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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年7月号

2011年7月号 (2011/07/17) 俳句 (選者=栢野桂山)


金の靴かかとはづれるカンナバル
まばたきを一つする間の流れ星
バスを待つ手をポケットに朝寒し
姫の首少し傾く菊人形
【森川玲子】
(評:人形作りが上手で、家の棚に飾ってある人形。その首が少し傾いて居るが、その表情が美しくて可愛い――。)

富有柿孫娘のように豊満に
秋晴れを一ト日存分運動会
年金暮らしに夢のようなる旅の秋
移住地に捨てて来し夢秋の暮
【青柳房治】
(評:移住して来て自分等を育ててくれた移住地が、夢にまで見た繁栄とはちがっていたことに気を落した移民を詠む。)

一輪を活けても見たし花キアボ
焼香や身元不明の慰霊祭
秋耕の望みはいかに津波跡
【青柳ます】
(評:夜々NHKで見る祖国の大津波の跡のあの悲惨なありさまに、遠方の平和な国に暮す者にとっては特に痛ましく思われる。)

秋涼し聖像の灯も町の灯も
わだかまり歩けば解けて秋の風
栗むいで賞罰のなき人生を
【山田富子】
(評:別に賞を得たことも罰を受けたことも無く、平和に人生を歩んだ人を詠む。)

うららかや日本文化のひな祭
あでやかな五人ばやしや内裏びな
卒寿すぎ母国恋しと桃の花
【藤井梢】
(評:卒寿というから、数え九十歳のこと。その歳でもなつかしいと見る桃の花。)

移民祭百三年や夢のごと
それぞれの道行く母の日の孫等
三代目健在母の日祝はれて
【矢島みどり】
(評:一代目はすでに亡くなったが、二代目の母とまだ嫁に来て間もない若い三代目と揃って、幸せな一家がにぎやかに祝はれて居る様子が目出度い――。)

リベイラの流れに添ふて梅雨の旅
鉢植の椿五年目花豪華
爺と婆互ひに笑い着ぶくれて
【伊藤桂花】
(評:着ぶくれした爺さまと婆さま。それを笑ひ合ふ仲の良い二人を詠む。)

退屈を知らぬ暮らしや菜を間引く
歩き来て駅に一息紅イペー
釣り上げしドラード札と並べ撮る
【畠山てるえ】
(評:釣り上げた大きなドラードを自慢気に、今年出た新札と並べて写真を撮る。退屈を知らぬ人を詠む。)

温顔の永遠の旅路の四温晴
追悼歌に涙溢るる移民祭
片言のポ語も通じて日なたぼこ
うらうらと桜活けられ句座楽し
【香山和栄】

引越しの荷造り出来て根深汁
幸せに生きる人寄る日向ぼこ
澄みわたる空の蒼さや秋立ちぬ
街並木憩ふ一刻残暑かな
【玉井寿美子】

早乙女に似し山茶花の咲き始めし
病みほけて庭にただよう冬の蝶
兄弟の集いて楽し母の日や
【杉本鶴代】

老夫婦仲むつまじきチャンチャンコ
もらい風呂長話して湯ざめせし
待ち針を数え仕上げたチャンチャンコ
【多川富貴子】

誕生日知って咲きくるる蟹仙人掌
花の木と枯木並ぶや亜熱帯
笑い栗句座に持ち込み大笑い
【野村康】

望郷の話しさておき栗飯炊く
寂しさを誘う一時菊枕
晩秋や足裏冷たし重ね穿く
【吉崎貞子】

半信半疑なれど友生き薬掘る
降る木の実踏んで柩に従いて行く
秋夕焼見舞えば窓の空を見て
【猪野ミツエ】

幼な児の眠る淡き香枕
丹精の庭にはなやぐ菊十色
終航の汽笛淋しき秋時雨
【原口貴美子】

菊と蘭咲かす趣味ある老者達
日本種のかおり強き菊の花
香の強き日本種の菊大事
【纐纈喜月】

走馬灯の如過す過去老の秋
新移民家族揃ふてポ語夜学
【遠藤皖子】

菊好きの妻逝き偲び佛前へ
栗拾いあの頃祖母も足達者
京舞妓舞うが如くに菊人形
【秋元青峯】

茶の里の荒るるがままに山眠る
八十年の月日夢とも天の川
山々の重なり谷間霧深し
【疋田みよし】

母の待つ家路を急ぐ夜学の子
白菊に埋もれし友に別れ告げ
秋めくや身辺整理に余念なく
【矢野恵美子】

冬晴の庭に椅子出し辞書めぐる
逝く友を送る夕方秋寒し
芝生踏むのを日課とす老いたる身
【小野浮雲生】

眠り深く疲れし母の日の妻よ
ウルブ舞ふ世の片隅に生きる孤児
看病の髪をきりりとマリア月
口重き夫との暮し移民の日
煮へ切らぬ夫の返事秋貧し
哀しみに寝て良き目覚め移民の日
秋貧し遺すもの無く移民老ゆ
所作入りの内訥話や移民の日
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


難聴でチグハグの言葉聞こえたり聞こえなくなる妻との会話
素晴らしき余生川柳より学びたる十七文字に取りくみし日日
はや三年弟の忌日迎えたりかの日唄った歌思いだす
【スザノ福栄会 青柳房治】

藷俵背負いて母を手伝いしわが青春期は戦のさなか
タクシーをつかめず歩こう二人してコーヒーを飲みて坂登りゆく
地震津波に家や家族を失いし日本のニュースに心が痛む
【スザノ福栄会 青柳ます】

赤子より育てし孫の成長を眼を細めつつ老いたる夫は
十八の誕生を祝う孫にして遠近の友より電話がしきり
明るくて苦労を知らぬこの孫よいかなる苦難にもまけぬ娘となれ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

年齢など考えずとも身の動き自ずにぶりて事はかどらず
去年まで自ら摘みし山茶花も今年は娘に取り来て貰う
連休の開けて庭畑眺むるに十五輪のダリア咲きて明るし
【スザノ福栄会 原君子】

服装に職種の見えて朝のメトロ杖曳く吾は何に見えしか
地震津波の母国をいたむ邦人の支援の記事に胸あたたまる
入植時水にも心せし思い水を絶たれし被災者思う
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

地下鉄の駅にエレバドール出来上り足弱きわれ助かりており
老いてより薬にたよる身となるも短歌詠むことを楽しみとする
【セントロ桜会 鳥越歌子】

カニサボテン五月を待ちて一斉に白、黄、赤と窓辺に咲けり
昨年は待ちわびていし金婚式夫の病気で夢と消えたり
【セントロ桜会 大志田良子】

見も知らぬ人が手をふるバスの窓思わずにっこり吾も手をふる
草花を植うる楽しさ吾持てどアパート暮しもいつか慣れたり
【セントロ桜会 上岡寿美子】

日曜の一日をピエダーデの柿祭り日伯の人等入り混じりつつ
昼食の焼そば伯人らもおいしそうに箸もて食ぶる
【セントロ桜会 井本司都子】

突然の強風ありて藤の葉はたちまち散りて地をおおいたり
たくましく新芽いでたり隣家の庭に植えたる椰子の若木は
【セントロ桜会 富樫苓子】

今年はひとしお寒さ身にしみて毛糸チョッキと重ねてはおる
年老いて歌詠む幸せいつまでと歌友の誰彼思い浮かべる
【セントロ桜会 上田幸音】

突然の渡辺さんの訃報にはただ驚きて呆然自失
我が生家海のそばゆえこの度の津波おもえばひとごとでなし
【セントロ桜会 板谷幸子】

地下鉄の階段あがれば手まりイペーいまを盛りとピンク華やか
百二歳の母は養老院で楽しそうに友らと話す見舞に行けば
母国語のうまくなりたる孫の電話遊びにおいでと繰返し言う
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:第一首目の叙景歌なかなか良くできました。)

仲の良き子等寄り合いて賑やかに母の日祝す今日の幸せ
天高く澄み渡りたる秋日和久方ぶりに友を訪ねる
秋晴れの昨日に変る小雨降り冬の訪れ思わす寒さ
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:三首ともよけいなことを言わずよくまとまっています。)

玄関にフロルデマイオの花盛り自然の恵みに心いやさる
朝夕はいつも上衣が離せない秋たけなわの露天市を行く
同県で以前の選者の渡辺氏の死亡通知に無念きわまる
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:第一首目、よくできています。自然の恵みに心いやさる、といった感想がよく利いています。)

友逝きて主なき自動車車庫にあり操る誰かを待ちいる如く
土地を売り農具も売りて町に住み仕事決らず戸惑いし彼の日
【ツッパン 上村秀雄】
(評:保留した作品、「せんかくの事故」と前半の詩句があまりマッチしていないので、もうひと工夫してみて下さい。)

子供等は性ことなれどそれぞれに豊かに暮し吾に悔いなし
亡き父の植えたる椰子はわが庭にいまも茂りて丈余となれり
夫を残し妻子は出稼ぎに行きたれどこの度の津波にいかに暮すや
【レジストロ春秋会 小野浮雲】
(評:自分の言いたいことがよく読者に伝わるように多少言葉を入れ替えました。こうすると読者に感動を与えるでしょう。)

早朝よりよき短歌詠めるを願いつつノートとペン机上に置けり
大空に高く現れし夏雲は何時の間にやら視野より消えし
ざわざわと椰子とザクロの葉はゆらぎ今にも降りそうな入道雲の空 
黒雲は瞬時降り出して足元に川と流るるを驚き見張る
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:沢山の投稿でしたが、さしあたり四首頂きました。沢山作るのも勉強の一つですが、情景をよく見てじっくりと詠みこむのも更に上達のコツでもあります。)

旅ゆけば緑の森も花もみな生き生きと見ゆまぶしかりけり
サンパウロ市より離るるに従って山の緑も花も新鮮
街中を流るる川の水澄めり吹きくる風も頬に涼しき
【サントアマーロ青空会 竹内千賀子】
(評:物を見る目がしっかりとしている。この調子で努力して下さい。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


手をつなぐ二人を割りて狭き道
村芝居人情劇で老い泣かせ
負けて勝つ程世の中甘くない
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:人が一人だけ通れる細い田舎道ですね。中句に或るロマンが仄めいています。)

音もなく影なく襲う放射能
私も死にたかったと津波孤児
課題吟選者も力量ためされる
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:一点から四方八方へと放出される放射能への恐怖から解放される日が来るのでしょうか。)

大会へ柳友(とも)の句海を越えてくる
心の隅にご都合と言う嘘がある
欲張りに仕合せなどは見当たらず
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:川柳を通じて、日本の柳友と交流出来ることは大きな喜びです。)

身辺を整え神の迎え待つ
久しぶり白髪も皺も増えたわね
老いて尚楽しみいっぱい持つ至福
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:立派な心構えです。人生を真摯に生き抜く姿が見えます。)

スケジュール消化しきれぬ日の焦り
生涯の仕事終わらせ行く旅路
我が家でもやりくりしてます震災後
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:まだ明日があります。ケースバイケースで――。)

夫婦ともマイカーなくて足丈夫
又着る日あるかと思い肥やしにし
寒いなど言ってはおれぬ明日旅行
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:歩くことが一番の健康法だと言われます。)

持ち寄りの手作り料理で女上げ
SLも言ったり来たりでファッション・ショー
響ショーモッサにかえって夢心地
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:レシピーなど所望されたりして―。楽しいひと時でした。)

温もりが手の平にあるお立ち酒
長寿の秘訣は笑顔薬(やく)知らず
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:出立ちに振舞われる御立酒。東北地方では出立に膳を強いる事もあると言います。二句目、上句の言葉を分かり易くしました。)

戦争中子供で過ごした日の恐怖
茶話もあって句会に花が咲き
【サンパウロ玉芙蓉会 軽部孝子】
(評:少し添削しました。上下の言葉を入れ替えることで分かり易くなります。)

趣味仲間談笑かわし老い忘れ
老いの身は豆腐の角にもいたみさす
川柳に解れて言葉の深さ知り
【インダイアツーバ親和会 早川正満】
(評:「たかが川柳」とよく言われますが、川柳を知るにつけその奥深さに気付くものです。)

楽しいね東洋館に出る食事
目を見はるポルト・セグロの土人村
【セントロ桜会 中山実】
(評:言葉を入れ替えて分かり易くしました。参考になさって下さい。)

山狭を嫌って棄てた故郷を恋う
義援金募る日系同胞愛
放射能覆う列島にある恐怖
【レジストロ 大岩和男】
(評:三句目、若干添削しました。参考になさって下さい。)

◎席題「雨」 富子出題
待っていた喜雨に鍬もひと休み【余碌】
雨の中シャツ脱ぎすてて馬車を御す【余碌】
豪雨禍に日照り禍もあり泣かされる【ふみ】
時雨来て今日の授業は二人だけ【ふみ】
今日も雨それでも句会欠かせない【富子】
雨の日はわたし泣かせに亡夫が来る【富子】
大雨になってもお出かけ止めません【清子】
ライバルも寄り添う外なし傘の中【清子】
百姓の運も不運も雨まかせ【笑】
大雨に車忽ち立ち往生【笑】
雨降りは傘屋にこにこメトロ駅【孝子】
雨にも風にもめげぬ子供等元気よい【実】


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