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熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年8月号

2011年8月号 (2011/08/14) 俳句 (選者=栢野桂山)


花開き絹の光を五月花
斧入れて斧はね返し山眠る
夫の遺品やや色褪せて移民の日
水葬の別れの汽笛移民船
【森川玲子】
(評:選者も幼少の頃、移民船でこの国に来た。そしてこの句の通りの「水葬」を見てきた。その哀しげな別れの汽笛を聞いた――。)

神ながらの道に戻れと大地の日
水がめを頭に乗せゆく娘鷹の空
にこやかな地蔵に一献今年酒
【香山和栄】
(評:俳句会に利用する老ク連の庭にはお地蔵さまがあり、常にお酒その他とお供へしてあり、にこにこして居られる。)

婚礼に神父も忙しマリア月
移民の日喜怒哀楽も過去にして
枯野道西部劇的馬車走る
【秋元青峯】
(評:昔はよく使ったカローサ(馬車)も、西部劇のシネマでよく観る時代に変ったが、変らないのは枯野の道である。)

菊愛でて他の花には目もくれず
養老院に句友三人新渡戸菊
縄張りは子等にもありてアラプーカ
【佐藤孝子】
(評:この句の通り子供の頃には、それぞれ自分の縄張りがあって、アラプーカ〔小鳥のわな〕を仕掛けた懐かしい覚えがある――。)

朝寒や知覚失せゆく指の先
冬晴れや今朝くっきりとスザノ富士
飢しのぐ木藷育ちや移民の子
【本広為子】
(評:筆者も「移民の子」として、新移民の歳頃にはよく腹を空かせて、マンジョカの味を覚えている。)

姉嫁がせ父母につかえて冬薔薇
旧移民マカコヴェーリョと憎まれて
産見舞も楽しみの内マリア月
【野村康】
(評:田舎に住んでいると、友人のお産見舞に行くのもこの句の通り、楽しみになるが、それと「マリア月」とは性が合うらしい――。)

南より雪の便りに寒波来る
霜害も害虫駆除に良いと言う
実沢山の雑炊心の温まり
【矢島みどり】
(評:この雑炊には肉、魚、椎茸その他とこの句の通りの沢山の実のある雑炊の味に覚えがある。)

五月花長女生まれし月日祝ぐ
外食や八十路の夫と愛人の日
移民の日貰ひ子おいてゆけよとて
【青柳ます】

母の日や親子三代祝われて
蟹サボテン爪を伸ばして天仰ぐ
先人の偉業たたえて移民祭
【遠藤皖子】

マリア月想ひ想われ婚宴
移民の日幼女移民も祖母となり
足長のコンドル蛇を掴み飛ぶ
【原口貴美子】

冬ざれの町に警笛けたたまし
背あぶりに長生きせしと焚火かな
谷間の川きらめきて枯野バス
【畠山てるえ】

母の日も炊事の主役は母であり
州境を越えても続く大枯野
近か寄れば腐肉の臭気ウルブの巣
【纐纈喜月】

母の日や親子どんぶり作る嫁
肩寄せて絆はつよしたんぽぽ黄
髪をすく背な暖めて冬日和
【吉崎貞子】

桜咲く異郷をついの住処とす
桜舞ふ風の形を見つけたり
黒ウルブ寒さにまけて木の陰に
【山田富子】

常夏の地にも到来冬将軍
我が家のふとん恋しい旅の宿
電話入れて娘に風邪の身をいたわられ
【村松ゆかり】

冬うらら句集寿ぐ句の友等
災害の爪痕のこる春が来る
寒イペーよろこび咲いてゐる日向
【彭鄭美智】

秋暑し好きなお稽古止められず
再婚の友若やげり風五月
一歩引く事は美し女性の日
【猪野ミツエ】

三寒四温夜具とり出して又棚へ
唄終て白寿のおうな爽やかに
月食の刻々進む冴えし夜に
【清水もと子】

この村を愛し続けて枇杷の花
イペローザ冬枯の野の女王様
生きていたかと握手してあたたかし
【青柳房治】

寒の夜愛妻残し師は逝かれ
五月花ビルのベランダ花明り
愛人の日孫等それぞれカップルで
【杉本鶴代】

むらさきの雨降る町のジャカランダ
春灯カタカナ習ふ異人妻
うららかや手話の少女の片笑くぼ
春の夢人魚の唄ふ声聴いて
恋覚めしごと向日葵の花終る
蜂鳥に鈴振る風鈴仏桑華
【栢野桂山】


短歌 (選者=梅崎嘉明)


平和なるこの大国に住み古りて不自由なき身を喜びとせり
吾が庭に小さく咲きし梔子(くちなし)は風吹くたびに甘き香りす
【セントロ桜会 上田幸音】

一株の芒はシャカラなかほどに秋の日あびてなびきておりぬ
二株のカニサボテンは満開に窓辺に置けばサーラ明るむ
【セントロ桜会 井本司都子】

着ぶくれて背中を丸めかがみ込み寒さはいやだ冬は嫌いだ
イッペーの紫の花おちこちにサンパウロ市に冬は来りぬ
【セントロ桜会 上岡寿美子】

また一人故郷の友が旅立ちぬますます日本は遠くなりゆく
早や秋もふかまりたるか今朝みれば窓のガラスが白く曇れる
【セントロ桜会 板谷幸子】

移住後は仕事を選び転々とムダンサをせり数えきれずに
家財道具は柳行李に箱二つムダンサはいとも簡単なりき
【セントロ桜会 鳥越歌子】

最高の笑顔でありし渡辺さん歌会の度に思い出さるる
桜会の誕生祝いのカラオケに昔のサーカースの歌を唱和す
【セントロ桜会 富樫苓子】

日本の暑さにいまだなじめずと二世の娘はサンパウロ恋しと
この冬は特に寒さが身にしむる思い出すのは温泉旅行
【セントロ桜会 大志田良子】

この冬も柚子の湯船にひたりつつ故郷に老いし友をし思う
恋人を待つかのように丈高く美しく咲く紅かの子百合
秋晴れのもとに小さき花壇あり土の匂いの吾を励ます
【スザノ福栄会 青柳房治】

いただきし蘭の蕾のふくらみて在りし日の米沢先生浮かぶ
花々は声に出しては語らねどしばしかたえにありて親しき
すでに亡き弟と同じ年輩の友はすこやか昭和十一年生れ
【スザノ福栄会 青柳ます】

花の名は知らねども小形なるピンクは吾に笑顔をくれし
演歌より民謡好むは幼より祖母の追い分けになじみし故か
去年より俳句も始めしおしどりの二人と茶飲み話ひろがる
【スザノ福栄会 原君子】

蜜蜂の乱舞にたえずピッタンガ花びら散らす小雪降るがに
果樹の幹までかじりて貪欲な山羊に辟易しつつも愛し
溺るるは藁にもすがる思いにて病む脚にまじないあれこれ試す
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

寒き風吹く日の夕べ姪の子は三十八歳の若さで逝けり
一人娘に逝かれし姪の胸の内思えば悲し寒き風吹く
みんなから大事にされる年となり夫と二人で励ましあえり
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

避難所に帰る家なき老人の行く末いかにと心痛みぬ
被災地に復興進みて幼児らの明るき笑顔がテレビに映る
【プ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:第三首目の作品、最初の文字が不明なので保留しました。)

メトローの乗車券とると証明書かざせばこちらへと呼びくれし人
メモ帳と朝日歌壇の書を持ちて冬の夜長をカーマで楽しむ
あでやかに紫イッペーの咲き盛りブラジルの国花は今年も見事
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:素材は新鮮、多少手を加えましたが参考にまで。)

今朝もまた日課となせる庭を掃き終れば妻と熱きコヒー飲む
時永く咲きたる菊の白に黄に色あせつつも散らず保てる
久しぶりに牧場に行けば梅の木に花は満開実るなけれど
【ツッパン 上村秀雄】
(評:日常の生活が具体的に活写されているのがいい。この調子で努力されたい。)

改良せし鉢の朝顔大輪の花咲かせたり色とりどりに
あと幾年残る命かと思いつつ好きな短歌を書き溜めており
【ツッパン 堤博志】
(評:よい素材を持っておられるから弱音をはかずに頑張って下さい。何事もそうですが、一朝一夕に事は成るものでなく、一生続けることによって勝利を得られます。)

よく太りはらみ犬かと思いしが機敏に足あげ尿まいて去る
電気不足太陽熱を利用せよ贅沢廃止と日本の現状
屋根の上の小鳥に犬が吠えおれど距離ある故に小鳥は平気
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:第一首のように現状をよく見て、新しい発想で表現されると読者の心を惹きつけます。)

白寿ともなりたる吾が身の弱りたるをしみじみ思うこれの日頃は
この年のきびしき寒さ重ね着をすれどなかなか身の温もらず
いつ逝くもうからら泣くなこの年まで生きたる吾に悔いは残らず
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:白寿の歌人であえることを初めて知りました。日本の土屋文明という歌人は百歳を超えても元気で作品を詠まれました。彼に負けないように頑張って下さい。)

(お知らせ:一年と四か月。皆様と共に短歌の勉強をさせて頂きましたが、体調がすぐれず、皆様に迷惑をおかけするようなことになってはいけないので、次回から藤田朝日子氏に選歌を替ってもらうことになりました。藤田氏も永い経歴のある歌人で、現在は日本の「まひる野」誌の同人で、皆様方のよき指針になってくれることと確信しています。私同様よろしくお願いいたします。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


体脂肪だけじゃ足りないこの寒さ
スケジュール体力気分が追いつかず
ひねり出す程の中味のなき頭
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:今年は例年よりも寒い冬になるとの予報でした。「上五」の表現が活きています。)

公然と家事もサボれる指の怪我
目に見えぬ放射線にある恐怖
腫れて皺伸びて老いの手みずみずし
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:指の傷を大いにアピールして――。治るまでの休暇を満喫して下さい。)

聞く耳と見る眼があって老いの幸
携帯の傍若無人バスの中
要注意言いつつ登る老いの坂
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:櫛寿〔九四才〕を迎えて尚、矍鑠としておられる作者に敬意を表します。今後ともご健康第一にご健吟下さいますように――。)

騙された振りして覗く腹の底
頭を少しもたげて古釘たたかれる
叩かれて埃は出ぬと云えぬ奴
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:全句、よく纏まっています。軽妙、且つ諷刺満々、お見事です。)

車椅子若者厚意で町散歩
ありがとう人の親切身にうけて
補行器で転ばぬように一歩ずつ
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:転ばぬようにお気をつけて――。いつも前向きで明るい作者の心意気にエールを送ります。)

国際化わが家の犬もバイリンガル
大御所とまつり上げられ隅にいる
もう近い死ぬ気まんまん未知の国
【サンパウロ中央老壮会 中西笑】
(評:日ポ両語、日常使う言葉は犬も聞き分けるようになります。二句、三句目も佳句。ユニークな着想を頂きます。)

勘違い挨拶相手もニッコリと
体重計見たな見ないで夫婦揉め
お土産も重たすぎると文句出る
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:人違いでも親しく挨拶されると嬉しいもの。「ニッコリ」の表現が良いですね。)

嬉しくて淋しくてさす紅の色
ルージュ引く女心は秘めたまま
予定表いろいろあれど川柳へ
【サンパウロ中央老壮会 山田富子】
(評:複雑な女ごころ。一句、二句の下五の言葉を変えて奥ゆきを見せました。)

左手の指輪くい込み五十年
連れ添っていつの間にやら半世紀
金婚の褒美嬉しや自費出版
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:「歌集出版」おめでとうございます。左手の指輪が光っています。)

嬉しいねサントスクラブ日本行き
週末は青葉祭りの青葉食
日本祭り踊り歌より郷土食
【セントロ桜会 中山実】
(評:少し言葉を入れ替えてまとめました。説明句で終わらぬように――。)

老醜や人目を避けて家ごもり
プリマベーラも先を急ぐか冬に咲く
植民地回り回ってみな縁者
【レジストロ春秋会 大岩和男】
(評:老身は生きた証です。余り気になさらぬように――。)

瞬時の禍救う術なき大津波
目に見えぬ悪魔の如し放射線
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:巨大な津波の凄惨な映像が浮かんできます。)

◎席題「夢」 ふみ出題
百才を夢に生きよと励まされ【余碌】
夢に見し宝の山は崩れ去り【余碌】
大風呂敷広げて夢を笑い合い【笑】
高望みどうせかなわぬ夢だから【笑】
夢ばかり見続け友は独り身で【玲子】
うっとりと夢に耽けった日もあった【玲子】
夢の夢今さらなれないシンデレラ【清子】
夢に出た昔の恋人若きまま【清子】
いつの日かポ語ペラペラ夢に見て【ふみ】
夢に見る亡母はいつも若かりし【ふみ】
夢に見る里に行きたやもう一度【富子】
年とれば夢もなければ寝てばかり【実】


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