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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年5月号

2011年5月号 (2011/05/13) 俳句 (選者=栢野桂山)


飛機の窓南十字の星追うて
アマゾンの大夕焼見る旅ごころ
婿どのは二人揃って茄子嫌ひ
河の底まで赤く染め秋夕焼
【木村都由子】
(評:秋夕焼が照りつけて、河底の岩石の間を泳いでいる魚影まであかあかと染めている。アマゾンの大河の雄大な写生句。)

馬で来し行脚の師乗せ花野バス
雨季明けやパン竈焚くも久しぶり
雨季上る竿たわむほどシャルケ干し
インジオの祖が付けし名の薬掘る
【佐藤孝子】
(評:インジオが永らく棲みつくアマゾン辺りの密林の中に楚々と生える、彼等だけ知る薬草であろう。)

虚子祀る俳人ここに俳句の日
津波後復興目指す国の秋
百二歳の母の健啖南瓜飯
【彭鄭美智】
(評:作者の老母は実際に百と二歳とか、そしてお元気で何でも頂くが贅沢はせず、特に南瓜飯がお好きとか――。)

小人椰子地面すれすれ実をつけて
リオ・ケンテ湯滝を浴びて安らぐ娘
早朝の湯滝に打たれ夢心地
【矢島みどり】
(評:湯には色々あるが、これは湯の泉から流れ出るのが渦となり、それに心地良く身をまかせた。)

店ごとにオーボの洪水パスコア来
コスモスの黄に白蝶のたわむれて
被災者へ祈りを込めて千羽鶴
【疋田みよし】
(評:折り鶴を糸に吊り、悲願を成就させると信じ、祖国の今の大洪水その他の被災者に、それに心を込めて贈った――。)

夜濯ぎ女あしたの野良着干す月夜
山道に小滝現れひと休み
夜更待ちごきぶり覗く戸の隙間
【森川玲子】
(評:人類が亡びても生き残るというごきぶり。それが戸の隙間から人の生きざまを覗く。)

習慣となりて夜濯ぐ妻老ひて
うたがいを知らぬ人好し狐百合
昨日今日白紙そのまま日記果つ
【吉崎貞子】
(評:年末の二三日、白紙のままに日記帳が置かれている。これは主が病気か、さもなくば、日記など書く暇もなかったか。)

ブラジルの栗飯供う仏生会
いずこでの寺も色黒甘茶仏
【寺尾芳子】
(評:お茶に甘味を付けたのを、四月八日の灌仏会のお釈迦さまの像にそそいで、家内安全など祈願する。)

箒から逃げる病葉風の朝
移民妻ミシン踏む夜々虫に更け
椰子の葉を見上げ親しむ星月夜
蜘蛛の囲の露ちりばめしお茶摘んで
【野村康】
(評:くもが虫などを捕るのに出す糸で網を作るが、それが露に濡れている。摘み残りの秋芽の少し硬くなったお茶である。)

街路樹の落花娘に降るアレルイア
富有柿孫娘のさまや豊満に
移住地に捨てて来し夢秋の暮
【青柳房治】
(評:移住して来た自分等が育った村が、夢にまで見た繁栄とは違ったことに、気を落した移民を詠む。)

松手入農大出とや造園師
天高し飛機雲温暖招くとや
受難節芸人と移民野外劇
【清水もと子】
(評:カトリコでは聖像、聖画を布で覆い、キリストの苦難に悲しみの日を送るが、その日、役者に扮して野外劇に出たのは移住した劇人――。)

日本今地震津波や春寒し
秋耕や望みはいかに津波跡
焼香や身元不明の慰霊祭
【青柳ます】
(評:今の度の祖国の大津波その他の被災を受けた中に、身元不明者が多かったが、その身元が不明のまま慰霊祭を催した。)

難聴の老妨げて雷雨急
太陽のぬくもり残る秋時雨
廃校となりし母校に椰子茂る
【小野浮雲生】

すき焼きに話はずんで秋夜更け
どしゃ降りや土に染みずに秋の道
【三上治子】

空霞み一羽の小鳥さまよふて
コスモスの花を数へてトンボ舞ふ
【玉置四十華】

呆けまじと作句に励む冬日中
仰臥して見上ぐ青空冬晴れて
急坂にへばりつくよな冬の草
【大岩和男】

道端に赤く輝やく柿を売る
娘と孫と宿題明るき秋灯下
【杉本鶴代】

野コスモス風にゆだねて強く咲く
うららかや日本文化のひな祭 
パスコアの何のいわれぞ色たまご
【藤井梢】

花市の桔梗の花に母しのぶ
正午つげる寺院の鐘や秋立つ日
【星井文子】

はやぶさ号帰還に湧きぬ去年今年
吊床に唄ふ五木の子守唄
【香山和栄】

半身半疑なれど生きたし薬掘る
降る木の実踏んで柩に従いてゆく
秋夕焼見舞もむなし空を見る
【猪野ミツエ】

頬染めて香に酔ふばかり菊畑
ごきぶりと鼠退治をしつつ住む
【纐纈喜月】

百姓家に上がる炊煙百千鳥
パイネイラ退院祝ふ花明り
【小林エリーザ】

間引菜を今日はとなりへおすそわけ
渡り鳥今日はいづこが寝ぐらやら
【荒田田鶴子】

秋雨の中客を待つ屋台店
犬連れて散歩する人秋日傘
【井出香哉】

越へて来し移民山河風光る
一粒も粗末に出来ぬ今年米
【山田富子】

呆け除防との作句とや夜長宿
海光に疲れてブイの秋かもめ
砂丘行く神話の如き秋夕焼
狐めく痩犬つれてサンバ踏む
巨船着く海ふくうみへ水舟浮く
風が好き陽が好き庭の重椿
着ぶくれてカマラダ使ひ上手な娘
子の嫁になる娘と作る新豆腐
菜の花の季節リベイラ富士晴れて
シグナルを六つ超へ逢ひに夕月夜
夫婦して廻し煙草や南瓜蒔く
揺れ合ふて風の袋巣合樸たず
土民漕ぐカヌーに覚めず浮寝鳥
大正昭和平成と生き移民の日
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


日本の中央に位置せる名古屋城五条川沿いに桜満開
ブラジルで年金暮らしの吾にして夢のようなる日本旅行
「歩きなさい」と医師に言われてどの道を行こうか朝餉を終えて戸惑う
【スザノ福栄会 青柳房治】

大鳥居建て替えられしと日本より愛宕神社の写真がとどく
窓明けて暑さしのげど蚊のおらず三階の部屋に風入れて寝る
カルナバルゆっくり休めと言うごとく静かな雨が瓦を濡らす
【スザノ福栄会 青柳ます】

暗きニュース多きがなかに日本の科学者二人がノーベル賞受く
クワレズマ咲きつらなりて湖の面に夢を浮かべる如き影あり
カルナバルに浮かれ果てたる水曜日大工場に煙りあがらず
【スザノ福栄会 原君子】

向上心常持つひとの言行を見習いていま在るを諾う
わくら葉を媼が掃くを見つつ過ぐ吾のシチオの銀杏も散りいむ
持つ人によりてことなる物の価値読みて老いたる心なぐさむ
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

久しぶり帰り来しスザノのパイネーラ今を盛りと咲きて季告ぐ
わが村のダリア祭りに思いがけぬ人に出逢いて嬉しく話す
ダリア祭を手伝う人の多くして焼そば作りに汗流しおり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

わが母は器用な人で編み針を竹をけずりて作りくれし
文明の利器の一つの携帯を息子はくれしがまだ慣れずいる
【セントロ桜会 上岡寿美子】

気負うなき老いの体は亀の子の如くに首を延ばして起きる
目覚むれば秋風そよぐ午前五時起きるに早しまた床に入る
【セントロ桜会 上田幸音】

梅崎さん八十八歳パラベンス人望のあり満席の祝宴
忘れ得ぬサリン事件を思い出す吾の訪日の翌日の朝
【セントロ桜会 大志田良子】

朝の窓束の空は茜雲西のビルをも真っ赤に染める
夏時間ようやく終わりほっとするなぜか嫌いなこの季節感
【セントロ桜会 板谷幸子】

曇り日の続けば気温もさがりきて老いの臥床は寒々とせり
松葉ボタン時をたがえずぱっと咲き暑き陽を受け庭を彩どる
【セントロ桜会 鳥越歌子】

あらわれし白き腹せし黒き猫すまし顔して家に居すわる
朝夕を群なし飛べる雁なれど冬期となれば姿の見えず
【セントロ桜会 富樫苓子】

カーニバルの終わり気候も変わりゆく窓吹く風もいつかやさしく
曾孫がピアノ叩けば音鳴りてせいいっぱいの嬉しい笑顔
【セントロ桜会 井本司都子】

仕事場はすべて津波にさらわれて立て直しきかぬと場長の涙
めどたたぬ町を見捨てて県外へ移る家族の悲しげな顔
老人に農業の仕事を教えられ町の人々の苦労はつづく
【サントス伯寿会 三上治子】

九十一歳の父を祝うと子供等はリオ・ケンテの旅をもくろむ
豊富なる水量の滝湯を身に受けて心ゆくまで肩打たせたり
災害の少なき国に生を受けこの幸福を父母に感謝す
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:二首目「豊富な落差」はしっくりしないので「豊富な水量」としてみました。他はよくできています。)

祖国では巨大地震に大津波原発事故と相次ぐ惨事
国民の日本魂と能力と祖国はきっとよみがえるべし
被災せし祖国の同胞に黙祷する学童町民はカンポに集いて
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:自分の感情をオーバにならないでよく整理されています。)

くれないの色鮮やかに庭に咲く名の知らぬ花を朝夕眺む
眠りいし鉢の蘭は今日ひらき門出の花嫁送りてくるる
散水を終えてたたずむ目の前の庭の草花に水滴光る
【ツッパン 上村秀雄】
(評:二首目の作品、心象風景かと思ったが、はっきりしないので具体的にまとめてみた、一首目の「庭飾る」三首目の「水滴の宝石」といような言葉は今の所あまり使わないで具体的にまとめるように工夫しましょう。)

この春に蒔きし朝顔アーチ形に伸びて紫の花数多咲く
裏庭の草刈りしあとに雀きてピヨンピヨンと虫あさりおり
【ツッパン 堤博志】
(評:第一首の原作は「雨つづきアーチの朝顔こぼれ種また発芽して花咲きおりて」となっていましたが、短い詩ですからこのように「こぼれ種」「発芽して」「花咲きおりて」などと沢山の思いをもりこむと、作者の言わんとする中心は何なのかと読者は感動する前に疑問が生じます。それに比して第二首は雀を中心に前後の情景をよくとらえているので佳作となっています。このことはこの作者ばかりでなく、他の方々も参考にされるといい。)

「友を訪ねて」
カステーロブランコ街道秋たけて野面吹く風肌に冷たし
友訪うと出で来し郊外ポッカリと白雲流るるいづこともなく
卒寿なる藤田あや子は元気にてうからと共にパラベンス唄う
ボイツーバの友訪ね来てグライダーの遊泳見たり秋空のもと
米粒の如く見えたるグライダー見る見る広がる花散らすごと
乗るアホに見るアホもいて秋空のもとに賑わう老若男女
【梅崎嘉明】

◎ 追悼、もと選者の渡辺光氏、四月二十三日逝去八十一歳 合掌。


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


長生きもよし悪し夢が細りゆく
年金幽霊百三十才で生きている
津波孤児死にかかったと又涙
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:津波による被災児の遣り場のない悲しみ。中句に思わず胸がつまりました。)

コロニアの善意頼もし義援金
原発の一難去って又一難
原発の事故に泣かされ惑わされ
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:原発の事故による災害防止の目処が立たないまま。被災者の不安はつのるばかりです。)

いく(一)にげる(二)さる(三)で今年ももう四月
怒るより笑顔でいよう福が来る
祖国へと愛の灯しび募る寄付
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:老ク連でも義援金募金活動が行われています。被災者の救援と被災地復旧のために協力しましょう。)

文協選金太郎クマさんハッケヨイヨイ
天井修理老連サロンすがすがし
震災でバラマキ政争ひと休み
【サンパウロ中央老壮会 しんかわ】
(評:与野党一丸となって、被災地の復旧、復興への抜本的な改革に迫られています。)

今月はやせられるかもと義援寄付
大災害世直しせよとのお告げかも
認知症なってしまえば大平楽
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:「なってしまうまで」に難題が含まれています。)

温暖化咄嗟に変る季節音
騙されて騙すよりわと諦める
弁舌のたけて詐欺師の目が笑う
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:思い通りに弁舌に乗せた満足度が巧く表現されました。)

駈け落ちの夫婦と世間は知っており
難聴が病後益々つのりくる
少子化は我が眷族にも現われる
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:少子化現象はこの国でも始まっています。)

陶芸に手練が見せる壷の艶
ゆとりある返事妥協見えてくる
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:上五の表現が利いています。)

蘭祭り黒い花のあるを知る
押し寄せる巨大津波に息をのむ
【セントロ桜会 中山実】
(評:言葉を入れ替えて分かり易くしました。参考になさって下さい。)

大津波家を根こそぎ奪い去り
避難民恐怖と飢えに気力失せ
救援も続く余震でままならず
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:地震、津波による被災状況。よくまとまっています。)

ゲートボールあって退屈知らず過ぎ
茨道無事に貫通ダイア婚
戦争はどちらが勝っても人殺し
【アルジャー親和会 近行博】
(評:若干添削しました。参考になさって下さい。)

◎席題「坂」 余碌出題
ひと休み酸素を吸って登る坂【余碌】
八十路坂登りつめて卒寿入り【余碌】
坂道を杖を頼りに帰途に着く【富子】
急がずにゆっくり登る八十路坂【富子】
上り坂先の見えないことばかり【玲子】
七十路越えやがて後期高齢者【玲子】
坂道を余所目に老いの廻り道【実】
坂道を休み休みで登り切る【実】
坂道をのぼってさわやか汗をふく【清子】
上りあり下りもあって人生路【清子】
人生の重荷おろして老いの坂【ふみ】
坂道も気の持ちようで軽くなる【ふみ】
我が人生やっと止まった下り坂【しんかわ】
一つ坂越えれば次の坂があり【しんかわ】
坂の市山脈開いたサンパウロ【笑】
極楽を目ざして登る八十路坂【笑】





「ふき」

手をあくでくろぐろとそめながら
 ふきの皮をむく
明日は老人会
 ブラジルには四季がない故
手入れさえすれば
 いつでも食べられる
二ヶ月か三ヶ月ぶりに
 ふきを煮ては持って行く
日本の味 老人には
 故郷を思いながら
食べられる 幸ではなかろうか
 枝豆も調度食べごろ
これもまた珍しいかも
 老人会の前日 たのしみながら
けっこうせわしい
【ナザレ老壮会 波多野敬子】


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