移民百年祭 Site map 移民史 翻訳
熟年クラブ連合会
     俳句・短歌・川柳・詩  (最終更新日 : 2019/02/15)
2011年10月号

2011年10月号 (2011/10/13) 俳句 (選者=栢野桂山)


沈丁花後追ひかけて匂ひ来る
肥後辨で通す一生瓢骨忌
去年獲りし豹の皮見せ狩の宿
【纐纈喜月】
(評:去年撃った大きな豹の毛皮を来る人に見えるように壁に飾ってあるが、別に自慢する訳ではない主人の人柄が気に入った―。)

一切の粧ひすてて山眠る
断末魔かくやと聞けり虎落笛
熟れ加減知る子に従いてジャトバ拾ふ
荒牛乗り落ちるペオンを角にかけ
仲々に仔猫居つかぬ子沢山
【猪野ミツエ】
(評:ジャトバの好きな子は何処にあるのか、またその熟れ具合を知っていて、父親を従へて悠々と其処に行く。)

ひまわりの笑顔は母のイメージよ
子育ては叱るな賞めよ母の日に
【彭鄭美智】
(評:次々に生れてくる子供には「叱ってはいけない。適当に賞めるのが良い」と母の日に思う佳きママイ―。)

星凍てて庭にかがやく実千両
灌水池に通い来てかいつぶり
葉ざくらやうるま櫻の逞ましき
【本広為子】
(評:沖縄にある桜の木は花の終った後、見事なその葉を茂らせて元気よく道の並木として美しい!)

売られゆく仔馬のたづな離さぬ子
甘え寄る仔馬を母親軽く蹴り
母の服着飾り母になりすまし
【秋元青峯】
(評:母の日にその末娘がこっそりと他の目を盗むように、タンスの中の母の服を着飾って街に出た。その娘心を詠む。)

病める脚今日は重いよ木の芽風
春めく日猫に聞かれて独り言
春めくや地蔵まつりのわらべ唄
【森川玲子】
(評:木々の芽が出揃ふ頃は気候が良く、それにつれられたように、赤ん坊の前列の歯がきれいに揃った!)

柿干して故郷偲びし老移民
街眠る屋根屋根照らし冬の月
我学びし校舎今なし夏木立
【疋田みよし】
(評:子供の頃通った学校は、訪日して懐かしくて行ってみると、その影かたちも無く廃校となっていて、校庭には夏の木々が茂っていた―。)

牛の虻残して去りし牛の旅
採りたての牡蠣をすすりてツーリスト
美くしき母国を讃へ桜餅
【木村都由子】
(評:桜の葉にくるんださくら餅を口にしながら、かつて訪日した時食べたその懐かしさ、美味さと美しさを家族で語り合った!)

魁聖に一喜一憂大相撲
大相撲にきびの取れし日馬富士
引退の魁皇関に散る桜
渾身の寄りに横綱土俵割り
【香山和栄】

冷っこい手に握手して寒き朝
諸もろの思い湧き来る移民祭
鶏魂碑建つ空ウルブー弧を描き
【野村康】

水撒けば砂蚤はねる空家かな
木藷買ふ眞白なれば煮へやすく
野生化をしてスザノ路の新渡戸菊
【佐藤孝子】

道遥か車の列の陽炎へる
新駅の駅舎広々春浅し
巡り来て思ひ出す日や終戦忌
【畠山てるえ】

根ずきたる七夕祭町おこし
速力まし春のマラソンゴールイン
補歩器で祭り参加の門くぐり
【三上治子】

春めけば楽しきプラン夢いっぱい
柿干して我が故里を偲び合う
ひらひらと花に飛び交う夫婦蝶
【矢野恵美子】

夕焼けの道広げゆく春うらら
春めくやつまづきやすし石畳
春めくや桜に会える好きな道
【山田富子】

木の芽雨赤子の前歯出そろいし
桑の芽や仕事にはげみ鎌を研ぐ
待ちかねし栗毛の子馬よろめ立つ
【吉崎貞子】

いもを焼く暖ろを囲んで女の衆
焼き芋売り育てた子も学士出る
泣きやまぬ子がほほえんだ焼き芋かな
素晴らしい夢を見たしと布団干す
【多川富貴子】

見られてはならぬ泪や春の夜々
文学の闘志育てん日長宿
熱き茶のうれしき齢日長宿
爪を病む鹿坐りこむ森深し
百姓の大飯四度今年米
世に忘れられ老移民わらびつむ
鍬持てば足腰しゃんと老移民
借りて読む良書悪書や日永宿
【栢野桂山】


短歌 (選者=藤田朝壽)


書く文字が右や左に傾くも老いたる証か傘寿を越えて
妹に書く震災の見舞い状いく日もかけてやっと書きあぐ
数珠もつが似合う齢となりにけり二人の弟の年忌も近し
朝八時日課のジョギング一回りコスモスの花揺れる道ゆく
【スザノ福栄会 青柳房治】

ブラジル七十五年の歳月を送りし母を思いおこせり
孫や子に見守られつつ生きし母の幸せなりし日々を想えり
百四歳の長き一世を生きてきて母は逝きたり亡父のもとへ
【スザノ福栄会 杉本鶴代】

暖かき冬の一と日を夫と来てなじみの店に焼きそばを食む
父母兄弟さかりしことにも馴れしとう妹と久々の国際電話
恙なく共に歩みし六十年結婚式の写真も持たず
【スザノ福栄会 青柳ます】

どの枝を剪るか残すか透かし見るかたき老い身のふしぎと柔し
三寒がやっと四温に変わりたり重ね着ぬげば心もかろし
ベエンチヴィ礫のごとくおりて来て犬のすき見て餌あさりゆく
【スザノ福栄会 原君子】

星光のなき夜を堤防のともしびは湖の所在をしめして瞬く
「王様の耳は」と洞穴に叫ぶがに裡なる思いを歌に詠まんか
【サンパウロ中央老壮会 野村康】

日本へ手紙を書こうかきましょう思うばかりで幾月も過ぐ
眼の疲れ少しおぼゆるこの日頃ほどほどにして読書を休む
【セントロ桜会 上岡寿美子】

「早起きは三文の徳」と人の言う年取れば部屋でニュース楽しむ
春日和干したる布団のぬくとさよ母のふところに抱かれる思い
【セントロ桜会 上田幸音】

ビデオにてくりかえし見る「ハルとナツ」思い出さるる吾が渡航の日
「ハルとナツ」のごとき道経し移民われ昔を思い眼をうるませる
【セントロ桜会 鳥越歌子】

水道の水はぬるみて水仕事はかどりている日々となりたり
犯罪と汚辱に暮れる日々なれど空青くして雲棚引けり
【セントロ桜会 富樫苓子】

トツカーノ長い口ばしきれいな羽根で今日もつがいで来る朝の庭
晩年を楽しく生きし我が友の賑やかな声いまも脳裏に
【セントロ桜会 板谷幸子】

この旅が最後の墓参と張り切って里帰りする親友(とも)は幸せ
恙なく今日も一日終わりしとつと窓をあけ深く息吸う
【セントロ桜会 大志田良子】

先駆者の苦闘のお蔭ブラジルの日系人の繁栄著し
何となく人の気配にふり向けば肩に手をかけほほよせてくる
【サントス伯寿会 三上治子】

シルクラルに無料で乗れて有難し老二人して感謝で用足す
「老壮の友」に白寿の方の歌載れりくり返し読み作者に脱帽
晩年のこころの據り処(ど)に歌を詠む続けて行きたし終着駅まで
【インダイアツーバ親和会 野村文恵】
(評:三首ともつかみどころが良く特に下の句がしっかり据わっているのに感心しました。ただ上の句にいまひと工夫されたら―と残念に思いました。二首目、原歌「老壮の短歌に白寿の作品あり」は字余りになってもいいですから「老壮の友に」とし、「白寿の方の歌載れり」とすれば一読しただけで直ぐ分かる歌になります。三首目、二句の「楽しみさがし」は言葉が適切でないので心のよりどとしました。「続けて行きたし終着駅まで」は素晴らしい。期待してます。)

良き日和鳶は広き青空をわが物顔に飛び交いている
鳶の舞う下にツバメがあまた来て飛び交いいしがやがて去りたり
【ツッパン 林ヨシエ】
(評:日向ぼこをしておられるのであろう。青空をとぶ鳶やツバメのおとづれを見て心から楽しんでおられる白寿の方とは思えない歌ごころに野村さんを見習って私も脱帽します。白寿の歌詠み人と言えば大西阿哲・三浦千里の両氏がいました。現役では林さん〔コロニア歌人最長老三傑〕のお一人です。)

カラオケの賞のカップは棚の上ひとつひとつに思い出のあり
州選抜のカラオケ大会に初出場「古城」を歌い二位となりたり
【ツッパン 堤博志】
(評:歌を作り始められて三ヶ月とか。初心者とは思えない出来ばえです。二首とも「五句」が「て」止めでしたが、「て」止め歌は難しいです。第一首「思い出のあり」と現在形に、第二首は「二位となりたり」と完了終止形にし、少し添削しました。お控えの歌と照し合わせてみて下さい。)

転々と奥地を移動し安住の地はツパン市半世紀住む
たくましく生き抜いて来て九十年わが終(つい)の地をツパンと決む
なにもかも倅(こ)の計(はからい)いに従えり老いては凡てをゆだねて暮らす
【ツッパン 上村秀雄】
(評:人生を達観した歌。沁々として胸をうつ。)

日向ぼこしながら孫は昼寝する果報者だと笑う友達
三陸の被災者招きブラジルの桜見せたし移住すすめたし
フキを買い喜び顔にて客言えりこれさえあれば健康保つ
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:何年ぶりかで作品を拝見。いちじるしく上達しておられます。第二首目の歌、桜見せたし移住すすめたし、同感です。三首目の歌、五句が「健康安心てふ」は言葉がうわついているので「健康保つ」としました。当てはまる言葉は一つしかないということです。その言葉を考え出してつかうのが詩人の仕事です。)

日語にてアレシオ神父の祝福受け今日銀婚の吾娘のよろこび
良き夫と娘に恵まれ今日の日を兄姉友人ら祝いくれたり
散歩道くれないイペー咲き満ちて花の明るさしばし杖止む
【プラッサ・ダ・アルボレ老壮会 矢島みどり】
(評:「しばし杖止む」で歌が生きた。)

はいはいをする曾孫の愛らしさ今わが家は春の喜び
【サントアマーロあおぞら会 竹内千賀子】
(評:愛らしい曾孫さんに対する喜びがよく詠われています。三首出してください。)


川柳 (選者=柿嶋さだ子)


名を呼べど柳友戻らぬ空しい日
川柳の出会い浮世の風と行く
先輩もうすれ寂しい柳の道
父母と来た異国子孫の故郷に
【カンピーナス明治会 塩飽博柳】
(評:高齢化に伴い柳人も減少するばかりですが、四句目の「子孫の故郷」に生き甲斐が感じられます。)

幼子の必死の目差しカルタとり
風邪流行る盗人紛いの大マスク
風邪ひけば美女も台無し大くしゃみ
【サンパウロ中央老壮会 坂口清子】
(評:幼児の一途な集中力。「必死の目差し」に思わず身が引き締まる。)

今度はと三度の期待新総理
怪我の足漸く直し友は逝く
気に入った花買い心はずむ日々
【サンパウロ中央老壮会 上原玲子】
(評:野田新総理にかける国民の期待は大きい。反面、「うまく行くのかな」といった懸念があることも否めない。)

天災は忘れぬ内に又も来る
泥被るつもりで総理頼みます
主婦の智恵節約料理の腕を上げ
【サンパウロ中央老壮会 鈴木ふみ】
(評:「災いは忘れた頃にやってくる」と言われた時代もありましたが、当今は天災、地災、人災が続出。不安は高まるばかりです。)

パステルで一躍日系名を上げる
水野龍やっぱり移民の父である
花祭り電気で走る花電車
【セントロ桜会 中山実】
(評:今回も与那覇マリアさんがパステル、コンテストで二度目の優勝を遂げられた。)

誇りですなでしこジャパンの女性達
咲かぬイペー見上げ見上げて落葉掃く
満ち足りてポ語教室後にする
【サンパウロ中央老壮会 新井知里】
(評:オリンピック出場権も獲得。オリンピック大会でも「なでしこジャパン」の根性を発揮して金メダルを獲得して欲しいですね。)

晴ればれと吾が子紹介うれしさに
国難続出頭がいたいトップ人
セシューム除熱研究成果実験に
【サントス伯寿会 三上治子】
(評:自分ながら立派と思う吾が子を、人様に紹介出来る喜びが伝わってきます。)

竹の子がパルミットに化す食開化
手からめ合ってイタリア老夫婦
【インダイアツーバ 早川正満】
(評:時代にそって食文化も進んでいきます。)

大法螺も話術のうちと理屈言う
新政権前途多難な民主党
損な役仲裁をして恨まれる
【サンパウロ中央老壮会 交告余碌】
(評:その話術にうっかり引き込まれぬよう、要注意です。)

誕生日に遺言書き換え大らかに
身の丈に合った暮らしで生きる智恵
老いて尚楽しみながら学習する
【サンパウロ中央老壮会 彭鄭美智】
(評:「もう八十、まだ八十と紅をさす」そんな川柳がありました。誕生日ごとに遺言を書き換える作者の心意気にエールを送ります。)

延命は止して家族と国のため
ストレスに勝って長生きすみません
辞められて困る総理が居りますか
【サンパウロ中央老壮会 藤倉澄湖】
(評:下句の「家族と国のため」に共鳴しました。)

☆「川柳教室」便り
 第五八回全伯川柳大会の課題「ひっそり」の部で鈴木ふみさんの「ひっそりと咲いてたくまし移民妻」が、一般選の第二位に見事、入賞されました。おめでとうございました。


前のページへ / 上へ / 次のページへ

熟年クラブ連合会 :  
Rua. Dr.Siqueira Campos, 134, Liberdade, S?o Paulo, Cep:01509-020, São Paulo, Brasil
Tel: 11-3209-5935, Fax: 11-3208-0981, E-mail: Click here
© Copyright 2024 熟年クラブ連合会. All rights reserved.