶさ号」が、小惑星から微粒子を持参して帰還したニュースに、日本全国が湧き上がった去年から、早や今年になったと感慨深く思う作者。)

畑帰り冷えたビールに活き返る
孫曾孫今日はにぎわう子供の日
虹の橋渡れば向うは極楽か
野火遠く狐火の如チロチロと
【矢野恵美子】
(評:昔は原始林を伐採して焼く野火煙で曇り日が続いた。だが同じ野火でも遥か遠くになると、紫の狐火のようにチロチロと見えた。)

春の服縞を合せて縫ひ上げし
ものの芽や歩行器自由自在の児
病む夫に野焼煙りの窓閉じて
【佐藤孝子】
(評:昔の想い出の句。方々で伐り倒した原野を焼く煙曇りの日が続いた。病気のため伏せて居る夫は、窓より吹き入る煙りにむせるので窓を閉す哀しい日が続いた。)

日焼けして苦味走った佳い男
畑始新たな野良着に見す闘志
日焼の娘気をもむ母や明日見合い
【野村康】
(評:昔は暑い日中にコーヒー園で仕事を続けて来たので、娘等はインジアのように日焼けしたまま。明日はお見合いだと言うのに、着替えもせずに平然としているので、それを気にしている母親。)

読初は韃靼疾風録上の巻
シャンパンのグラス打ち合い年を祝ぐ
女性首相の男歩きやお元日
【寺尾芳子】
(評:この国の元首に女性が誕生し、男勝りの体躯で堂々と男性のように闊歩するのを、新年のテレビで観て感じ入ったのであろう。)

二千三百の流燈手つなぎ相寄りて
流燈会亡き父母恋し亡夫なお
イペー画きしインジオの巣焼壷ぞこれ
【木村都由子】
(評:アマゾン河の河口にあるイーリア・デ・マラジョーという島の土民の素焼の壷は有名で、これにはこの国の象徴であるイペーの花が描いてあった。)

残り飯たべよと川のランバリーに
折り紙の小さき聖樹も納めけり
鳩の巣や猫が気にせる梁の上
腹の虫なだめる一本バナナ食ぶ
【畠山てるえ】
(評:年末の子供の絵本などに、折り紙の小さな聖樹が附録として附いてくることがあり、それをなつかしく想い出しつつ、年末に浄火で焼くために納めることにした。)

邪魔になる豚押しのけてマンガもぐ
月おぼろ君の心もおぼろにて
丘に立ち聴くまぼろしの茶摘唄
【風間慧一郎】
(評:昔よく唄ったり聴いたりした茶摘唄であるが、その茶畑も茶摘唄も今はまぼろしとなってしまったと、茶畑を持っていた作者が昔を偲んだ句。)

雨を呼ぶ雲わき出でて夏の空
久に会ふ孫日焼してたくましく
大夕立後の街路の清々し
うららかや半袖姿の若者等
【遠藤皖子】

異常天候春雨降らせ雹降らせ
春風に転がされ行くポリ袋
春日射す庭に盆栽三つ四つ
【大岩和男】

風薫る友の傘寿を祝う春
子供等に手を取られつつ墓参かな
福博に帰省若草香る道
【杉本鶴代】

ジャカランダ紫色の花吹雪
アルゼンチン公園美くし花の街
ブエノスアイレス南の楽園秋の旅
【彭鄭美智】

三色の緋鯉悠々ひれ出して
シュシュの花頭に挿し遊ぶ村の娘等
愛らしき夾竹桃や今日の供花
【青柳房治】

窓越しに紫イペー今見ごろ
われ難聴今日の初蝉聞けず居り
イッペ咲き人なぐさめる大自然
【藤井梢】

じっとりと汗ばむ肌にシャワー浴び
【矢島みどり】

出水禍のニュースに明けて去年今年
彩変り雨に咲き次ぐ濃紫陽花
黄金の苞割り開らく椰子の花
【本広為子】

生ビール暑気を一気に吹き飛ばし
【秋元青峯】

学修め長男農継ぎ畑始
愛車にも無事故祈りて鏡餅
夕虹をたしかめ明日の旅用意
【原口貴美子】

白銀の雪のスイスは静もりて
アルプスの板壁の家秋の風
鬼気せまる氷河を見つめ息をのむ
【井出香哉】

己が住居かついで一生蝸牛
ブラジルの国花黄イペー凛と咲く
レジストロ百年祭に父母偲ぶ
【疋田みよし】

孫子等の笑顔十人新年会
八十の夫との春のリフトかな
七草や芋と南瓜で腹満す
【青柳ます】

道しるべ半ば朽ち果て草いきれ
食卓のバター溶けそな暑きこと
土に生き父の勲章日焼け顔
夕立のあとの静けさ子ヤギ鳴く
【森川玲子】

初空やかわることなく夢を追う
夫婦してもたれ支えしビールつぐ
言ひたきを泡に消されて生ビール
土匂ふ大地のひびき畑を打つ
【吉崎貞子】

元旦に朝虹出でし夢がわく
初日の出人生楽しくいきましょう
哀愁が心にささる夕立風
【山田富子】

納屋すみに黴の鶏舎靴野良草履
作り泣きして春眠の覚めし乳子
丸く掃く男の箒日短か
寝冷へして鳴る腹恥らふ幼な妻
生き甲斐をこの地に賭けて新農年
サビア来て初音のさまに梅の花
昼の夢見んと夾竹桃の蝶
蟇の糞ころげてコロノ夜逃あと
ランペオン育ちし村のペオン祭
彩を撒きそよ風生んで七変化
お東もお西も鐘つく独立祭
浜のビル夏雲と肩競ふかに
ダイヤ婚迎へて夫婦初ミサへ
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


新春の朝の空気を胸いっぱい吸いて大空の雲見上げおり
つつがなく迎えし二千十一年兎の年を無事にと祈る
【セントロ桜会 井本司都子】

豪華なるパウリスタ通りの装飾は貧しき人など無きがごとくに
晴天に恵まれナタールは朝早く木々に鳴きつぐ蝉の声聞く
【セントロ桜会 富樫苓子】

また一人親友逝けりはかなくも病にかてぬ人の命は
かくかくに生きし一年つつがなく来る年願いて仏前に経上ぐ
【セントロ桜会 鳥越歌子】

街路樹にまじりて咲ける夾竹桃ふと思い出す吉屋の小説
早朝の広場に集う鳩の群ラジオ体操の音楽聴くがに
【セントロ桜会 大志田良子】

スムースにコントロールが出来なくて新しきテレビに戸惑える日々
故郷より届けてくれし天草を煮れば遠き日甦りくる
【セントロ桜会 板谷幸子】

新春を寿ぐ息子の祝杯に家族そろいておめでとうと言う
予期せざる長寿祝わるる吾なればあわてよろしくと頭をさげる
【セントロ桜会 上田幸音】

ブラジルの土になるのは当然のこの安けさに傘寿超えたり
正月の朝を寄り来る小鳥らに正餐のごと置ける果物
百歳を「目指せ目指そう」友よりの便りを読みてその気になりぬ
【スザノ福栄会 青柳房治】

兎ほど跳ねる元気はなけれども三度の食事は変らず美味(うま)し
最新のマッサージ器の使用より族うからの手もみに勝るものなし
隣家に続く道辺の彼岸花訪日記念に娘と写す
【スザノ福栄会 原君子】

友のいて家族のありて言うことなし百歳目指して余生歩まん
移り来て先祖と共に五十二年今年も無事にと両手を合わす
友に謝し家族に謝しつつ年を越す庭を彩るサルスベリの花
【スザノ福栄会 青柳ます】

パウリスタ街路を跨ぐ大門に聖夜の装飾人目をうばう
子供らは大学受験の年にしてクリスマスツリーも忘れて励む
子供らとクリスマス飾りを見てまわる師走の一日の楽しみとして
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

二千余の灯籠流しはリベイラの盆踊り太鼓の音に始まる
街路樹の百日紅も散りはてて町は濃緑りに初夏を彩どる
レジストロ産の餅米と茶を買いて帰りのバス停にいそいそ歩く
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

この年も恙なかれとひむがしの初日に向きて双掌を合わす
一族は五十名となり新年を祝すと集う老いも若きも
二日目はお降りとなりて餅腹をさすりつつ早くも寝正月す
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:詩的リズムを持たせるために字句を少し置きかえてみました。参考までに。)

移り来て丸木小屋建て井戸を掘り荒山開きてトマト蒔きたり
若き日のトマテイロも八十歳やっと年金暮しとなりぬ
老夫婦そろいて新年迎えたり年金供えて柏手を打つ
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:老夫婦がそろって新年を迎えることは喜ばしいこと。この度のは、よくまとまっていました。)

ようやくに我等が買い得し原始林伐採なして植民地造成
家一歩出ずれば危険な巷にて八方気配りて車道横切る
いつの日に変らぬ日の出も新年と思えば神々しく頭をたるる
【ツッパン 上村秀雄】
(評:第一首は開墾時代。第二首は現在の心境のようだが、その間には永年の喜怒哀楽があったはず。それを徐々に掘りおこされるように。)

この朝をコップ・デ・レイテが黄に見えて不思議なり吾が目うたがう
永く病むことなく母は旅立ちぬもう少しわれと共にいたきを
ごろごろと雑音のみが耳に鳴り電話は通じず五日目となる
【ピエダーデ 中易照子】
(評:短歌は何行にも書かないで、一行に一首、続けて丁寧に書くように心がけましょう。この度の作品はリズムをよくするために少し添削しました。参考までに。)

転倒して寝たり起きたりの身となりて何もなし得ず日々は過ぎゆく
身体にはふれず脈をもとらずしてホームの医者は容態聞くのみ
気晴らしに少し手伝いし野菜切り猫の手よりもましだと言わるる
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:自分の日常をすなおに詠みこんであるので共感をよびます。この調子で詠みつづけられるように。)

八年の月日は過ぎし隣家のザクロ樹は塀を越えて伸びくる
朝の日に照りてざくろの緑葉は水のしたたる如くさゆらぐ
芝居では千両役者の上村氏詠める短歌も魅力あうるる
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:二首目の作品、原作は「光々と」「輝く」「照らされ」と同じ言葉が重なっていましたので、「朝の日に照る」と簡略しました。短い詩なので同じ言葉を重ねると短歌が冗漫となります。)

老病のわれの憩ひは常緑の松槙椿さざんくわの庭
山茶花の波なす青葉繋ぎたる移植のあとの雨をよろこぶ
花も実もなく連らなりておのずから青垣をなす槙と椿は
年々に伸びゆく松は窓に寄り空を見上ぐる針の緑葉
【日本 江畑耕作】
(短歌新聞〔六七〇号〕より。写実短歌として一家をなしている歌人。その緻密な情景描写を学ばれたい。皆さんから沢山の年賀状、ありがとうございました。今年も昨年に倍して作歌にはげみましょう。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


正月は孫の笑顔のプレゼント
エンジンもかからぬうちに句会来る
兎年わたしは亀のマイペース
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:「急がば回れ」と言います。先を見極めながらマイペースで行くのが無難です。)

プレゼントに犬まで貰うクリスマス
又一年生き延び正月祝う幸
豪雨禍が自然の怒りを見せつける
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:地球温暖化による災害は、年毎に深刻になっていくようです。)

ロータリークラブが建てる愛の塔
東洋祭りつきたて餅で雑煮出し
リベルダーデ街朝の水洗気持ちよし
【セントロ桜会 中山実】
(評:水洗された朝の街路には、いつもと違った空気を感じるものです。)

趣味に生き六十年をひとまたぎ
先見の明あり花咲く日の努力
雨嵐太陽拝む日の感謝
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:降り続いた雨あとに見る太陽のありがたさは又、格別です。)

年の暮他人(ひと)につられて買い過ぎる
元旦の計も立てない老年期
ごぶさたを詫びてばかりの年賀状
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:日頃のご無沙汰を詫びる役目も、年賀状はしてくれます。)

わたしにはやはり欠かせぬ日本飯
山脈の神秘に人は神を見る
金色の穂から生まれる白い精
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:この白い精は人科には欠かせない穀物の一つです。一句目、米と日本飯が重複していたので添削しました。)

貫禄は腹と腰だけ足萎える
口だけは達者と云われ八十路入り
今年こそ誓う後からくずれ去る
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:誓いを新たに繰り返しながら、又一年が過ぎました。)

ウォーキング長い足に追い越され
年金に文句言いつつアメを買う
仕分けして山程も出る不要品
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:もったいないと思いながら仕舞い込んだ不要品の多いことを、気付かせてくれたひと時でした。)

移民してよかった戦禍に遇わず済み
退屈と言える隠居の老いの幸
夫婦して築いた家系三代目
【アルジャー親和会 近行博】
(評:色々と苦労の甲斐がありましたね。益々のご繁栄を――。)

川柳で頭の老化を活性化
老いの道仲間と行けば花も咲く
老いの身と悟って行けば安堵坂
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:「老いては子に従え」と言います。マイペースで余生を気楽にお過ごし下さい。)

都会とは異なる人情ある田舎
忍耐の中で育った子の強さ
八十路越えはじめて知った世のならい
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:「八十路越えほんとの浮世知らされる」と云う川柳を思い出しました。)

政治家のこだわり先ずはカネ名誉
名誉欲ばかりで候補者何もせず
春の句座空席だけが増えてくる
【レジストロ春秋会 大岩和男】
(評:高齢化による空席が、川柳会にも目立って来ました。)

お茶漬けが何より旨い旅がえり
又逢える予感返事はすぐに出す
血の濃さがいざと云う時ものを言う
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:血の絆の深さが切実に表現されました。)





「風に寄せて」

窓を打つ風の音
何処から来て何処へ行くのか
遠い昔 夢を捨て
ブラジルに移住して 結婚し
母となり 子を亡くし 寡婦となり
今も同じ風の音を聞く
風は何を思って吹くのか
風に悲しみが分かるのか
風に人の心が分かれば
一緒に持って行って欲しい
この深い悲しみを
胸ふさぎ頬を伝う涙を
天空に子を呼ぶ母の声を
今夜も風が吹く
窓をならして風が吹きすぎる
【サンパウロ鶴亀会 井出香哉】


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